○第1話○ 苦い過去と新しい恋
これまで生きてきた23年で恋をしたのはたった一度
一目惚れっていうのは無いとしても
私、実は恋に落ちるまでの時間は結構早いんじゃないかって思うの
だって、ずっと誰かをどうしようもなく愛したかった
▽ ▽ ▽ ▽
「それではお先に失礼します」
今日は久々に会う友人との再会を楽しみにしていた。だから早々に仕事を切り上げさせてもらって会社を後にした。
大学卒業以来だから一年ぶりの事。
携帯やメールでのやりとりはあったけど、お互い忙しくて会うことはなかったから。
一年とは言え、大学生と社会人とでは大きく違う。どんな風に変わっただろうと思い、久々の再会を心待ちにしながら約束の場所へ向かった。
「まりえ」
待ち合わせ場所にはもう相手が来ていて、彼女、湯河まりえを見つけると、懐かしそうに笑いながら近づいてくる。
「洋介、やだ何スーツなんか着てるの?」
「おいおい、第一声がそれかよ〜〜」
「ごめんごめん、久しぶり、元気そうね」
「当然、なぁスーツ似合わないか?」
「ううん、妙に似合ってる。ただ、私服しか知らないじゃない? ビックリしちゃっただけ」
「お前だってスーツじゃん。ビシッとキマッて秘書ってカンジだよ」
「まぁね〜〜」
「肯定すんなっつーの」
懐かしい。
洋介は幼稚園から高校までは、同じエスカレーター式の学校で一緒だった。
私が大学へはそこの付属に行かないで、別の学校を受験すると決めると、洋介も一緒に受験するって言いだして、結局大学まで同じ。しょっちゅう一緒にいた。
だからこの一年会わずにいたっていうのは、私たちにとっては驚くほど長い時間になる。
「相変わらず、アレか? モテるんだろうな」
「は?」
「お前男友達多かっただろ?」
それを聞いて思わず苦笑する。
「女友達もそれなりにいたわよ。大体モテるって・・・・・・友達は多いかもしれないけど彼氏はあれ以来いないわ」
「うっそ、マジ?」
「そうよ」
そう言ってまりえがそっぽを向くと、洋介は少し考え込んでから、
「・・・おまえ、やっぱまだ引きずってるのか・・・?」
と聞いてきた。
その言葉に一瞬表情を強張らせた後、すぐに笑顔をつくった。
「まさか、もう過去の事じゃない、そんなのより洋介の方は凄かったわよねぇ」
「否定できん」
「ふふっ」
だけど、
笑っていても、どこか無理をしているような気がする。
引きずってるのか・・・?
多分、何気なく聞かれただけの言葉・・・・・・
だけど、過去の事と言いつつ、本当は少しも忘れてなんかいない。
それは、私にとって忘れられない記憶。
忘れたいと思っても、決して忘れることが出来ない
苦しい、苦い想い出
あれは、紛れもなく私の初恋。
好きだった彼に告白され、つき合いだしたのが高校二年の夏。
だけど、それは思い描いていたものとはちょっと違ってて。
彼は毎日が決死ってカンジで、まるで何かに怯えながら私とつき合っているみたいに見えた。少なくとも私にはそう見えたのだ。
手をつないでキスをして、つき合って一週間、まるで何かに焦るように抱かれた。
それはお互い始めてで、だから焦ったり戸惑ったりしていてそうなんだと思った。
私も彼のことがとても好きだったから。
だけど彼はどんどん思い詰めるような顔になって、苦しそうだったけど、何を聞いてもはぐらかされるだけ。
私もつられるように不安になっていった。
もしかしたら、別れようと言われるのかもしれない、別れたいと思っているのかもしれないと考えたら苦しくて・・・聞き出すことが怖くて、何も言えなくなっていった。
そして、あの日。
学校に来た彼は、昔のように明るくて
優しくて、切なくなるくらいスゴク笑顔が綺麗だった・・・
「いつか、まりえとケッコン、できたらな」
帰り際、呟くように言われた一言。
うれしくて
本当にうれしくて、その日は眠れないくらい幸せだった。
だけど
次の日、彼はどこにもいなかった。
行き先も告げず転校してしまったのだ。
先生に聞くと、外国に留学したのだという。
信じられなかった。
だからあんなに焦っていたのだろうか・・・何かに怯えているように見えたのは、私に知られたくなかったから?
最後に言ってくれたあの言葉。
その先を夢見させるような事を言ってくれたのに・・・
今でもその時の傷を抱えながら過ごしている自分がいる。
彼は何で私に一言も言ってくれなかったんだろうか・・・・・・
「じゃあさ、まりえは今彼氏いないんだ」
「え?」
カクテルを飲みながら、少しぼうっとしていたらそんなことを聞かれた。
「まあ、ね・・・私、言われる程モテないから」
「それはウソ、お前の周りにいた男友達だと思ってたヤローは殆どまりえ狙いだったからな、何を隠そう俺もその1人」
ふふん、って偉そうに笑って・・・なに言ってるのかしら。
「あれだけ女つくっといてそれは信じないって」
ホント、それは信じないよ?
つき合っても もって3ヶ月と言われていた洋介が、好きな子に手を出さないわけがない。一体何年のつき合いだと思ってるのかしら?
あれだけの事を見てきたんだから、突っ込みどころ満載だわ。
「だって、まりえはもう彼氏持ちだと思ってたし、そういう噂も実際あったからさ」
「えぇ〜?」
「ホント、俺まりえのコトずっと好きなんだよ?」
「・・・それって・・・現在形なの?」
「ウン」
「・・・・・・・・・」
「俺じゃやだ?」
「・・・洋介は嫌いじゃない、むしろ好きよ? でも・・・」
「うん」
彼の目を見れば、真剣そうには見えるんだけど、今一、本気ととっていいのかわからない。
「彼女は?」
「いたら告白しないって」
「そう、なんだ・・・」
「まりえ、好きだよ、俺とつき合って」
どうしようか。こんな真剣な顔の洋介は初めて見る・・・
あんなに長く一緒にいたのに、まだ知らない顔があったと思うと少しだけ心が動く。
洋介は私にとっては何より話が合うというか・・・とにかく居心地が良い存在。
つき合っていた彼が突然いなくなってからも、私のことを心から理解してくれて、側にいてくれたのは洋介だけだった。
だからこそ卒業してからも連絡だけは取り合ってきた。
私だって、いい加減あの時のことは忘れなきゃいけないって分かってる。
じゃなきゃ、一生前に進めない。
だけど・・・・・・恋愛感情を彼にもてる?
余りにも近い存在で考えても見なかった・・・
「ええと、それの返事今じゃなきゃダメ?」
ん? って顔して洋介がじっと見てる。
とろけそうなくらい甘くて優しい顔に、どうしていいか分からなくなる。
「少しの間、洋介を好きになる期間みたいなモノをもらえないかな? お互い仕事忙しいからなかなか会えないだろうけど、洋介をちゃんと見ていきたいし」
「それって・・・・・・とりあえずOKってコト?」
「う〜ん・・・・・・??? そうなるの?」
洋介は口をあんぐりと大きく開けて、次の瞬間ガタッと立ち上がった。
「な、なに?」
「よろしくお願いしますっ!」
分度器で測ったみたいに90°に体を折り畳んで礼をした。
その様子がおかしくて笑っていると、両手を掴まれて、そのまま洋介の口元にもってかれて、愛おしそうにキスされる。
なんか、ヘタに口にキスされるより恥ずかしいと思う・・・・・・
こう言うこと、普通に出来ちゃうんだ・・・
凄いなぁ、慣れてる。
「やだ、もう、緊張しちゃうよ」
「いやいや俺の方が緊張してるってホラ」
口元にもってかれた私の両手を彼の胸元に移動すると、ホントにスゴイ。服越しにでも分かるくらい、彼の心臓の音が手に響いてきた。
「絶対にダメだと思ったのにっ・・・・・・も〜サイコーに嬉しいっ!!!」
まりえは、無邪気に喜ぶ洋介を見て苦笑しながら、そんなに喜ばれるとは思わなかったので、少しくすぐったい気持ちになった。
洋介なら
好きになれたら、幸せかもしれない
第2話へつづく
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