怜くんと一緒にウチまで帰る道のりは、昔に還ったみたいで楽しかった。
ちっちゃい頃の話とか、一緒に遊んだ話とかスゴク懐かしくて。
「今考えると怜くんって、スッゴイ悪ガキだよねぇ」
「なんで? いい子だったよ」
「違うもん、いっつも私に悪いことやらせて、後ろで命令してた悪代官だもん」
「そう、か?」
「そうそう、裏ボスってカンジ」
「・・・・・・」
怜くんは、記憶にないみたいな顔してるけど、ヒドイんだから!
秀一伯父さんの靴の裏に強力な接着剤をくっつけて歩けなくさせたり、おじいちゃんのタキシードのズボンにお尻のトコだけ穴開けたり、おばあちゃんの大切なオルゴールのネジを壊しちゃってまわる人形が小刻みにカクカク揺れるだけになっちゃったりとか、ホントに数え切れないくらいのイタズラをした。
その度に沢山怒られるのは私だけで。
私が怒られてる横で、怜くんは知らん顔で自分じゃありませんって顔してた。
後で私が抗議すると、
『厳しい任務、ご苦労様』
とか言って、にっこり笑って誤魔化されたし。
でも、そのどれもが今は楽しい思い出。
「華は、良い意味であの頃とあんまり変わらないよな」
「? そうかなぁ・・・」
「うん」
怜くんにそう言われると、何だかウレシイ
だって、はじめてだよ? そんな事言われたの
思わず顔が綻んでしまう。
「そう言えばさぁ、あおちゃんって怜くんのこと話すとき、スッゴイコワイ顔するの、なんでだろ?」
そう言うと、ちょっと考えるような仕草をして、
「・・・あおちゃん、って・・・あおいのことか?」
「ウン」
「・・・アイツもカワイソウに、あおちゃんかぁ。今度呼んでやろっ」
怜くんはくっくって楽しそうに笑いながら、頭を撫でてきた。
なんか、面白いコトなんて言ったかな?
「あおいはさ、超シスコンだからまりえさんがオレを好きなの、許せないんだよ。カワイイヤツだなぁ、華にまでオレのことでそんな態度とってるのか〜」
「・・・ふ〜ん」
怜くんは、どうやらあおちゃんのこと好きみたい。
嬉しそうに、喋ってる
でも、
なんか・・・私、わかっちゃったかも
あおちゃんがどうして、私がパパを好きだって気持ち、直ぐに気づいたのか。
どうして、『お前なら道があるんじゃないか?』なんて言ったのか。
・・・そういうことだったんだ・・・
苦しいね・・・・・・
「ん・・・? あれって、優兄じゃないか?」
不意に、怜二が建物の向こうを見ながら、指を指す。
「え?」
華は俯いた顔を上げ、怜二が示した方向を見て、嬉しそうな顔をしたが、一瞬で表情を強張らせた。
二人は既に、華の住んでいるマンションの近くまで来ていた。
車を持つ住人は、地下駐車場へ止めるべく専用の入り口から入るのだが、優吾の車は入り口付近で停車して、その側に本人が立っていた。
しかし、それだけならそんなに大したことではない。
問題は、彼が一人ではない、と言うことだった。
優吾の目の前にいるのは、20代だろうと思われる女性。
遠目からでも、その人物のスタイルの良さは際だち、恐らく美しい顔をしているものと想像できる。
華は、全身に鳥肌がたっていた。
そんな彼女に気づいた怜二は、小声でなだめる。
「華、勘違いしちゃダメだよ。単なる知りあいだろ?」
シリアイ
ああ、そうか。
そうかもしれない・・・
そう、
思いこもうとした瞬間、
飛び込んでくる映像は、華の小さな期待を簡単に打ち砕いた───
優吾の胸に飛び込む女性の姿
それを受け止める腕
泣いているような女性の顔
それを拭う優しい手
再び胸に顔を埋める女性
その背中に回した彼の腕
飛び込んでくる現実
見たくないのに、逸らすことが出来ない
あ あ、 そ う か
そ う いう こ と か ・ ・ ・
暗転。
後編へ続く
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