恋の足音 since 2011.11.05 ※TOPへ戻る際は←のサイト名をクリックして下さい。 |
同室の二人はクラスが違う。 寮に帰れば毎日顔を付き合わせる関係だが、学園で会うことはそんなに多くない。 講堂で全生徒が集まるイベントがあったり廊下ですれ違う際に見かけることがあるくらいだ。 「はぁ……」 窓際の席で授業を受けながら、ギリシャ彫刻さながらと形容される美貌の男は溜息をついた。 眼下に見えるグラウンドではジャージを着たAクラスの面々が炎天下の中何か訓練をさせられている。 瞳が追うのはただ一人。 遠目でも、同じ服装をした人間が数多くいる中からでも、すぐ見つけることができてしまう。 いつもそうだ、自分の目はその人物を追わずにはいられない。 相手は視線にもその理由にも全く気付いていないだろうけれど。 些細なことに突っかかってくる面倒な幼馴染、そう思われているはずだから。 世間ずれしていると言われるほどに古風で真面目な男が 『ツンデレ』 なんて言葉を知っている訳もない。 だから自分の態度はきっと正しく理解されていない。 レンはもう一度溜息をついた。 そんな関係に変化が起きたのは、ある夏の日。 「女性の口説き方を教えてくれないか」 夕食を終え自室で寛いでいる時間、まさかの台詞が真斗から飛び出した。 「……お前がオレに頼みごとするなんて珍しいと思ったら恋愛相談? へえ、堅物の聖川にも春が来たとはねえ」 からかったように答えてみるが、レンはいつも通り不敵に笑えているか自信がない。 周囲が放っておかない人並はずれた容姿であるのは真斗も同じ、だが異性に対する態度は真逆だった。 数え切れないほどの女性と情事を楽しんできたレンに対し、真斗は色恋沙汰に興味はない様子を見せていた。 それゆえレンは心の均衡を保てていたのだ、自分だけが真斗に惹かれていると悔しくても彼の心は誰のものでもないことが救いだった。 終止符は突然で、秘めた想いを消滅させなければならない時が来たと思うと百戦錬磨のレンも辛い。 「どんな相手に惚れたかは知らないが、オレに相談したのは賢明だな。レディの扱いには自信があるからね」 言いながら、自虐的だと笑い出したくなる。女性の扱いには長けても本当に好きな相手にはなんと不器用なことか。 本気になったのは真斗だけ、遊びの恋はたくさん知っているけれど心が突き動かされたのは初めてだった。 幼い頃から知っている同性の同居人に惹かれていると認識したのは初夏を過ぎてから、それまでは気に食わないから意識してしまうのだとばかり思っていた。 同じ部屋で過ごすにつれ、早朝叩き起こされたり小言を並べられることをどこかで嬉しいと感じる自分に気付いてしまった。 父をはじめとする家族には疎まれ、使用人には気を遣われ、異性からは羨望の対象にされ、レンは対等な人間関係を知らない。 幾度口喧嘩になろうとも等身大でぶつかってきてくれる真斗の存在を、希求するようになった。 もっと自分を知ってほしい、自分だけを見ていてほしい。気付かれないよう見つめながら願ってきた。 「何を勘違いしているのか知らないが……Sクラスとはバラエティ実習の内容が違うのか」 「は?」 困惑交じりの真斗の言葉に、レンは思わず間の抜けた声を出してしまった。 「明日の実習のテーマが恋愛バラエティなのだ。 共演者を口説かねばならないそうだが、俺にはどうしていいか皆目検討がつかん」 明かされた理由に、気を張っていたレンの体から力が抜けていく。 「はは、そういうこと……」 壁に体重を預け、額に手を当てながら呟いた声は弱い。 「どうした? 具合でも悪いのか」 「いや、安心して。……っ!」 つい本音が出てしまった。失態に気付いた時にはもう真斗が目を丸くしていた、聞き逃してもらえなかったようだ。 みるみるうちにレンの頬が真っ赤になる、笑顔という名のポーカーフェイスが作れない。 そんなレンの態度に何か感じることがあるのか真斗の頬も赤く染まっていく。 「……」 「……」 二人して無言という時間がしばらく続いた後、相談者である真斗が咳払いをして切り出した。 「口説き方を教えてもらうのはやめにする。 代わりに、お前を口説いて練習することにしよう」 思いも寄らない提案にレンが意表をつかれていると、さらに言葉が重ねられた。 「誰かに愛を囁いたことなどはないが、これなら俺もやれるだろう」 無意識とは恐ろしい。すでに口説いている状態だと気付いていない真斗は恥ずかしげもなく言ってのける。 言葉の裏に隠された意味を量ってレンの顔が再び赤くなると、ようやく真斗も照れたように目を逸らす。 つかの間の静寂の後、今度はレンが口を開いた。 「わかった、聞いてやるよ」 喜びを前面に出すのは気恥ずかしくなんとか平静を装って承諾すると、頷いた真斗が練習を開始した。 「神宮寺。俺はお前のことが気になって仕方がない」 直球の始まりに早くも心を乱されたレンが視線をはずすのにも構わず、告白は続く。 「俺とは正反対の性格で接すれば苛々するとわかっているのに……気付けばお前を目で追ってしまう」 自分にも思い当たるその言葉にはっとして、レンは再び真斗を見た。 切れ長の瞳の中に自分が映っている。 それだけで恍惚とした気分になるというのに追撃はやまない。 「お前のすべてを知っているのは俺でありたい」 「……ストップ」 目を瞑り掌を前に出して制止したレンに、一瞬口をつぐんだ真斗が尋ねる。 「何かまずかったか」 「お前、はじめからとばしすぎ。オレが限界だからこの辺でやめにしてくれ。その調子でいけば明日の実習も大丈夫だろ」 「そうか。では相手の女子をお前だと思って臨んでこよう」 「……」 これ以上話していると本当に身がもたないと感じ、レンは火照る頬を押さえ沈黙を選んだ。 クラスの違う二人がたまに学園で顔を合わせる時がある。 合同で授業があったり、昼休みの購買や食堂でばったり会ったり。 そういうとき、視線が交差する。 瞳と瞳がぶつかるだけで密やかな喜びを感じる彼らの唇と唇が重なるのは、まだ先の話。 FIN |
バラッドのうたこ様から頂いた純愛マサレンSSです!!!!!
私が触れたら滅されるレベルの清らかなマサレン…////レン可愛い…可愛い…可愛すぎて…もう…!!!! ←詳しくはWEBで! |