○番外編3○ 二人だけの空間(怜二編)






「怜二、たくさん食べてね♪」
「うんっ」

 今日は、まりえさんの家に来ている。
 オレが、手料理って殆ど食べた記憶がないって言ったら、スゴイ驚いてお昼ゴハンに招待してくれた。

 彼女の家に入るのは、初めてのことだ。

 外から見ていたことはあったけど、それはまぁ、昔のことだし。
 時効だよね。



「オイ、飯島怜二っ! 残したら半殺しじゃすまないからなっ!!」

 横からあおいが目をギラギラさせてこっちを見ている。
 それを見るだけで、楽しくて仕方がない。

 オレがホントに心から笑えるのは、今のところ、この美しい姉弟の他は数える程しかいない。
 ありのままの自分で過ごせる相手がいると言うことは、とても幸せなことだと思う。
 まりえさんとつき合うようになってからそれがわかった。



「すごい、おいしい! へぇ・・・コレならいつオレのお嫁さんになっても大丈夫だね」

 おっ
 あおいがスゴイ目で睨んでる。

 でも、ホントにおいしい。
 料理の先生になれるよ!!!

「ありがとうっ、料理はね、小さい頃から結構してたから得意なの」
「へぇ・・・」

 そう言えば、まりえさんの両親ってニューヨークに行ってるんだっけ。
 でも、小さいときから子供だけだったのか?

「お手伝いさんとか、来てもらわなかったの?」

「ん、あおいがね、人見知り激しくて・・・ねっ、あおい。知らない人がいると泣き出しちゃって大変だったのよ」
「・・・・・・・・・」

 ぶぶっ
 やっぱりあおいってば、泣き虫だったのかっっ

 今でこそ、何をしても泣かなそうな顔してるくせして・・・っ!

「私たち6歳も年が離れてるし、あおいの面倒は私だけでもある程度は出来たから。どうにも出来ない事はお祖父様の所のお手伝いさんに来てもらったくらい。その人だったら、あおいも小さい頃から知ってるし、懐いてたから」

「・・・まりえっ、あんまり変なことコイツにばらすなよっ!」

 あおいは顔を真っ赤にして、まりえさんの料理をガツガツ食べて誤魔化している。

「あおい〜、何でオレに会いに来てくんないの?」
「はぁ!?」

「オレ大学行っちゃったけど、高校とは同じ敷地内なんだからいつでも来て欲しいんだけどな。それとも、オレがソッチに遊びに行った方がいい?」
「・・・・・・〜〜〜〜〜〜〜〜っ、どっちもイヤに決まってんだろ・・・っ。オマエといると変に目立ってイヤなんだよ、絶対会いたくねぇっっ!!!!」

 あ、ちょっと傷ついた。
 そんなに思いっきり否定しなくてもイイのになぁ・・・

 まりえさんは、オレとあおいのやりとりを嬉しそうににこにこしながら聞いている。
 レースのエプロンを着た彼女は、初々しくて、可愛くて堪らない。
 そんな彼女を見ていると、所構わず抱きしめたくなってしまうから我ながら困ったものだと思う。


 オレは、出された食事を全て美味しくいただいて、手を合わせた。

「ごちそうさまでした」
「ごちそうさんっ」

「どういたしまして」

 そんなふうに、にこやかに微笑む彼女を見てつくづく思う。

「オレ、今スッゴイ幸せ。家に帰りたくなくなっちゃうな」

 いつも、ずっと側にいて欲しい。
 隣にいて、笑っていて欲しい。



 それは、我が侭な事だろうか?




「でも、前みたいにホテル暮らしなんて、面倒でしょう? やっぱり、家の方が何かと楽だと思うわ」

「・・・そう、なんだけどね・・・・・・」

 家に帰ればまた一人だ。
 それは、ホテル暮らしをしてた頃もそう。

 狭くても広くても、その寂しさは変わらなかった。

 だけど、まりえさんがソコにいるっていうだけで、その世界が温かいものに変わっていくんだ。



「オレは、まりえさんが欲しいよ」

「えっ」

 オレの言葉に、まりえさんは一気に顔を紅潮させて、目をパチパチさせている。

 その変わり、横のあおいは・・・

「・・・っざけんなっ!!!! まりえを、ほ、ほ、欲しいだと!? ぬけぬけとそんな歯の浮くようなセリフを言いやがって!!」

 まりえさんとは別の意味で顔を紅潮させて、怒ってる。
 ・・・・・・あおいって、こっちが思った通りの行動するよなぁ・・・

「・・・まぁまぁ、最悪あおいも一緒にもらってあげるから、機嫌直してよ」
「な、な、なっ!? オレは嫁には行かないぞっ!!!」

 コイツ、自分の言っている意味わかってるのかな?

「あははははっ」

 我慢しきれなかったのか、さっきから涙を溜めてプルプル震えてたまりえさん、大爆笑。
 気持ち分かるよ、あおいっておもしろいよねぇ

「・・・っ、も、もういいっ」

 ガタンと立ち上がって、部屋を出ていこうとする。

「あおい、どこ行くの?」
「自分の部屋っ!! オイ、まりえに手を出したら許さないからな!!!」

 ビシッとオレに指を指し、ドカドカでかい音を立てながら階段を上っていってしまった。
 残されたオレ達は、ただくすくすと笑うばかりだった。

「高校の時、いつもあんな感じだったの?」
「ウン、”ツーカー”でしょ? アイツかわいいよね」
「そうね。怜二もね」
「オレも!?」

 それは、ちょっと不服かも・・・
 まりえさんにカワイイって言われると、ちょっとこたえるなぁ

 やっぱり、5歳差ってのは、とても大きくて。
 オレは、最近飯島の会社を手伝うようになったとは言え、まだ大学生で・・・まりえさんは立派な社会人だ。
 仕事場でのまりえさんを何度か見ているけど、キリッとして、ホントにかっこよかった。

 秘書姿の彼女も好きだけど、オレは今目の前で笑ってる彼女がもっと好きだ。
 だって、仕事中はスキがないからなぁ・・・

「怜二、飲み物おかわりいる?」
「ウウン、それより」

 立ち上がりかけた彼女の腕を掴み、逆にオレが立ち上がる。
 そのまま、まりえさんの隣に移動して彼女を抱きしめる。

「えっ」

 とまどいの声をあげるのを無視して、そのまま彼女を持ち上げ、今まで彼女が座っていた椅子にオレが座り、膝の上に抱っこする。
 まりえさんは、一瞬躊躇したものの、オレの首に腕をまわし、抱きついてきた。

 オレだって、さっきからずっとこうしたかったんだ。
 きっと、まりえさんもそうだったんだよね。


「まりえさん、すき」
「私も・・・」

「料理美味しかった、アリガト」
「・・・ん」

 ついばむようなキスを何度もして、見つめ合ってからお互いを求めるようなキスをする。

 本当に、ずっとずっと、渇望し続けた


 まだ、望んだ全ては手に入れられないけれど・・・




 それでも、あの頃より、ずっと・・・・・・







「あっ、ダメ、あおいがいるのよっ!」


 胸を触るところまでは許してくれたのに、スカートに手を滑り込ませようとしたところで、思いっきり押し返されてしまった。


 ガックリ・・・


「・・・だよね」
「・・・ごめん、ね、だって・・・」

「わかってる、じゃキスだけ」

 目を潤ませてオレを見つめるその瞳、本当にたまらないんだよ?
 わかってる?

 オレはずっと、そういう目で自分を見て欲しいと思ってきたんだよ?

 オレだけを見つめるキミの瞳が欲しいと思っていたんだ。



 欲しくて、捕まえたくて、閉じ込めたくて、平静でいられない存在。



 オレみたいな男に愛されちゃって、ホントに気の毒だと思うよ。

 息苦しいと思われる時も来るかもしれない。

 コワイと思うかもしれない。


 それでも、もう、二度と永遠に手放すつもりは、微塵もないんだ・・・・・・



 ごめんね


 アイシテルから。



 いつも、ずっとずっと、オレの方がキミをあいしてる。



















「こんのやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」



 ・・・・・・後方から、あおいの絶叫。


 オレは、あおいも好きなんだけどなぁ・・・


 いつか、まりえさんもらいに来るけど、その時は、あおいだけにはちゃんと認めてもらいたいんだ。
 なかなか、難しそうだけど。



 とりあえず、今のこの状況は許して。

 ちょっとしたデキゴコロだったんだ


 その握りコブシは、引っ込めて平和的解決を目指そうよ
 ・・・・・・ね?



2003.4.18 了



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