今日は一段と眠い・・・
起きてから結構時間が経つのにまだ寝ぼけ眼の私は「あふっ」と小さな欠伸をする。
そして、目覚ましの為にコーヒーを一口。
とは言え、お砂糖とミルクはたっぷり入ってるけど。
「はい華ちゃん、どうぞ」
「・・・ありがと」
たっぷりジャムを塗ったパンをパパから受けとる。
パクリと一口。
ボーっとしたまま、もぐもぐと口を動かす。
あ〜・・・・・・、ねむい。
・・・・それに引き替えパパは朝から爽やかだよね。
うらやましい・・・
ふと、妙な視線を感じた。
不思議に思って顔を上げると、目の前のパパがジーッとこっちを見たままで、まだ食事をしていないことに初めて気がついた。
あれ?
どうしたんだろう・・・?
ただ見てるってワケじゃない・・・よね。
ニコニコして、ワクワクして、何かを待ってる、そんな感じだ。
「・・・・・・???」
何が言いたいんだろう?
わざわざそんな顔して自分からは何も言わないなんて、変だ・・・
まだ良く回転しない頭の中、一生懸命考える。
もぐ・・・・・・
もう一口パンを口に頬張った所で、
───あっ、そうか!!!
漸く理解できた私は、今まで何気なく食べてしまったパンをもぐもぐとしっかり味わって、一言。
「うん。今日のパンも美味しいね。それにこのジャム、甘すぎなくてちょうど良い酸味がきいてて、すっごく美味しい!」
「ホント!? よかった〜!!」
パパはボキャブラリーの少ない私の感想でも心底嬉しそうに笑って、やっと自分の食事に手をつけ始める。
それを見た私はホッとして残りを食べ始めた。
実はね、
最近のパパのマイブーム、手作りジャムに手作りパンなんだ。
ジャムは定番のママレードとかストロベリー、ブルーベリーあたりをね。
パンは完全手作りじゃなくてホームベーカリーを使ってるから、材料入れれば食パンが出来ちゃうんだけど、色んな種類を作って試してる。今日は普通の食パンだけど。
「うん、ホントオイシイなぁ! やっぱり手作りっていいね、あったかいよね」
「そうだね」
パパの笑顔につられて一緒に笑っちゃう。
確かに美味しいし、一手間掛かってるから感想だって聞きたいよね。
美味しいって言われるとやっぱりウレシイし。
それにしてもさっきのパパってば・・・
どう? 美味しい? ねぇねぇ、美味しい?
そんな感じで見てるんだもん。
目は口ほどにものを言うっていうけどさ、その通りだよね。
「ごちそうさま」
「は〜い」
先に朝食を食べ終えた私は、自分の食器をまとめて立ち上がる。
パパはもぐもぐしながらその様子をにこにこして見てた。
私は、ただ何となく、ホントに何気なくパパを見ただけだったんだけど・・・
・・・・・・あ、・・・・・・っっ!
びびびッと衝撃のあまり立ちつくしてしまう。
衝撃・・・ウン、衝撃・・・だった。
「どうしたの?」
パパは、立ったまま動こうとしない私に疑問を感じたのか、不思議そうな顔をして心持ち首を傾げて、私を見上げてる。
そう、“見上げてる”んだ。
これっていわゆる“小悪魔な仕草”ってヤツだと思う・・・まず男の人に・・・ましてやパパみたいな人には使わない、程遠い表現だけど・・・
でも・・・
パパの上目遣いって・・・カワイイかも・・・なんて。
“つむじ”以来の衝撃だった・・・
目が逸らせずジーッと見ていると、食べ終わったパパは席を立ちあがる。
あ、目線がいつも通りになっちゃった。
ちょっと残念。
それから、何を思ったのか顔が近づいて。
パパの目が閉じられる所まで、私はバッチリ見ていた。
「・・・・・・っ」
唇にやわらかい感触・・・
あ、甘い・・・ブルーベリージャムの味だ・・・
ぼんやりとそんなことを考えた。
「キスして欲しいって思ってたでしょ」
唇が離れるとパパは自信たっぷりに笑った。
だけど、
「ちがうよ」
「えっ、うそぉ〜!?」
絶対の自信があったらしく、私の返答に動揺してる。
そうだよ、ホントにちがうもん。
そんな風に思ってたんじゃないんだから。
今の様子じゃ、パパには私の気持ち絶対わからないと思うな。
私はね、
パパにキスしたいって、そう思って見てたの。
Copyright 2007 桜井さくや. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.