「飯島先輩、お弁当作ってきたんですけど貰ってくださいっ!!」
その女生徒は待ちかまえていたようで、怜二が登校すると同時に、弁当箱を差し出してきた。
周囲は、登校してきた生徒がいて、イヤでも彼らの目にとまる。
注目させたいのではないだろうかと思われる程、その女生徒の声は大きかった。
靴箱の前を立ち塞がれ、頼んでもない弁当など渡されて、怜二の機嫌は一気に悪くなる。
だがしかし、心の中で溜息を吐くだけで、彼はにっこりと人なつこい笑みを見せた。
「彼女に悪いからそういうの受け取らないんだ」
言ってから、嬉しさが込み上げてきた。
前はプレゼントなどを貰っても、気持ちが悪くて捨ててしまうことが多かったのだ。手作りのモノなど余計そうだったから、弁当などもってのほかだ。
本当は受け取るのさえイヤだったが、口実を考えて相手に伝えるのは面倒だった。
一人や二人ならまだしも、相手は大勢いたから。
どうせ、”飯島”という家の名前が好きなんだ。
そうじゃないにしても、オレの顔が気に入っただけ。
この学校は、昔から人のうわべしか見ないところだ。
彼らとは、ずっとつき合っていくつもりはないから、その方が都合がいいけど。
「か、彼女・・・いるんですか・・・・・・あの、まさか昨日ラウンジで仲良くしていた女の人ですか?」
「そのまさかだけど?」
「・・・・・・年上が・・・好きなんですか・・・?」
あのなぁ・・・
年が離れているからどうだっていうんだ?
実際、一番気にしてたのはオレだけどさ、そんなのもう関係ないってわかったし。
「悪いけどどいてくれないかな? 君の後ろ、オレのロッカーなんだけど?」
「すっすみませんっ!!!」
その時、女生徒の後ろを知っている姿が横切ったのが映った。
ラッキー!
「あおいくん、おはよう〜!!」
手を振りながら挨拶すると、あおいはギロリと怜二を睨みつける。
「”くん”をつけるな、アホ」
お〜、今日は何時にもまして機嫌が悪い
あおいは面白いなぁ・・・
思っていることそのまま出るし、まりえさんには似ているし、ついつい構いたくなる。
オレはあおいにかこつけて、その女生徒を綺麗に無視して立ち去ることにした。
「まりえさん元気?」
昨日会ったけど、わざと確認してみる。
あおいは、オレがまりえさんの事を言うと、もの凄く機嫌が悪くなる。ただでさえ、オレの存在が嫌いのようだし、コイツは筋金入りのシスコンだから。
「・・・っ、えっ、・・・げ、元気だよ、当然だろ」
ん?
なんだ? コイツ目が泳いでるぞ?
「ふ〜ん・・何でそんなに落ち着きないんだ?」
「なっ何言って・・・っ! オレは別にまりえに何もしてないぞっっ!!!」
顔を真っ赤にして何言ってんだ?
・・・おい
「・・・・・・何をしたんだ?」
コイツ、思い詰めてまりえさんを襲ったんじゃないだろうな!?
「ちがっ・・・、まりえが一緒に寝ようっていうから・・・それに、アレだって最終的にはまりえの方から・・・っっ!!」
い、一緒に寝た!?
何だよソレ!?!?!?
それに、・・・・・・・・・・・・
アレ?
アレとは何だっ
「あっ、もう始まるぜ、じゃあな!!!」
「おいっ!」
逃げやがった。
中途半端に事実をバラして去っていくなよな〜〜っ!!
まりえさ〜ん、あおいに甘過ぎだって・・・一緒に寝るなんて寝るなんて寝るなんて
昨日だって実はもの凄く驚いたんだぞ!
ラウンジに来てみればいちゃついたカップルがお弁当を食べさせあってると思ってたらあの二人だし・・・
あれは端から見れば完全に恋人同士の図だっ
まさかあれほど仲がいいとは思わなかった。
どうりであおいもシスコンになるわけだよなぁ・・・
あのいちゃいちゃは家でも繰り広げられているのか・・・
それにしても、アレって・・・なんだ?
第9話へ続く
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