『キミだけを見ている』扉>>>

○第6話○ それぞれの日常(その5)


◇そして、それぞれの普通じゃない日常◇(あおい視点)


 鐘が鳴り、やっと昼飯の時間が来た。
 昼飯だけは、楽しみなんだ。
 ここの学校のカフェテリアだけは結構美味いからな、まりえの手料理には遠く及ばないけど。


 教室を出ると廊下の向こうの方が何やら騒がしい。

 うざいな、あっちから行くか。

 そう考えて踵を返したとき背中から名前を呼ばれた。絶対この場所に居るはずのない声。

「あおい〜〜♪」

 幻聴か?と思いつつ振り返るとまりえがにこにこしながら駆け寄ってくる。

 仕事に着ていく秘書スタイルのスーツじゃなく、ふわふわした(あおいにはそう見えるらしいが普通の)淡いピンクのワンピース。
 薄茶色のゆるいウェーブがかった髪の毛は当然天然物で、やわらかく揺れている。
 何より透けるように白いきめ細やかな肌はその顔の作りに見合ったものだ。
 客観的に見ても、実写版フランス人形。
 最高級のビスクドールだ。

 などと、心の中で絶賛しているうちに、まりえはあおいの目の前についていた。

「なんでこんなトコにいんの?」
「あおいったらまだ気づいてなかったの? これなぁ〜んだ」

 そう言ってバッグの中から取りだしたのは、オレの宿題と基礎解析の教科書。

「あ? オレ忘れたの? やば・・・ありがと」
「うふふ、あとね〜これも」
「え? まだなにか・・・・・・・・・」

 嬉しそうに取りだしたのは可愛らしい柄の四角い箱だった。
 おそらくそれは・・・・・・。

「作ってくれたの? ウワ、まじ? うれしー」
「暇だったからいっぱい作っちゃった、一緒に食べない?」


「お、おいあおい!」
「んあ!?」

 この空間を邪魔されたことに腹が立ち、思いっきり不機嫌な顔で返事をすると、クラスの中でも割と気の許せるヤツだった。
 オレは今2人の世界を邪魔して欲しくないんだよ、割って入ってくるなよな!

 周囲を見るとオレ達2人を囲んで人だかりができている。
 どうやらまりえとオレの関係がテーマらしいな。まぁ、血の繋がりがあることくらい見ててわかるだろうけど・・・。

「お姉さんか!?」

「・・・・・・・・・」


 ちっ

 周りのヤツも興味津々だ、そんな質問答えたくもないな!

 そう思っていると、まりえが口を開いた。

「あおいの姉でまりえと言います。あおいのお友達? 仲良くしてあげてね、スゴク素直ないい子だから」

 顔中見開いて絶句してやがる。忌々しいヤツめ!

「あおい、私この学校久々だし、案内してね」
「久々でも憶えてるだろ? 変わってないはずだし」
「いいの、あおいに案内してもらいたいの」

 どうだ、このカワイさ。
 お前らの周りにこんだけカワイくって、性格もバッチリの女が要るか? いないだろうな、ざまぁみろ。


 2人が腕を組みながら仲むつまじく去っていく様子を見送りながら、その後も暫く呆然としていたのは、あおいに話しかけたクラスメート、加藤と他数名。


「すっげぇ、メッチャカワイイ・・・・・・しかし・・・・・・あおい、笑ってた、ぞ?」




▽  ▽  ▽  ▽


 ラウンジの一角では、あおいにとって華やかな心温まる空間が展開されていた。
 周りからの注目を一身に集めながらも、それらを完全に自分の中でシャットアウトして。

「うまいっ、やっぱまりえの手料理は最高だね、お弁当作る才能もあるよ」
「あおいったら何て嬉しいこと言ってくれちゃうの? ご褒美に”あ〜ん”してあげる♪」

 ああ、この会話、まるで新婚夫婦の食事風景じゃないか。

 パクッとまりえの箸からタコウィンナーを頬張り、最高の気分。

「まりえに食べさせてもらうと百倍美味しい」

「じゃあ、私にもして、ハイ”あ〜ん”」

 ニコニコしながら口を開けて待っている、完全に気分は恋人同士だ。
 よし、まりえには玉子焼きにしよう。

 歓喜で箸を持つ手を微妙に震わせながら、まりえの小さい口に放り込む。

 もぐもぐと美味しそうに食べてる・・・・・・オレがまりえの口に入れた玉子焼き・・・・・・


 カ、カワイすぎるっっ!!!!

「ほんと〜、あおいに食べさせてもらった方が美味しい」

 何て幸せなひとときなんだ。
 こんな昼飯が毎日だったら最高なのになぁ・・・・・・


 だがその時、

 幸福に浸りきって顔の筋肉が緩みっぱなしだったのに、この世で今、一番聞きたくない声が上から降ってきた。


「なに姉弟でイチャイチャしてんだよ」

 飯島怜二。
 自称まりえの恋人。

 お前が近づいていることなど百も承知だったが少しは気を利かせて向こうへ行ってろっつーの!


「え? え? 怜二? なんでここにいるの〜?」

 どうやらまりえは、コイツとオレが同じ学校だって知らなかったようだ。もの凄い驚いている。

「オレ、ここの3年だもん」
「へぇ〜そうだったんだぁ、学生服の怜二初めて見た、似合ってるよ」

 ふん、オレの方が似合ってるさ。
 入学式の時に、それはもう大はしゃぎで、何枚も一緒の写真撮ってカッコイイを連発してたんだからな、まりえは。

「まりえ、そんなことより早く食べさせてよ」
「ウン、はい”あ〜ん”」

 まりえとのラブラブ風景を見せつけてやりながら横目でヤツを見るとスゴイ顔で睨みつけていた。

 ふふふ、見たか。
 コレがオレとまりえの普段の生活さ(そんなわけないだろ)
 いつもの見せかけのニコニコ顔はどうした?
 全然笑えてないぞ?


「まりえさん、ズルイ、オレにもそれやって」


 なに!?

「いいわよぉ、ハイ、タコさん、”あ〜ん”」

 あ〜ん・・・って、それオレの最後のタコウィンナーじゃんか〜〜〜〜!!!!!

 ち、ちくしょうっ、幸せそうに頬張りやがって。

「やだぁ、まるで新婚さんみたいじゃなかった? 今の私たち♪」
「そうだね、カワイイよ、まりえさん」

 ガーン・・・・・・
 なに二人の世界に入ってんだよ、オレの事見えてるか?


 キーンコーンカーンコーン


 と、そこで、無情にも昼の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 くそう・・・


「あ、あおい、午後の授業頑張ってね、夕食もあおいの好きなものいっぱい作るから♪」

 まりえは女神のような笑顔を振りまきながら学校を後にした。
 この際ヤツに『また明日ね』なんて手を振った事なんて見なかったことにする。
 ざまあみろ、悔しそうな顔しても最後に笑うのはオレなのさ。

 お前になんかに、絶対まりえを渡すもんか、ば〜か。



第7話へつづく

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