恋の足音 since 2011.11.05 ※TOPへ戻る際は←のサイト名をクリックして下さい。


音也がとんでも無い決意をしたその日、Sクラスはピリピリとした張り詰めた空気から一転。
光の届かない泥沼の底のような陰鬱さに包まれていた。
その空気の全ては学園中を騒がせている噂の張本人、トキヤから生み出されている。
両手を眼前で組んで頭を預け、時折深く深く息を吐く。
耐え切れなくなった生徒たちから救援要請を受けた翔がその横に突っ立っていた。
「もう昼だぞ。メシ食おうぜ!」
努めて明るく言った翔の声が重い空気の中に弾もうとしてあえなく沈み込む。
言葉の意味はどうにか伝わったようで、トキヤがのろのろと弁当箱を取り出した。
相変わらず女子か、とツッコミたくなるような大きさだ。
腹に食べ物入れたら多少落ち着くだろう、と翔も周りも落ち着きかけたその瞬間。
教室のドアが叩きつけられるように開かれた。

「やっほートキヤ居る!?」

今が冬だという事を忘れさせるような眩しい笑顔で、音也が立っていた。
誰からも返事が無いのを気にする事なく教室へ入りトキヤの席へ足を向ける。
やばい、と翔が振り返り見たトキヤは黙ってまま。
弁当箱を包んでいた布を取り去ろうとした手の形のまま固まっていた。
「あれ翔、何してんの?」
「お前…場の空気を読んだら秘密組織に殺されるとかって事情でもあんのか…」
「あはは何それ!翔面白いな〜」
精一杯の反撃を難なく受け流され、翔は頭を抱える。
音也に皮肉が通じるとは思ってないがもしかしてわざと何じゃないのかこいつ。
そんな気持ちをたっぷり込めた視線も音也はすっと受け流す。
「ま、いいやトキヤもらってくね!」
にこっと微笑んだ音也のとんでも無い爆弾にそれまで教室を包んでいた重苦しい空気が吹っ飛ばされた。
一斉にざわつき、周りの友人たちとヒソヒソ話し始めた生徒を見て音也が首を傾げる。
自分が原因でこうなったとは全く思ってないのだろう。
「ねぇ、一緒に来てよ、トキヤ」
「…ッはい」
耳元で囁かれたトキヤが反射的に頷く。
無意識というのは恐ろしい。しっかり手も握り締めていたようだ。
音也にしたら周りが騒がしくなったから聞こえやすいように、と思っただけだろうが。
つい数分前まで人形のように椅子に座っていたトキヤの頬は赤く染まっていた。
音也に引きずられるように教室を出て行ったトキヤを見送って、翔は溜息を吐いて椅子に座り込んだ。


音也がトキヤを連れて来たのは裏庭の木陰だった。
夏は緑が生い茂るこの場所で昼食を取る生徒も多かったが、木枯らしの吹く今の季節、人気は無い。
階段を上ってすぐの所に生えている大木の前で、音也は立ち止まった。
上着もマフラー無しに来てしまった体は風に撫でられる度に震え上がる。
冷たい指先をどうにかしようと擦り合わせていると、音也がその手を掴んだ。
「音也、何…!」
「ごめんねトキヤ、俺鈍感でさ」
「はっ…?」
「トキヤがあんなに俺の事想ってくれてるのに気付かなかった」
いつものふざけた雰囲気が消え、その代わり真剣さが灯った瞳に射抜かれる。
トキヤが合わさった視線を外すことが出来ずにいるうちに、指先にちゅっとキスされた。
かじかんで感覚が無くなり掛けていた指先に、一気に血流が巡る。
唐突な熱は頬と耳を染め、首を辿って心臓を撃ち抜いた。
ばくばくと暴れた鼓動を悟られなくて体を離そうと後ずさって、すぐに背中が木の幹に阻まれる。
「俺の目見て…ねぇ、トキヤしか映ってないよ」
どんどん音也との距離が縮められ、鍵をかけるように足が絡まる。
こつりと額がぶつかる。そこからじわじわと染みてくる音也の体温を感じて、トキヤは思わず目を閉じた。
「駄目だよ、目開けて俺を見て」
「、音也…」
「いいこだねトキヤ…」
命令する声音では無いのに、抗えない。
子供を褒めるような口調なのにその声は随分と低く、熱っぽかった。
同じ熱を持った音也の手がトキヤの制服を割り開き、胸元へと差し入れられる。
丁度の心臓の上をシャツの上から触れられてトキヤの体がびくりと竦んだ。
「あは…トキヤの心臓凄いね」
そのまま手のひら全体で擦られて、寒さのせいではない震えが走る。
薄い布の上から、胸の突起ごと心臓を押しつぶされる。
音也は指先で捏ねるような事はせず、親指の付け根でトキヤの左胸全体を揉むように動かした。
「んぁっ…」
「どうしたの、トキヤ」
白々しい音也の問いかけに緩く首を振って答える。
今朝からずっと音也の事を考え続けたせいで思考能力が鈍って使い物にならない。
それを自覚していないトキヤは胸板で柔らかく動く音也の手に翻弄されていた。
「音也…ッ」
気になるのは音也の手のひらでは無く、確かめるべき事を置き去りにしている事。
自分を此処へ連れ去って熱を触れ合わせている動機。
音也で満たされたトキヤをさらって、誰も居ない裏庭で吐息を混ぜている。
それに心が弾んでいる理由なんて明白だった。
はっきり言葉にする勇気がトキヤには少し足りなかっただけで。
「好きだよトキヤ」
「あぅッ!ぉ、おと、んむッ」
すっかり硬く勃ちあがった乳首を捻るように摘みながら、音也が言う。
トキヤの言葉は突然振ってきた唇で吸い取られて消えた。
「お、音、音也っ!?」
触れ合わせるだけですぐに離れた唇がわなわなと震える。
怒りでは無い感情がぐちゃぐちゃと心の中で渦巻いて上手く言葉を紡げない。
その唇を、音也の指がなぞっていく。少しかさつき始めている皮膚が指の腹に引っかかった。
「トキヤも唇荒れてる」
くすりと笑った音也が制服のポケットからリップクリームを取り出した。
ぼんやりと挙動を目で追っているトキヤの唇に硬いクリームの感触。
何度もぐりぐりと撫で付けられて、余分な油分で唇がべとつく。
「音也、塗りすぎですよ…」
「俺の分も塗ったの…ほら、分けて」
再び唇が押し付けられる。言葉通り、余分なクリームを撫で取るように音也の唇が滑っていく。
リップクリームで味付けされた唇を食べられているようだ。
下唇を挟むように食まれて、少し奥の濡れた粘膜が当たる。
恋人同士がするような深いキスみたいだ、とトキヤが羞恥に身を引こうとする。
しかし音也はそれを許さず、顔の角度を変えてぴったりと唇を合わせそこから舌を差し込んだ。
クリームに包まれている皮膚は吸い付くように張り付いて離れない。
「んっ…んぁ…」
溢れた唾液でそのクリームが流れ落ちて、強引に音也のペースに巻き込まれていく。
冷たい風が吹いて枯葉がカサカサと飛ばされていく中、二人の周りだけが温い空気に包まれていた。
熱い口内から吐き出された空気が白く染まって空気に溶ける。
「トキヤ…」
呟かれた声は舌よりも手のひらよりも熱くトキヤに染みこんだ。
このまま、溶け合ってしまいたい。
そう思って目を閉じた矢先に唇が離れていった。湿った唇が温度差でやけに冷たく感じる。
ぺろりと舌で唇をなぞって、音也の唾液を拭い取った。
「ねぇ、返事聞かせてよ…」
唇が離れても音也との距離はそう変わらない。一度冷えた唇に音也の熱い吐息が吹きかかった。
暴れまわっていた心臓はようやく落ち着いていつものリズムを刻んでいる。
「ねぇ」
縋るような音也の瞳に心が締め付けられる。
わざわざ自問自答するまでもなく、トキヤも音也の事を同じように想っていた。
そして答えを出すわけにいかない理由も音也は分かっているはずだ。
唇が触れる前にシャイニング早乙女の邪魔が入らなかったのはただの偶然。
そうなら良いが、どこかで彼が見ていて試されているのだとしたら。
「音也」
「…うん、分かってるよ」
トキヤの言わんとしている事を察した音也がうな垂れる。
左胸に当てられていたままだった手が、一瞬躊躇ってから離れていった。
乱れた制服を整えながら、トキヤは内ポケットへ仕舞っているリップクリームへ手を伸ばす。
冬の風に晒されて潤いを奪われ始めた唇に、いつもより厚く塗っていく。
ふと顔をあげた音也と目が合って、言葉を投げかけられる前に唇を塞いだ。
「…また、こうしてリップクリームを分け合いましょう」
「トキヤ」
「それでは駄目ですか?」
ぱちぱちと目を瞬かせた音也が少しの間を開けてぱっと微笑む。
その笑顔に引き寄せられるようにもう一度唇を合わせた。



「…で、色々舞い上がってたイッチーは校舎から丸見えの位置に居たとは気付かなかった、と」
「自分の至らなさは重々承知していますから放って置いてください…」
「ま、結果オーライだと思うけどね」
肩を竦めて他人事のように楽しそうに笑うレンを睨みつけて、溜息を深く一つ。
入ってすぐの位置でひと悶着起こしていたトキヤたちの姿は校舎内外を行きかう生徒たちによって
しっかりと見られていた。
更に豪華な尾びれを付けて泳ぎ出すかと思った噂は逆に収束に向かった。
時折、同情した目の生徒に励ましを受けたり、目が合うと顔を赤くして逃げられたり。
寮の床を突き破って登場したシャイニング早乙女にキス以上に進んだら退学デースと忠告を受けたり。
何故かゆるゆるとこの現状を認められてしまっていた。
「良いじゃないか、唇も心も潤ってるんだろ?イッキのおかげで」
慣れた様子でウィンクを寄越すレンをもう一度きつく睨みつけて、トキヤは溜息の代わりに笑みを零した。
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ツイッタ診断メーカー「エロ新刊つくったー」で拉致→乳首を弄る→SEX→そして伝説へ… みたいなのが出たので^^エロは必要無い流れだったので削りました