■人型検定

 空にしていた筈だけど、念の為に予定を見る。確かに何も入ってない。まっすぐ家に帰りますかと正面玄関を出る。立ち番に挨拶して、駐車場に向かって歩いていると、植え込みの縁にソレがいた。
 今は人型をしているので、ソレ、というよりそいつか。
「こんばんはー」
「おう」
 ショウの姿を見つけると、ルナは立ち上がってぺこりと頭を下げた。
「お仕事おわりですか」
「そうだよ。でもあいつは今日夕勤だから、まだまだかかるぞ」
 ココで待つつもりか? といぶかしむ。多分、もっと時間が遅くなれば誰になりと何をしているのか尋かれるだろう。場所が場所である。
「ウチで待ってないとおこられるぞ」
「迎えに来たとかじゃないよ」
 こいつの性格なら、好きな人が働いている灯りでもみていた、なんてのもありえる。
 こういう一途なタイプ、世知辛いご時世にそうはいない。実に得難い相手。他の諸々のモンダイ──主な形状とか──をさて置き、兎に角女の子でさえあれば、ヤツも言う事ナシだろう。ちょっぴり気の毒ではあった。
「ねえねえショウさん」
「何だ?」
「えとね、イロイロ教えて欲しいコトあるんだけど、良いですかー?」
 どうやら、モンダイの物体……こいつは自分を待っていたらしい。
「で、イロイロって何よ」
「人間の体のコト」
「はあ!?」
 そんなモノはアレだ。
「うん。ちゃんと変身出来てるか、チェックして欲しいんだ」
「そんなんはアイツにみてもらえばいいだろ」
 わざわざ自分に頼まなくてもいいと思う。
「えー、そんなのダメだよ」
 何でじゃ、とショウは頭を押さえた。
 家族や恋人でもない相手に仮の姿とはいえ裸を見てくれなんて、その方が余程ダメだ。
「別にダメじゃねえだろ」
 ショウはやれやれとため息をついた。
「どうせ毎晩見せてんだろが」
「だからねー、ダメなんだー」
「……?」
「だからねー、駐在さんじゃダメなの。だって」
 ──服とか脱いじゃったら、違うコトしたくなっちゃうんだもん。
「あー……つまりアレか、理科じゃなくて保健体育の授業やりたくなるんだな」
「ショウさんソレおやじギャグです」
「うるさいぞ」
 まあ、相手には問題あるが、男として分からなくもない。
「事情はわかったけど、なんだって今更そんなコト気にするんだ」
「ギルドのテスト、受けてみようと思うんだ」


「形態変化の認定上がったらお店で習得出来る技能も増えるし」
 例えば赤ちゃんとか、怪我や病気の人とか、そんなサポートはまだ仕事には出来ていない。
「駐在さんは頼りにしてくれるけど、ぼくのランクだと基本的な家事のお手伝いとか、簡単な家計簿つけたりとか、そういうのしか出来ないから」
 ルナは懸命に語った。
 魔物の世間の事はよく分からないが、要するに資格を取ってキャリアupしたいというワケか。
「えとね、上級の技能だと保険とか貯蓄の仕方とか、フクザツな相談にも応じてカツヤク出来るんだよ。そういう需要は魔物じゃない人にもいっぱいあるし、すごく頼もしくて憧れちゃうな。職務手当も出るし」
「お前金欲しいの?」
「うん」
 無欲なスライム君にどんな変革が? ゼニカネに細かい誰かの影響かと思った。しかしそうではない模様。
「早く対等になりたいもん。駐在さん光熱費しか受け取ってくれないんだ。それも半分……。食費は自分の方がよく食べるからってすごくちょっぴり」
 としょんぼりうつむく。
「そらあいつにも年上? のプライドがあるからなー。かなり稼いでる方だと思うし」
 あのガチガチの武装の何割か、サイバーウェアに至ってはほぼ自腹だっていうんだから大したもんだろう。ショウは苦笑した。
「あーまー良いよ」
 ツッコみたい事は、まだまだ沢山あったが、まあいいだろう。
 コイツはコイツなりに、真面目なんだから。


 助手席でおとなしく座る姿をちらりと目に入れる。ウキウキと窓の外を眺め、車の中を眺めしている。年恰好の割りに子供っぽい仕草だが、特に不審な点はない。外から見れば、何の変哲も無い人間だった。
 水色の光沢がある淡い色の髪も、ピンクの瞳も、本来ありえない色だけど、そんな奴はいくらでもいる。サイバー化すれば、どんな姿形も思いのままだ。
 生身なのはちょっと調べれば分かってしまうだろうが、ソレはソレでそんな存在がいる。
 抗生変異でなければ、ジェネティクスの名残を残した人々も街で暮らすことができた。
 外から埋め込むサイバネティクスと違って内側から、生き物の形を変える技術。種の劣化が危惧され、規制が張られるまでの27年間、真昼に百鬼夜行な状態だったという。世界が新たな時間を刻み始めてから出来上がった中でも3位以内に入ってしまうダメ歴史だからか、当時の記録はあまり公開されない。生まれる前のハナシだからどうしても遠く、ショウにはその光景が曖昧にしか浮かばない。
 変わりすぎた人々は決められた居住区から出る事が出来ない。最早ヒトと認められないそれらは、変異体[ミュータント]の一種とされる。
 辛うじて人間のカテゴリから外れなかった層の姿は、僅かな外見の相違として受け継がれていた。少し尖った耳や、髪に隠れた小さな角、ネコのように光る瞳くらいなら、生身の人間にでもいないワケじゃない。
 そんな隙間をするりと上手に生きているのが、ヒトでもない、ミュータントでもない、ロボでもない何か他のものたちだ。彼らは要領良く人間社会が築いたものを利用して、影から出たり入ったりして暮らしている。良くない出来事でさえ、こうして有効活用してしまう。
 魔物が魔物たるゆえんは、派手に喰ったり喰われたりじゃなくて、寄り添うというか、這い寄るというか、そんな生態にこそあるのではないかと、ショウはたまに考えたりする。


「冷蔵庫、開けていいですか」
「おういいよ。酒しか……あー麦茶があったかな、いるんなら開けてくれ。コップはソッチな」
「ありがとうー」
 言いながら、ルナは途中で寄ったスーパーの袋から食料を取り出して冷蔵庫にしまった。それが終わるとペットボトルを開けてコップに茶を注いだ。
「はいどうぞ」
「俺にくれんの? そんな遠慮せんでもいいぞ」
 ガラスを覆った水滴が手の平を湿らせる。よく冷えていて心地良い。
「ぼくもいただきます」
 ソファに並んで茶を飲む。ルナはカバーを撫でながら部屋をぐるっと見渡した。
「ショウさんのお家ってキレイですね」
「そうかー?」
「あとね料理もいっぱい作るんだってびっくりしちゃった」
 ソレは、割と誰にでも言われる事だ。生活感がなさそうにみえるらしい。実は、そうでもないワケだが。
「調味料買わなくてもあるって言ってたからそうかなって思ったけど、なんかタッパーが入っててすごいな〜って」
「アレな。何日も帰れないとヤバい事になるから作ったらすぐしまうんだよ。サイアク容れ物ごと捨てればいいからな。でないと鍋が生物兵器になってまうし」
 と苦笑するショウ。
「まあ俺みたいな生活サイクルなら燃費悪いんだがな。たまに自分で作ったもん食いたくならね? 手前味噌だけどなー」
「そうなんだ。ぼくは毎日お弁当だから時々パンとかおにぎり買って食べようかなって思うんだ」
「弁当も自前か? お前ホント料理好きなんだな」
「うん。洗濯、掃除、裁縫、どれも好きだけど一番は料理〜」
 カフェにいた頃も、大抵厨房の仕事をしていた。なかなか旨かったと思い出す。
 ――ご迷惑でなければ、晩ご飯を作ります。
 とか言われて男が男にするお礼じゃないよなと内心ツッコミを入れつつ、断らなかったのもソレ。見返りは必要なかったが、コレを辞退して改めて何か、と気を遣われるよりは気軽に受けられた。
「コップ洗いますね」
 ルナは空になったコップを下げた。
 手を拭きながら戻って来て、かしこまった顔をする。
「それじゃ、お願いします」
「ああ」


「お前……」
「??」
「結構な脱ぎっぷりだな」
「え? だってショウさん悪いことない人だしおまわりさんだし全然怖くないし、男同士だから別に恥ずかしくないし」
 そもそもスライムは概ねはだかんぼだしね、とルナは笑った。落ち着いたもんである。
「あ」
 ルナはちょっと考え込んで言った。
「こういうトキって恥ずかしがったりした方が人間らしい?」
「イヤ別にソコまで演出せんでいいよ。そんなんは個人差だからな」
「そうなんですかー?」
 ルナは脱いだ服を畳むと、ショウの前に立った。
 髪や目の色は兎も角、顔と同じように綺麗に出来ている。ちょっと見識を変えねばと思うくらい腰の位置は高いし、全体に細身だが胸板と肩はそれなりだった。着痩せするタイプだと思う。
 一人前の男――それもかなり恵まれた――の体だが、優しげな顔だちに違和感なく続いていた。絶妙なバランスである。
 俺とあろうものが、とショウはちょっぴり動揺する。伊達男な自分が、コイツはテキなんじゃないかと小突く。
 相手はお子様だ、相手にしてどうするよ。しかも作ったバディ、実体は不定形のトロロみたいな生き物で、折角の見てくれも何故かイマイチ冴えない相手に無駄使いしている。
 クールになれ俺、などと考えつつ、ショウはルナに指定される順に細かくチェックしていった。


「えと、どうですか」
「まあいいんじゃね?」


「こういうのって、やっぱり最初は何回も練習するものなのか」
「うん。基本の外見はあるけど、細かいトコロはお手本とかみて調整するかな」
「基本の外見?」
「えとね、顔だちとか体型とか、そういうのは元の姿から組み上がるんだ。大幅に変えようとすると維持にコストがかかります」
「とするとナニか、同族の中で太ってる奴は太って、出っ歯の奴は出っ歯に、化けた姿が出来るってワケか」
「そうです。だから小さい人が大きくなろうとしたり改変するのは大変なんだ」
「なるほどな。そうするとお前、仲間内じゃかなりモテるんじゃないのか」
「うーん、褒めてくれる人は結構いたけど、ぼくあんまりそういうハナシ興味なくて、お付き合いとかってそんなにしてないかなあ」
「あー……さいですか」
 そうだ、コイツはそういうヤツだったと思い出す。


「見えてるトコロは、雑誌の写真とかが多いかな。普通に見られないトコロは駐在さんを参考にしてるかな」
 なるほど、と思う。モザイクの向こう側は、まっとうに買った雑誌なんかには載ってない。
 我ながら下衆い発想に過ぎるが、つい余計なコトを。
 とするとアレか。
「……」
「??」
「何つーか、結構普通だな」
「え? ふつうってナニ?」
「イヤ、お前があいつを参考にしたって言うからな」
 きょとんと首を傾げていたルナだが、はっとしてちょっぴり眉を吊り上げる。
「もー!」
 ショウさんひどいです、と言われて素直に頭を下げた。
「イヤ悪かったって。ついね」
「駐在さんがドラゴンだからって、別にウロコとか生えてないもん」
 まあ子供だ。膨らんだ頬で抗議するルナの顔は、かなり愛嬌があった。ナニについておこっているかを考えると、ナンセンスすぎる光景だが。
「んなコト言ってねえよ……」
「え? ちがうの? あっえとねえとね、牙とかも生えてないから」
「そんなもん生えてたらタイヘンだろうが」
 ああもう、と頭を抱えるショウ。いらんコト言わなければよかった、と自分の滑りやすい口を呪った。


「ショウさん今日は本当にありがとう」
 ジャガイモの入ったホンモノのニョッキを置いて、ルナはにっこり微笑んだ。チーズもプレミックスじゃなくて、スライサー――割と自炊はするが、グラインダーまでは揃えてない――で塊を削っていた。
 作りたての湯気はいい匂いで出来ていた。
「明日お仕事なら、お酒はやめた方が良いかな」
「ん? ああ、ワインなんか水だから」
「ショウさんってお酒強いんですね」
「割とな」
 名前なんかなくても、適度に冷えていて口当たりが良ければソレでいい。
 こんなにおいしい料理があれば、十分だ。一口食べてみて、普通の奴なら確実に太るだろうなと思った。横で見ていてうんざりするくらいよく食うが、薄っぺらいままの誰かとは、ちょうどいい塩梅かもしれない。世の中はうまいこと出来ている。
 しかしこうも甲斐甲斐しく世話をされると、少し落ち着かない。これじゃ付き合ってる女と睦まじく夕げを差し向かい、みたいな錯覚に陥りそうだ。
「なあに?」
「いや、いいよ」
 言おうかなと迷うもやめる。
 多分コイツの態度は天然だし、アレがヤキモキする、なんてのもまずない。
 ショウにだってそんな気など欠片もないワケだし。
 こんな親しげにしてると誤解されるぞ、なんて蛇足もいいトコだ。
「何か足りないものありますかー? まだ材料あるからお皿増やせるよ」
「ありがとうな。もうこのくらいでいいよ」
 至れり尽くせりである。
「それにしても、アレだな」
「??」
「俺もマメだって言われるけど、お前も大概マメだよな」
「そうかなー」
「相手にもよるけど、まあマメな人間ってのはかなり良アピールだからな」
「へえぇ」
「え?」
 同意を求めた筈だったが、何故か感心した目で見つめられてしまう。
「てか、ホラ変に傅くんじゃなくてな、あと神経質になるのも違うが、細かく気を配って会話なり行動なりしてると、大体相手は自分に傾いてくるだろ」
 女性を口説くハナシである。
「そうなんですか〜。ショウさんて色んな事知ってるんだ」
 すごいな、と素直に褒められた。
「……イヤ悪かったよ」
 反省しつつ、ルナの肩を軽く叩く。
「なになに?」
「悪い大人でスイマセンでした」


「なんだかよくわからないけど」
 ルナは一人で苦笑するショウをみて言った。
「ぼく人のお世話するの大好きなんだ」


「ぼくねー、昔将来なりたいものの欄に『およめさん』って書いちゃったことあるんだ」
 今度はルナが苦笑する。
「今思うとね、すんごいイロイロ誤解してるし、ホントのお嫁さんの人におこられちゃいそうだけど」
 へへ、と頭を掻く。
「それでね、お家のお仕事代わりに引き受ける職業があるって聞いて、やりたいって思ったんだ」
 ルナは照れくさそうに笑って言った。
「実はね、早くお仕事したくてぼく何回も家出したことあるんだ」
「家出?」
「うん。透明になってコッソリ電車乗って……えと、ごめんなさいお金はあとでお父さんかお姉ちゃんが払ってました。んとそれでねどこかのお店に弟子入りしようとしてたんだ」
 なんだコイツ意外に思い切ったコトするな、と思うがそうでもないか。行動が極端気味なのは今もそうかも。
「大体子供ってバレちゃうし途中で追いつかれて回収されちゃったりなんだけどね」
 兎に角学校を卒業するまで待ちなさい、なんて下りはどの世界も同じ。
「中学終わったら即出てきちゃった。だからぼく魔法も全然知らなかったんだよ。最初はお師匠さまのところで修行してたんだけど、初めてお客さんにお水出して、『ありがとう』って言われたときなんか嬉しすぎてびよーんて伸びておこられたよん」
「なんだそりゃ。飛び上がったり小躍りしたりするようなもんか」
「そうそう。そんな感じ」
 次々に出てくる言葉も、希望の職種への喜びに満ちた初々しいものだ。なんていうか、社会人になりたての、やる気のあるやつが言うことだ。同じ世界で生きていると、この辺の中身は変わらない。
 

「いっぱい勉強してランク上げてお仕事いっぱいしてお給料いっぱい貰うんだ」
 たわいのない話だが、聞きっぱなしでもいい。前向きな内容ならタイクツじゃない。
 相槌を打つショウの顔は、お目当ての前でのとっておきとはまた違う、優しいものだった。


「そしたら家賃とかも半分こ出来るかなって」
 ルナは未来がありそうな方角を向いて目をキラキラさせた。
「あとねぼく将来はレストランやりたいんだ」
 今の時点でもこれだけしっかりしたものが作れるし、何より性格が向いているだろう。一緒にいてくつろげるし、話していると毒が抜かれるというか穏やかになってくる。こういう奴のやる食い物屋には人が集まる。
 開業するとなるとただ料理が上手いだけではいかんワケだが、諸々の手続き、学ばなければならない約束事、そんなのはきっと有り余る時間で何とかやっていくんじゃないだろうか。退屈に倦まなければ、長い寿命も利点だ。
 生き飽きたなんて爛れたセリフ、コイツなら言わない気がする。
「いろんな生き物の人が元の姿で気軽にご飯食べたり、そういうの出来るんならお泊まりも。忙しい時とか、疲れた時とかにね、お家の代わりになるお店。できたらいいなって」
 もし自分が永劫とやらにくたびれた何かなら、立ち寄りたいとショウは思った。


 食後に一服しながら、続きを聞く。綺麗に片付けられたテーブルにはインスタントだがコーヒーも出ている。
「だから今の仕事でいっぱい覚えたいことあるの」
 いつも明日が楽しみなコイツの店でくつろげば、涸れかけた時間なんかも軽く刻めるかもしれない。
「貯金して、勉強して、駐在さんと可愛いお店で暮らしたいな」
 それから、ルナは少しうつむいて笑った。大事そうにぽつりと告げる。
「えと、ホントはいけないけど、その時は、ぼくのお店にいて欲しい」
 コレには本格的に、困った笑みを浮かべるショウ。言いたいことはわかる。こいつの少女趣味から考えると、そういう願望があるのもうなずけるし、あの小っこい手から血の出るツールを取り上げて、白いテーブルクロスなんか握らせたい気持ちも、なんとなくは。ちょっと野暮ったいくらいのシンプルなエプロンに、花なんか詰まった籐の籠。そんな姿が似合うだろう。
 まあ、夢は夢で、みるのは自由だ。
 傷つけたくないが故の甘甘なイメージに、わかりきった解を示すのは、現実だったとしてもそれこそ野暮だ。
 こいつはこいつで一生懸命考えている訳だし。
 それに、時々だけど目を逸らしたいような柔らかく、ほのかな顔をする相棒のこととか。最初に会った頃と、少し変わったと思う。
「それでね、それでね、100年とか200年先で良いんだけど」
 ルナは目を閉じて自分を抱き締めた。
 多分その中には、愛しい人がいる。
 滑稽な程一途な姿に、ちょっとだけぐっときた。ような気がした。
 こんなに愛されてれば、丸くなるか。
「いつか駐在さんに、ぼくの卵、中身のちゃんとしたのを、孵して貰えたらいいかな」
「なあ〜っ! チョット待て、卵って何だよ」
 2秒前までの、いじらしいような微笑ましいような淡い世界が崩壊するには十分過ぎる。そのトンデモワードに、危うく膝を灰皿にするトコロだった。
「だって、駐在さんみたいな身体ならキャッチ出来るって聞いたし。身の方じゃなくて、心に宿らせるんだ。聖属性[ホーリーファクター]持ってるタマシイなら、ソレで新しい生命を呼ぶ事が出来るんだって」
 それに、あくまでも、本人が望めばの話。ルナは大切そうに、夢をみるように語った。
「あとね産みつけるのはお腹だけど、魔法的などこか、別のトコロで育つって」
「イヤそんな詳細な生態じゃなくてな」
「?」
「お前アイツにそんなコトしてんのかよ」
「うん。でも、やだって言ったらしないし、絶対ケガはさせないから、痛いこととかも」
 頭痛がしてきた。
 痛いのはコッチの頭だ、とショウは呻いた。
「ま、まあ幸せならソレでいいけどよ……あんま無茶すんなよ」
「はあい」
 そんなこと知りたくもないが、日々にどうしようもなくガサツにみえても、多分そういうトコロはかなりナイーブなんじゃないか。
 ショウは瞳をキラキラさせて愛を語るルナを見ながら、気の毒なのか果報者なのか分からない相棒の事を思った。

 (1stup→080824sun)


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