■片翼の恋 02

多分コイじゃないです


「つーかいつまでこんなコトやってなきゃなんねーんだ!?」
「対象がアミに掛かるまでだ……」
「かーっっ! やってらんねー! なんでこのホーリーナイトにテメーとイチャイチャせなならんのじゃ!!」
「仕事だからだ……ていうか罰ゲーム?」
「そりゃテメーはイロイロやらかしてっから何かサバキが下ってもしょうがねえかもしれんがな」
 ツライね宮仕えは。テンバッチテキメンってか?
「俺は善意の協力者だぜ?」
「ナニが善意の協力者だ。そもそも前回のアレはお前が……」
「あ?」
 何の言いがかりだと半眼になるエドガー。
「保護対象ごと被疑者をしばき倒すからああなったんだろうが」
「そんなコトあったっけー?」
「あったんだ!」
 何でお前はそう単細胞なんだ、とユイは忌々しげに言った。
「うるせえな、んなコト言ってもよーあんな欲ボケエロジジイ、ちっとガツンとやっとかなまた同じこと繰り返しそうじゃねえかよ」
 手前だってアッタマきてたんだろ? とエドガーは鼻で笑う。
「何か知らねーがえれー奴があんな風に好き勝手するから、リベンジキメてやろうとか考えるんじゃねえか? 拉致られてヤキ入れられたってしょーがねーべ」
「そんなんはお前の仕事じゃない。司法公社に任しとけ……ていうかお前、やっぱり覚えてるだろ、しばくぞ」
「かーっ! イチイチ細けえコトに突っ込みやがって、そんなちまちまちまちま考えてっから背が伸びねえんだよ」
「そんなんカンケイあるか!」
「つーか、アレか? 手前牛乳飲めないもんなー。ソレか? ショボ」
「やかましい! 小学生じゃあるまいし、俺はこれで一人前」
 良いんだよオマエと違って大人だから、とユイはニヤリと笑った。
「何だテメー俺がガキだっつーのかよ」
 ソレを言うなら手前がオヤジになりかけだ、とエドガーは思った。
 こうして毎回やりあっても怖いくらいに信じられないが、5つも年上。
「まあ、ベロリといってなきゃコドモでしょ。マーズアタッ君」
 とか、恐ろしいコトを言いつつニセの笑顔を浮かべる姿は、不吉にも可愛く、言いがかりでもオヤジとか出てこなかった。が、ソレはソレとして。
「誰がマーズアタッ君じゃ! 何の根拠があってそんなコト言ってんだテメー殺すぞ」
「まあ根拠はないけどそんなに怒るんならもしかしてホントウ?」
「手前とは一度決着をつけにゃならんと思ってたトコだ。このまま小学生みたいな小っこい指へし折ってやんぜ」
「やってみろや。出来るもんならな」
「出来ねえと思ってやがんな」
「多分。俺がお前の無駄に長い腕を折る方が早いな。組む相手もいないのに」
「上等だコラ」
「うたわすぞ」


「そこの二人! フンイキが悪いわよ! 周囲をよく見なさい!! ていうかいつまで手握ってるつもり? チョットぐらい進まないと不自然よ」
「カンベンして下さいよーっっ!」
「ナニを進めろと」
「「コレ以上ムリっス……」」
 ──今殺したい奴の名前ならソッコーで書けますけどね……。
 ──お互い様だっつーの……。カンニンや……。


「あ〜っっ、もう、じれったいわね……色気ゼロ? チューとかハグとかできない? 二人揃ってとんだチェリー君ってワケね」
「「チョットチョット、ソリャないっすよ……」」
「ナニよ、ならちゃんとソレらしく振舞いなさい。ガッといきなさいよ。アナタたち男でしょ!!」
「「イヤ、男だからデスよ……」」
 内耳のスピーカーから響く小言に、げんなりする二人。


 今年もユイは面白くなかった。
 イルミネーションは、クリスマス一色。
 別に、八百万に不満はないが、毎年毎年よくやるよと思う。
 一体誰が、この経済効果を吸い上げているのか。
 パンだけじゃダメだって言ってるのに、終いにはおこられるぞ、とか一人ぼやく。
 イヤ、地獄の沙汰もナントカって言うから、お布施で許して貰うとかか? この場合免罪符か。
 それにしても、ミニスカでティッシュ片手にウロウロするサンタのセクシーぶりや、やたらケーキを勧める胡散臭さもアレだけど、クリスマスツリーの節操無さは何だ。
 白、ブルー、ピンク。金色、オレンジ、挙句は紫って何だよ。
 『O Tannenbaum』を知らんのか、と、呆れる。まあ、綺麗だけど。
 人込みで漕ぎ難い自転車を押しながら、ユイはため息をつく。
 そんで調子に乗って浮かれ過ぎて、フランチャイズのヒゲのおっさんをお持ち帰りしたり、薬局のカエルの目玉を取ったりするのだろうか。
 けしからん、実にケシカランと思う。
 大体、子供連れのファミリーも通るモールで、臆面も無く抱き合ってキスするとかあってはならない事だ。
 ジェラシーのなせる業とかではなくて。
 そうでなくて、やっぱり、そういうのはイカンだろうと思う。
 そう、例えば、何か法に触れてないか?
 そう、探せばなにか、ある、公序良俗とか? それだ。
 例えば、公共のスペースでいちゃついてるカップルなんかを厳しく取り締まって一人1000円ずつ巻き上げ……イヤ反則金を徴収するとか。


 エドガーはムカついていた。そういや、去年も、ソノ前も、ここ何年かはずっと、このシーズン負け越しで、シケシケで、ムカついていた。
 エラい昔に生まれた、立派な人だかの誕生日を、祝う習慣。
 まあ、そんな曰く、皆知ったこっちゃないだろう。
 行きかう人々のタマシイは、割と幸せそうな色だ。
 赤い服に白い袋、袋じゃなくて携帯のロゴが入った紙袋や何かのサンプルが入った籠だっかりとかの、サンタ姿の人々だけ、ちょっと疲れた色をしているのがナンセンスな光景。
 まあでも、そう考えながら視ると、他にも忙しそうな奴らがちらほら。
 宅配のニーサン、ピザのバイク、あの警備員だってお疲れモードだ。
 こんな日にバイトなんて、しんどいだろうなと思って視た向かいのアイスクリーム屋の店員は、明るすぎるオレンジ色だった。はいそうですか終わったらおデートなんですねと視たことを後悔する。
 自転車を押して歩いている、民営警察の制服は、侘しく見える。
 コッチはお仲間デスカ、と一瞬ほっとするが、その後余計がっくりきた。
「何だよテメーかよ。不景気なツラしやがって」


「あー……いちゃついてる奴ら順番にでこぴんかましたら金くれる法案とか可決されねーかな……」
「……」
「何だよ」
「別に」
 茶の一杯くらい、カミサマも目をつぶってくれるか、とユイはペットボトルの蓋を開ける。
 あったかいお茶に、チョットは癒される。
 と思ったのはつかの間で、通り過ぎるカップルを見ていると勤労意欲が萎えそうだ。
 隣ではエドガーが、愚痴と一緒にタバコの煙を吐き出している。
「かーっ、やってらんねー」
「全くだ」
「あなたたちときたら、この師走にそんなくだらない事考えてるわけ?」
 目立たない程度に可愛い、お姉さんがいる。多分、また何か面倒なお願いをしに来た。
 ハナシによると、外観は何も手を加えてない既製品らしい。
 機械仕掛けのバディに納まった、捜査官。
 まあ、暇そうならちょうどいいけど、と、彼女は機嫌よく微笑んだ。


「ところで、この風景、あなたの目には、どう視えるの」
 あー、と唸ってから、エドガーは言った。
「赤っぽい? ていうか緑? つーか! 全体にピンクっすよ、幸せそーにうわついたピンク」
「なるほど」


「上手い具合に二人揃ってるわけだし」
「何ですかソレは」
 ナゼ揃っていたら都合が良いのか、あまり良い予感がしない。
「まま、エドガー君がくっつくなら、あなたしかいないでしょ」
「こんだけタメておいて特殊なセクハラですか」
「違うわよ」
「何のハナシだよ」
 エドガーが不審な眼差しを向けると、ナミエはさらりと言った。
「逢引のハナシよ」
 彼とアナタの、と彼女が言った事のとんでもなさは、多分、残り少ない今年で一番。


 ──君たち、仲良いよね、
 なんて言いながらにじり寄って、困る──戸惑うとか、怯えるとか、泣いてしまうとか──二人の姿をかくのごとく記録し、コレクションするらしい。
 人には言えない恋だからこその弱みに付け込むセコいロリショタ? 犯罪者。
 ロマンスなんかお呼びではない。秘めやかなりし愛なんか、正直遠慮したいジャンル。
 けれど、ナミエはデリカシーのない人間が、もっと嫌いだった。


「迷惑な男? まあどっちかは不明なんだけど、証言によると男ね、ソレを確保して欲しいのよ」
「メイワクなオトコっすか? カップルでもしばいて廻ってるんスか?」
 半ばヤケクソ気味で、エドガーが呟いた。
「そうよ。殴るっていうのは、気持ちの方だけど」
 だったら、ソレを自分達に頼むなんて、やっぱりこの女はどうしようもない毒婦だと二人はコッソリため息をついた。
「つーか、別に手、出して無いんなら、放っときゃいいじゃねえかよ」
 なんでそんな胸クソ悪い人助けなんかせないかんのだ。アホらしい。と思う。
「そのうち返り討ちにされるのでは」
 まあ、アナタなら半殺しにするでしょうね、ナミエはお人形みたいなユイの顔をみてコッソリ呟く。頭は生身の筈だけど、相変わらず、自分のアーキタイプなバディよりもつくりものっぽいなと思う。
「それがね、結構なサイバー者らしいのよ」
 それとね、と彼女は少し困った顔で言った。珍しい表情。
「被害にあってるほとんどが、中学生高校生とか、まあ20代チョットくらいまでの、少年少女なのよ」


「ウラトモノキって、知ってる?」
「何スかソレ」
「初耳です」
 自分よりは若いなりをしていても、こいつらも一応思春期ってヤツを卒業してしまった面子には違いないかと、ナミエはちょっと安心するやら。
「そう」
 ソレはソレとして。
「JBC公園前の西側に、メタセコイアがあるでしょ? ソレは知ってる?」
「あーデンセツのアレでしょ」
「知ってます」
 若干面白くもなさそうに、二人がうなずいた。
 やっぱり、わたしヤバいかもしれない、ナミエはチョット不安になる。この事件を担当するまで実在していた事を知らなかったなんて、彼らにバレたら何て言ってネタにされるか。
 まあ、言わなければいいだけのハナシだけど。と気を取り直す。
「要するに、アレの逆っていうか、裏バージョン?」


(クリスマスの)午前0時に一緒に過ごすと永遠の愛を誓えるという伝説の樹。
 元々は昼の12時に友達同士で待ち合わせすると(次の一年)幸せになれるというさみしい君とさみしい子ちゃんのユメから生まれた都市伝説。
 女の子同士、男の子同士のカップルがこっそりデートするスポット。
「大人ばかりのハッテン場? みたいなトコでは何かあったら怖いので子供向けなのが生まれたという次第らしいんだけど」


「まあいわゆる片翼の恋ってヤツね」
「ですね」
「かたよくのコイ? なんだソレ」
 ナミエの解説? にエドガーは首を傾げた。
「あれ? 知ってると思ってたけど、知らなかった? チョット前に売れてたweb小説」
 ──飛べなくてもかまわない。あなたが好き。
「ていうキャッチフレーズで女の子同士が好きになっちゃうみたいな話。アングラ感がなくて、こう手とかつないじゃうような雰囲気で終わるんだけど、はっきり恋愛してる書き方はしてるのね。出版元、著者共一般購買層向けで、ソレ系のタイアップやコラボも一切ナシ。ソッチ方面のブレイクがなかったから、不思議な雰囲気の青春小説って認識になってるのかもね」
 確か、まだ週間ランキングに残っていた。
「つーか、そもそも何でそんな事件、ナミナミ……」
 じろりと睨まれて、可愛いニックネームを引っ込める。
「ナミエさんが出張って来てんですか」
 入る人間よりも、二階級特進して、天国とか極楽なんかへ栄転していく数の方が遥かに多い、centurionのシゴトでは無い。
 そういうのはむしろ、
「そういうのは、コイツんトコの管轄っしょ」
 隣のユイを指差す。まあ、あんまり血が流れない、雑多な事件。そんなのは人員だけなら山程、一山幾らの彼ら、民営警察の仕事だろう。
「それがね、そういうワケにもいかない事情があるのよー」
 ナミエは口許に手を当てて、そっと呟く。
「署長のね、お知り合いの娘さんが、直接依頼してきたんですって」
 それだけ、人には知られたくないということ。
「署長、何故か子供さんにウケが良いから、たまにこういうことがあるのよ」
 ああ、あのメガネのヒョットコみたいなオッサンなら、親に言えない相談もしやすいだろう。とエドガーは思った。
「でもよ、だったら俺らにやらさなくても、あ≠フ誰かにやらせばいいっしょ」
 全くだ、とユイもうなずく。
 あ≠ネんて変なあだ名を付けられても、軍隊とケンカして勝てる唯一の警察機関。装備だって自分達とはタコとクトゥルフくらい違う。
「一度試したんだけど、バレバレなのよねー」
 どうやって調べているのか、コッチの正体を見破ってしまう。
 多分、原因は年齢層。外見的に不自然だからだろう。厄介な趣味のテキである。
「それに、ホンモノのカップルにお願いするのも、気がひけるし」
 ギルドなんかに通せば、それなりの技量を備えた人員を、廻してくれるかもしれなかったけれど。
「何スかそのヘタレっぷりは」
 ちゃんと仕事しろよな、と茶化すエドガーに、ナミエは言った。
「だったら、アナタはもしその気持ちがホントウだったとして、気を遣わずに接することが出来るっていうの?」
「あー、まー、ソイツはムリだな」
「それに、つい口が滑って失礼なコト言ってしまったりしたら、取り返しがつかないでしょ」
「今更どの口が言ってんだよ。いつも俺らにはズケズケ滑りまくってんでしょうが」
「別に滑っちゃいないわよ。うっかり口走ってるつもりとかないし」
「……さいですか」


「アナタたちは愚蕪だけど下衆な人間じゃないし」
 ──万が一も有り得ないから丁度良いって思ったのよ。


「今年も負け越しカクテイのあなたたちが、喝采したい気持ちも分からなくはないけど」
 放ってはおけない。
「ただカップル相手にベロベロで何かオヤジな野次飛ばしてるのとはワケが違うのよ」
 ナミエは閉じていた目を開けて、真顔になった。
「光学迷彩、03タイプ、軽量化、移動速度に重点を於いたタイプのサイバー化」
 警察関係者だと分かるタイプの巡回には、引っ掛からない程度の狡猾さ。
「下世話だけど、相手もバカじゃないわ」
「それで我々をエサに釣りでもしようという腹積もりですか」
「そ。その小っさい……ぶぶー、コンパクトなバディでサイバー者を一人で抑える、パワーとかならアナタが適任でしょ」
 ……変に気を遣われる方が傷付くんだが、とユイはがっくりきた。
 まあ、自分で言うのもなんだけど、見破られない自信はある。
「で、呪装ステルスが掛かってたとしても、エドカー君、あなたなら抜けるでしょ」
「まあな」
 エドガーはナミエとユイの目には映らない何かを視ながら、事も無げに言った。
「そんなさわやかオレンジとかイチゴみたいなフンイキの中で、下衆いヤローがウロウロしてたらまる分かりだぜ」


「ちっ……しょうがねえな」
「おいお前」

        膝にでも座れや」
「「こっち来て
        横座って肩に手を廻せ」

            肩なんか抱かにゃなんねーんだ!」
「「何で俺が手前の
            膝に上らなイカンのだ!」

「「そりゃコッチのセリフだろーがよ」」
 うんざりしながら脳内で舌打ちする二人。
「そりゃおめー、手前が俺に惚れてる以外に考えられねーだろ」
 男のミリキってやつを考えれば、当たり前のことだ、とエドガーは思う。
「はあ?! 俺に惚れてるのはお前だろ……まあイロイロ間違ってお前と付き合ってたりしたとして、メロメロなのはソッチ?」
 という設定。ユイの中ではそうなっている。
「何で俺が手前にメロメロなんだよ」
「今までムダに男に想われてたりしてないからな」
 この前またラブレター貰いました、と虚しいながらも得意げなユイ。
「くだらねー! そんなモン本命に貰わなきゃタダの紙切れだろがよ」
「にゃにおう、ナニ身の程知らずなモテトークかましとるんだ」
「何だとゴルァ!」
「だいたい、お前みたいな裏切り者にな「誰が裏切りモンなんだって? 俺がいつそんなコトしたっつーんだよ」
「先週だよ……」
「ハァ!?」
「お前が! カレー頼まずにカレー屋で飯食ってカエル企画とかって言うから俺もソノ気になってチャレンジャーだったのに、注文取りに来たネーチャンがチョット可愛いかったからって手前! 自分の番になって裏切りやがっただろ」
 ──ナニがカツカレーじゃ! しばくぞ!
「つーか次の日にしばいてただろ。顔会わした瞬間鼻に入れやがって……まー俺もやり返したけど」
 ──あとな。
「そのハナシには更に続きがあるんだよ。テメーだけ被害者ヅラしてっけどな、アノ後オマエがおにぎりと味噌汁(笑 食ってさっさと帰ったアトだよ。俺ぁあの姉ちゃんにメルアド聞こうと思ってな、話しかけたんだ」
 渋い顔のエドガー。
「そしたらな、姉ちゃんナニをカンチガイしたのか『楽しい彼女さんですよねー』だとよ」
「そんなん俺のせいじゃないだろ」
「手前のせいだろーが!」
「勝手にカンチガイする方が悪いんじゃ!」
「そんなコトいうけどよ、じゃあソノ前のアレはどうだっつーんだよ」
「あ?」
「折角合コンでイイカンジになりかけだったのによー、手前が通りすがりに『いつもの場所でまたね』つってワザとらしく笑いやがって」
 おかげでコッチは散々だった。
「そんなコトもあったっけ」
「あったんだ! ていうかテメーリアルで俺に惚れちゃってる?」
 美しさは罪ってか?
「あるかそんなコト! コッチにも選ぶ権利ってモンがあるんだよ!」
「ナニー! そのセリフそっくり返してやらあ!」
「やんのかコラ」
「上等だ泣かしたる」


 慣れない電脳通信で、罵りあう。
 どれだけアタマにきていても、傍からは多分、黙って座っているようにしか見えてないのがお笑いだ。
 やっぱり、現実のアタマをしばいてやらんと治まらない。


 何を、話しているのか。見た目どおり、黙っているのか。
 ここからはわからない。
 精悍な横顔で、たどたどしい愛の言葉を、囁いているとかであって欲しい。
 乏しい表情で、お人形さんみたいな男の子が、どんな言葉で応えるか。
 もちろん、手を握りあったまま、何も言えずにいるのだってアリだ。
 初々しくて、清らかで、ソレが良い。
 この夜に相応しい、ニエ。
 彼の目には、微笑ましい、恋人の姿が映る。


「きーみーたーち」
 声を掛けつつ二人を見る。
 さっきまで背中合わせに座っていたハズなのに、見ればお互い容赦ナシなグーで殴ろうとしている。
 ごす。
 めき。
「て、てめーなんざ地面とチューしてろや!」
「おまいの方こそ靴でも咥えてろ」
 何だとコラ。
「キミ達さあ」
 しかしこんなコトで諦めていてはイカンので頑張る。
「仲良いよね〜」
「「良くねえよ」」
 とか言って、茶髪青年が吐き出したのはアレか? 歯とか?
 勿体無い、勿体無すぎる。
「あのさああ」
 ──コレはゼッタイ良くない。
「ケンカは良くないよ」
「うるせえ!」
 めきょ。
「おぶう、ホラ、やめようよ折角の」
 可愛い顔が台無しだって言おうとしたのだが、
「邪魔」
 ぺき。
「へぶら」
 台無しになったのは彼の夢と顔面だった。
「ヲラー!」
「しねやー!」
 夢は、チョット悪い夢になっちゃっただけで、消えてはいないかもしれない。


「チョット! いい加減にしなさいよ! まとめて脳みそ焼いちゃうわよ! もー!」
 と、おこってはみたものの、もう自分の声なんか届いてないだろうなー、とナミエは思った。
 ココはもう、始末書の文面でも考えて、頭を切り替えた方がおりこうだ。
 巻き込まれたギャラリー? だけでも回収しようかと、凝視する。おやっと思ってメモリを巻き戻し、ため息をついた。
「はー、もーいいか」


 伸びたままの男を回収して、ナミエは撤収した。
 まあ、彼らは彼らで何とかするだろう。
 どうせこうなったら誰にも止められないし、とか思ったりした。


「つーか! もうマジやんねーかんな!」
「コッチももう頼まないわよ」
「何だよその言い方、結局ハンニンは捕まえたんだからちっとは労いのコトバとか出ないんスか」
「同感です」
「ナニをねむたいコト言ってるのよ。あんなのタダの偶然でしょうがー!」
 アレがたまたまヤツだったから良かったものの。と、ナミエはため息をついた。
「全くあなたたちときたら、飽きもせず毎回よくやるわよね」
 こんだけ差し歯も変えれば、歯医者はさぞかし儲かるだろう。
 にっこり笑えばそれなり以上にサマになるであろうエドガーの顔を見て、げんなりする。
「ま、まあ何だか知らないけど、依頼してきた女の子達、すごく感謝してるみたいだから、意味はあったのかもしれないわね」
「感謝?」
「そ。あんだけ派手に立ち回られたらデートもへったくれもなくなっちゃって、てっきりクレームついちゃうかと思ったのよ」
 それがねー、と、ナミエは苦笑しつつ言った。


 ──ひっそりお付き合いする自分達の為に、身体を張って闘ってくれたお兄さん達に、お礼がしたいんですって。


「お陰様で、わたくし達の森は護られました」
「お互い、言いたいことを思うまま、伝えられるのは素晴らしい事です」
「素敵でした」
「どうか、お兄様方もお幸せに」
 これは私たちからの気持ちです、ともらったお揃いのマフラーを手に、ぽつんと残される二人。
「つーか、どうするよ」
「どうもこうもないだろう」
「はあー、勿体ねえー」
 超美人の女子高生から、心のこもったプレゼントを貰うなんて、ニューイヤー早々に勝ち星? かもしれない。
 だけど、ソレが自分達の恋(ニセ)を応援するものじゃなかったらどんなにハッピーだっただろうか。
 と考えるとちょっぴりかなしい男どもだった。

 (1stup→20071224mon)


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