○第4話○ シスコン少年






 昨夜、まりえが帰ってこなかった。



 まりえというのは、オレの姉だ。美人で可愛くてスタイル抜群、性格もカワイイ。
 そのお陰か、他の女に目がいかない。
 多分、ちゃんと周りに目を向ければそれなりにつき合える女もいるのかもしれない。

 だけど今の俺は、そういう気はゼロだ。
 オレみたいなのをシスコンって言うことくらい百も承知、そんなこと構うもんか。




 でも。


 最近のまりえは変わった。帰りが遅くなったのも男が出来たせいだろう。

 誤魔化してるけどわかる、まりえのことは誰よりわかってる。

 昨日帰ってこなかったのも、その男と過ごしていたのだろうか・・・・・・・・・・・・




 何でオレは弟なんだろう。

 何でオレはまりえと血が繋がっているんだろう。

 鏡を見れば、どう見ても日本人以外の血が混ざっているとしか思えない容貌、男のくせに白くきめ細やかな肌、鼻も高めで二重瞼の大きめの瞳は薄茶で髪の色と同じ、その全てがまりえによく似ていて、自分を呪った。




 一睡も眠ることの出来なかったオレは、新聞を取りに外に出る。
 外気が寒い。
 今年の冬はいつもより冷え込んでいるな、などと考えていると、門の向こうから声が聞こえてきた。

 それは、まりえと、男の。


「あおいっ」

 慌ててオレの名を呼んだのはまりえ、相当焦ってるな。

「電話のひとつもしないでこんな時間までなにしてたの?」

 冷ややかな視線を向けると困ったような顔をする。
 そんな顔もまりえはカワイイ。

「・・・・・・あおい、ずっとここで待ってたの?」
「まさか、そんなコトしたら凍死するよ。ところでナニ、その男?」

 そこで始めてその男の顔を見たが、爽やかそうな人なつっこそうなむかつく顔は記憶にある人物だった。

「どーも、まりえさんと昨日からつき合ってる飯島怜二です。今後ともよろしく」





 よりによってこいつが相手かよ。



 何で高校生なんかとつき合うんだ、そりゃ大人だろうが子供だろうがまりえとつき合う男なんか皆むかつくんだが。
 大体、昨日からつき合い始めて何で朝帰りなんだよ、展開早すぎだろ。


 くそっ




 飯島怜二。


 苦い記憶が蘇る。


「オレは認めない。まりえはオレが守っていくからあんたは引っ込んでろよ?」
「それは無理。オレ達愛し合っちゃってるから」
「怜二ッ!!!」
「本当じゃん♪ ま、そう言うことなんで、一応”あおいくん”とも仲良くしておきたいんだよね、将来オレの『弟』になるかもしれないんだし」
「誰がなるか!!!」
「あははは、じゃあ今日はこれくらいで、バイバイまりえさん」

 手をヒラヒラと振りながら去っていく後ろ姿。



 むかつく。
 むかつく。
 むかつく。


「話は、家に入ってからじっくり聞くから」
「・・・・・・う・・・」

 ホントは聞かなくたってわかる。
 服の隙間から見える首筋は赤くなっていて、それが何を意味しているかくらい・・・・・・






▽  ▽  ▽  ▽


 飯島怜二は、同じ学校に通っているひとつ上の3年生だ。


 ヤツは、あの飯島グループ会長の御曹司だ。学校への寄付金も多大な額なのだろう、先生達もヤツには逆らわない。
 別にそれを鼻にかけて好き放題やっているわけではないことは知ってる。
 むしろ、いつもにこにこして誰からも好かれている。
 女共は顔に騙されてファンクラブなどとくだらないものまで作る有様だ。世の中どうかしてるよ。




 だがオレは騙されない。


 笑顔はヤツの武器だってコトくらいお見通しだ。
 ヤツの素顔をオレは知っているから。



「あおい、スゴイ人がお前に会いに来てるぞ」

 窓の外を睨みつけているとそう呼ばれた。
 ドアの向こうを見ると飯島怜二が手を振っている。
 なるほど。
 どうりでさっきから教室がざわついて五月蠅かったわけだ・・・

「あおいくん♪」

 溜息を吐いて教室を出るとヤツは馴れ馴れしく名前を呼ぶ。

「その呼び方やめれ。なんであんたがここに来るわけ?」
「君とちょっと積もる話でもしたかったわけだよ、ここじゃ騒がしいしちょっと移動しない?」

 騒がしい元凶はあんただろ。オレは顔も見たくないんだ。





▽  ▽  ▽  ▽


 立入禁止の屋上に入り、フェンスに手をかけたところでヤツが積もる話とやらを話し始めた。

「君のことは知ってたよ。女の子に人気あるし、実際その顔ならモテるよね」
「あんたに言われたくないね」
「あはは、そっか」

「・・・・・・いったい何の用?」

 にやり、と笑って怜二はあおいを見据えた。


「初めて会ったのは・・・ええと、君が9歳の時?」






「・・・・・・そうだよ」



 くそ、やっぱ憶えていやがった・・・


「だからどうだってワケじゃないんだけどさ、なるほどね、まりえさんみたいな人が近くにいたら他の女なんか目にもとまらないよな」

「言っとくけどシスコンとか言われたって痛くもかゆくもない、実際そうだからな」
「くすくす、あおいくんは可愛いねぇ・・・」
「ばかにしてんのならもう行くからな!!!」


 屋上まで付いてきたことを後悔した。
 大股で入り口のドアまで歩いていくと、後ろから笑いを含んだ声が聞こえた。



「今も泣き虫なのかな? シスコン少年」



 むかつく。


 まりえは、なんであんな性格悪いヤツがいいんだ!?






第5話へつづく

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