■sleep

「ね……駐在さん」
 返事がない。したくても出来ないのか、それよりももっと、もしかしたら聞こえてないかも。
 目を閉じて、儚げに呼吸を乱す姿に、ぼくは呼びかけた。
「駐在さん……駐在さん」
「な……に」
 何度か繰り返してると、うっすらと目を開けた。淡い瞳が、ぼくを見る。
「あの、苦しくない?」
「な、何で?」
 触れてるトコロは止めてないから、少しつかえながら、不思議そうな顔をする。
「そんな……こと、何で聞く」
「うん」
 ぼくはそっと顔を近付けて言った。
「だって、壊れそうなんだもん。顔見てたらどきどきするけど、でも何か悪いコトしてるみたいな気もしてきちゃって」
 顔をみてる、ソレがすごく恥ずかしいんだろう。駐在さんはしっとり染まった顔をもっと赤くして話を聞いている。
「大丈夫……そんな乱暴じゃないから。苦しいときもあるけど」
 少しだけ笑って駐在さんは言った。
「今は平気」
「ほんと?」
「本当」
 良かった。嬉しい。
 柔らかく絡み付いて、撫でる。
「は……」
 目を閉じて、ぼくの手を強く握る。もちろん、強いっていっても、潰されたりはしない。怖い事する為に、使った手じゃない。
 ぼくと手を繋ぐ、それだけの力。
 いつだって、ぼくよりも小さいこの手で守ってくれるけど、こうして、握ってくれる時はすごく頼りない。
 胸に預けた身体と同じ。
 嬉しい。もっと、甘えさせたい。
 ぼくのものだって、思いたい。
 この人は、大勢を助ける仕事だから、どこにも行かないでとか言ったらいけないのも知ってる。それに、格好良い駐在さんも、ぼくは大好き。
 でも、時々ワガママ言いたいなって思う時がある。
 もっと大人にならなくちゃ。いつも考えてはいるけど、当分無理。好き過ぎて、時々泣かしちゃうくらい、ぼくはこの人に甘えてる。
 そうなんだ。
 ホントは、抱っこしてるフリして、抱き締められてるのはぼくかも。
 知ってか知らずか、身体の奥で、ぼくの触手を包み込む。ぼくの手をぎゅってして、切ない仕草で締め付ける。
 ああ、やっぱり、壊れそうだなって思う。散りかけの花みたいに、消えそうな人。
 大好き。
 ぼくはうっとりと目を閉じた。
 胸にもたせた頭を撫でる。
「ルナ」
 呼ばれて、ぼくはびっくりした。こういう時に話しかけてくるなんて、滅多にないから。
 目を開けると、ぼくは更に驚いて、何も言えなくなった。
 言葉が出ないのは、びっくりしたせいだけじゃない。
 駐在さんが、ぼくの胸にキスして、それから、吸い付いたから。唇とか、触手とかにしてくれるみたいに、優しく舌を這わせて、絡み付く。
 ぼくは心臓が無くて良かったと思った。あったら、爆発しちゃったかも。
「……ん……」
 目の端が曇る。ぼくは自分が涙ぐんでいる事に気付いた。
 唇を離すと、小さな線を引いて唾液が伝った。その光景にも、あるはずのない鼓動が跳ね上がった。
 視線が合うと、めまいがしそうになった。恥ずかしい。愛しい。
 駐在さんは、ぼくの名前を呼んだ。
「ルナ」
 ぼくはじっと青緑の目を見詰めた。
「気持ち良い?」
「うん……」
 駐在さんはぼくの胸を撫でて、そのまま目を閉じた。
「俺も……」
 腕が背中に廻って、力が込められる。
 気持ち良い。あったかい。
 ぼくは同じように優しく絡み付いて、隅々まで辿る。
 柔らかな感触に、心が溶けそうになる。
 熱くなり過ぎて傷付けないよう、暖かに吐き出す。たっぷり満たしてあげる。
 そしてぼくも白くなって、暖かに満たされる。


 こんな事してるってバレたら、また怒られそうだけど、寝顔を見てると幸せな気持ちになった。
 まだちょっと呼吸が速いくらいのすぐ後。それがすごくいい。少し湿った髪、淡く染まって濡れた肌。柔らかに閉じたまぶた。
 さすがのこの人も、この時だけは隙? だらけだと思う。
 無防備な顔。可愛い姿。
 大好きだよ。
 ぼくはちょっとだけキスすると、ホントはいけないけどそのまま布団を被って寝てしまった。
 今日は、このまま抱っこしてたい。

 (1stup→091123mon)


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