■気になります
「お前何やってんの?」
さっきから、自分で自分の服の中身を覗いては首をひねっている。
「何かある」
そりゃあるだろうさイロイロと。とか言いそうになって堪える。
「何かこう、この辺がチクチクするっていうか……あー……もー」
「お前さ、ソレ一回服脱いで細かく調べた方がスッキリするんじゃないか?」
「寒いし面倒」
「さいですか……」
ユイとショウの仕事場? は、刑事課の隅にある。
くっ付けたデスクを、パーテーションで区切っただけの、簡易なシロモノだけど、れっきとした係のヒトツ。係長はいない。面倒は直接ボイド課長がみている。
13係。誰かが勝手につけた呼び名で、まあなんというか、雰囲気。オカルトとか、怪異とか、不思議カイカイで丁度良いんじゃないかという次第。
呼ぶとショウなんか、いつも何か言いたそうな顔をしたが、更にコッソリ付けられてる呼び名よりはマシかも。誰がもののけ刑事だ、なんていつも騒いでいる。
正式な名称は、課長か、見た目だけは優等生っぽい、どこかの始末書製造機くらいしか知らない。
「気になる……」
「うがーっ! 気になるのはコッチだ! もー俺がみてやるからコッチ来いや」
「そこまで行くの邪魔くさいからいい」
「……お前な」
「つか、その鼻かんだティッシュ捨てろって」
溜めんなよそんなもん、と苦い顔をするショウ。
「溜めてないよ。別に後で捨てるからモンダイナシ」
「今捨てろや」
「いやどうせすぐまたかむからいちいち捨ててたらキリがない」
「ナニお前」
席を立つショウに声を掛けるユイ。
「あ?」
「どっか行くんならついでに装備課寄ってティッシュ貰って来てくれ」
もうなくなりそう、とか箱を振る。
「フザケンナ」
「つーか、やっぱ暗くてよく判らんな」
と、ユイの服の中をのぞき込むショウ。
「あんま引っ張るなよ。そのボタン取れかけなんだ」
つい目に入った肌には、目立った傷はなかった。
締め付けた痕とかもない。
まあ、最近は仲良くやってるって事か、とちょっと安心する。
「お前な〜、だから引っ張るなって言ったろ」
「悪い悪い、おいおい、そんな横着してっと椅子倒れんぞ」
座ったままで隅に転がったボタンを拾おうとするユイ。
「あー……もーちょいなんだが」
「やめろって、降りて拾え」
「お? よっしゃよっしゃ」
はー、とため息をつくショウ。
ありえない。こんなおっさんじみた男のドコに惚れられるのか、わからなかった。
良く言えば控えめ、悪く言うと地味。
何歩か譲ってフィルターを掛ければ儚げ、まあまあそれなりな見た目でも、コレだ。
ユイは元の姿勢に戻ろうと手を伸ばすがデスクの縁を掴み損なう。
「つーか、ホントスゴイバカだなお前」
「ほっとけ」
ユイの後ろ頭を支えるショウ。
多分、こんなことだろうと予想していたから、軽く反応出来た。
「床冷たい」
「アタマは助かったんだから良いだろ」
ホラ起きれ、と肩を掴んで寄せる。
「き、キャ〜v」
と黄色いというか微妙にピンクな悲鳴。
警務の女の子が書類を放り出して涙目になっている。
「ばっかも〜ん!」
「マジ誤解ですから」
「そんなことはわかっておる!」
下らんことを言うな、と課長はイライラと頭を撫でた。残り少ない髪の為には、無闇に掻きむしったりしない。
「全く、お前たちときたら隅で座っておるだけでも騒ぎを起こすんだからな」
呆れてものも言えんよ、と言いつつお説教が始まろうとしている。
「……コイツがぶったるんでるからいけないんですよ」
ショウは面倒そうに突っ立っている相棒を指した。
「もう息をするのも面倒くせーみたいなカンジでよ、何とかして貰いたいのはコッチだ全く」
最近コレといった事件、何もないですからね、というショウの言葉を受けて、課長は一息吸い、一気に吐き出した。
「そんなにヒマなら巡回にでも行ってこんか!」
(1stup→080228thu)
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