○第1話○ 突然の約束 「ねぇ、まりえさん、日曜日さぁ、たまにはウチに来ない?」 自分のデスクに座って黙々と仕事をこなしていると、いつの間にか隣に背の高い、柔和な笑顔を讃えた人物が立っていてそんなことを聞いてきた。 彼女は顔を上げ、彼が誰か認識するとちょっと困ったような顔をして小さく首を振る。 「え? ・・・う〜ん、日曜日ダメ。両親帰ってくるから会えないわ」 「帰ってくるの? 初耳だよ」 「ん、昨日電話もらったから」 彼女、湯河まりえの両親は、ここ数年仕事の関係で、二人してニューヨークに住んでいた。 一時帰国だが、今度の日曜日、急遽帰ってくることになった為、久々の親子再会を果たす。 と言っても、そんな劇的なものじゃないのだが。 「そっかぁ・・・じゃ、土曜日は?」 「それなら大丈夫よ、さ、怜二、もう仕事に戻って、私だって仕事中なんだから」 「は〜い」 手を振りながらにこやかに去っていったのは、まりえの彼氏で今、大学一年生の飯島怜二。 まりえは、彼の一番上の兄で代表取締役である飯島秀一の秘書をしている。 もうすぐ24歳、つまり、怜二より5歳ほど年上ということになる。 飯島グループの御曹司である怜二の家では、大学に入ったら会社の手伝いをすると言うことは当然のことらしく、今は週に何回か会社に来て仕事を教わっている。 今やっていることが将来につながっていくのだろう。 「相変わらず仲良いのねぇ」 怜二が去っていった後、秘書課の友人がまりえの元に微笑みながらやって来た。 「あ、麻紀。も〜、仕事中なのに来るんだもん」 「少しくらいいいじゃない。それに、あんなに揃ってる男はいないわよ」 「・・・揃ってる? なにが?」 首を傾げるまりえに麻紀は苦笑した。 「背が高くて、顔が良くて、お金持ち。性格だってカワイイじゃない」 「・・・・・・あ〜・・・そう言うのを揃ってるっていうんだ・・・」 「あんなにカワイイなら、年下もいいわよね」 確かに怜二の見た目はモデルのようなスタイルで、小さな頭に整った顔など誰もが振り返るような容姿をしていた。 実際にかなりモテるらしいことも知っている。 けれど・・・ 麻紀が言うみたいに、年下とか年上とか、まして見た目なんて、実はあまり意識したことがない。 意識する必要を感じないと言うか・・・ もしかしたら彼の外見や年齢だけを見ればそう思うのかもしれない。 怜二は見た目からは想像できないくらい、実はもの凄く強引で、驚くほど独占欲が強い。 だからといってそれを息苦しく感じたことはないけれど。 それは、私にとって怜二は揃ってるとか、揃ってないとか、そういうことは関係ない、一番の特別な存在だからだと思う。 「さてっと、仕事よ仕事!」 結局、怜二が来たことによって、まりえの仕事に対する意欲が増大したようだった。 バリバリと仕事をこなしていくその姿を見て、麻紀はもう一度苦笑した。 だけど、ウチに来ない? なんてにこにこしてた怜二が、頭の中では何を思ってたかなんて、その時の私にわかるはずもなかった・・・ ▽ ▽ ▽ ▽ 「いやぁ〜〜〜〜っ、ちょっとちょっと、こ、これ外してよ〜!!」 「ダメ、お仕置きなんだから」 「お仕置きって・・・っ冗談、・・・、やだって、こんなの。私叫ぶから、こんなこと家の人に見られてもいいの!?」 「別に、家の人って言ったって、使用人じゃない。オレが入室を許可しないのに、無視して部屋に入ってくるわけないでしょ? そんなのより、あんまり動くと赤くなっちゃうよ」 まりえの慌てぶりとは正反対に、あまりにも冷静な怜二の口調。 しかし、その口調からは想像できないほどの燃えるような熱い眼差しで、独占欲を孕んだ双眸の瞳は、彼の性格そのものを現しているかのようだった。 「怜二ってばっ!!」 「まりえさん、自分のことちゃんとわかってるの?」 「自分!? なにそれ、当たり前でしょ? 怜二のヘンタイッ!!! ヘンタイヘンタイヘンタイ〜〜〜ッッ!!!! とにかく、外してってば、この目隠しと手のヒモみたいなのっ、何なのコレ!?」 「何の変哲もない包帯だけど? 手錠でも良かったけど、そこまでする趣味はないからね」 「なっなっ、どっちだって同じよっ!!! バカバカッ、怜二のヘンタイッッッッ!!!」 何でこんな目にあっているのか、一番知りたいのは自分なのに、この理不尽すぎる仕打ちは何だろう。 一体どうしてこうなったのか本当にわからない。 今日は怜二の家に遊びに来て。 それで、彼の部屋に入った途端目隠しをされた。 驚く間もなく、今度はヒモのようなもので両手を縛られてベッドに押し倒されて・・・・・・ ソレは怜二曰く包帯だったみたいで、今はベッドにくくりつけられているのか両腕が頭の上に固定されて動かすことができない。 しかも、そのまま身にまとっているものを抵抗虚しく全て剥ぎ取られ、体中を荒々しい怜二の手や舌が這い回ってきたのだ。 こっちが抗議をしたって、お仕置きだって言われるし。 どっちにしたってこんなヘンタイじみたのなんて絶対イヤ〜!! 「ふぅん、そ〜ゆう事言うわけ。じゃあ、今日はこのままで入れちゃおっかな。体の方は準備が出来てるみたいだし」 そう言うと、入り口の辺りに怜二の硬い感触。 ソレを擦りつけて、ワザとえっちな音をたてて聞かせてくる。 こんな状態でも反応してしまう自分の体を呪いたくなるわ・・・ 「・・・っ、んっく・・・やだって、言ってるのにっ、どこでそういうこと勉強してくるのよぉ、怜二のヘンタイっ、バカ〜っ!!」 「・・・・・・・・・オレは何事にも勤勉なんだよ。・・・それにしても、ヘンタイバカってヒドイ言い種だね。じゃあ、ソレらしくこのまま・・・」 って、ホントに怜二のが少しだけ入ってきた。 「うそぉ!? やぁっ! ま、待ってってばっ、こんなの変よぉ、ワケ・・・そう、ワケを説明してっ!!」 「・・・ワケ、ねぇ。説明してもいいけど、オレの言うこと、なんでも一つ聞いてくれたら教えてあげる」 「・・・な、なんでも!?」 ど、どっちがいいのかしら!? ワケを聞いて、弁解の余地がある内容だったらこの拘束は解けるかもしれない。 なんでも言うことを聞くっていうのは、とても危険な気もするけど・・・・・・ あぁ、どうしたらいいの、私!? 「と、とりあえずそのワケだけ説明してっ、言うこと聞くか聞かないかはその後で・・・・・・」 「ブ〜ッ、そういう答えはナシです。反則ということで、もっと入れちゃおっか」 「イヤァ〜〜〜ッ、ウソ、ウソよっ! 冗談に決まってるじゃないっ」 「なら、言うこと聞いてくれるんだね?」 「・・・・・・ううっ・・・・・・」 「まりえさん?」 有無を言わせぬような、怜二の口調。 「・・・・・・・・・ハイ・・・」 もう、私半泣きよ・・・っ 何でこんな目にあってるのぉ? 「これ、なんなの?」 「・・・・・・?」 手に何か、角張った硬い感触の物を持たされる。 目隠しされた状態でもわかる、 それは、間違いなく・・・本だと思うんだけど・・・ 「兄さんのインタビュー雑誌。飯島グループの若社長って記事だね、特集組まれてる」 「・・・・・そう、ね。知ってるけど・・・それが」 「何でまりえさんも載ってるの!?」 「はぁ!?」 私も? ・・・・・・私・・・ ああ、そうだ ずっと社長の後ろでインタビューを聞いてたんだけど、最後になって ”秘書さんも一枚お願いしまーす”なんて適当に撮られたっけ・・・ 「あの写真載ったんだ?」 「載ってるよっ! しかもカワイク写ってるっ!!」 「・・・・・・はぁ・・・」 ・・・・・・で? 「どうしてそれでこんな目にあわなきゃいけないの!?」 「へぇ、そういうこと言うんだ。やっぱりわかってない、じゃ、入れるよ」 「や、やだ、・・・・・・んっ、やぁああんっっ!!」 怜二はまりえの意志もお構いなしに、自身を彼女の中に埋めると、顔中にキスを降らせた。そして、口膣内に貪るように自分の舌で犯しながら、ゆっくりと身体を動かしだす。 何も見えない状態での行為は、勿論初めてのことで、混乱といつもより鋭い感覚に戸惑うばかりだった。 「ん、・・・・・・っ、ふ、話を、ちゃんと、おね・・・がいっ、・・・っ」 「話? いくらでも聞いてあげるよ、どうぞこのままで」 そ、そんなぁっ こんな状態じゃ喋れないわよぉ で、でも、とにかくこのワケの分からない状態はいやぁ・・・っ 「確かに、・・・んっ、撮って、もらったけ、どっ・・・あっ・・・っ、社長の、記事のついで・・・っ、おまけみたいな、もの・・・っ・・・」 「ふぅん、まりえさんに対する問い合わせも来てるって言っても?」 「そっ、そんなっ」 「まりえさんは、自分がわかってないっ! オレ以外の知らないヤツにまでこんな笑顔振りまいてるんだっ!!!」 「やあっ、そんな理由・・・っ、ヒド、い・・・っ」 「ホントに、不安で不安で目が離せないよ、オレの気持ちまりえさんにはわからないでしょう」 「ん、んぅ・・・あぁんっ!」 「さぁ、目隠しだけは取ってあげる。しっかりオレを見るんだよ?」 激しい動きの中で、視界が一気にひらける。 目の前の怜二は、思ったよりもずっと鋭い目つきで、辛そうにこっちを見ていた。それを見ただけで、全身が絡め取られるような錯覚に陥り、目眩を起こしそうになる。 「オレの言うこと、一つだけ聞いてもらうから」 「・・・・・・んっ、・・・・・・あ、ああっ」 「いいね? 絶対だよ? 拒否するのはダメだからね!」 口からは言葉にならない声だけが出てきて返事が出来ない。 それに、ハッキリ言って今の話、納得出来ない。 出来ないけど・・・ けど、今の怜二を沈めるには・・・ 悔しいけれど、必死で首を縦に振る。 同時に体を抱え込まれ、更に激しくなった動きに翻弄され、意識が飛びそうになる。 怜二の口が何かを言っている。 でも、よく聞こえない のみこまれて、怜二の感情にも圧倒されて・・・ それから、 何回達したのかわからなくなるほど、怜二は繰り返し身体を求めてきた。 私は、限界の体力と意識の中で、 これ以上ないくらい体を反らし、全身に緊張が走ったと同時に意識を保てなくなり、 そのまま、気を失ってしまった・・・・・・・・・ ▽ ▽ ▽ ▽ 次に目が覚めたときは、既に外が暗くなっていて、自分が随分気を失っていたことに驚いた。日頃の仕事の疲れもたまって、そのままぐっすりと寝込んでしまったらしい。 隣を見ると、ずっと起きていたのか、横になってこっちを見ている怜二と目があう。 「よく寝てたね」 「・・・・・・あ・・・私」 起きあがろうとすると怜二の腕が伸びてきて、それを制する。 まだ何かがあるのかと思い、思わず身体を強張らせてしまう。 「な、なに?」 「もうちょっと・・・、横にいて。何もしないから・・・」 拗ねたような彼の表情に、さっきまでの瞳の色は消えていて、ホッと息を付きそのまま身を委ねることにした。 それに、いつの間にか手の拘束も解かれているようだったから。 「ねぇ、今回のケースは特別だけど、あれだって仕事の一部なんだよ? それなのにあんなにされたら私、納得いかないよ?」 「・・・・・・ごめんなさい」 あまりに呆気ない謝罪。 それに、とても落ち込んだようなその顔・・・・・・ 「オレ、不安なんだ。まりえさんが近くにいないと、どうしようもなく不安になる」 「・・・いつも近くにいるじゃない?」 「・・・・・誰の目にも触れさせたくない・・・・」 ・・・・・・・・・ そんなの、ムリに決まってるのに・・・ 怜二って、時々信じられないくらい、そういう感情を剥き出しにするときがある。 まりえは、一つ溜息をついて、とりあえず話題を変えることにした。 「・・・ところで、さっき言ってた何でも聞くって約束・・・アレって、有効になっちゃってるの?」 「あぁ・・・それはね、当然有効ってことで」 にやり、と今まで拗ねたり落ち込んだりしてた顔が一気に何かを企んだ顔に変わる。 まりえは危険を察知し、身構える。 怜二がこんな顔をするときは、ろくでもない、こっちが思いもよらないことを考えているのだ。 「・・・私に出来ないこと言われても・・・」 「大丈夫。まりえさんにしか出来ないよ」 何だか内容はわからないけれど、とにかくホッと胸をなで下ろした。 無茶なお願いをされても出来るわけがないんだし。 大体、あんな状況で言うことを聞くっていうのも納得いかないけれど・・・ 頷いてしまったのは自分だ。 「なら、聞くけど、私は何をすればいいの?」 「さっき、まりえさんがイク寸前に言ったはずだよ?」 「・・・・・・・・・・・・」 確かに何か言ってた記憶はある。 あるけれど・・・ 「もしかして、トリップしちゃって聞いてなかったの?」 「・・・・・・・・・」 その通りです、なんて口が裂けても言えないわ。 ・・・でも、怜二にはそんな私の気持ちなんてすっかりお見通しみたいで、にやにや笑ってこっちを見てる。あぁ、スッゴイ嫌な予感。 「じゃ、もう一回言うから、ちゃあんと聞いててね」 「ん」 そう言うと、怜二のとろけるような微笑みが視界に広がった。 「結婚、しよ」
第2話につづく
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