恋の足音 since 2011.11.05 ※TOPへ戻る際は←のサイト名をクリックして下さい。


笹の葉が風に揺れる音だけが響く夜の広場に、闇に紛れるように動く一つの影。
すでに大量の短冊を吊るされて重そうに頭を垂れる笹を見上げて、トキヤはほっと息を吐いた。
頂上付近にはまだ一つも短冊が吊るされていない。
一番上に吊るされた短冊に書かれた願いが叶うという根も葉もない噂を信じたわけではない。
シャイニング早乙女とはこの学園内では一番長い付き合いだ。
彼の耳にこの噂が届いていないはずは無いし、その噂通りに動くはずもない。
誰よりも理解しているトキヤの腕には、手に入る範囲で一番大きい脚立が抱えられていた。
「七夕用のおはやっほーニュースのおかげで助かりましたね」
目の前にそびえ立つ笹ほどではないが、スタジオのセットからはみ出すくらいの笹に短冊をつけるため
用意されていた脚立をそのまま借りることが出来た。
時刻は7月6日の午後11時50分。
日付変更と同時に短冊が選ばれる可能性を考慮してギリギリの時間に吊るす。
トキヤが脚立に上って腰を下ろした時、下で笹が揺れる音がした。

「っ…」
驚いてバランスを崩しそうになったのを何とかこらえ、そっと下を確認する。
グラついた脚立を支えながら、ばつが悪そうに笑う音也が居た。
「な、音也どうして…」
「夜中のうちに目立つ位置に短冊吊るそうと思ったんだけど…同じ事考えてたみたいだね」
背後からの月明かりに照らされて音也の表情がくっきりと分かる。
どうせこちらの表情は逆光で分からないだろう、と少しだけ微笑んだ。
「へへ、俺も嬉しいよ」
「いきなり何ですか」
「え?だってトキヤ今笑ったじゃん。考え方が似てるって嬉しいよね」
そう言い切る音也の瞳は澄み切っていて、トキヤは咄嗟に目を逸らした。
それきり、二人の間に沈黙が降りる。
適当な話題を振ってトキヤとコミュニケーションを取りたがる音也が、今日は黙ったままだ。
さっさと短冊を吊るして寮に戻ろう、と顔を上げた瞬間、脚立ががしゃりと音を立てた。
何事かと視線を向けると、丁度音也が脚立に足をかける所だった。
「お、音也!?」
「動かないでね、落ちると危ないから」
真剣な眼差しに射すくめられて、どうする事も出来なくなる。
一段一段、脚立を揺らさないように細心の注意を払いながら音也が上ってくる。
数cmある身長差が縮まって、追い越されて、トキヤを見下ろせる位置で音也が止まった。

「俺とトキヤの天の川はこの脚立だね」
「…こんな情緒の無い物が?」
捻くれたトキヤの返答に、音也は微かに笑ってそうかな?と零すだけ。
見つめる位置が逆転しただけなのに、年齢まで逆転しているようだ。
妙に音也が大人びて見える。
「七夕って織姫と彦星がイチャつくの見られたく無いから、って雨が多いのに今年は晴れたね」
「会えなかったんじゃないですか」
「もートキヤそんな身も蓋も無い…」
何の変哲も無い普通の会話。取り留めの無い雑談程度の内容なのに、トキヤの胸中には何故か焦りが生まれていた。
音也が徐々に、何処にも逃げられないトキヤとの距離を詰めてきている。
小さく震え始めた唇にふっと息を吹きかけられて、トキヤの体が跳ねた。
「っ音也…!」
「動いちゃ駄目」
強い声で命令されたわけでも無いのに、体は従順に反応する。
音也は満足気に微笑むと、目を閉じずにトキヤの唇をゆっくりと塞いだ。
いきなり覆い尽くさず、端から触れ合わせて、徐々に空気の逃げ道を閉じていく。
薄く開いたまま固まっていた唇の隙間から当然のような顔をして舌が侵入してくる。
からからに乾いた粘膜に音也の舌先が触れただけで、途端に唾液が染み出してきた。
蹂躙されたいみたいだ、とトキヤが恥じるのを知ってか知らずか、
音也の舌は唾液の滑りを借りてぬるりと奥へ入り込んだ。
「ぅんっ、ん…、」
不安定な脚立の上、どうしても緊張が抜けずに硬いままの舌を音也が絡め取る。
後頭部を音也に支えられながら、合わさったままの視線を外すことも出来ずにいた。
明るい月の光に晒されながら、誰に見咎められるかも分からないのに抵抗する気も起きない。
トキヤの瞳が口内を舐められる快楽に濡れ始めたのを見て、ようやく音也は唇を離した。

「トキヤ、願い事って他にはある?」
「他に、ですか…?」
「うん。俺に出来る事なら直接言ってよ、おっさんの力なんかに縋らないでさ」
そこまで言われて、ふと気付く。
音也が大人びているように見えたのは彼が密かに怒っていたからだ。
短冊に書いたことは本心だとしても、まさか本気で願い事として笹に吊るしに来るとは思わなかった。
こんな夜中に、人目を忍んでまで。
だからトキヤが先客として、脚立まで用意していた事に憤っている。
「…私の話を遮らずに最後まで聞けますか?」
「うん」
「本当に?」
「うん…頑張るよ」
はぁ、とわざとらしく溜息が吐かれる。
顎に伝った涎のあとを拭うトキヤは必至にしかめっ面を作ろうとしているが、
内から滲み出している笑みで頬がぴくぴくと歪んでいた。
「とりあえず降りましょう、落ちたら洒落になりません」
冷静を装って音也に声をかけ、脚立からゆっくりと降りていく。
音也が地面に足を着いた音がして安心した瞬間、脚立にしがみついたままだったトキヤの体が
無理矢理引き剥がされた。
奇妙な浮遊感の中、周りの景色がスローモーションに切り替わる。
目の端で脚立がバランスを崩して倒れていくのを見て、衝撃に身構えてぎゅっと目を閉じた。
「………………………………、………?」
いつまで立っても訪れない痛みと音にそっと目を開けると、
申し訳無さそうに眉を下げて笑っている音也の姿。
片手で抱きしめられ、もう片手が倒れかけていた脚立を支えている。
「ごめん、我慢出来なくなっちゃって」
「なっ!おと、んむッ」
言葉尻が音也の唇に吸い込まれる。無理矢理振り向かされたせいで首筋がぴきぴきと引き攣った。
脚立を放り出した音也の両腕に抱きこまれている。
本気で引き剥がそうとすれば出来る力なのに、トキヤの腕は骨も筋肉も消失したように力を失っていた。
それを了承の合図と受け取ったのか、音也がいそいそとトキヤの体を地面に横たえる。

「服が汚れるでしょう!」
「後で一緒に洗濯しよう」
「そういう問題じゃ、ひッ!?」
胸元が突然濡れた感覚に襲われて、トキヤは弾かれたように顔を上げた。
音也が自分が羽織っていたシャツを吸っている。正確には、胸の突起を布地ごと吸い上げていた。
「音也…ッ!」
学園の敷地内、それも屋外で何を考えているんだ。
トキヤが状況を飲み込めずに呆然としている間に、音也の舌は尚も艶かしく動いている。
先ほどのキスですっかり火照った体が快楽に流されそうになるのを必至で気を逸らす。
手ひどく叱り付けて寮に戻ってしまおうか。音也を睨みつけながら、逃げ出す算段をする。
トキヤの視線に気付いた音也はぱちりと一度瞬きをして、少しの間考えるように押し黙った後あっさり身を引いた。
「嫌だった?」
「あ、当たり前でしょう!」
「そっか」
音也の声音からは、特に怒っている様子も残念がっている様子も感じ取れない。
もじもじと下半身を捩って落ち着き無くしているから冷めてしまったわけでもない。
「…まさか短冊に書いた事を実行しているんですか」
「うん!辛いけどトキヤがしたいって言うまで我慢する!」
ビシっと背筋を伸ばして音也が宣言する。少々頭の悪い忠犬を飼った気分だ。
飼い犬に手を噛まれ続けて、嬉しいけど嫌な振りをして叱り続けてたらもう噛まないと言われてしまった。
興奮して飼い主を地面に引きずり倒してしまたった事を反省しているのか。
口の中をべろべろと舐められて燻った情欲はまだ消えていない。
何せ極端から極端に走って、中庸という言葉を知らない音也のことだ。
このまま我慢出来たことを褒めてしまったら、じゃれついてくるのさえやめてしまうかもしれない。
背筋を正したままトキヤの反応を待っている音也が本当に犬のように思えてきて、
トキヤはふっと笑みを漏らした。

「えっ俺なんか変な事言った?」
「いいえ。…貴方が短冊に書いたのは優しくして欲しい、でしたか」
「うん…?」
眉を吊り上げて激昂していたはずのトキヤが、不適に笑う。
戸惑う音也を無視して、今度は彼の体を地面に縫い付けた。
「うぇっ!?」
素っ頓狂な声をあげる音也の首筋に顔を埋めて、舌でべろりと舐め上げる。
わざわざ顔を見なくても、焦っている様子が手に取るように伝わってきた。
股間に手を伸ばすと、すでに張り詰めて苦しそうに布を押し上げている。
手のひらで包み込むように擦ると、音也が膝を閉じようともがいた。
「音也、足を開きなさい。やりづらいでしょう」
「う…え…、はい…」
素直に開かれた足の間、硬くなった膨らみを愛おしそうに撫でる。
まだくすぐったさの方が勝っているのか、音也はむずむずと唇を動かすだけだ。
鎖骨に柔らかく歯を立てながら、ジャージを下着ごと引き下ろす。
7月に入ったとは言え深夜ともなれば風は冷たくなる。
ぶるりと震えた音也の怒張をそっと手で包み込む。
「んぁっ、ちょ、」
根元を輪にした指で擦りながら、先端をぱくりと咥える。
突然熱い粘膜に陰茎を含まれた音也が起き上がるのをもう片方の手で押し返した。
唾液をたっぷり絡ませて吸い上げ、唇と指を駆使して愛撫を繰り返す。
やがて戸惑いが消えた音也が、ゆるゆると腰を動かしてトキヤの口を使い出した。
「トキヤって結構極端だよねぇ」
つい先ほど音也に対して思っていたことを言われる。
不満げに目を細めて音也を見上げると、この場にそぐわない爽やかな笑顔を返された。
「俺もやることが極端だって言われるし、似たもの同志なんだね俺たち」
「…どこがです」
むず痒い気持ちになりながら、ごまかすように深く陰茎を咥える。
すっかり覚えてしまった音也の好きなポイントを重点的に攻めると、先端から溢れる粘液が苦味を増した。
限界が近いのかと口を離そうとすると、音也から頭をがし、と掴まれた。

「口に出しちゃ駄目?」
「………………………」
無言で睨みつけ、拒絶する。
音也はむぅ、と唇を尖らせて拗ねたが、強引に射精してしまうような事はしなかった。
ずるりと引き抜かれた陰茎が、トキヤの眼前でぬらぬらと濡れて光っている。
「今度は俺の番ね」
「…はい」
起き上がった音也に促されるままに、再び地面へ横たえられる。
一度汚れてしまえばもう土や草の露で背中が濡れても同じ事だ。
同じように下着ごとズボンを引き摺り下ろされて、やがてくる甘い衝撃に備えて目を閉じる。
しかし音也の舌が触れたのは期待に震えるトキヤの陰茎では無く、その奥の窄まりだった。
「ひぁっ、ぉ、音也ッ!?」
「ひゃに〜」
「く…くすぐった、あぅッ」
穴の周りを舌でなぞりながら、音也がくすくす笑う気配がする。
揺れた空気がむず痒い快感を引き起こし、たまらくなって腰を捩った。
音也は新しいおもちゃに夢中になる犬のように、周りの薄い皮膚や浅い部分の粘膜を舐めまわしている。
指で中を捏ねられるとは違う、柔らかい熱い粘膜が擦れあう感触。
「や、やめ、…んっ」
中途半端な位置で引っかかったズボンのせいで、音也の姿が確認出来ない。
そのうちに、慣らされて柔らかくなった穴が音也の指によって割り開かれた。
ぽかりと口を開けたそこに、ぬるりと舌が侵入してくる。
「ひぃッや、ぁあっ」
中に差し込まれた舌が器用に動いて、ぐるりと腸壁を舐める。
加減を間違えれば不快になるだろう感覚がざわざわと全身に巡る。
「あ…あ…………ッん」
ぬるりと舌が這い出た感覚がしたと思ったら、次の瞬間には舌よりももっと熱く硬いものが押し付けられた。
覚えのある熱にトキヤはほっとしたように息を吐き出し、腰を擦り付ける。
「あれ、そんなに欲しいの?」
「!いえ、その………」
自分が取った行動の意味に気付いて焦るトキヤに嬉しそうに視線を合わせながら、
音也が中へと滑り込んでくる。
柔らかくなっていたのは穴の周りだけだったようで、トキヤの体は音也の亀頭をくわえ込んだだけで
それ以上の侵入を拒んでしまった。

「あれ…早かったみたいだね、一回抜こうか?」
荒い息の中、音也が少しだけ残念そうに呟く。
いつもなら多少強引に押し入って来てトキヤに怒られているのに。
ふと沸いた疑問の答えはすぐに見つかった。
トキヤが書いた短冊の願い事を律儀に守っているのだ。
少しは挿入する方の身にもなれ、とほぼ毎回言っているのを音也は聞き流してきていた。
トキヤも気恥ずかしさから小言を言っているだけだったので忘れていたが、
音也はその事をしっかりと覚えていたらしい。
気付いた途端に体の奥から湧き上がった歓喜が、トキヤを満たす。
見る見る赤くなっていくトキヤに気付いた音也が、ぎょっと目を丸める。
「えっえっトキヤ?」
「…何でもありませんよ」
きつい物言いをしそうになるのを寸前で止める。
音也が健気にも冗談で書いた願い事を叶えようと頑張っているのだ。
自分も、音也が望むレベルに達せないとしても出来る限り優しくしなければ。
「抜かずに、ゆっくり入れれば大丈夫ですから」
「でも…」
「…欲しいんです、入れてください」
音也の顔を見ていられなくて、途中から顔を逸らしてしまった。
しかしトキヤの心情など真っ赤に染まった耳やひくつく後孔でばれてしまっているだろう。
一度中で跳ねて膨らんだ音也の陰茎はまだ同じ位置で留まったまま。
どうかしたのかとトキヤが力を抜いてちらりと視線を投げた瞬間、一気に奥まで貫かれた。
「かはッあ"、!」
「トキヤ、ごめん、俺っ…」
「んぎッ!あっ、い"ッ」
中を掻き回される事に慣れている中は傷つくことは無かったが、
トキヤの呼吸を無視した動きに喉からはしゃがれた獣じみた声が飛び出す。
ぐぅ、と腰を掴まれて更に奥まで音也が押し入ってきた。
ぴたりと体がくっついて、湿った荒い息が耳元で繰り返される。
「おと、や…!」
時折自分の名前を呼びながら一心不乱に腰を振る音也を、特に怒る気にはならなかった。
音也はトキヤの話をちゃんと聞くようになんてならないし、
トキヤも音也に分かりやすく優しくすることなんて出来ない。
結局こうして求め合う理由になるだけで、二人に取っては大した問題では無かったのだ。
「あ、れ…?」
「んん…何です、音也」
「トキヤ萎えて無いね」
「ッ!!」
反射的に、音也の右頬を引っ叩く。
「調子に乗るんじゃありません!」
「…えへ」
いつもの調子で怒鳴りつけたのに、何故か音也が嬉しそうに笑う。
「やっぱトキヤはその方がいいや」
「ちょっと、どういう意味ですか」
「動くよ」
「あ、ちょっと音也、んぁッ!」
トキヤの言葉など気にせずに音也が再び腰を使い始めた。
乱暴に揺すられながら音也の背中に両腕を回して、自分から腰を擦り付ける。
余裕の出てきた音也に感じる箇所を何度も何度も突かれて、その度に甘ったるい声をあげた。
そうして何度翻弄されたか分からなくなって来た頃、音也が急に腰を動きを速めた。
ああ、中で出される、と身構えるまえにじわりと中で熱が広がる。
「うー……ッあ、」
脈打つ陰茎が引き抜かれていく感覚で、トキヤも勢い良く熱を吐き出す。
中に吐き出された白濁が漏れ出さないように穴を締めながら、息を整える。
音也は自分の服で汚れたトキヤの腹を拭おうとしたようだったが、
ジャージの生地では大した効果は望めない。
激しい動きで捲れ上がっていたとは言え、トキヤが吐き出したものは
ほとんどが自分の服にかかってしまっていた。
「洗濯しないと…」
「お、俺やるよ!」
「おや殊勝な心がけですね。ですが貴方にやらせるとかえって仕事が増えそうなので却下します」
「うっ」
図星を差されて言葉を詰まらせた音也の肩を掴んで、ふらふらと起き上がる。
いつの間にか月は分厚い雲に隠れてしまった。
つい行為に及んでしまったが、本当にシャイニング早乙女がやってきていたら危なかった。
それ以前に同じ事を考えた他の生徒がやってきてもおかしくなかったのに。
「はぁ…もう外ではしませんからね」
「はい…」
「音也、罰として寮まで私をおぶって行きなさい」
「え?うん、勿論!」
ぱっと笑顔になって背を向けた音也にだらりと体を預けた。
背負われて心地よい揺れに身を任せているうちに、強い睡魔に襲われ始める。
誰かにこうして素直に甘えたのは初めてかもしれない。
半分夢の中に意識を沈めながら、音也の首筋に頬を擦り付けてみた。
トキヤを支えていた手の片方がぽんぽん、と太ももの辺りを叩く。
じわりと心に広がった安堵に引っ張られて、トキヤはうっとりと目を閉じた。
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音也の本当の願いはトキヤに対してお兄ちゃんぶりたい、トキヤの本当の願いは音也に甘えたい。そんな二人。