今日は僕の誕生日だ。
結構前に、『プレゼントに何か欲しいものある?』と華ちゃんに聞かれて、特に思いつかなかった僕は『何でもいいよ』と答えてしまい、それからずっと華ちゃんが悩んでいるのを知っていた。
それからと言うもの、話しかけても上の空の状態があった程で、僕は内心かわいそうなコトをしちゃったな・・・と思いながらも、そんなに一生懸命考えた華ちゃんのプレゼントは何だろうってワクワクしながら今日を迎えた。
そして、仕事から帰ってきた僕が目にした華ちゃんは、フリフリの黒いお洋服に小さなミニのエプロンを着けた、何とも可愛らしい姿でのお出迎えをしてくれたのだった。
「ご主人様、おかえりなさいませ♪」
ニッコリ笑ってぺこりと頭を下げると、そのフリフリのミニスカートががふわりと揺れる。
今の段階で気になることと言えば、“ご主人様”と呼ばれた事くらいだけど、・・・言われてみれば、僕ってこの家の主人かぁ・・・と、深く考える事はなかった。
「かわいいお洋服だね〜、華ちゃんにピッタリだ」
ホントにね、すご〜いカワイイ。
頭には白いレースのカチューシャをつけて、足は膝の上まである黒いニーソックス・・・スゴク似合ってる。
うんうん、何着たって似合っちゃうんだよね。
だけど、
「・・・・・・それだけ?」
僕の反応が不服だったのか・・・華ちゃんはちょっとだけ笑顔を引っ込める。
「え? ・・・う〜んと・・・、あ、それ僕に見せる為に着てくれたんだよね?」
「うん。恥ずかしかったけどね、沙耶が絶対似合うからって・・・」
「へぇ、沙耶ちゃんが選んでくれたんだ〜、見る目あるね、ホントにすっごくかわいいよ」
「そう?」
「うん、華ちゃんってレース似合うんだよね〜」
思えば小さな頃は、そういう服をいっぱい持ってた。
まるでお人形さんみたいな華ちゃんには何を着せても似合ったけど、フリルのついたお洋服は特に似合ってたんだ。
「・・・・・・ね、パパ」
「なぁに?」
「パパは・・・メイドさんって知ってる?」
「え? ・・・うん、知ってるよ。宗一郎さんのお屋敷にいるでしょ? 華ちゃんも知ってるじゃない、ホラ、フミさん! あそこには何人もいるもんね」
フミさんは湯川家の一番古い使用人頭。
てきぱきソツなく動いて、あぁプロだな・・・っていつも思う。
「・・そ、それは、間違ってないけど・・・・・・っ、確かにそうなんだけど」
「うん?」
「・・・・・・・・・じゃあ、パパ・・・・・・ホントにわからないの?」
───は?
僕は知ってると言ったはずなんだけど・・・
何をわからないって?
きょとんとしてると、華ちゃんは『やだ〜、そうなんだぁ』ってちょっとだけ頬を染めて笑う。
「もぉ、な〜んだ、沙耶ってば“覚悟しといた方がいいよ、優吾さんに絶対襲われるから”なんて脅かすんだもん。パパが知らないんじゃ、コレ着たって興奮するわけないのにね」
どういう事だろう?
僕が襲う? 興奮するわけない?
「その服・・・何か意味があったの?」
「イイのイイの、気にしないで。・・・あ、そうだ、ご主人様♪ お食事になさいますか? それとも、お風呂になさいますか?」
なんちゃって〜、あはははっ、って・・・。
う〜ん・・・気になるっ
華ちゃんは一体何をやろうとしているんだ!?
・・・・コレって『おかあさんごっこ』に似てるとは思うんだけど。
あの遊びに出てくるおかあさんって言うのは、帰ってきたおとうさんに対してこんな質問をするよね・・・
でも・・・多分違うね、ウン・・・ソレだけはわかる。
これは僕の誕生日の為に華ちゃんが考えたものなんだ、きっと何かスゴイ意味があるに違いない。
僕は隠された何かを探ろうと懸命に頭を捻った。
「・・・・・・じゃあ・・・えっちしようかな」
「・・・へっ」
───って、エロオヤジか僕は・・・っ!??
頭捻って出てきたセリフがコレって・・・っ、僕って最低・・・・・・っっ!!!!!
襲うとか興奮とか言うから、てっきりそういうの期待されてるのかと思ったけど、いくらなんでもこれは・・・・・滅茶苦茶自己嫌悪・・・っ
ヘンタイって言われたらヤだなぁ・・・はずかし〜
「・・・・・知らなくても、えっちな気分になるものなの?」
「───え?」
「あ、ううん。・・・エート・・・はい、かしこまりました♪」
華ちゃんはほっぺをほんのりピンクに染めて、ペコリと頭を下げた。
うそっ、なんで!?
ホントに華ちゃん、どうしちゃったの?
そんな僕に気づいた所為だろうか。
華ちゃんは『ちょっとだけ教えてあげる。じゃないとつまんないもんね』と、耳元で内緒話をするみたいに小さな声で・・・。
「あのね、パパってば誕生日プレゼント何でも良いって言ったでしょ? だからね、何でもして欲しいコト、聞いてあげようって思ったの。この格好はね、そういう意味を込めて着たんだよ?」
・・・・・・何でも・・・・・・って・・・
普段使わない言葉遣いや、このカワイイお洋服にはそんな意味が隠されていたのか。
僕は、なんてスゴイプレゼントなんだ!!! と、もの凄く感動してしまった。
「じ、じゃあ・・・まず・・・お帰りなさいのキス、してくれる?」
「はいっ♪」
あくまで“僕の言うことを何でも聞く”という姿勢を崩さずとっても良い返事をする。
普段は僕からするし、キスしてって言うとちょっとはにかんだりするのに、華ちゃんにとってコレって予想済みの展開なんだろうか・・・
僕はキスしやすいように屈んで、華ちゃんは背伸びをしてちょこんと可愛くキスをしてくれた。
「寝室に行きますか? ご主人様♪」
にこっと微笑む華ちゃん。
うわあぁ、かわいすぎる・・・・・・・・・っ
色んな想像をしてしまう僕は間違ってるだろうか・・・っ
だけど、もう色々考えすぎて心臓がおかしくなりそうだよ。
考えるだけで呼吸困難に陥りそう・・・
「おカバン、お持ちしますね♪」
「あ・・・っ、ありがと・・・っ」
っていうか・・・
・・・ホ・・・・・・ッ、ホントに・・・、イイの?
し・・・知らないよ?
言い出しっぺは華ちゃんなんだからね?
未だ信じられない気持ちを抱えながら、僕は華ちゃんのフリフリミニスカートからすらりと伸びた足をジッと見つめる・・・
ごくん、思わず喉が鳴った。
だって、何でもって・・・何でも・・・だよね?
「何でもお申し付けくださいね、ご主人様♪」
「・・・・・・っっっ」
・・・・・・この理性の糸は・・・・いつまでもつかな・・・
頭の隅に僅かに残った冷静な自分が、そう言っているのを聞いたような気がした。
───後日、
僕は華ちゃんの格好がメイドを意識した服装だと知り、それに関するマニアックな知識を得たんだけど・・・(実は高辻くんから教えてもらったんだ。何で知ってるんだろう? それとも、知らない僕の方が変なのかな!?)
そう言えばメイドさんがどうこう言ってたな〜なんて思い返したりして。
同時に、知識なんてなくたって、充分ソレらしい事をしてしまった事に気づかされた。
だって、華ちゃんは最後の最後まで『ご主人様』と言い続けてて。
何だか分からないけど、僕はいけないコトをしているみたいで無性にドキドキしながらも、すっかりソレに乗せられちゃったんだから・・・
密かに、来年も同じプレゼントがいいな、
・・・なんて思ってる事を知ったら華ちゃんはどう思うかな。
Copyright 2007 桜井さくや. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.