恋の足音 since 2011.11.05


二人で使用してる寮の部屋、その丁度中心に置かれたテーブル。
眼前にずらりと並べられた品の数々に音也はごくりと喉を鳴らした。
体に悪そうな着色料がたっぷり使われていそうな液体が入っている小瓶。
その色に負けないくらい毒々しい色を使われている商品名。
えろえろマジック1000%という何の捻りも無いロゴが小瓶を飾っている。
その奥に、頬杖を付いてにこにこと微笑んでいるトキヤ。

「ねぇ、一応聞くけどこれって…」
「媚薬ですよ」
「ああそう…」

想像と寸分違わないトキヤの返答に、がくりと肩を落とす。
朝から妙にトキヤの機嫌が良いからおかしいとは思っていた。
今日は用事が無いので時間が好きに使えます、と喜んでいたのはこういう事だったのか。
トキヤの性に対する異常なアグレッシヴさを身を持って知ってはいたが、
健全な生活を送って来た音也に取っては許容量がそろそろ限界を迎えそうだった。
迎えそうだったのに。
「あと、これも・・・」
そう言って恥らいながらおずおずとトキヤが差し出したものを見て、音也の脳内で何かが弾けた。
普通に生きていればまず現物を手にする事は無いだろう、小さなその物体。
浣腸だ。べったべたのイチジク型浣腸。
この場合、注射器型の本格的な浣腸グッズを持ち出されなかっただけ幸いと思うべきなのか。
「…トキヤ、こういうのもしたいの」
音也が必死の思いで搾り出した声は地を這うような低さだった。
トキヤは臆する事も無くええ、と頷いて身を乗り出す。
「実は私、朝から一度もトイレに行って無いんです…正確には、寝る前にしてから一度も」
うっとりと囁くように言ったトキヤの吐息が音也の鼻先をくすぐる。
道具を用意しながら脳内で予行練習でもしたのだろう、息が熱い。
それに押されるように音也の中にも嗜虐的な感情がぐらぐらと煮立ち始めた。

「…ねぇ、もし漏らしたら誰が掃除するの」
「あらかじめ大人用のオムツを着用していますので、問題ありません」
ふふん、と偉そうにふんぞり返ったトキヤを無視して音也が椅子から立ち上がる。
背後に回って確かめるようにトキヤの尻の辺りを撫でると確かにごわごわと硬い感触。
ちらりとトキヤを見上げると、その後を期待してかもじもじと腰を捩って頬を染めていた。
「媚薬は?どれくらい飲めばいいの」
「まあ数滴程度でしょうね」
「うっかり飲みすぎちゃったら?」
「あくまでおふさげアイテムですからね、健康を害する程では」
そわそわし始めたトキヤの体を避けて、テーブルの上に置かれたままの小瓶を手に取る。
使用上の注意、飲み物などに数滴混ぜましょう。使いすぎは禁物です。
蓋を開けて匂いを嗅ぐと、うさんくさい苺の匂いがツンと漂って音也の鼻を刺した。
「トキヤ」
無言で様子を伺っているトキヤの手を取って、小瓶を握らせる。
音也が何を望んでいるのか聡明なトキヤには分かっているはずなのに、押し黙って次を待つ。
「全部飲んで」
「…どうなっても知りませんよ」
音也の無理なお願いを咎めるような振りをしたトキヤの瞳がどろりと濁る。
小瓶に口を付ける前に堪えきれないように唇を舐めたのを、音也はあえて指摘しなかった。
大した量も無い液体はほんの数秒でトキヤの喉を滑り落ちていく。
「効くまでには時間かかるだろうけど…体中に薬回ったらどうなるんだろうね?」
「……………」
「指でなぞったり、息を吹きかけるだけでも気持ちよくなれたりするのかな」
「どう、なんでしょう…」
畳み掛けるように問いかけるに従って、トキヤの目の焦点がぶれていく。
音也が言う通りになった自分を想像して期待を膨らませているのだろう。
どこまで妄想が進んでいるのか、生唾を飲み込んで肩を細かく震わせている。
お遊び程度の効能しか無い薬なら、プラシーボ効果を狙って熱を煽れば良いだけだ。
「トキヤ、テーブルに手ついてお尻突き出して」
忘れ去られていたイチジク浣腸を手に、にっこり笑う。
その通りに体を捻りながら、期待が滲んだ視線が音也の指先と瞳を行き来する。
音也はトキヤのズボンと、その下のオムツを一遍に掴んで引き摺り下ろした。
急に外気に晒された白く丸い肌がふる、と小さく震える。
「ゆっくり息吐いてね」
きつく閉じられたままの窄まりに浣腸の細い口をつぷりと差し込む。
間髪いれずに薬液を注入すると、その冷たさにトキヤの内股がぶるりと震えた。
手ごたえが感じられないが、入れ物はしっかり凹んでいるしこれで良いのだろうか。
漏れないように浣腸を抜きながら素早く指の腹で穴を塞ぎ、ついでにぐにぐにと揉んでみる。

「音也、刺激しないでくださ、い…」
「はいはい」
気の早いトキヤの腸がぐるぐると不穏な音を立て始めたのを無視して、オムツとズボンをずり上げる。
「じゃあ、出かけようか」
音也が取ったトキヤの手はすでにじっとりと汗ばんでいた。
耐えるようにぎゅっと握る力を込めたトキヤに余裕は無いようで、短く息を吐いて必死に迫る波を抑えているようだ。
効果が出るのが速すぎる。と思ったが、昨夜から一度も用を足していないと言っていたのを思い出して納得した。
「トキヤ、苦しそうだね。大丈夫?」
「ひぃっ…」
トキヤがどういう状態か良く理解した上で、音也はその細い腰に腕を回した。
肌寒くなってきた初秋に着るには薄手のシャツの上から、体のラインを確かめるように。
指先で舐めるように擦るとその後を追うように肌が粟立つのが手に取るように分かった。
「ああ乳首立っちゃってるね。寒い?」
「い、いいえっ…」
「じゃあ何で立ってるの?シャツ着てるのにはっきり形分かるよ」
「ぁんっ!」
指先を先端の丸みにぴたりと合わせただけで、上擦った甘ったるい声があがる。
更なる刺激を求めて硬くなり始めた突起を玩具のように捏ねながら、音也は満足そうに笑った。
トキヤに振り回されて精根尽き果てるまで搾り取られるより、自分が主導権を握ってしまえば楽しめる。
普通の人間ならたどり着く前に諦めてしまう位置にまで音也は上り詰めてしまっていた。

「コート着て街に出ようか、お尻が少し隠れるくらいのね」
「は、はひ…」
ふらふらとクローゼットに向かったトキヤがコートを羽織ったところで、
くるりと体を強引に自分へと向かせる。
「前は閉めちゃ駄目だからね」
「え…?」
「トキヤの乳首がシャツを押し上げてるとこ、皆に見てもらおう」
「・・・ッ!」
自分の声が酷く冷たくなっている事も、倒錯的な興奮で熱を帯びている事も音也は自覚していた。
それがトキヤの体の奥に火を付ける事も。
有無を言わさぬ高圧的な態度で接すると、トキヤは身悶えて喜ぶ。
その証拠に、トキヤがごくりと生唾を飲み込んだ。処理し切れなかった唾液が唇の端にぷくりと浮き上がる。
滲んだ粒を指先で拭い取り、舌でべろりと舐め取る。
トキヤの視線が痛い程注がれているのが目を離していても分かった。
ちゅっと音を立ててその指を吸うと、トキヤがはぁっ、と息を漏らした。
「んーこのままじゃ隠れちゃうね」
「あ、やだ、や…っ」
コートに巻かれた布製のベルトを背中で調整し、突起に丁度擦れるかどうかの位置に襟が来るようにする。
これで歩く度に薬で更に敏感になった乳首をシャツごと擦られるようになった。
トキヤは口だけでいやいやと言ってるが、音也の手を止めるような事はしない。
それどころか、胸を突き出して柔らかいシャツの感触と硬いコートの感触を楽しむように身を捩じらせている。
「自分で擦り付けちゃ駄目だよ」
「そんな、事…っ」
「もー…ほら、行こ」
ぐいっとトキヤの手を引いて音也が歩き出す。
その拍子に強くコートの襟が当たったのか、背後でトキヤが甲高い声を上げた。
あえてそれに反応は示さずに、廊下に誰も居ない事を確認して素早く部屋を出る。
いつまでも手を繋いでいるわけにはいかないので、談話室を通りかかる前にすっとトキヤから体を離す。
歩む速度を緩めない音也の数歩後ろで、トキヤが小さく声を漏らす。残念そうな色が濃く出た声。
俺が求めてるのはこういう可愛さなんだけどな、と音也はこっそり溜息を吐く。
マニアックなトキヤの性癖に付き合うのもそれはそれで楽しいけど、
時折こういう青春っぽいやり取りに憧れる。だからってトキヤと別れるなんて事は無いけど。
完璧主義者で人に弱味を見せるのを嫌っているトキヤが、自分には恥ずかしい姿もはしたない願望も全て曝け出してる。
「それで舞い上がって何でも許しちゃう俺って馬鹿かなあ」
「、何ですか…?」
「なんでもなーい」
自分の体内で荒れ狂っている熱を押さえ込むので精一杯のトキヤは音也の言葉は聞いていないようだった。
日頃の禁欲的な雰囲気など弾け飛んで、性の匂いしか発していないトキヤ。
それに中てられてむらむらしちゃう自分はやっぱり馬鹿だな、と音也はもう一度溜息を吐く。
「…音也?」
「どこにしよっか、人がたくさん居るところが良いよね」
「え、あの…………はい」
駅前通りまでバスで行って、それから商店街が広がっている区画までゆっくり歩いていこう。
散々言葉と手で煽ったおかげでトキヤはすっかりとろけ切って、音也が溜息を吐いた事など気にしていない。
正門から足を踏み出して、ぴたりとトキヤに寄り添う。
触れた手の甲からじわじわと熱が伝わってくる。指をからめるように握りこんで歩く速度を早める。
バス停まで数分、乗ってから街に出るまで10分弱。
それまで漏らしちゃ駄目だからね、とトキヤに囁いて。
NEXT
ごめん^▽^ちょうたのしい^^▽^^ 次はお漏らし(大)があるから注意〜トキヤ視点に変わります