『TWINS』より
待ちぼうけの恋人 |
最近愁くんにちゃんと会えない。 前よりバイトを増やしてるみたいで全然かまってくれない・・・ 夕食は沙耶さんと智くんと3人で食べた。 ママは相変わらず仕事大好きで帰りも遅いからわたしは海藤家におじゃましてるけど、そこに愁くんはいない。 おとなりさんだし、学校も同じだし、全く会えないってワケでもないけど、学年が違えば休み時間ごとに会うってワケにもいかない。 いつもは朝も一緒で帰りも一緒だったのに、愁くんはよりによって朝にも夕方にも夜にもバイトを入れちゃったから通学も下校も一人だ。 智くんは相変わらず生徒会で忙しいから一緒はムリだし、第一、智くんと二人きりになると愁くんの機嫌が悪くなるからなるべく二人にならないようにしてるし。 今は夜の10時─── ママはまだ帰ってこない。 最近は午前様になるコトも多いから、かなり忙しいんだと思う。 家の中はテレビをつけないとシンとして寂しい・・・ 愁くんとまともに会えなくなって何日経ったんだっけ? いち、にぃ、さん・・・と指折り数えて、二週間も経っているコトにビックリした。 部屋の窓から家の前の道路を眺めて、まだ愁くんが帰ってくる気配がないコトに肩を落とす。 ・・・なんか・・・こんな風に窓から見てるのって監視してるみたいでヤだな・・・ だけど・・・愁くんが悪いんだから。 すこしくらい時間つくってくれたっていいのに・・・っ それに・・・っ、疑うワケじゃないけど居酒屋のバイトとか言ってホントは、・・・ホ、ホストとか・・・・・・やってたり・・・しないよね? だって愁くんなんだもん! 愁くんなら出来そうな気がしてっ、・・・だって、放っておいても女のヒト寄ってくるし・・・そういう仕事させたら天才的なチカラを発揮するんじゃないかとか。 「・・・・・・っ、やだっ!!!」 わたしはコートを手にとって、自分の部屋から急いで出た。 こうなったら家の前で、愁くんが帰ってくるまで待ってるんだから! ───と、意気込んだものの・・・ それからどれくらい経ったかわからないほどわたしは愁くんの家の前に立っていた。 だけど、立ってるだけっていうのは結構疲れるから、行儀悪いけど門の前に座り込んで愁くんを待つ。 こんな時間だし誰も見てないよね。 一体どれだけ待たせるのっ なんて、約束もしてないのにちょっと怒ったりして。 「・・・はぁ・・・っ」 大きな溜息ばっかりさっきから吐いてた。 「あれ? どうしたんだ、リン?」 「きゃっ!?」 不意に上から降ってきた声に驚いて立ち上がる。 「愁くん!」 そう、愁くんだった。 待っていた癖によっぽどボーっとしていたのか、こんな近くまで来ても全然気がつかなかったわたしって一体・・・ 「何だよ、こんな所に座り込んで」 「・・・べっ、べつに」 「オレを待ってたの?」 「ちっ、ちがう。ママを待ってたの・・・っ」 そうだよって言えばいいのに、わたしってカワイくないかも・・・ けど、 「オレんちの前で?」 言われて顔が真っ赤になったのがわかった。 ヒトの家の前で自分の母親を待ってるなんて言い訳にもならない。 「・・・・・そうだもん」 「ふぅん?」 愁くんはにやにや笑ってる。 すっごい恥ずかしい・・・ 「なぁ、リン、どうせなら一緒に琴絵さん待とうか」 「え?」 「母さんに断ってくるからリンは自分の家で待ってて、すぐ行く」 「・・・あっ」 愁くんは返事を待たずに家に入ってしまった。 ホントにピュウって風みたいに素早く。 わたしは言われたとおりに家に戻って、コートを脱いで暖房を入れて。 少ししたら愁くんはやってきた。 「もしかして結構久々かも、リンの家」 そうだよっ、2週間もまともに喋ってないんだからっ! 口に出せず、心の中で叫んでみる。 「あ、そうだ。リン、ちょっと手ぇ出して」 「なんで?」 「いいから」 急かすように言われて素直に手を出すと、愁くんの大きな手がわたしの手をきゅって握り締める。 途端に愁くんの顔が険しくなった。 「・・・・・・、すごい冷たくない? いつからあんな所で待ってたの?」 「・・・・・・っ、いつからって・・・・・・ほんの2、3分だよ」 「ウソつくな」 一瞬怒ったような顔をして・・・愁くんはギュッとわたしの身体を抱きしめた。 「・・・悪かったよ」 「愁くん・・・」 「最近ちゃんと会ってなかったもんな」 「・・・バイトばっかりなんだもん」 「ごめん」 「・・・夜だってこんなに遅くて・・・っ、朝だっていないしっ」 「うん」 「だから・・・っ、会いたかったの!」 涙混じりに叫んで愁くんの口にキスをする。 すごく久々で胸が苦しかった。 「・・・・・・そっか」 そう呟くと、愁くんはまたギュッと抱きしめてくれた。 胸の中は暖かくて自然とホッとして落ち着く。 わたしは愁くんがいないとこんなに不安定になっちゃうんだよ。 寂しくて寂しくて子供みたいに泣いちゃうんだよ。 「リン、そこ座ろう」 「・・・うぇっ・・・っ」 返事すら出来なくて、わたしは愁くんに促されるままソファに座った。 愁くんはずっと抱きしめてくれて、その温かさに少しずつじんわりと身体も心もあったまる・・・ だけど、その温もりはあまりに久々過ぎて、確かめるようにもっと強く抱きついた。 「愁・・・くっ」 「うん?」 「ホントに居酒屋でバイト?」 「そーだよ」 「ホントにホント?」 「だから何回も言ってるじゃん、何でウソつく必要あんだよ」 「・・・うん、・・・・・・あの・・・じゃあ・・・ホスト、とか・・・しないでね?」 「ははっ、そんな事考えてたのか? ばかだなリンは」 頭をくしゃくしゃに撫でながら、愁くんは呆れて笑う。 我ながらちょっと恥ずかしかった。 「リンは寂しがりやだなぁ・・・・・・・・・ま、家に一人じゃ当たり前か」 愁くんはまるで独り言みたいに呟いて、わたしはその声に酔っていく。 身体がふわふわして頭の芯がぼやけて・・・・・・ 「寝て良いぞ、側にいてやるから」 「・・・ん・・・・愁・・・く・・」 「おやすみ、リン」 やわらかい感触がおでこにあたって、益々ふわふわ・・・ 折角久々にこうしているのに・・・っ、もっと話したいよ・・・・・・ 頭のどこかで思ったのを最後に私はあっさりと意識を手放してしまった。 愁くんは約束通りずっと朝までいてくれた。 起こされたのが愁くんだっていうのにはビックリしたけど、朝一番で愁くんに会えたのはすごく嬉しかった。 でもね、バイト減らすって言ってくれたのは嬉しいんだけど、理由が『欲求不満になるから』は無いと思うんだよね。 愁くんらしいけどさ。 Copyright 2006-2010 Sakuya Sakurai. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.
|