『ラブリィ・ダーリン』

○最終話○ いつも二人で(その2)






 だってだって・・・
 一緒に寝るって・・・それって・・・

 おやすみなさ〜い、って寝ちゃうだけの寝る?


 パパは私に親子だけじゃない気持ちがあるって言ったよね?

 もう、今までとは違うんだよね?


 私だって、好きあってる男の人と女の人が一緒に寝て何をするかくらい知ってるし、それは大好きだからするわけで、憧れちゃうくらい素敵なものだと思う。



 そういうことなの?


 だが、歯磨きを終えて戻ってきた優吾の顔はいつも通りで、何を思って一緒に寝たいと口にしたのかは分からない。


 考えすぎだろうか?

 でも・・・・・・

 家出する前日、華は彼のベッドで一緒に眠った。
 しかし、その時と今では状況も気持ちも違うはずだ。
 だったら・・・

 心の中で動揺しまくりのまま、優吾の部屋に入り、ガチガチに緊張しながらベッドの中へ入り込む。
 その後、直ぐに優吾もベッドに入ってきて、隣の彼女を見つめながら何度も何度も頭を撫でてくる。
 華は自分がどうすればいいのかわからず、優吾の顔を見ることができなかったが、彼が自分をじっと見つめていることはわかる。


 み、み、見てる・・・

 どうしよう、こういうときって・・・どうすればいいのっ
 ほ、ホントにそういう事になるのっ!?

 パパってば何で無言なの〜っ!?
 うわ〜〜〜〜ん、何か言ってよ〜〜っ!!!




 だが、そこまで考えてふと冷静になり、自分の気持ちについて考えてみる。


 パパとそういう風になるっていうのはどんなだろう?

 少なくても、イヤじゃないと思う。
 ただ、そう言うこと想像したこともなかった。

 好きって気持ちでいっぱいになって、それだけで精一杯だったからそれ以上の事を考える余裕なんて全くなかったし。


 でも、

 ちゃんと考えれば答えなんて簡単じゃない?

 私は他の誰かは絶対イヤ

 パパじゃなきゃイヤだ



 じゃあ、一体どうすればいいんだろう・・・?








「・・・華ちゃん」

 ドキンと、高まる心臓。

 な、何か、自分から行動をおこせばいいの、かなぁ、
 抱きつく、とか。キスをするとか? 服を脱ぐとか?

 うぅ、誘ってるみたいだよ、それじゃっ
 でも、ホントはどうなんだろう、世間一般で言う女の子はこんな時どうするの!?

 どうしようどうしよう〜〜〜っっ!!!!!

 あ、

 そうだ前に沙耶が何か言ってたなぁ。
 迫られてそれが好きな人なら断れる男はいないとかなんとか。



 ・・・・・・・・・・・・



 だめだって、結局それって私が迫るんじゃん。
 そのやり方が分からないんだってば。

 経験さえ積めば色んなノウハウみたいなのがあるんだろうし、心の準備もそういうのの進め方みたいなのもわかるんだろうけど、迫るって言ったって一体どうやったらいいのか・・・
 

 ってちょっと待って、そもそも私って今迫ろうとしてるの!?


 う〜〜〜ん、わかんなくなってきたぞ。
 え〜とえ〜と、




「おやすみ〜」



「・・・・・・え?」




 ・・・・・・・・・????




 エ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!?



 な、何て? 今・・・何て!?
 私が、こんなに緊張して悩んでいるときに・・・


 おやすみ!?




 横を見れば、目を瞑り、完全に寝る体勢の優吾がいた。
 放っておけばこのまま寝てしまうだろう。


 ちょっと、待って・・・
 コレって何だか

 私って、なに!?


 隣に好きな人がいたら、男の人って何もしないでいられるの!?

 そりゃあ、うお〜って襲いかかるのもどうかと思うけど、あまりにも平然と寝ちゃえるのってどうなの?

 ヒドイ、ヒド過ぎるっ!!!

 さっきまでガチガチに緊張していた癖に、今は寝てしまいそうな優吾に華は腹を立てていた。

「ちょっと、パパ!」
「ん〜」

 目を瞑ったまま返事をする、その姿勢が許せない。
 そう思い、彼の頬をむにっとつねってやる。

「いひゃい〜、華ちゃんなにするのぉ!?」
「なにするじゃないっ、パパ、何でなにもしないのっ!?」
「・・・?」
「私に、何でなにもしないのか、聞いてるのっ!」

 華はどうやら自分の発言の大胆さに全く気づいていないようだ。
 今はただ、何も分かってない優吾に対して無性に腹が立つ。


「・・・・・・・・何か、するの?」
「はぁっ!? するに決まってるでしょ!?」
「・・・・・う・・・、ん・・・」

 優吾は華の剣幕のすごさに、自分は何かを忘れているのだろうかと考え込み、やがて何か思いついたようで、ああ、と一つ頷いた。

 そして、

  彼の顔が近づき華の唇に軽く触れるだけのキスをしてにっこりと微笑むと、

「おやすみのあいさつ♪」

 嬉しそうな彼の顔は『これでしょ?』と云わんばかりに自信満々だった。

 が、

「違うっ!!!!」

 思いっきり華に否定される。


「・・・ち、違うの?」

 とても怒った顔の華を見て、優吾は慌ててもういちど考え直した。
 その後少しして眉を寄せ、小さく首を傾げると、言いづらそうな顔で華を上目遣いに見つめる。


「・・・あのぉ・・・」
「なにっ!?」


「・・・間違ってたら本当にごめんね。これだけは違うと思ったんだけど・・・・・・でも、華ちゃんの言葉から察すると・・・・・・え〜と・・・あぁ、やっぱりこんなこと言ったら軽蔑されるかも・・・」

「いいから言って!!!!」

「う、・・・・・・うん・・・・・・も、もしかしてもしかすると・・・えっちするってこと・・・・・・、言ってるのかなぁ?」

「そうに決まってるじゃないっ!! パパおかしな事聞かないでよっ! どうしてこれだけは違うのよ!!」


 どうしてこんな事を間違うっていうんだろう

 華はもうすっかり頭に血が上って、『するに決まっている』とまで思っていたのだが、優吾は相変わらず呆けたような顔をしている。


「・・・・・・華ちゃん、えっちの仕方知ってるの?」

 挙げ句の果てに出てきた言葉がこれだというのか!?

 一体なにをとぼけたこと言っているのだ!?
 益々優吾の呑気さには呆れてしまう。
 今時の義務教育をなんだと思っているんだろう?

「そんなの、小学生の時に既に習ったよ!」

「ウソ〜〜〜ッ!? 何てコトを教えるんだ、いたいけな子供にぃっ!!!」
「いっとくけど、小学生だってコウノトリが赤ちゃんを運んでくるなんて信じてないからねっ、大体、ちゃんとした知識を与えるんなら、早めに教えておくのは悪い事じゃないでしょう!?」

 一気に捲し立てられ、優吾は目をパチクリさせながら、華の話を聞いていた。
 本当に、華にそう言う知識があったとは思っていなかったようだった。
 自分だってある程度の知識は小学校で習ったとは思うのだが・・・


「華ちゃんって、思ったより、ずっと大人だったんだねぇ。すごいなぁ」

「・・・・・・」


 相手が優吾じゃ、始まるものも始まらない気がする、

 華はそう思いながら、自分はどうすればいいのか、途方に暮れた。
 自分だって、知識はあったって実際どういうものなのかなんてわからないのだ。

 ああ、憧れていたものと現実のギャップに泣きたくなる。




その3へつづく


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