夕焼けの色に似ている
フェンス越しに夕焼けのグラウンドを見渡す。広いグランドにたった10数人の、少ない声が響いていた。額に汗してスポーツに取り組む青少年の姿は、黒いシルエットに塗りつぶされていて、
どこかものさびしい光景になる。
毎日毎日、よくやるよなぁ、というのが正直なところだった。ようやく空が白みだした早朝から、ボールが見えなくなる日没までという練習スケジュールを聞いたときは、呆れるのを通り越して正気を疑った。
自分にはとてもできない。やる気も端からないくせに、そんなしょーもない感想を持った。
「がんばってるよな」と、普段の軽薄さからは考えられないような穏やかな笑みなんか浮かべた友人が呟くのを耳で拾って、そういえばコイツも昔はそんな無茶をやっていた人種だったんだな、と思い出す。過去の話だった。
ひとつのものにこころを捧げて一心不乱に全身全霊で向かっていった経験のない自分には、ちょっと想像もつかない世界だが、コイツにはわかるのだろう。彼等の気持ちや想い、願い、祈り、そんな類の感傷が。
「梶はともかく、梅ちゃんが手伝ってくれるとは思わなかった」
曖昧な笑みのまま、オレを「応援団」なんて汗臭い団体に誘った男が失礼な発言をする。そう思うなら、声かけるなよ、とは心のうちで、「別に」とだけ返す。
中学時代は運動部だった浜田や梶山に比べれば、オレは帰宅部ひとすじの無気力で怠惰な人間だ。たった1年つきあっただけで彼等にもそれは伝わったらしく、無気力・無感動・無関心、何事に対してもオレのスタイルはそんなものだと思われていたし、実際にそうだった。
手伝ってくれないか、と、尋ねられて、いや依頼されて、……懇願されて、首肯したのはその場のノリが大きかった。いつも唐突で読めない行動をとる浜田の勢いに押されたとか、オレよりはいくらか情にほだされ易く浜田の提案に深く考えずに頷いた梶山につられたとか、理由を作ろうと思えばいくらでもつくれる。
だけど。
「オレ、今まで、なんもやったことなかったからさぁ、たまにはなんかしてみようかなーって……」
ぽつりとこぼれる本音らしきもの。でも喉が震えるたび、音になるたび、色褪せて嘘っぽくなっていく。
そんなじゃない。もっと、別の、なんていうか、こう込み上げるものが。
身体の奥か、こころの底か、脳みその中かもしれない。オレのどこかが、なにかが、「それ」を手に入れたいと望んだ。
一生懸命打ち込めるもの。他人に胸を張って言えること。いつまでも忘れられない記憶。そしてそれらを誰かと、友と、仲間と、共有する悦び。
ばからしい。興味ない。くだらない。意味がない。
ずっと遠ざけてきたものだった。ずっと無視してきたものだった。こんな機会でもなければこれからも縁がなかったはずだった。ほんのひとすじもたらされたチャンスを、これが最後の機会だとでもいうように、掴み取ってしまった。
「梅ちゃんでもそんなこと考えるんだ」
オレのことばからは本心の奥の奥など覗けるはずもないだろうが、相変わらずへらへら笑うその顔に青臭さを指摘されたような気まずさと恥ずかしさを覚えて、ぷいと顔を逸らした。
「うっせーよ」
後悔ならとうにしている。こんなこと、その場の思いつきで引き受けるんじゃなかった。自分のスタンスを崩してまでやることだったのか。柄じゃない。戸惑う。気後れする。
それでも続けてきたのにも、理由はきっとちゃんとあって。
「ごめん。ありがとう、ふたりとも」
夕焼けに染められた男の手がオレと、梶山の肩に乗る。ずしりと体重が乗り、二人の間で長身を折り曲げ、地面と向き合う男を視線だけで見下ろす。
諦めることを知っているヤツだった。大切なものを失う痛みを知って、それを忘れるやり方も覚えて、今はオレたちの隣で笑っている。
去年は同級生だったのに、今年は後輩になったバカが、オレの知らないことを知っている。それが悔しくて、歯がゆくて、気味が悪くて、それが嫌で頷いたのかもしれない。無関心を装うのは負けず嫌いの予防線だ。
「「別に」」
図らずも声を合わせて答えた友人はどう考えているのか。それは重大なようで些細で取るに足りない問題だった。