会社帰りに会う約束をして、まりえと洋介は喫茶店に入っていた。
まりえは正直に大体の成り行きを話して、洋介とはつき合っていく事は出来ないと打ち明けた。
「ごめんなさい」
何の弁解も出来ない。
私は怜二を選んだことで大事な人を失ってしまった・・・
暫く重い沈黙が続き、やがて洋介が溜息と同時に口を開いた。
「・・・なんで手が届かないんだろうなぁ・・・、それともアイツの方が気持ちが上だったのかな・・・」
そう言った洋介は、なぜだかすっきりとしたような顔をしているように見える。
酷いことを言われるのを覚悟してきたのに、何でそんな表情を見せるんだろう。
不思議に思っていると、洋介が苦笑しながら話を続けた。
「・・・・・・白状するとさ、この数日間いつ言われるんだろうって思ってた。まりえがアイツを見る目が違ってたから・・・何て言うんだろな、引力があるっていうか。
長年つき合ってきた勘なのかもしれないけど、こうなる気がした。
それに、今まで俺に、そう言う気持ち持っていなかったの知ってるし・・・・・・勿論好きになってくれたらいいな、とは思ったけど・・・」
そこで一度息をついて、洋介はしっかりとまりえを見据える。
「・・・だからまりえがそうやって出した結論だし、俺はちゃんと受け止める」
「洋介・・・」
「その変わり、もう会えないとか言うなよ? 俺はお前とはこれからも、つき合っていきたいからな」
洋介は、私が断るってもう分かっていたの?
それなのにちゃんと会ってくれて、これからも友達でいてくれるって言うの?
それじゃ、余りにも私に都合良すぎるじゃないっ
「どうして? ・・・優しすぎるよ、洋介はっ、そんなの・・・っ」
まりえが半泣きになって問うと、いたずらっ子の様な顔をして、洋介は笑った。
「俺は恋愛感情抜かしてもまりえが好きだからな、アイツにそう言っとけ」
恐らく怜二に『まりえさんの顔が好きなんじゃないの?』と言われた事への答えなのだろう。
まりえは涙が出そうになるのをグッとこらえた。
「ありがとう・・・」
「ま、そんなワケでさ、これからも今までどおりでいてくれよな?」
「・・・洋介がそれで良いのなら・・・・・・」
「・・・ま、ちょーっと寂しいけどな、仕方ないだろ、こればっかりは」
そう言って、まりえの頭をぽんぽんと叩きながら明るく笑ってくれる洋介に、今までもそして、恐らくこれからもどれだけ救われることだろう・・・。
これだから洋介とは永くつき合っていけたんだ。
惚れ惚れするくらい潔のいい性格、相手の負担には絶対にならないように自然に振る舞える人。
何て強いんだろう・・・
本当は、こんなにアッサリ言えるほど簡単なものじゃない。
ごめん、・・・ありがとう。
▽ ▽ ▽ ▽
洋介と別れてすぐに怜二のいるホテルへと向かった。
携帯などでは足りない。
会いたい、顔を見て、声を聞きたい。
「まりえさん、今日会えないって言ってたのに、来てくれたの〜?」
呑気な声で迎え入れられて何故だか急に気が緩んだ。
今までの緊張がすっかり解けてホッとしている自分がいる。
「・・・怜二の顔が見たくなっちゃった」
まりえの言葉にすっかり上機嫌になった怜二は満面の笑みで彼女を抱きしめた。
「うれしいなぁ、オレ今日ちょっと悶々としてたから最高に幸せ」
「? 何かあったの?」
「大したことじゃないよ、ちょっとあおいの言葉に一人振り回されていただけ」
「なんて?」
すると怜二は大したことじゃないと言ったくせに、じと〜っとまりえを見つめた。
「昨日一緒に寝たんだって? そんでもって最終的にアレをしたのはまりえさんなんだって?」
「・・・ええ、一緒に寝たわよ? ・・・でもアレって何?」
何だかよくわかんないけど、怜二とあおいって学校でこんな事まで話すくらい仲がいいみたい。
・・・スッゴク、嬉しいかも。
まりえがそんな勘違いをしている間も、怜二はいじけたままだ。
「アレはアレだろ? オレだってわかんないよ、あおいが言うんだもん。まりえさん知ってるんでしょ?」
それを聞いてう〜ん、と考え込む。
アレ、アレ・・・ねぇ・・・そんなに機嫌が悪くなるくらい重要なことかしら?
「・・・もしかしたら、私から抱きついたって事かしらねぇ?」
首をひねりながら言うまりえの言葉に、怜二は息を呑む。
「そ、それで? その後どうしたの・・・?」
「? ・・・ぐっすり眠って朝になったけど?」
怜二はそれを聞いても、今朝のあおいの動揺ぶりを見ると”ホントにそれだけか?”と思うのだが、ひとまずそれで納得することにした。
それにしても、二人の仲の良さにはやはり不安を覚えてしまう。
「・・・ずるい」
「は?」
「オレともギュって抱き合って寝ようよ! ぐっすり眠って朝まで!!!」
あおいと張り合っても仕方がないとは思いつつ、怜二はどうしても気分が晴れない。
二人の異常に仲のいい姿を目撃して、あおいの気持ちが姉に対するものとしては、大きすぎると分かっていたから。
「・・・でも、それじゃ泊まらないとだし・・・」
「ヒドイヒドイっ!!! まりえさんはあおいとオレとどっちが大事なのっ!?」
な、なんでそんな話になるの?
あおいと怜二なんて比べられるわけないじゃないっ
好きの種類が違うのに・・・
「うわっ、何で答えないの〜!? オレ落ち込んじゃうよ・・・」
・・・ってゆーか、怜二って何でそんなに子供なの?
も〜〜〜〜っ!!!!!
私は今日洋介に会ってきてちゃんと言ってきたというのにっ
頭にきたわっ!!!
二股でもかけたような言い方をされて、まりえはとうとう憤慨した。
「私を疑いたいなら勝手にすればッ!? もう知らない!」
「っっっ!!!!?????」
怜二は大慌てでブンブンと首を横に振る。
「ちっちがうよ〜〜〜っ!!! そんな疑ってなんて・・・そんな、そんなっ」
沢山慌てればいいんだわ、何よっ怜二のばかっ
まりえは怜二をキッと睨みつけて、部屋の中へずかずかと上がり、冷蔵庫の中からジュースを出して飲んだり、カーテンを開けて夜景を見たりして、その間怜二をずっと無視していた。
怜二は泣きそうな顔をしながら、まりえが動けばその後を追っかけていくが話しかけられず、すっかり途方に暮れていた。
その姿があまりにもしおらしいので、段々怒る気も失せてしまう。
「・・・・・・いいわ、泊まってけばいいんでしょ?」
「え?」
「その変わり、朝まで抱きしめててよねっ!」
「う、うんっ・・・うんっ!!!!」
顔を紅潮させながら、必死で頷く姿が可笑しくてたまらない。
まかせて、なんて笑いながら抱きしめられて、それだけで幸せになれちゃう。
なんて簡単。
「いっぱいえっちしようね♪」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あのね・・・・・・
そういうこと言ってるんじゃないんだけどな・・・・・・
第10話へ続く
その前にこの9話にはこの後の怜二視点のお話があります。
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