聞こえる。
どくどくと脈打つ心臓の音。
おれの心臓に、再び鼓動が戻った。
なのになんでこいつは。
聞こえないと言うのだろう。
月に暴かれるもの
「だって、心の臓、音しねーじゃん」
手に触れた草を乱暴にむしりながら、蛇骨は表情ひとつ変えずに言った。
七人隊の中では、奴は感情表現が豊かな方だが、時々そういう顔を見る。
まるで凍りついたみたいになんの変化も起こさない無表情。
普段はうるさいだけの蛇骨だが、能面みたいなそのツラが、一番奴らしい。
「ばか。心の臓が動いてなかったら、血も巡らねーんだぞ」
睡骨の中にある記憶は、それがひとの世の真理であることを知っている。
だから傷口から流れる血を見たとき、驚いたのと同時にほっと安堵もした。
ああ、本当に、生き返ったのだと。
「あ? 知るかんなこと」
やれやれ、と肩をすくめる。
たしかにおれたちは死んでいる。
犬や狼が言うように、死人の匂いもするのだろう。
だが、死体じゃない。
瞳孔も動いているし息もあるし、心臓だって動いている。
生きていたころとなにも変わらない身体だ。
それともおまえは違うのか?
「……んだよ」
伸ばした手を奴の左胸に当てれば、確かに聞こえる鼓動の音。
人間の身体を動かす動力炉。
一度、おれたちが失くしたもの。
「なんでぇ、ちゃんと動いてんじゃねーか」
大方、心の臓の位置でも間違えて聞こえなかったのだろう。
心底莫迦にした目で見下してやると、眉間に皺を寄せた蛇骨が自分の胸に手を当てて、唇を尖らせる。
「あ? ねぇよ。聞こえねェもん」
睡骨がそうしたのと同じ、左胸を鷲掴むように指を立てて。
なぜだ?
困惑する睡骨の胸の上を、細い、冷たい指先が辿った。
「ほら、お前だって」
・・・・・・・・・・・・。
動いてるだろ?
無駄に妖しく微笑む唇が、おれの問いを否定した。
おれの感覚がおかしいのか、こいつの感覚がおかしいのか。
それともだれもおかしくないのか、だれもがおかしいのか。
そのすべてなのか。
あってもなくても、そんなもんはただの飾りだと。
おれたちはやはり動く死体にすぎないのだと。
そういうことなのか。
どうでもいいことだけれど。
少しだけ胸に重い。