■エコロジーです

「あのさあ……」
 明細とにらめっこしているルナ。
「なに」
 割と真面目な態度で向かいのテーブルに座るユイ。
 お茶を一口すすって、ルナは言った。
 チョット厳しいかなと思いつつ。
「駐在さんて、一人暮らしの割に水道代高いよね」
「そうかも」
 やっぱり、そう思うかなんて、こっちを見ない。
 なんだ、自覚あるんだ。
 ルナはホッとしたような、だったら相談しなくても答えはアリアリなのに、みたいな複雑な気持ちになった。
 まあ、ソレが相談というもの。
「えと、もし今以上に節約しようって思うなら、多分ココしか無いんだけど」
「そうか……」
 面目なさげにルナを見る。
 ルナ的には、けなしつつも少しは評価してるつもり。
 他に、削れるトコロは無い。
 不規則な仕事ながら、ソコに言い訳しない、つつましい暮らしぶりだと思う。
 まあ、ケチって言えばそうなんだけど。
 もうちょっと、可愛げのある表現をすれば、貧乏性。
 親しくなる前も今も、勿体ない、という言葉を何度も聞いてきた。
 しかしまあ、ソレはソレ。
「えと、前から言おうと思ってたんだけど」
 主な原因は、ルナも知っている。
「お風呂入るとき、出しっぱなしにしてるでしょ」
「……してる」
 恥ずかしそうに目を逸らす。
「ダメだとは思ってるんで、なるべく止めるようにはしてるんだが」
 アカンよなあ、と苦笑する。
 何か、可愛いなとルナは癒されスイッチが入りそうになった。
 本を読むとか音楽聴くとか、あとちょっと不健康な萌え趣味とか、そんなんで気を晴らしてるなんて言ってるけど、多分一番のストレス解消はコレなんだろう。自覚は、してなさそう。
 今では生活サイクルの殆どを把握してるから、勿論頭に入ってる。
 大体40分。お風呂に使う時間。
 女の子みたいだと言うと、きっと殴られるだろうけど、そうだ。好きなだけお湯を出して、ポカポカシャワーに当たってる。多分、そんなトコロ。
 狭くて──ホントに広くないし──誰も来なくて、居心地が良いんだと思う。
 出来れば、自分の前でもそんな風にくつろいで欲しいけど、ソレは、もっと未来で叶える夢でいい。
 血とか硝煙、こういう世の中だからクロームとか、ハードな日々を熱いシャワーで洗い流すなんて、見方を変えればクールに戦う男という感じ。
 まさに猟犬のプライベート。
 なんだけど、その習慣が狩るよりも狩られそうなユイのものだと思うと、どこか痛々しくて、愛しくなった。
 こんな人のする事なら、何でも許してあげたい。大好きなんだから、と気持ちが緩む。
 だけど、大好きな相手だからこそ、ダメなトコロは改めさせねばならない。
 それが、本物の恋人というものだ。
 ルナは俄然張り切っていた。節約するにはどうすれば、家計のことならプロフェッショナルに聞けば良いなんて、頼りにされてる。
 嬉しくて、ぺったんこになりそうだ。


「前にお湯張るの勿体ないって言ってたけど、コレなら浸かった方が得じゃないかなあ」
 シャワーだって、長い事出しっぱなしにしていたら、バスタブ一杯より多くなる。
「うーん……」
 ユイは少し考え込んで言った。
「それだと毎日掃除するのが面倒」
「もー……」
 ルナはがっくりとテーブルの下に流れた。
「何かその時間が」
 勿体ないという次第か。
「掃除ならぼくがしてあげるから」
「お前とは週1の契約しかしてないだろ」
 ユイは自分の膝まで流れてきたルナをつまみながら言った。
「毎日付けられる程、俺セレブじゃないからな」
「そんなの」
 びよ〜んと伸び上がってルナはにっこりした。顔とかはないけど。
「個人的にやらせていただきます」
「ソレは駄目」
「何でよー!」
 ルナは頬のつもりなトコロを膨らませた。
「プロはタダで仕事しない」
 ユイは少し仕事の顔でそっけなく言うと、腰を上げた。
 ――も〜! ソコでデキる男にならないでよ……。
 ルナはがっかりしつつ鼻先に回る。
「なに?」
「何って、どこ行くのかなと思って」
「風呂入る」
 頑張って無駄使いしないようにします、と言うユイに、ルナはにこりと微笑んだ。
「それじゃ、ぼくが見ててあげる」
「はあ?」
「だから、どの辺の使い方に問題アリなのか、見ててあげるから」
 ねえねえ、とまとわりつく。
「無駄使いしてたら指導しますから」
 まあ、言い分はまともだ。
「そら結構なハナシだが」
「ね、エコロジーでしょ」
 幸せそうなルナに、確認せずにはおけなかった。
「良いけど……お前、変な事考えてないか」
「きゃ、ヒドい。ぼくの真剣な目をみてよ」
「目ってドコだよ……」
「えへへ」


「ま、まあ見るだけなら別に害はないしな」
 正直少し恥ずかしかったけど、 ユイはルナの提案を受け入れる事にした。
 小金の為だし、そもそも相手は男だし、いい大人が照れるコトでもない。
 だけど、チョット怖いものは、こわかった。
「……ホントに見てるだけ、だからな」
「はあい」
 ルナはウキウキと返事した。


 しかし、出来る約束と出来ない約束があるのは、人も、そうでない何か他のものも、同じ。


 1ヶ月経って、ちょっぴり増量した水道料金を前に、くどくどお説教されても、ルナは幸せだった。

 (1stup→080407mon)


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