涙を流しながら、彼女の顔は恐怖に染まっていた。
由比はそれが分かっていても、行為をやめようとは思わなかった。
怖がらせたいのではない
オレは、彼女に愛されたい
愛されたいのに、無理矢理こんなことをする自分は矛盾に満ちている
そう思いながら由比は、瞳を曇らせ、百合絵の唇に自分の唇を重ねた。
せめて気持ちを込めて、貴女が好きだと・・・
「・・・ん、・・・っ」
ゆっくりと自分の舌を彼女の中に滑り込ませて、彼女の舌を絡め取った。
驚いて逃げようとするのを許さず、しかし、出来る限り優しく思いを込めて。
「・・・・・・っ・・・」
しばらくの間キスに没頭していると、初めのうちは逃れようと儚い抵抗をしていた百合絵の力が段々と弱まり、気のせいか、少しだけ身を委ねてきたように思えた。
惜しむように唇を離し、彼女の瞳を見つめる。
酸素不足ゆえか、とろんとした目でぼうっとしたまま由比を見つめている。
「可愛い・・・誰かのものになるのなんて考えられない。百合絵の全てがほしい・・・・・・」
体も心も全て絡め取られそうになるような由比の瞳。
けれど、その瞳の中に見える、限りなく優しい光。
アンバランスな彼の心。
百合絵には、恋という気持ちがわからない。
わからないのに、今、彼に見つめられ鼓動が早くなっているのは恐怖からくるものだけではない。
それは、今さっきされたばかりの彼のキスのせいだった。
激しいけれど、優しいキス。
それが、何故か彼の想いの全てのような気がして、そう思うと不思議と受け入れてしまえる自分がいた。
恐怖で叫んだ自分は、一体どこに行ってしまったのだろう・・・
「ねぇ、オレの名前、呼んで・・・」
甘えるような由比の声に、百合絵の鼓動は早まった。
耳元で、熱い吐息を感じて苦しくなる。
どうして?
なぜか、彼に逆らえない・・・・・・
まるで、彼の望みを叶える為の生き物のように。
「・・・・・・・・・・・・ゆ、・・・い・・・・・・由比・・・・・・」
目の前に広がる、由比の幸せそうな微笑み。
そのまま再び彼の顔が近づいて、自然と唇が重なる。
本当に、なぜなのかわからないけれど私は彼を受け入れているのだ。
しばらくして、
由比はキスをやめて顔をあげると、
百合絵を見つめたまま、
「・・・・・・百合絵・・・は、オレで何人目?」
と、ちょっと拗ねたような口調で聞いてきた。
けれど、彼が何を聞いているのかわからなくて、百合絵は首を傾げる事しかできない。
「・・・・・・だから、・・・こういうことするのは・・・・・・」
こういうこと・・・
それは、今この段階で間違えようもなくたった一つの事
何て言うことを聞いてくるんだろうと思ったが、彼が本当に自分とそういうことをするつもりなのだと知り、不思議と胸が熱くなった。
「・・・・・・・・・百合絵、おしえて」
「・・・したこと、ないの・・・・・・だから、私・・・・・・」
そう、
したことなどあるわけがない。
恋という気持ちがわからない。
それは記憶をなくす前もそうだったに違いないと今では思っている。
だから、自分には過去にも現在にも恋人など存在しないのだ。
百合絵は自分が初めてだという事を恥ずかしそうに告げたが、それは由比にとってこの上なく幸福なことだった。
誰にも渡したくない。
それは、過去においても嫉妬してしまうほどのもので。
「したことないって・・・つき合った男は?」
瞳を潤ませながらふるふると首を小さく振る。
まさか、彼女のような女性が今まで誰ともつき合うことなく生きてきたなんて奇跡に近い出来事だった。
「じゃあ、好きだった男は?」
こんな質問にまで、彼女は首を横に振る。
「好きな男もいなかったの?」
「・・・・・・だって・・・」
「じゃあ、百合絵はこれからオレに初恋をするんだ。オレが決めた」
「・・・そんな」
「じゃあ、抵抗しないのはどうして? オレの事がいやじゃないからでしょう? オレの体温も、唇も、手だってこんな風に直接百合絵の胸にさわってる」
「・・・んっ」
「やわらかくて気持ちイイ」
「やぁっん・・・」
胸にキスをされ、蕾を舌で弾かれると、身体が跳ねておまけに自分ものとは思えないような声が口から飛び出した。
ビックリして頬を染め、由比を見ると、彼は嬉しそうに微笑んでいる。
「そんな可愛い声をだすんだ。もっと、百合絵の鳴き声が聞きたい」
そう言うと、優しく胸を揉みほぐし、頂を口に含み舌で転がしていく。
空いている方の腕は、百合絵の脇腹の辺りを撫で、徐々に下に降りていき、彼女のスカートの中にまで侵入してきた。
先程それをされて恐怖で悲鳴を上げたのに、今は彼の愛撫の一つとして、小さな悲鳴をあげる。由比は、百合絵の様子を確認すると、ショーツごしに彼女の中心部へと指を這わせた。
そこは僅かに湿り気を帯びていて、彼女が多少なりとも感じているということがわかる。
由比はその事が嬉しくて、ショーツごしでもわかる彼女の溝を優しく撫でた。何度も、何度も。
「・・・っあぁっ・・・ん・・・っ・・・」
「百合絵、気持ちイイの?」
恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めて、首を横に振り否定するが、その顔を見れば彼女がどう思っているかなんて言葉にする必要がなかった。
「へぇ、気持ちよくないの? じゃあ、直接触って確かめないと」
「・・・・・あっ、やぁっ」
彼女の小さな抵抗は、全く意味をなさなかった。
あっという間にショーツの中に彼の手が入ってくる。
直接触れたそこは、由比の想像以上にやわらかく、そして潤っていた。
溝を何度も往復し、蕾も優しく擦る。
百合絵は、何度も小さな悲鳴をあげ、身体を奮わせた。
やがて、彼女の中にゆっくりと指を差し込むと、少し苦しそうな表情で息を詰まらせる。
だが、それも少しの間の出来事で、すぐに甘い吐息を吐き出し彼の脳髄を刺激する。
「ゆ、い・・・・・・由比っ、私、おかしくなっちゃう・・・っ」
「いいよ、オレの前でだけ、そんな百合絵でいて」
口づけを交わし、その間も百合絵の中を由比が優しく掻き回す。
そこからは、くちゅくちゅという音が聞こだし、それが耳について恥ずかしいのに、彼に与えられる刺激に堪らなくなる。
由比は百合絵のショーツを手早く脱がし、自分のズボンのベルトを外す。
カチャカチャという音が聞こえると、百合絵は少しだけ表情を強張らせた。今から起こることを想像すると、どうしても恐怖が拭えない。
けれど、彼との行為を拒絶するという気持ちには不思議とならなかった。
由比は百合絵を安心させるかのような微笑みを彼女の目の前に広げ、顔中にキスを降らせた後、確認するように何度も唇を重ねた。
入り口に自身をあてがい、少しずつ侵入を試みる。
彼女の中は、思ったよりもずっと狭くて、彼をきつく締め付け、僅かに残された理性を確実に破壊していく。
「由比、由比っ」
「苦しいなら・・・っ、オレの首っ・・・に腕を回して・・・っ・・・」
眉根を寄せて、涙を浮かべ苦しそうな百合絵の表情は、見ていてとても辛かった。
彼は少しでも痛みを和らげようと、百合絵の首筋にキスをしたり、耳元で優しく囁いたりして、彼女の気を紛らわせた。
百合絵は由比の言ったとおりに彼の首にしっかりと抱きついて、小刻みに震えながら、必死で声を押し殺している。
そんな様子が可愛くて仕方がない。
ゆっくりと、ゆっくりと彼女の中に入っていき、やがて何かにつきあたる。
由比はそれが何であるか本能的に理解すると、百合絵をしっかりと抱きしめて、迷うことなく勢い良く腰を進めた。
「んんんっ」
目を見開いたまま涙を流す百合絵の目尻に舌を這わせ、涙を舐め取っていく。
それから、彼女の唇にキスをして、舌を絡めた。
最初は由比のされるがままになっていた彼女も、やがて、たどたどしくではあるが彼に応え始めていく。
由比は、ゆっくりと腰を動かしはじめ、百合絵の様子を窺った。
辛そうに顔をしかめ、痛さのあまり由比の背中に爪をたてている。
何度も突き上げ、苦しそうな彼女を見るたびに耳元で優しく愛の言葉を囁く。
痛いのならば、それで和らぐならば、どんなにオレを傷つけても構わない。
そのかわり百合絵が欲しい───
「百合絵・・・っ、・・・んっ・・・好き・・・だ」
「・・・・・・由比、由比っ・・・・・・っく・・・っ!」
ベッドがぎしぎしと音をたてて揺れている。
その度に苦痛に歪む百合絵の顔。
由比は、初めてのこの行為がどのような段取りで進むものかなど分からないし、彼女の中のあまりの気持ちよさに動きをセーブすることが出来ない。どうしても労ってやることが出来ない。
それでも彼女への告白だけは止むことがなかった。
もっともっと、百合絵を自分のものにしたい。
自分以外には触れさせたくない。
閉じ込めて、心を縛り付けて、何度も何度も彼女の中を掻き回したい。
限界に達する寸前まで、彼の狂気すら感じさせる思考はとまらなかった。
由比を受け入れている部分が、何度も何度も彼を締め付ける。
その度に信じられないほどの快感に支配され、全てが溶けていくようだ。
「・・・百合絵・・・・・・も、・・・ダメだ・・・っ!」
「・・・・・・由比っ、由比っ」
百合絵は彼の動きによってもたらされる苦痛の最中、由比の名前だけをひたすら呼んだ。
名前を呼んだから痛みが引くというわけでもない。
ただ、彼の名前しか思い浮かばなかった。
由比は、その幸福に包まれながら、彼自身をドクン、と大きく脈うたせて欲望を全て吐き出し、もう二度と離さないと言っているかのように彼女の身体を強く強く抱きしめた。
ずっとずっと、彼女とこうなりたいと思っていた。
気分が悪くなって、ここのベッドで寝ている間も、いつ後ろから彼女を抱きしめてしまおうかと考えていた。
抱きしめて、口づけて、メチャクチャにしたかった。
今、これは、現実で、オレは百合絵を・・・
そう考えるだけで、由比は歓喜のあまり唇を震わせ、貪り尽くすようなキスをする。
百合絵は、体中の力が一気に抜けてしまい、放心状態のまま由比のキスを受け止めていた。
彼は、何でそんなに焦るように私を抱いたのだろう?
いつからそういう感情を持ち始めていたのだろうか?
疑問はいくらでもあった。
けれど、一番の疑問は、自分が何故彼を受け入れたのか。
信じられないことだ。
なのに、最終的には彼の全てを許し、求めたではないか。
誰かを、こんな風に求める心・・・
それはずっと自分が出来なかったこと
私は、もしかして・・・・・・・・・?
わからない。
今は、感情が高ぶって一時的にそう思うだけかもしれない。
これは答えではない。
そう思いながら、百合絵は彼のキスを心地いいと思いながら受け止めていた。
第7話へ続く
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