アンダーグラウンド・レイルロード
私は心根の貧しい人間です。
いくら私がこころが弱くてもそれくらいの自覚はあるのです。
自分の非を認めるのはたやすいことでした。
己を卑小な人間だとおとしめることが、私を楽にしてくれました。
私はダメな人間だから、私は卑しい人間だからと、あらゆるものから逃げていたのです。
何があろうと私を見捨てずにいてくれた家族から私は逃げました。
真剣に私のことを思ってくれた教え子から、私は逃げました。
私は心配などしてもらえる価値のある人間ではありません。
そう言って、すべてを遠ざけたのです。
裏切られるのが恐かった。
失うのが恐かった。
他人は私を絶望させる。
だから希望など持ちたくない。
私のような人間にはすべてが重すぎたのです。
***
少しでもあのひとのこころの重荷を除いてあげたい。
それがボクの望みだった。
執着や信頼が彼の負担になるのはわかっていた。
だけどそれを乗り越えて支えて行きたいと思っていた。
やり直しがきくと信じられるほどにボクは幼く、また変革を恐れる彼は年を取りすぎていた。
上手く行くはずがなかった。
先に耐えられなくなったのは彼の方で、壊れやすいひとだと知っていたのに、彼にすべてを捨て去る決意をさせてしまったのは、ボクの、エゴだ。
つつましく穏やかだった彼の余生(余生。まだこれからであろう人生を彼は余生と言った。彼の中ではボクとの時間などすでに終わった舞台の出来事だった)に波風を立たせてしまった。
生きていてほしかった。
はじめはそれだけだった。
ボクの目に見えるところで、ボクの手の届くところで、条件が増えるたび彼は苦しそうにしていたのに、欲望に際限はなくて。
ボクは自分がこれほどに傲慢で残酷で自分勝手な人間だなんて、彼に逢うまで知らなかった。
逃げ出した彼を責めることなどボクにはできない。
それをするにはボクでは役不足だと思い知った。
真綿につつむような曖昧さで彼を留め置こうとし、出来なかったボクはせめて、気付かぬうちにそのたおやかな首を締めあげてしまおうとさえした。
自分で選ぶ死にこだわりを持つ彼が嫌がるのは当然だった。
先生、今、どこにいるの。