■fall all over
もう一度って言われてもいい。
明日どうなってもいいわけじゃないが、もうちょっと、もうちょっと蕩けていたい時もある。
ユイは半透明のルナの身体にもたれた。目を閉じると僅かに残った涙の感触。こぼれる程の量は無い。脱げかけの袖でそっと拭う。気付かれていないみたいで、ほっとする。どうしたのって聞かれても困るからだ。もちろん、痛いからとか怖いからとかじゃない。
背中越しに聞こえるルナの息遣いは、暖かで甘かった。多分、優しい顔──今はないけど──をしてる。
身体の奥では、何かくすぐったい形が残っている。そんな気がする。不快じゃない疼きに、とろりと誘われる。暖かな闇で、眠ってしまうのもいい。
「ねえ駐在さん」
もう半分は夢の中。でももう一度繋がるのも、いいと思ってる。
「何」
「ぼくとしてて、気持ちいい?」
ぶう、と吹いてしまう。
けだるく甘い雰囲気もぶち壊しである。
赤面して手で口を押さえるユイ。覆ったトコロで隠せてないのだが、ついやってしまう。
「見……てて、わ」
わからんか、と最後の言葉はもう声になってない。
これが彼の限界だった。
「えと、すごくエッチに感じてて、いつも可愛い」
ルナは気絶しそうな顔をみて言う。冷めることも出来ないで肌は桜色。淡く霞んだ青緑の目は恥ずかしさに潤んでいる。こういう人なんだ。そこはわかってる。
「でも直接聞きたいんだ」
「そんなの」
散々不条理な目に遭ってきたが、思えば、何かを言わされた経験はほとんど無い。喰われるのは、人形みたいな心と身体、奪われるのは、薄っぺらなタマシイだった。
「そんなコト言われても」
言えそうにない。
言って欲しいものなのか。そうかも。
困るが、不思議と嫌悪感はない。自分に何か言って欲しいなんて、やっぱり、ルナは変わった生き物だ。
意味のある言葉を口にする事なんて、自分には求められていなかった。
ソレをコイツは覆す。
中身のある自分。ソコを好きでいてくれるのは嬉しかった。
でもやっぱり、思った事を口に出すのは難しかった。好き、ならまだしも、触れられた時の感触なんて。
気持ち良いとか、無理だ。
しかし。
記憶が飛ぶくらいメタメタにされたトキには、とんでもない事を口走っているというか、多分言わされてる。
だから何を今更だ。
なんて、きっとソレとは違うんだろう。
そういうのとは違うんだろう。
ルナにそっと巻き付かれる。あったかい触手が柔らかく締まるのがわかる。折れそうだっていつもからかわれる腰を、ルナは優しく何度も撫でた。その感触も締められる僅かな圧迫感も、全部気持ち良かった。
細い触手は更に吐き出しそうなトコロにも巻き付いて、頭がくらくらした。身体が思うように動かなくて、されるがままにくつろげられて喘がされる。酷いと思ったけど、ソレも。
目の前が白くなりながら、そんな自分の顔を見てるルナの顔は、優しいなと思った。
ルナは出し終えた残骸を手のひらにすくって舐め取った。小さな音に何故か甘く痺れる。そんなコトはやらないでほしい。
「気持ち……悪……く、ないか」
ルナはゆっくりと啜り終えて微笑んだ。
「全然ー」
頬ずりして微笑む。
「ユイのだから」
気持ちいい、そう言って耳の付け根にキスしてきた。柔らかく噛みつかれて、また抗えない愛撫が始まる。唇の奥の舌は、触手とまた違う。耳の小さな凹凸を隅々まで辿られる。
「きもちわるくないよ」
本当だ。
あんなことしたばかりの口に舐められる。だけどいつだって叫びそうだった嫌悪感は湧かなかった。
頬に伝うルナの唾液だって、なんだか心がぼんやりした。
そのあとは、本当にもう、メタメタになって泣かされた。
膝の上に抱えられて、身体の奥に潜り込んで動いてくすぐって、気持ち良くされた。
しがみついて、吸われた分だけ食べさせてもらう。
だけどその何倍も注がれて、受け止めきれないまま、意識がなくなった。
あちこちいっぱいになって、暖かく満たされる。
「ルナ……」
「何?」
優しい、綺麗な顔。
「……」
抱き付いて目を閉じた。
気持ちいい。
気持ちいい。
やっぱり言えないけど、こうするのが気持ち良かった。
(1stup→081206sat)
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