空の砦
「死ぬのを覚悟して死んでいくのと、自分が死ぬなんて全然考えもしないで死ぬのとじゃ全然違うと思わないか?」
覚悟して死んでいける方が幸せだと思うんだ、と、表情をなくして唇を震わせてシンが呟いた。
なにを思い出してシンがそんなことを言うのかわかるから、オレは口をつぐんだままシンのことばにうなずいた。
本当は怒鳴ってやりたい。
「だから覚悟している間に、戦っている間に命を落としたい」だなんて。
死ぬ覚悟をするのと、生きるのをあきらめるのは同じじゃない。
なんて言うとシンは、パイロットじゃないお前にはわからない、なんて可愛くないことを言うのだろう。
彼等パイロットがいつも命懸けでこの艦を守るために出撃していくのを、オレ達整備士は一番近くで見送る。
それがどんなにもどかしく後ろめたい作業なのか、パイロットとして必死に飛び出していくシンは知らないし、知る必要はないんだけど。
いつ死んでも構わないと肝を据えるのと、いつ死んでも仕方ないと自分を見限るのは違う。
結果が同じであってもどうしようもなく違う。
その差は、きっと命を分ける差異だ。
戦場の只中へと駆けていく彼等にぎりぎりの危険が迫ったとき、最後まで堂々と自分を貫くのと、すっぱり潔く諦めてしまうのとでは全然違う。
「それに、俺が死んでももう悲しむ人間はいないしね」
なんて自分勝手な奴。
ここにシンの隣にこうしているオレに向かって多分わざと。
そんなことない、って言ってほしいんだろ。
お安い御用だよ。それでお前が安心できるなら。
シンを支える地面は、あの時の地響きとともにまだ揺れている。
だからその恐怖を振り切るように、空へと飛び出していく。
空の底に鮮明な七色の放物線を描いては見るものを惹きつけ、力強い生命の躍動を見せ付けるくせに、心の奥底ではいつか地に落ちることを無意識に望んでる。
空のどこにも自分の望んだ楽園はなかったと絶望しながら。
死にたくないということばは、何故だろう、死にたいと変化して聞こえるようになる。
死んでしまえばもう、死ぬ心配をしなくてすむからかもしれない。
自分が死ぬことも、大切な誰かが死ぬことも、考えなくてすむ。
だけどわがままな彼は、自分が死んだことを彼が彼の家族を思ってそうしたように嘆いてほしいと言う。
死んだらそれもわからなくなるのに。
根暗・自棄モードのシンにオレが言えることはあまり多くなくて、下手に刺激しないように、これ以上ご機嫌を損ねないように、だけど伝えなくちゃいけないひとことだけを告げるのが精一杯だ。
「生きて帰って来いよ」
空の上で遠くを見ている彼に、地上にいるオレの小さな声は伝わっただろうか。