○第10話○ 再会(その1)






 それは、社長からの内線電話が始まりだった。


『湯河君、今日の夜の予定は入ってるか?』

「・・・え、・・・と・・? 特にはありませんが・・・」

『実は今日7時からホテルでパーティに出席するんだが、今度取引したいと考えている会社の社長もそれに出席するんだ。彼はフランス人で、日本語は全く分からないんだ。それで君に一緒に来てもらって通訳をお願いしたいんだが』


 なるほど。
 秘書仲間でフランス語喋れるの私だけだもんね。
 仕方ないわ。

「勿論同席させていただきます。お任せ下さい」


 ・・・あれ?
 でも、今度取り引きしたいって・・・フランスの会社で?
 初耳かも、一体いつの間に?

 そう思って、聞いてみると

『あぁ、君と怜二を初めて会わせた日にフランス大使と会うと言ってただろう? あの時に紹介してもらったんだ』

 って。

 そうだったんだ・・・本当に何をするにも無駄のない人なんだわ。
 人脈づくりが基本て分かるけど、感心してしまう。




 怜二とつき合ってるって話した後、私はどんな顔して会えばいいんだろうって思ってた。
 でも、私の心配は全く必要なかったみたい。
 社長はあれから全然変わりなくて、仕事も今まで通り接してくれた。
 そのお陰で私も変わりなく接することが出来るんだけど。



 受話器を置いて、あ、と思い当たり、怜二の携帯に電話をかける。

 今って授業中だったかしら? メールにしようかな。
 そう思っていると、割とすぐに嬉しそうな怜二の声がした。

「あ、怜二? 今日は仕事が遅いから待ってなくていいからね。ウン、明日は平気、じゃあね仕事中だからもう切るよ? バイバイ」


 用件だけの電話に結構ふくれてたけど、切っちゃった。
 いいよね、どうせ明日会えるんだし。





その2へ続く


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