このままこうしていられたらいいと思った。
このまま、ただひとつのことで悲しんでいられたら。
このままほかにすることも考えることもなくいられたら。
このまま、悲しみにくれたまま。
砂を数えるもの
背後からよく知っている気配が近づいてくる。
だんだん頭が冷えていくのがわかった。
「無事だったのか、煉骨」
いつだって感傷的になりきれないのが自分だ。
いざとなればどうしても、現実に呼び戻される。
もう片隅にも、悲しみにくれていた自分はいない。
形ばかりは残滓が澱んだままで、だけど心はまっさらに冷たい静寂を呼び戻していた。
この切り替えの早さは大きな武器だ。
いつまでも引きずらずに済むのは。
だけどとどめておきたい記憶すら、この手を光の速さですり抜けていく。
残ったものはなにも、なにも、ない。
ただそこにいのちのともし火だけが。
孤独に揺れている。
悲しみにひたることすらおれにはできない。
そうしてやることすら。
本当に悲しいのかすら、わからない。
「頭のいいやつはバカだなぁ」
傷つけたばかりの傷口からほとばしる鮮烈な赤は、煮え湯のように熱い。
外気に冷えてすぐに失われていく熱に、生命のばかばかしいまでのはかなさを覚えた。
あとは土に還るだけなのだ。
花のように草木のように。
すべてと混ざり合って土塊(つちくれ)となる。
流離う魂も残留する思念もなく、なにかわからないものに同化して。
ひとつの個体として存在したすべてが失われる。
たったそれだけなのだ。
他には、なにもない。
そんなことは自分たちがよく知っている。
塵芥に帰すことなど恐れない。
ただそれだけのことなのだから。
「おれは仲間を裏切ったりしねーもん」
もう、裏切る仲間もいねーけどな。
こうなることはわかっていた。
最後に残されるのが自分であることは。
1度目の死の時にも、同じ予感があった。
どうしてまた繰り返してしまったのだろう。
どうしてまた、同じ生き方しか、できなかった。
そのことに後悔はない。
ただほんの少し、悲しいだけ。
胸の感傷を形にしようとし。
そうできずに消えた悲しみを、遠く思った。
「さみしい…。とうとうおれひとりになっちまった」
悲しいんじゃない。
土塊に還った仲間たちの、なにを悲しむ必要があろうか?
ただ土に還っただけなのに。
おれは、さみしいんだ。
だれひとりいなくなってたこの現状が。
ああやはり。
おれはおれ以外の誰をも思ってはいなかった。
誰かのために悲しみにくれたりはできないんだ。
そんなこと。
よく知っていたはずなのに。
生き返ってから忘れていた。
――ちがう。生き返ったんじゃない。
そんなふうに言っていたのは誰だ?
生き返ったんじゃないのなら、今ここにいるおれは、なんだ。
たったひとり、まだ土塊じゃないおれは。
見上げた空はどこもかしこも白い靄に包まれて。
ほしい答えは得られない。
痛いほどの静寂に孤独をつきつけられるだけ。
ひとりになったから、なんだというんだ。
七人隊を作る前だってひとりだった。
ひとりでもおれはやっていける。
けど。
「七人隊じゃないおれ」のことを考えると。
少し、悲しい。
このままこうしていられたらいいと思った。
このまま、「七人隊のおれ」のまま。
きっとすぐに忘れ去ってしまうだろう。
おれはおれのことに忙しくて、おれじゃない奴等のことなんてすぐに忘れて。
きっとまたおれのために生きはじめる。
この途方もない欲望のために。
だから「七人隊のおれ」として最後の責任を果たすまでの、ほんの僅かな間だけは。
このまま、悲しみにくれたまま。