永久機関 -Perpetual motion-



燃える、炎のような夕暮れの中、赤く染まった世界に、溶けいるようにゆらゆらと、影が伸びる。

眩しさから目を細めて海を眺めた。
静かな海面が、やはり夕焼けに染められている。
ざわざわと波の音、遠く海鳥の声、そして前を歩くふたつの影が砂を踏む音。

夕陽を見ると人間は死にたいと思うように出来ているらしい。
そしてそれは本当なのだろうとなんとなく思う。
今目の前に広がっているのがまさに、死にたいような光景だ。

唐突に服の下に隠した鉄の塊の、固く冷たい感触を思い出す。
真っ赤に染められた世界に、銃声が良く似合う気がした。
けれどオレは引鉄を引かない。

「オルガ、なにやってんだよ」

遅せぇよ、と先を行く人影が振り向いて言った。
数歩だけ遅れて歩いていたはずなのに、いつのまにかふたりとの距離は大分開いている。
足を止めたつもりはなかったけれど、無意識に立ち止まっていたようだ。
オレが再び歩き出すのを見て、落日に染められるまでもなく赤い髪の毛が揺れる。

視線を落とした砂浜に、ふたり分の足跡が仲良く並んで続いていたが、
自分を含めて奴等はそんなに穏やかな関係ではない。
今もくだらない小競り合いをしている。
足跡は口を聞かないから、仲良くしているように見えるだけだ。

「……腹減った」
「お前がのろのろしてっから遅くなったんだろ」
「……つかれた」
「黙って歩けよー。もうすぐなんだから」
「……腹減った」
「あーもううっぜーなぁ」

不毛な言い争いを続けながら同じ目的地を目指すふたつの影。
砂浜に並んだ二組の足跡。
すべてが赤く染まっている。

「オルガ、早くしろよ」

苛々とクロトがまた振り向いた。
つられるようにしてシャニも肩越しに視線を投げてくる。
「ああ」と頷いて足を速め、だけどふたりに追いつかない程度に距離を取る。

不自然な光景。
あるはずのない、静か過ぎる場面。
血と硝煙とあの薬の匂いしかないオレたちの日常は何処にいってしまったのか。
ここでいったいなにをしているのか、どこに向かっているのか。

早くと急かされるままに足を動かしている。
どこかにたどり着くために。
それはいったいどこなのか、なんのためなのか、わからないまま。

ただひたすら回り続けるなにかの歯車のように。