○第6話○ トライ・アゲイン






「まりえさん、ねぇ、まりえさんたら、起きて」
「ん〜、怜二・・・なぁに・・・?」
「もぅ、まりえさん、カワイイなぁ・・・」

 耳元で小さく囁き、頬にキスをされる感覚。
 怜二、くすぐったいってば。

「起きないと、このまま襲っちゃうよ?」
「ん〜・・・・・・・・・・」


 ・・・・・・?


 え?


 ちょっと待って

 怜二?



 なんで、怜二の声がするの?


 目を開けると、今まさに覆い被さろうとしている怜二の姿。
 それは、紛れもなくホンモノで・・・

 そして、ここが私の家だと言うことも事実。

 時計を見ればまだ、午前5時をちょっと過ぎたばかり。
 今日は土曜日。
 会社休みよ?

 起きるには早すぎる・・・

 じゃなくてっ!!!

「怜二!? どうやって家に入ってきたの!?」
「ん? ・・・ん〜、ホラ、合い鍵」
「〜〜〜〜っっ!!」

 い、いつのまにっ!?

「でもさ、内鍵かかってなかったよ? 不用心だから気をつけてね」

 うん、そうね

 じゃないって!! 大体ウチには防犯装置とか、そういうのちゃんとしてるのに、何で反応しないの!?

 爽やかそうな顔して、絶対何かやったにちがいない・・・

「なっ、何しに来たのよっ、まさか寝込みを襲う為でもないでしょう!?」
「シ〜ッ、あおいが起きちゃうよ。すやすや気持ちよさそうに寝てたんだから」

 ・・・・・・怜二ってば、あおいの部屋にも入ったの・・・

 誰かどうにかしてよ〜〜っ、この男を〜〜〜っ!!!

「寝込みを襲うのは後でね。オレ、真面目な話があって来たんだから」
「わざわざ忍び込んでするような話なんてあるわけないじゃないっ!!」

 抗議をしても、全然悪気のない顔で、

「まぁね〜、でもまりえさんの寝顔見たかったからさ。大目に見てよ、ね?」

 むしろ、甘えたように擦り寄ってくる。
 そして、口を尖らせて黙っていると、顔を近づけ、

 ちゅっ

 と、軽く音をたてながらキスをされた。
 ビックリして怜二を見ると、嬉しそうに、

「そんな顔してるから、キスしたくなっちゃうんだよ?」


 ・・・・・・ホントにね
 何を言っても通じないというか・・・

「とにかく、話って何? それなりに重要だからわざわざ家にまで来たんでしょう?」
「そうだよ。最重要事項だね」

「・・・じゃあ、どうぞ」

 もう、殆ど投げやりな気持ちで、怜二に話を促す。

 すると。
 怜二は、大仰に頷いた後、急に改まった顔をして、床に正座したかと思ったら、

 三つ指ついて、頭を下げた。

 その姿は、なんだか無駄がなくて、思わず見惚れてしまったけれど、理解不能のとんでもないことをしていることには変わりがない。


「なにをっ・・・!?」
「まりえさん」

「は、はい・・・」


 頭を下げたまま、さっきまでの怜二からは想像できないようなまじめな、低い声で名前を呼ばれる。

 そのまま、一呼吸おいて、




「無理矢理なえっちは二度としません」





 ・・・・・・・・・は?





「絶対に絶対に、幸せにすることを誓います。オレに、幸せにさせて下さい。


だから、どうか、オレと結婚してください」










 ・・・・・・・・・・・・・・・




 なんか・・・これって・・・・・・・・・・・・まさか・・・



 プロポーズ・・・・・・?




 怜二は、そう言ったきり、一向に顔をあげようとしない。
 三つ指ついて、ずっと頭を下げたままで・・・


 え〜と・・・?

 ここは私の家で、怜二は忍び込んできて

 私は寝ていたのを無理矢理起こされた・・・・・・


 つまり、


 それを言うために?




 私が混乱している間も怜二は微動だにしなくて、まるで置物のようになっている。
 このまま放っておいたらずっとこの体勢のままで居続ける気かしら?

 なんてちょっとだけ思いつつ、
 そんな姿が子供みたいで、一生懸命で。



 私は、



 一生忘れられそうもないようなこの状況が、とても怜二らしいと思って、



 許せてしまった


 今までのことも、全部───



 そのうえ、涙が出てくるくらい、自分は幸せだと思った。


 私も相当怜二に毒されてるね。





 それから、

 自分も怜二の前に自分も正座をすると、同じように三つ指ついて、頭を下げる。
 パジャマ姿だということは、この際黙殺することにした。



 そして、



「よろしくお願いいたします」


 静かに怜二の気持ちを受け止めた。


 頭を上げると、怜二の泣き笑いのような顔。
 いや、その瞳からは既に涙がじわりと溢れていた。

 と、同時に勢い良く抱きしめられ、

「やったっ!!! サイッコ〜〜〜ッッッ!!! 愛してる、まりえさん、メチャクチャ愛してるよっっ!!」

 ・・・・・・・・・そのままベッドに押し倒された。

「怜二っ、ちょっ・・・」
「寝込み襲うのは後って約束したからね、約束は守らないとっ♪」

 エ〜〜〜〜〜〜っ!?!?

「今のオレ、誰にも止められないってカンジ」

 極上の笑みで何度もキスをされ、殆ど無意味な抵抗も諦めてしまうと、簡単にパジャマも下着も剥ぎ取られてしまう。

 確かに、今の怜二は誰にも止められないかもね・・・

 頭の片隅で苦笑している自分がいた。



「・・・怜二・・・・・」

 彼の大きな手で胸を優しく愛撫され 繰り返されるキスに、どんどん追いつめられていく。自分を見失いそうになる。
 目が合えば、あまりにも熱っぽく優しい瞳に目が逸らせない。

 いつもいつも、彼からは目が離せない。

 体中を手が、舌が這い回り、その度に大きな声をあげそうになり、必死で声をかみ殺すものの、次第に自分の身体じゃないみたいにコントロールが出来なくなっていく。


「・・・・・・・・・んぅ・・・ん、ん」

「ふふっ、まりえさん、スッゴイかわいい」

 何度も確かめ合うように唇を重ね合わせる。
 唇が離れると、怜二がいつも自分にするように、彼の首筋にキスをして、小さく囁いた。


「だいすき」


 怜二の身体がビクリ、と奮えて、熱っぽい瞳で見つめられる。
 そして、幸せそうにふわりと微笑み、


「オレの方が、だいすき」


 言葉と同時に、彼がゆっくりと自分の中に入ってくる。


 不思議だね
 今日はこの瞬間がいつもより幸せに感じるの

 怜二と私、二人だけど、一人なんだよ


 だいすき

 だいすき


 いつもこれ以上ないくらい想ってる

 たくさん怜二に抱きしめられたい
 それで、私もたくさん怜二を抱きしめたい

 毎日毎日、怜二には驚かされて、きっとその度に怜二を好きになるんだね



 それって最高に幸せかもしれない・・・






第7話につづく


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