『ラブリィ・ダーリン』

○最終話○ いつも二人で(その4)






 呆然としていた優吾は、下を向き、やがて小さく頷いた。

「わかった・・・ゴメン・・・」

 何がゴメンなのかわからない。
 でも、とにかくその気になってくれたのは嬉しかった。

「・・・あのさ・・・」
「どうしたの?」

「僕も男だから、なんていうか・・・・・・・こんな状況じゃ限界っていうものがあって・・・・・・でもホントに、華ちゃんは初めてだし・・・努力するけど・・・・・・やっぱり無理だと思ったら言ってね」
「ムリなんかじゃないよ」

 パパは何が限界だったんだろう?
 全く意味が分からないけど、イヤなわけがない。
 どうしてそんなことを聞いてくるのかサッパリだ。

 優吾はやっと自分のパジャマを脱ぎ始め、上半身が裸になり、見ると、適度に筋肉が付き、均整のとれた綺麗な体をしていて、思わず見惚れてしまう。
 ズボンを脱ぎ始め、彼愛用のボクサーパンツだけになったとき、華は率直すぎる疑問を口にした。

「なんで、そこだけ盛り上がってるの?」
「・・・・・・男は興奮するとこうなっちゃうの・・・」
「ふぅん」
「・・・華ちゃん、パンツの下は・・・見ない方がいいと思うよ?」
「なんで?」
「・・・・・・とにかく、今日は初めてだし、やめた方が良いと思う・・・」
「そうなの?」
「うん」
「・・・・・・わかった」

 腑に落ちなかったが、仕方なく優吾に誘導されるままに寝転がり、その上に彼が覆い被さってくる。
 キスをして、首筋に舌を這わせる。
 そして、胸を触られて、口に含まれるとまた変なカンジになってきた。

 も、もう私はパンツ脱いじゃったし、何もないんだ・・・
 後は、男の人のアレを、女の人の中に・・・よし、完璧。

 知っている知識をフル活動して、頭の中で筋道を組み立てていく。
 だが、中心を指で触れられたとき、全身に稲妻が走ったかのような衝撃が走り、全てが吹き飛んでしまった。

「・・・んっく・・・っ・・・・・? ・・・・っ、ん、ん」

 溝をなぞるように往復して、その動きのまま、指が一本中へ入ってくる。

「んんんっ」
「・・・やっぱり、キツイねぇ・・・大丈夫かな・・・」

 優吾の言っている意味がわからない。
 とにかく今は、ビリっとした少しの痛みと、何だか経験したことのない感覚がごちゃ混ぜになって考えがうまくまとまらない。
 そして、ゆっくり出し入れしていくうちに、クチュクチュと変な音が聞こえてきた。

「ふぁ・・・あっ、やぁ・・・っ、何・・・ああんっ、や、あ、あ」

 段々と何かが急激に登ってくる感覚。
 それに逆らうことも出来ず、押し上げられていく。

「大丈夫だよ」

 そう言うと、優吾の顔が視界から消えた・・・

 と、思った次の瞬間、足を大きく広げられ、指を入れられるのとは違う別の感触が───


「ひゃあっ、パパぁ、何してるのぉっ!? ああん、やあっ、あ、あ、やだぁぁっ」

 彼は華の中心部に指を出し入れさせながら舌を這わせてきたのだった。
 いやいやと必死で逃れようと藻掻くものの、両足をしっかりと抱え込まれているのでうまく動けない。


「パパッ、やめてよぉぉっ!!」

 あまりの恥ずかしさに涙が出てきた。
 とてもじゃないがこんなに恥ずかしいのは我慢できない。
 優吾は、その様子に顔をあげ、真剣な口調で喋りかける。

「華ちゃん、僕はね、華ちゃんのおしめも取り替えたし、お風呂だって入れたんだ。今更これくらいで、恥ずかしいなんて言わせないよ」

「それとコレとは話が別だよぉ!!」
「華ちゃん!」

 いつになく、厳しい口調の優吾に華の動きが止まる。

「死ぬほど痛いのと、ちょっと恥ずかしいけどいい気分になれるのとどっちがいい?」
「・・・・・・死ぬほど? ・・・・・・それはヤダけど・・・」

 だけど、これもちょっと恥ずかしいなんて程度じゃないよぉ

「・・・大丈夫、すぐに慣れちゃうよ」
「・・・・・・うぅぅ〜〜〜っ」

 慣れるとかそういうもんなの?
 わかんないよ〜〜っ


 華が頭の中で、『死ぬほど痛い』をとるか『死ぬほど恥ずかしい』をとるか考えていると、優吾が再び視界から消えてしまった。
 どうやら、沈黙しているのを了解したものと解釈してしまったらしい。

「ひゃあっ!! うそぉっ!? や、・・・・・・っ・・・んっく」

 だが、最初はジタバタ藻掻いていたものの、そのうちに、さっきよりも大きな波が押し寄せてきて、今度こそ何も考えられなくなっていく。


「やぁっ、やあっ、・・・っく、・・・んぅ、ふぅ・・・・・・ん、ん、・・っ、あああんっ!!」


 どんどん、何かに追いつめられ、

 何かに支配されていく。




 そして、
 頭の中が真っ白になった瞬間、

 クン、と体が跳ね上がり、その後、暫く身体が硬直したようになり、ビクビクと体中が痙攣する。


 やがて、体中の力が一気に抜けて、そのまま身動きもとれず、放心状態のまま宙を仰いでいた。


「・・・・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・・・・?」

 自分に何が起こってしまったのか全く分かってない華は、ただ、荒い息を吐き出すだけで何の言葉も出てこない。



 その時、やっと優吾の顔が目の前に現れ、

「カワイイよ」

 抱きしめられて、キスをされる。
 その感触が気持ちよくて、酔ったみたいにふわふわになる。


 今の、なんだったんだろう・・・?


 何かが一瞬で突き抜けていく感覚。
 あんなの経験したことがない。

 頭の片隅でぼんやりとそんなことを考えていると、

「力、抜いてね・・・そのままで」

 と言われる。

「うん・・・?」

 意味も分からず素直に返事をした時、中心に何か硬いものがあたって、驚きのあまり体を強張らせる。

「大丈夫、大丈夫だよ」

「・・・・・・っっっ!?」

 メリメリと何かが侵入してくる感触に、火花が散ったかと思った。

 コレ・・・

 痛いなんてもんじゃないっ!!!

 裂ける、ムリッ、絶対ムリ、入らないってば!!!



 華の様子を見て、優吾は動きを止めた。

「・・・・・・やめる?」

 その言葉に、華の闘志が目覚め、首をぶんぶんと横に振る。

「や、めなぁい〜〜〜っ!!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・わかった・・・」


 再び入ってくる感覚。
 体中が痛覚になってしまったようで、優吾を掴む手にも力が入る。
 彼の方も、ギチギチと締め付けられ、汗を滲ませながら、少し苦しそうな顔をしている。
 ゆっくりと体を進ませているのに、少し入ってくるだけで全身が燃えるように熱くて痛くてどうにもならない。

 やがて、動きが止まり、もう終わりかと思って少しほっとしていると、

「華ちゃん、ごめん」

「・・・んんんんっ!!!」

 一気に体の奥まで貫かれた。


 ・・・・・・多分、今の私はいつ気を失ってもおかしくないと思う・・・
 あり得ないってくらいの事を、一気に経験してしまったカンジだ。


 だが、正確にはまだ始まったばかり。
 優吾は、痛みで涙を滲ませている華を気遣い、直ぐには動かずに、キスをしたり、宥めたりしている。
 そして、胸のあたりをキスされている間に、ほんの少しだけど痛みが薄れていっていることに気が付いた。

「華ちゃん、ゆっくり力をぬいて、ね?」
「・・・ん・・・パパぁ・・・」

 その言葉に、優吾は首を振る。

「優吾だよ」
「・・・・・・ユウゴ・・・」
「そう、せめて今だけね」


「・・・優吾」



 名前を呼んだだけなのに、何とも言えない幸せそうな、嬉しそうな表情をする。
 今、とても幸せなのだと言わんばかりの・・・



「例えどうなっても、華ちゃんは僕が守るから・・・一生」





 深くキスをされ、ゆっくりと体を動かし始める。

 それは、相変わらず、痛みを伴うものだったけれど、今言われたばかりの言葉で胸がいっぱいになってしまい、こんな痛みなど乗り越えられる気がした。
 それに、優吾のあまりに幸せそうな顔が目について、彼を幸せに出来ているのだ、と思うと我慢できないものではなかった。

 緩やかな動きの中でずっと華を気遣ってくれている。
 それでも彼の息は段々と荒くなって、切なそうに時折甘い吐息を漏らすが、目が合うと優しく微笑んでくれるのだ。

「・・・・・・んっ、華・・・ちゃん・・・っ」

 一際色っぽい声で彼女を呼び、熱っぽい眼差しで見据える。

 こんな目は見たことがない、
 こんな風に乱れて色っぽいなんて知らなかった

 華は、そんな彼を見てるうちに、ドキドキして段々とさっきと同じような感覚が自分を襲い始めたことに気がついた。
 彼の魅力というか、魔力というか、一緒に引きずり込まれそうになる。
 きっと、心と体は一緒に動くものなのだ。

 一瞬で、押し上げられるような感覚。
 でも、さっきのよりもずっとずっと大きい波が・・・


 体がビクビクとひくついてくる。
 優吾も華の変化に気づいたのか、彼女を抱え込んで体をより密着させると一気に動きが加速した。

「んっ、・・・・・・はぁ、・・・・・・っ、ユー・・ゴ・・・・・・ま、またっ・・・」
「・・・だい、じょぶっ、一緒っ、だから・・・・・・っ・・・」



 たくさん、揺らされて、抱きしめられて、

 見つめられて、キスされて、へんになる───



 真っ白いヒカリ
 流されてく、止まらない

 とまらない

 おかしくなっちゃう





 でも、




 ・・・いっしょ・・・だ、か  ら   へ いき ───








 最後に、自分の名を呼ぶ彼の声が、全身を包むように聞こえて、


 それきり、華は眠るように気を失った。















▽  ▽  ▽  ▽



「華ちゃん、朝ですよ〜」

 陽気な声が聞こえても、昨夜の疲れか、単なる朝が弱いだけか、一向に起きる気配がない。
 優吾は仕方なく、パジャマのボタンを外し始める。
 昨夜全てが終わり、眠るように気を失った華の後始末をして、キチンと元通りパジャマを着せたのは彼だった。

 そして、3つ目のボタンを手に掛けたところで、やっと華の意識が戻ってきたようだ。

「ん〜〜・・・・・・ん? 何してるのぉ?」
「何って、華ちゃん起きないからお着替えさせないとでしょ?」
「じ、自分でできるっ!!」

 ・・・・・・な、なんか、この会話前も聞いた気がする・・・気のせいかなぁ・・・


「そう? 起きなかったら襲っちゃおうかと思ったんだけどなぁ」

 その言葉は覿面だったようで、ゆでだこのように顔を紅潮させながら、口をパクパクさせて完全に目が覚めたと言うような顔をしている。

「あははっ、冗談に決まってるでしょ? 早く着替えておいでね〜」

 ぜ、絶対・・・からかわれてる・・・
 結構パパっていじわるだ。

 そんなことを思いながら立ち上がろうとすると下半身がずきずき痛む。

「・・・・・・・・・」

 昨日のことを思い出し、再び顔を真っ赤に染めた。どんな顔をして優吾を見ればいいのか分からなくなってしまう。
 とにかく学校に行かなければいけないので、顔を洗い、制服に着替えてキッチンへ行くと既に朝食の支度が出来ていた。
 食パンとジャム、目玉焼き、ベーコンにコーヒー。
 変わらない食事に思わず笑みがこぼれてしまう。

 そして、優吾がパンにジャムを塗り、それを華に手渡す。

「ハイ、華ちゃん」

 それを受け取り、ちょっと恥ずかしそうにもごもごと食べていると、頬杖をつきながらおきまりの台詞を口にする。

「華ちゃん、おいしい?」
「ん、おいふぃ」


 そう言えば決まって嬉しそうな顔をしてくれる。
 それを見て、私も幸せになれる。


 毎日毎日、一緒にいるだけで、お互い幸せだね。


 とっても、幸せ



「じゃ、いってきま〜す」
「あ、待ってわすれもの」

 華が立ち上がると、優吾が近づいてきて
 軽く唇に触れるだけのキス。


「はい、いってらっしゃい」

「う、うんっ」


 真っ赤になって舞い上がっちゃう私とは正反対に、あんまりにも普通に笑ってるパパ。う〜ん、やっぱり叶わないなぁ・・・

 だけど、
 いつか当たり前のように出来るようになったらいいな。

 そんなことを思い、大人になった自分と今とあまり変わらない優吾の姿を想像する。
 きっと誰から見てもお似合いに違いない、絶対そうなってやるぞと心に誓う。


 見送る彼の優しい微笑み。
 それを背にしながら、彼女はいつも通り、学校へと出かけていった。




2003.5.30 了


あとがきと番外編はコチラから

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