透徹な、あまりに透徹な


大兄貴のことは好きだと思う。
強いし、可愛いし、ちょっとやそっとじゃ壊れないところがいい。
だけど、彼のあの目にさらされるのは苦手だ。

あの冷たい目。
なにをしていても全然楽しそうじゃない。
例えば気に入ったオトコを殺すのが楽しくて仕方ないおれなんかとは種類が違う。
おれたちはみんな多かれ少なかれ、ヒトゴロシが好きな同類なんだと思っていたけど、そうじゃなかった。

彼のあの温度のない眼。
ずっと一緒にいたはずのおれでも、背筋が凍る。
戦場であの目に射すくめられるのだけはゴメンだ。


キレイな色をしていると思った。
濃い藍を秘めた漆黒は、陽に透かしたらきっと宝石のように輝くのだろう。
抉り出して手のひらで転がしてみたいとか、カタチだけなら自分一流の嗜虐性を煽る彼。

それなのに。
あの冷えた瞳に見つめられるのは、好きではなかった。

あの、冷たい目。
顔も身体も好みなのに、殺したいほど好きになれなかったのは、あの冷えた目のせい。

もっともそれはおれにとって幸運だった。
おれが本当に大兄貴を好きになってしまったら、殺したくて仕方がなくなる。
仲間になんてなれるはずない。
敵わないとわかっていても切りつけて、返り討ちにされるのが関の山。
思い通りにならない殺せない愛してはいけない男。


彼のことを好きだと思わないことはない。
強くて、可愛くて、アコガレ、てはいなかったけど、頭目としておれたちの上に立つものとして認めていた。

だけど、彼の目だけは、好きになれなかった。
なんの温かみもない目。
冷たいまなざし。
そんな目しか出来ない大兄貴が、可哀想とも哀れとも気の毒とも違うんだけど、見詰めていると居心地の悪い思いがして、好きじゃなかった。

あの、冷たい目。
目に映るものを生命として認識していないのだろう、と煉骨の兄貴は言ったが、それは違うとおれは思う。
どちらかというと作り物めいて見えたのは大兄貴の方だから。
無機質な鏡面が、生命の妙を殺ぎ落とした硬い現実しか映さないのと同じだ。
おれは鏡をのぞくのは好きだが、彼の硬質な瞳に捕らえられるのは、ぞっとしない。


冷たい土人形になってからも、おれは大兄貴の目が苦手だった。
生きているころには持っていた温もりが消え失せ、同じ無機質な存在になったけど、やっぱり彼のことを特別好きにはなれなかった。

それが変わらない透徹なまなざしのせいなのか、変わったおれの身体のせいなのかは、わからなかった。