『ラブリィ・ダーリン』

○第7話○ パパの幸せ(後編)







「華ちゃん、華ちゃん」


 いつものパパの声に目が覚める。

 朝・・・?

 目が覚めて、周りを見ると見慣れた自分の部屋。

 あぁ、夢だったのか

「あ、気が付いた。よかったぁ・・・」
「・・・パパおはよう」

 そういうと、優吾は本当に安心したように笑う。

「おはよう。もうビックリしちゃったよ、帰ってくる途中で気を失ったって聞いて」
「え・・・?」

 気を失った?

 私が?

 ・・・・・・・・・


 じゃあ・・・

「怜くんは、どこ?」
「ん? 僕が家に帰ったと同時に”後は優兄の仕事”って言って帰っちゃった」

「そ・・・か」

 時計を見ると、7時20分。

 夢、じゃ・・・ない・・・
 夢じゃなかった


 アレは、パパの恋人だ


「・・・・・・ねぇ、パパ」
「なぁに?」

「パパにとって、私は娘だよね」
「・・・・・・」


 沈黙は、肯定


「・・・そっか、そうだよね」


 優吾を見つめる顔は微笑んでいるのに、それはとても寂しそうで、まるで泣いているようだった。

「華ちゃん」
「私、まだ眠い。もぅ、寝るね」
「あ・・・うん・・・おやすみなさい」




 寝よう、

 もう、何も考えたくない












『僕はね、華ちゃんがいればなにもいらないよ?』

『華も、パパがいればなぁ〜んにもいらないよぉ』






 浅い眠りの中で見た夢は、いつの頃の二人だったのか。


 懐かしい・・・




 そんな想いの中、再び目が覚めて時計を見ると、まだ夜中の1時をまわった頃だった。
 喉が渇き、水を飲もうとベッドから起き出し、キッチンへ行く。

 あ、今日、夕飯作ってないや

 今更ながら、今日自分が家に帰ってから何もしていないということに気が付く。
 だが、食器洗浄機の中に皿が数枚入っていることから、優吾が適当に何かを作って食べたということが分かった。
 昼から何も食べていないというのに、全くお腹が空かない。
 浄水器の水をコップに注ぎ、一気に飲み干す。
 胃の中に冷たい物が勢い良く流れ込んでいく。

 何となく落ち着いたので、部屋に帰ろうとして、ふと、優吾の部屋のドアに目が留まる。


 そのまま、ふらふらと導かれるように、その部屋のドアを開き、中へと入っていった・・・


 部屋の中は閑散としていて、無駄な物がない。
 ノートパソコン1台と、机、ベッドと、それにライトくらいだ。
 華は真っ直ぐにベッドへ向かい、その中で眠っている優吾の寝顔を見つめる。

 その顔はあどけなく、普段でさえ幼く見えてしまうその容貌が、更に幼くなっている。

「最後にするから・・・」

 ポツリと呟き、彼の唇に、自分のをそっと寄せる。
 何度も、何度も。

 その間も、規則正しい呼吸音が部屋に響き、彼が起きる気配はない。

 頬や、瞼、おでこなど思いつくところ全てにキスをして、もう一度見つめた。




 やっぱりパパは、私がいるから結婚できないんだね

 あの女のヒト、パパとずっと一緒にいられないから泣いてたんだよ?

 パパ、分かってるの?


 ・・・分かってるよね・・・・・・



 泣きそうになり、部屋を出ようと思った、その時

 ふと、優吾の目が開いた。



 エッ!?

 どどどどうしよう、変に思われちゃう!!


 だが彼は、目の前の華の存在に気づくとにっこり微笑んだ。
 ・・・かと思ったら、布団をバフバフバフバフ延々と叩き始める。


 寝ぼけてるの、かなぁ?
 顔は思いっきり寝ぼけた顔してるんだけど・・・

 首を傾げてると、

「おいで」

 って。
 ・・・まさか

 一緒に寝ようって事??


 それから、布団を持ち上げ、入りなさい、というように促す。
 華はとても緊張したものの、優吾のふにゃふにゃの笑顔につられて思わず隣に滑り込んでしまった。

 優吾の腕が彼女の体を包んで、ふわりと優しく抱きしめる。
 とても安心できる空間。

「昔は一人じゃ寂しいって、よく一緒に寝てたんだけどねぇ・・・最近はそういうの無くなっちゃったって思ってたんだけど・・・・・・変わってなくて嬉しいなぁ・・・」

 半分寝ているような声で、そんなことを言う。




 涙が出てくる。

 もう、こんなのしてる自体で完全にコドモ扱いだし。
 私が寂しいから来たと思ってるんだ。

 さっきまで、自分が何されてたかも知らないで・・・



「・・・・・・パパ」

「ん・・・」


「ダイスキだよ」


 精一杯の告白。
 届かないキモチ・・・


 だけど、パパは、キュウッて、抱きしめてくれて。

 それだけが、唯一の救いだった。









 次の日


「いってきます」

 と言う華を優吾が玄関まで見送り、学校へ送り出す風景はいつも通りだった。







 ただ、

 再びその場所へ彼女が戻ってくることが、なかった事を除いては・・・・・・















 パパはずっと1人で私を育ててくれた。


 好きな人が出来たって不思議じゃないの分かってる。



 私がいることで、パパの幸せを奪ってしまう
 それは、ずっと前からわかっていたこと

 パパの幸せを奪う権利なんて、私にはないし、それどころか誰より幸せでいて欲しいと思ってる。



 けどね、

 そんなのを間近で見ているなんて、私には、とても出来そうにないよ






 それが、華の答えだった。








第8話へ続く


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