見上げる空に君の影



(ちょっとさぁ、うじうじしすぎじゃないか?)
(過去にばっかり捕らわれてるのって、健全じゃないと思うんだよな)
(想い出はあってもいいし、大事だけど、縛られ過ぎっていうか、 今のことなんも考えてないっていうか、考えられてないっていうか)
(オレがさみしいとか、そういうんじゃないんだけど)

 オレが考えていることをそのまま口にださないというのは、なかなか珍しいケースだ。 単純だ安易だとからかわれたり、苦言を呈されたりすることもしばしばあるくらいで、 言いたいことを言わずに口をつぐんでしまう、というのは一般的に見せている自身のイメージではないことを自覚している。
 正直なのが美徳だとは言わないけど、黙っているより話したことがいい場合が多い、というのが、 とこれまでの人生短いながらも自分なりに経験してきた中で学んだ答えだった。

 だけどどうしても、シンの前では、思ったことのひとつも言えなくなる。
 喉下まで出かかったことばを飲み下して、音にするのはくだらないどうでもいい話題ばかりで、 肝心の、本当にシンに告げたいこととなると、普段の饒舌が嘘のように身を潜める。

 言いたいことがあるなら言ってやればいい。 その後どうするかはシンの問題だし、自分の立ち入る領域じゃない。 それで嫌われるのは悲しいけど、こうやって胸にためている状態もよくないと思う。
 だって、なんか、騙してるみたいで。

 殺風景な部屋の中で、ふたつ並んだベッドの片方に腰かけた自分に縋るように、シンは倒れていた。 この部屋のもうひとりの主は、どこかへ姿を消している。
 自分の腹の辺りにあるシンの頭をゆっくり撫ぜ、オレはそろそろと息を吐いた。 おちおち、ため息だってつけやしないのだ。この状態のシンの前では。
 泣いているのかいないのか、黙ったままオレに身体を預けているシンは、さっきから微動だにしない。
 きっと泣いてはいないんだろう。 そこまで彼は弱くないし、他人に涙を見せられるほど強くもない。

(本当、打たれ弱いって言うかさ。自分の嫌な話題が出ただけで拗ねるし)
(扱いづらいって言うか、付き合い難いっていうか……)

 シンのことは嫌いじゃない。
 ただ全部を認めているとか、全部を好きだとかではなくて、ちょっとコイツどうよ? って思う部分もあって、 でもすごく嫌なんじゃなくて、直してくれたらもっと上手く付き合えるだろうけど、 そのままのシンも嫌いじゃないよってことなんだけど。

 言いたいことを言い合える関係の方がきっと気持ちいい。
 だけどオレはことばを飲み込む。
 シンには、言えない。
 オレよりも身体は大きいはずなのに、小さく縮こまっているシン。
 悲しいことがたくさんあった。つらいことも、嫌なことも。
 オレにはわかりえないこと。
 でもそれは誰だってそうで、オレがシンに対してどうしても一歩引いてしまう理由は他にもある。

 それは、彼がパイロットだという点だ。

 パイロットという人種は、とても危うい。シンに限らず誰もがそうだ。
 常に母艦にいる整備士とは違って、小さな機体で外に戦いに出て行くパイロット達は、 オレたちからはとても純粋で繊細で儚く見える。
 死に臨む構えというか。
 命を背負う覚悟というか。
 とにかくオレなんかとは決定的に違う空気を持っている。

 オレは、パイロットが怖い。
 友人であるシンやルナが怖いというんじゃない。
 自分の整備した機体にミスがあればそれで死んでしまう奴だっているだろうし、 だから仕事に手を抜いたりはしないしできないけど、でもオレは人間だし、 パイロットも人間だし、絶対なんていうことはできないから。
 オレなんかに機体を任せて命を預けて空を飛んでいる彼らが、オレは怖いんだ。

(家族を忘れないのはいいことだよ。戦争を憎むのも、だから二度と間違いを犯したくないってのもわかる)
(でもあんまり過去のひとたちに縛られてるとさ。昔しか目に映ってないみたいだとさ。今が見えないじゃん?)
(お前、今にも死んじゃいそうだよ)