■御用です

「オイオイ君達、俺はこういうモンなんだぜ?」
 イエースあんだすたん?
 などと得意げな顔で胸ポケットから手帳をちらつかせる。
 そんなショウの顔を見て、冷や汗もので頭を下げる黒服の男。
 どっちも、自分よりは頭一つ分背が高い。
 正直あまり面白くない光景。
 調子に乗る相棒のカンチガイしたセリフもアレだが、いちいち声を掛ける客引きも客引きだ。
 で、そんなコトで内心ムカついてる自分にも馬鹿馬鹿しくなって、ユイはショウを置いてすたすた歩き出した。
「待てよナニ怒ってんだお前」
「何が」
 なんて言っているが、ユイの顔はいつものように動かない。
 それでも何となく何を考えているのか分かるくらい、相棒の仕草に慣れつつあるショウだった。
「だからよー」
「お兄さん、お兄さん」
 あとは、オリジナリティ溢れる口上で、如何に自分の店の女の子が可愛いかとか。
「チョット待った」
 ショウはすかした態度で黒服を制すると、内ポケットをちらりと見せる。
 顔色が変わった黒服に、ニヤリと笑って告げる。
「ま、ほどほどにな」
 今回は大目にみとくから、というセリフに、黒服は思い切り頭を下げる。
「あー、全く面倒だな何度も声掛けやがって」
 普通に歩かせろ、とぼやくショウ。
 まあ、目的はエスカレート気味な客引きへの牽制だから、これでいいワケだが。


「……オマエさ」
「何だ」
「もしかして、ムカついてる?」
「何が」
「ナニって、口に出してイイのか?」
 恨めしそうな目を見下ろし、ショウはニヤニヤ笑っている。
「言いたいことがあれば言えばいいだろう」
「じゃあ言うけど、皆俺にばっか声掛けてくるからムカついてんだろ」
「言ってろ」
 聞くとは言ってない、などとユイは早歩きでショウを置いていこうとする。
「まあ、コレが男の器量ってヤツ?」
 先回りしてわざわざばりぎめな笑顔を作るショウに、ユイははっきりと分かるくらい不愉快な顔を向けた。
「アホらしい」
「そうかー?」


「おーおーマジになっちゃって」
 チョット可愛くないか?
 と、どこかの不気味生物みたいな気持ちにもなる。
 しかし、母ちゃんが補充した服を上から順番に黙って着てそうな、もっと冴えない奴らにすら掛ける声を、誰もユイには向けない。
 何て言ってからかってやろうかと、ニヤニヤしていたショウだったが、お、と身を乗り出す。
 2人組の黒服が、真面目腐った顔で歩くユイの前に立った。
 しょうがない、アイスでも食わしてやるか。
 やれやれと笑ったショウの顔が、驚いたものに変わる。
 ユイが客引きを殴り倒したからだ。


「バッカもーん!」
 ボイドの怒鳴り声に、コンテナを持ったネーチャンが肩をすくめる。
「注意しろと言ったんだ! 一発食らわせろなどと指示してはおらん!」
 残りはよく聞き取れなかったが、ナニカの割れる音がしたので、課長が相当なお冠であることだけは、はっきりしすぎるくらいはっきりしていた。


「湯のみ投げられた」
 ま、当然だろうと思う。
「つーか、完全にお前が先に手、出してんだろ」
 呆れた顔でタバコに火をつけるショウ。相変わらずの無表情だが、多分言いたいことはイロイロあるだろう顔で、ユイは黙って灰皿を押した。
「で、何だよまたヤらせろとか言われたのか?」
 イヤ、そのくらいで手は出ないか。
 もっとロコツに、値段を聞かれたとか。
「ちがう」
 下世話な推測をするショウを半眼で押さえつけようとしつつ、書類の束をめくるユイ。
「気が散るから話しかけるな」
「オイオイそう邪険にするもんじゃないぜ子猫ちゃん」
「お前」
 そんなに前歯を折られたいのか、と言う顔をみて、ショウは何かを閃いた。
 どうでもいいときにシゴトをする、頭の中の囁きに、思わず吹き出す。
「くっくっく、ワカったぜ」


「ひーははは、オマエ俺を殺す気かよ」
「そのつもりだが」
 身を捩るショウに、まあ大体怒ってそうな顔をしてユイが言った。
「そう、焦るな、直接手、出さなくても俺もう死ぬから」
 笑いすぎで。
「ダメだおかしすぎる、まあ、アッタマくんのもワカるけどな」
 不機嫌な顔は、チョット女の子っぽいかなとか思う。
 あのトキも相当ムカついてたみたいだった。
 だったら尚更、ストレスが溜まってると思われたコトだろう。
 例えば、イケメンに囲まれて褒めちぎられつつ酒でも飲んだら溜飲が下がる? とか。
「ホラ、お声は掛かったんだからヨシとしろ」
 例えホストクラブの客引きだったとしても、賭けには勝ったんだからな、と、言ってやろうとするものの、おかしすぎて言葉にならない。
「うはははは」
「笑うなー」
「無理」
「だったら俺が止めてやる」
「だから引導なんかいらねーって、ゼッタイ死ぬって、そのうち」
 笑いすぎでだけど、と言うショウに、ファイルを振り上げるユイ。
 このくらいなら、まだ優しい方かな、と思いつつも、こんなガチガチのサイバー者に殴られるのはご免なので避けるショウ。
 虚しく机を叩いたファイルは粉々。書類はバラバラ。
 ソレもオマエのせいだとばかりにユイは精一杯怖い顔でおこっている。
「やっぱダメだわ」
 笑いすぎてショウが押した椅子がひっくり返る。
「うるさいぞ!」
 とか、結局は二人まとめて課長におこられる彼らだった。

 (1stup→071225tue)


Story? 01(小話一覧)へもどる
トップへもどる