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問 一十木音也が欲しがっているものを答えよ


答1 来栖翔
「えっ俺から?あー…新しいギターの弦とか?」

答2 神宮寺レン
「イッチーとの熱い夜じゃない?」

答3 聖川真斗
「直接聞いた方が良いと思うが」

答4 四ノ宮那月
「美味しいご飯作ってあげたらどうでしょう〜」


残っている生徒たちのざわめきの中、テストの監督官よろしくトキヤが黒板の前に立っている。
答えるのが当然とばかりに出された問いに、集められた級友たちが思い思いの答えを出す。
悪目立ちしているトキヤたちを気にしながらも、一人二人と教室からざわめきが消えていく。
「ご解答ありがとうございます。」
少しも感謝の気持ちを滲ませずにトキヤが言い放つ。
「まず翔、ギターの弦は先日音也と買い物に行った際に購入済みです」
「ああそう…」
さりげなくノロケられて、がくりと翔の肩が沈む。
そう言えば音也がトキヤとデートしたんだ♪と浮かれてたなあ、と思い出す。
今は自分の記憶力が忌まわしかった。
「次にレン。スキンシップは十分取っていますのでお気遣い無く」
「ふぅん、毎晩イッキに満足させてもらってるんだ」
「はい」
迎撃のつもりで言ったギリギリアウトのセクハラ発言をあっさり受け止められ、
レンがぱちくりと目を瞬かせた。
照れてすら居ないトキヤの顔色を覗き見て、追撃はやめておこうと唇を曖昧に歪める。
「聖川さん、直接聞けないからこうして意見を募っているんです」
「それもそうだな」
どう甘く見ても相談する側の態度では無いトキヤに不快感を示すこともなく、
聖川が素直に頷いた。
それよりも隣で馬鹿にしたように肩を竦めたレンの動きを敏感に察知して
横目で睨みつけている。
「四ノ宮さんの解答が一番有用性がありますね」
「わぁ〜ありがとうございます」
上から目線のトキヤの褒め言葉に、那月がにこにこと嬉しそうに答える。
気付けば教室内から生徒たちは消え、残っているのはトキヤに呼び出された者だけになった。
問題の音也は都合よく学園長室に呼び出されてしばらく戻って来る事は無い。
「では、皆さんありがとうございました」
足早に出て行くトキヤを見送って、翔は重苦しい息を吐き出した。
隣では聖川とレンが仲良く喧嘩を始めて、那月が幸せそうな笑顔でそれを見守っている。
せっかく面倒くさいのが一人去ったのに。
ギリギリと痛み出した胃のあたりを押さえて、翔はそっと逃げる準備をした。



がさがさと耳障りな音を立てるスーパーの袋から肉のパックを取り出して、台所に置く。
事前に買っておいた野菜をチェックして、戸棚から鍋を取り出す。
普段食べられないような豪華な食事にしようか、それとも手の込んだものにしようか。
直前まで散々悩んだメニューは音也の好物であるカレーライスに落ち着いた。
一度作った事はあったが、目をキラキラさせた音也に止める間もなくルーも米も食べ尽くされてから
ほとんど作った事は無かった。
「まぁ、今日くらいは良いでしょう」
手早く野菜を洗って皮を剥き、慣れた手つきで刻んでいく。
トキヤが台所に立っていると物珍しげに背後をうろついてちょっかいを出してくる音也は
まだ帰宅する気配は無い。
熱した鍋に放り込んだバターが溶けていくのを見つめながら、
音也の居ない静かな部屋にほんの少しだけ寂しさを覚えた。


二人分を作るには過剰な大きさの鍋の中で、とろりとしたルーがぐつぐつと音を立てている。
底が焦げ付かないようにゆっくりとかき混ぜながら、味見をしてみようと小皿を取り出す。
「ただいまトキヤ〜」
見透かしたようなタイミングで扉が乱暴に開けられ、弾んだ声が部屋に響く。
「おかえりなさい」
背を向けたままでも、トキヤが作っているものを匂いで察知した音也が
慌てて靴を脱ぎ捨てる様子がひしひしと伝わってくる。
脱いだらちゃんと揃えるように言わなければ、と叱る準備をして振り返った先に
音也の鼻先を見つけて、ぐっと喉が詰まった。
「カレー!?カレーだよね!!この量は俺の分もあるって事だよね!!」
いまにも涎が零れ落ちそうな音也の様子に気圧されて、トキヤはええ、と短く返す。
瞳を輝かせながらカレーの鍋とトキヤを交互に見る音也の口からは今にも
涎が零れ落ちそうだ。
「味見をしようと思っていたんです」
「俺がする!!」
興奮しきった音也の様子に急かされながら、持っていた小皿にルーを一口分だけ取る。
すぐ傍でごくりと生唾を飲み込む音がして、トキヤはふっと堪えきれずに笑った。
「笑わないでよ!俺カレー超好きなの知ってるでしょ〜」
拗ねて子供のように唇を尖らせる様子に更に笑みが深くなる。
音也へ小皿を手渡すと、途端にパッと瞳を輝かせた。
「美味ーい!」
ほんの一口分のカレーはあっという間に音也の口に吸い込まれて消えてしまう。
皿にぺたりと張り付いたルーを音也がそわそわしながら見つめている。
舐めたら怒られるのが分かっているので我慢するのが精一杯という様子だ。
「ちょっと早いですが夕飯にしましょうか」
「!!うん!」
元からそのつもりだったのを隠して、仕方無い、と呆れた態度で提案する。
小躍りしながら食器棚に皿を取りに行った音也にホッと胸を撫で下ろして、
鍋で固まり始めたルーにお玉を差し入れぐるりとかき回す。
背後で、がちゃがちゃとスプーンを出す音が響いている。
「音也、静かに準備なさい」
「はーい♪」
帰ってくる言葉はうきうきと弾んで、トキヤの小言など右から左に抜けているようだ。
炊飯器を開ける音がして、コンロの火を消す。
すぐに来ると思った音也がまだごそごそとやっている気配がする。
「音也、何をして…あっ」
「え、何?」
にこにこと笑う音也の手には、炊き立てご飯がこんもり盛られた白い皿。が、二つ。
片方を当然のように手渡され、断るタイミングを失って湯気を立てる白米を見つめる。
計算ではこの半分以下の量で済ませるつもりでいたのに。
食べられないわけでは無いが、これでは帳尻合わせが大変そうだ。
一度持ったご飯を炊飯器に戻すような行儀の悪い真似もしたくない。
「どしたの?多いなら俺が食べるからさ、早く食べよ!」
「ええ…」
トキヤは元から小食というわけではないし、レンのようにいくら食べても太らない
羨ましい体質でもない。
最初から少ない量にしておけばどうにか自分に言い聞かせて我慢するが
こうして目の前にたくさんあると、どうしても悪魔の囁きが聞こえてきてしまう。
後から調整すれば良い、食べてしまえ、と。
「トキヤ〜いつまでご飯とにらめっこしてるのさ〜」
リビングへと続く扉を開けたままで、音也が焦れたように声をあげる。
これは試練だ、という事にして鍋になみなみと揺れているルーを掬い取る。
我ながら良い出来だ。音也を祝うために作ったメニューだが、案外自分も楽しみにしていたらしい。
野菜もたくさん入ってるし、肉を取らないようにすれば多少はカロリーを減らせる。
ぶつぶつ言い訳をしながら皿の半分を覆うようにルーをかけて踵を返すと、
音也がいそいそとテーブルへと向かった。

「いただきます!」
「いただきます」
ガツガツと勢い良く食べ始めた音也に小言を飛ばしながら、ちまちまとスプーンを口に運ぶ。
ゆっくり食べて満腹中枢をごまかさなければ。
早い時間に夕食を設定してしまったから、後から空腹になって間食の誘惑が生まれる危険は
なるべく避けたい。
悶々と悩みながらも久しぶりのカレーに舌鼓を打っている間に、音也の皿はほとんど
空に近づいている。
「音也、私の分もどうぞ」
思っていたより食べていないが、これ以上食べるとあとは坂を転げるように食欲が湧き上がって
耐え切れなくなってしまいそうだ。
そう思って差し出した皿は音也にあっさり押し返されてしまう。
「せっかくこんなに美味しいんだからさ、全部食べちゃいなよ」
「…いえ、もう十分です」
「嘘つき。トキヤ、凄い幸せそうな顔して食べてたし、今は足り無さそうな顔してる」
少しトーンを落として囁くように言った音也が立ち上がり、トキヤの隣へと椅子ごと移動する。
戸惑うトキヤの口元にたっぷりカレーを乗せて突き出す。
「ほら、あーん」
鼻腔をくすぐるスパイスに押さえ込んだはずの食欲が誘発され、思わず口を開いた。
音也はその瞬間を見逃さずに、ぐっとスプーンを押し込んでくる。
「んっ」
過剰に盛られていたご飯粒とルーが押し出されて、トキヤの唇にべたりと張り付く。
すぐに音也の唇が追いついて、トキヤの唇ごと舐め取っていった。
驚いて口の中のものを噛まずに飲み込んでしまう。
音也は特に何かを言うわけでもなく、またスプーンにカレーを持っている。
「音也、自分で食べますから…」
「だーめ。俺が食べさせるの」
「音也」
「責任取って、運動に付き合うからさ。良いでしょ?」
「ッ」
そう言って微笑む音也の表情にはいつのまにか性の色を帯びていた。
逆らう気力を根こそぎ奪い取っていく甘ったるい視線に絡め取られて、こくりと頷く。

その晩、息をつく暇も無く攻め立てられたトキヤは
意識が無くなる直前にようやく祝いの言葉を口にする事が出来た。
音也誕生日おめでとう!!(^////^) 誕生日なので、トキヤ本位のSEXは廃止しました。どっちにしろSEXはするんだけどね^^