○第5話○ 加速する気持ち(中編)






 社長と一緒に会社を出ると、既に怜二が待っていた。

「怜二、わざわざ外に出て待ってたのか、車の中で待っててよかったのに。運転手に言ってあったんだから」
「いーのいーの オレ兄さん達が出てくるのここで待ってたかったから」

 秀一は怜二の頭をくしゃっと撫でて笑う。

「体が冷えるといけないから早く行こうか、さぁ 湯河君も」
「あ、はいっ」

 社長、ホントに怜二には優しい顔見せるのね。
 やっぱり年がうんと離れているから、可愛くて仕方ないのかも。
 それにしても、殆ど毎日のようにここに立って待っているくせに・・・知らん顔しちゃって。

 怜二の方をチラッと見ると、向こうもこっちを見ていてニヤリと自信ありげに笑う。


 ち、ちょっと?
 本当になに考えてるの・・・・・・?

 私は、その笑いが不安なんだけど。





▽  ▽  ▽  ▽


 怜二がイタリアンが良いと言い出したので、秀一行きつけのイタリアンレストランと言うことになった。
 一通り注文を済ませると、秀一が怜二に話しかける。

「お前なんでホテル住まいなんかしてるんだ? 色々面倒だろう?」
「そのうち帰るよ、なんとなく一人住まいって言うのを体験してみたいってだけだからさ」

 社長は何で怜二が家を出たのか、ホントの理由を知らないんだ・・・

「必要なものがあるんだったら遠慮なく言うんだぞ? お前に不自由な思いはさせたくないからな」

「そんなもの無いよ それよりさ・・・」
「なんだ?」

 そこで怜二はまりえを見てにこりと笑う。

 ん?

「オレ つき合ってる人いるんだ」

 秀一はそれを聞いて目を見開く。
 一方まりえは話の展開の早さに、ビクッとふるえただけで口を出すことも出来ない。

「どんな人なんだ? 初耳だぞ」
「ウン でも随分前に言った事あったでしょ? 好きな人がいるよってさ。その人だよ 最近OKもらってつき合いだしたんだ」

 秀一は考えを巡らしていたが、やがて思い当たる事があったのか『ああ』と頷いた。

「確かそれを聞いたのってもう何年も前の話じゃないか? 随分と長いこと片思いだったんだな」
「まぁね」
「どんな人だ? お前の選んだ人なら間違いないと思うが」

 目の前で繰り広げられている会話の人物が、自分の事だって分かってるんだけど・・・

 出来れば、この場から立ち去ってしまいたい。



「ウン 間違いないよ。まりえさんだもん」


 言ったーーーーーーーーーーッッ!!!
 嘘でしょ、言っちゃダメとは言わないけど、モノには順序ってもんがあるのよーーーー!?
 店に入ってからまだそんなに時間経ってないしっ
 まだ注文した料理も来てないというのに、食事どころじゃないじゃないのっっ

 怜二を睨みつけると、にっこり笑って手を振ってくる。
 だめだわ、何を言っても もう遅い・・・

 社長は・・・・・・怜二を見ていた顔を私の方へゆっくりと向けて


「湯河君・・・・・・?」

 と呟いた。

 ああ、見ないで欲しい・・・


「今日3人で食事したいって言ったの、これが言いたかったからなんだよね、兄さんには知ってて欲しかったんだ。まりえさんだったら何の文句もないでしょ?」

「・・・・・・あぁ、だが・・・彼女は・・・・・・・・・」
「だからさ、まりえさんはオレの彼女!」

「本気、か?」

 未だ信じられない、と言ったような顔をして、秀一はまりえを見たまま視線を外さない。余程意外な組み合わせだったに違いない。

「当然だよ まりえさんもちゃんと言ってよ」


 ああ、話を振られてしまったわ・・・・・・


 ここはもう腹を決めて言うしかない。

 そうよ。
 なるようにしかならないんだ、きっと、多分。

 まりえはゆっくりと顔をあげて怜二を見た後、秀一の方へと視線を向けた。

「全て、本当の話です・・・・・・私、怜二さんとおつき合いをさせていただいてます」

 秀一は驚いた顔をしていたものの、暫くするとまりえから視線を外し、深い溜息を吐いて椅子に深く腰をかけた。

「・・・・・・驚いた・・・まさか、湯河君とは・・・」

「兄さん、まりえさんのこと認めてくれる?」

 秀一は無邪気に笑う怜二を見て苦笑する。

「・・・・・・あぁ・・・・・しかし参ったな・・・もしかして、この前二人で食事に行ってからか?」
「そうだよ♪」

 怜二は、それはもう嬉しそうにしてるし。

 まったく・・・





「大丈夫、まりえさんのことずっと大切にするから」

 その言葉に二人ともハッとする。
 怜二を見ると、今日はじめて見るような真剣な表情で。


 その言葉は色んな大事な事を約束しているような気がして
涙がでそうになった・・・


 あの時と重なってしまって

『いつか、まりえとケッコン、できたらな』








後編へ続く

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