沙耶母さんのお友達







 ぴん、ぽ〜ん。


 それは、母さんの中学からの親友が来た合図だった。

 自分の家のチャイムなのに、心なしか弾んで聞こえるのは、もしかして、押している人間の性格というものが現れるんだろうか。


「いらっしゃ〜い♪ あらぁ優輝くんも来てくれたの? 相変わらずカッコイイ顔しちゃって、前より男前があがったんじゃない〜? ・・・え? まぁあっ、美味しそうなケーキねぇ、一緒に食べましょ。さぁさぁ、あがってあがって」

 普段の母さんとかけ離れたテンションで、玄関から聞こえてくる楽しげな声。
 その声はリビングでくつろいでいたオレの所にも渡ってきて、次第にその声が近くなってくる。


「羨ましいわぁ、ウチなんて一緒に出かけようって言っても誰もついてきやしないわよ〜。優輝くん親孝行ねぇ・・・・・・あら、愁、家にいたの。ご挨拶しなさい、華と優輝くんが来たのよ」


 ガチャリとドアを開け、部屋の中にいたオレを発見した早々この台詞。

 ・・・・・・なんつう言い種だ、オレが家にいたら悪いのかよ。

「ドモ」

 オレは小さく頭を下げて、母さんの親友である華さんを見た。

「愁くん、久々だね〜。ちょっと大人っぽくなった?」
「そ? 華さんは相変わらずカワイイね」
「コラ! またそんなこと言う! アンタは馴れ馴れしいのよ!!」
「だってホントのことじゃん。母さんもちょっとは見習いなって」

 一瞬グッと詰まる母親。

 げげ。
 華さんみたくなりたいとかって思ってんのか?
 絶対ムリ、・・・頼むからそんなん考えるのやめとけよ。

「愁くん、沙耶はね〜、こう見えてもパパの前じゃカワイイんだよぉ?」
「うげ、やめて。・・・ってか、パパってダレ? 親父のこと?」
「そうだよ〜」
「親父ねぇ・・・うわ、変な想像させないでよ、ウチはさ、華さんちみたいにダンナといつまでもラブラブじゃないんだよ。そんなのありえないって」
「え〜?」

 きょとんとして目をパチパチ。

 うわ、マジかわい〜んだけど。

 仕草一つをとって見ても、大事にされてんだなって分かる。
 一々スレてないんだ。


 ───う〜ん、・・・

 華さんはメチャメチャ若いしカワイイよ。
 ホンワカ癒し系な性格も二重マル。
 っつぅか、母さんと同い年?

 うそだろって思うけど・・・


「優くん、愁くんにご挨拶は?」

 にっこり笑いながら、華さんが隣の息子に促す。

 ・・・・・子持ちなんだよなぁ・・・・・・

 目の前のコイツ、優輝はオレと同い年。
 更にはなんと、コイツの2コ下に妹がいるらしい。
 つまり、リンと同い年だ。会ったことないけど。
 彼女の小さな身体で、2人も産んだなんてとても想像しがたいものがあるが、事実なんだから仕方がない。


「ひさしぶり」

「あぁ」

 優輝は、彼女の息子とは思えない程無愛想に挨拶をする。
 滅多に笑顔なんて見せないんだ、コイツは。

「オレの部屋来る?」

 母さんと華さんの2人の時間を邪魔しちゃ悪い。
 そう思って優輝に打診の意味を込めて聞いた。

「・・・そうだな」

 オレの考えを理解したらしい。
 小さく頷いて、部屋に向かうオレの後についてきた。








▽  ▽  ▽  ▽


「オマエ相変わらず無愛想だな〜」

「・・・・・・」

 部屋に入るなり言ったオレの発言に、優輝は無言で返した。
 ・・・難しいヤツ。

「華さんは相変わらずカワイイし。・・・ってか、オマエ何でついてきたの?」

「・・・別に。・・・愁、あんまり華に馴れ馴れしくするな」

 オレの質問には答えず、優輝はギロリと視線を向けて一言。
 それにしても、息子が母親を呼び捨てにするのってどうなの?
 何度聞いても変な気分。

「へ? ・・・なんで?」
「なんでもだ」

 なんでもだって言われてもさ。
 今更この性格は変えられないでしょ。

「んなコワイ顔すんなって、部屋入るなり何だよ、まるでオレを牽制するためについてきたみたいだなぁっ」

「・・・・・・・・・」

 微妙に顔を顰め、嫌そうに眉を寄せる。

 えっ、大当たり!?
 じ、じゃあ・・・もしかして、コイツ・・・・・


「なんだよ」

 ふぅう〜んっ、そういうこと。
 面白そうな展開だなぁっ♪

「なぁなぁ、華さんってダンナと今でも仲良いんだろ?」
「・・・・・・」
「だったらあと何人か弟か妹が出来たりしても不思議じゃないよな〜っ」
「・・・・・・・・・・・・」

 うわ〜、スッゲ〜恐い顔♪♪
 やっぱ思った通りだ、お〜も〜し〜れ〜〜っ

 優輝はふてくされてそっぽを向いてしまった。
 こんな事言ったら怒るだろうけど、何かカワイイヤツなんだよなぁ・・・ついついいじめたくなるんだ。

 ま、あんまり追いつめるのもカワイソウだし、話題転換してやるか。

「そういえばさ〜、オレ、彼女出来たんだ、誰だと思う?」

「・・・知るかよ、お前のことなんか」

「冷たいこと言うなよ。優輝も会ったことあると思うんだけど」

「知らない」

 アッサリ降参するなよ〜、つまらないじゃん。
 ま、い〜けど。


「リン、憶えてない? 肩くらいまで髪伸ばしたカワイイ子」

 自分の彼女を紹介するのに妥当な言葉かよくわからないけど、カワイイッてのはオレの主観だけじゃなくて、客観的意見からしてもそうだと思うし。

「・・・・・・リン・・・・・・・・・って、智の彼女だろ?」
「憶えてんじゃん、今はオレの彼女なんだ」
「・・・ふ〜ん、双子って女の趣味まで似るんだな」
「なにソレ、リンは特別だよ、大体智とは顔がちょっと似てるくらいだろ〜! 他は全然似てね〜よ!!」
「オレから見れば同じだ」

 コ、コイツめ・・・なんって性格悪いヤツなんだ・・・っ!
 もしかしてさっきいじめたの根に持ったのか!?

「とにかくさ、そういうこと。優輝は? 彼女いんの?」

「・・・・・・・・・いないけど」

「だろうなぁ・・・」

「なに納得してんだよ」

「いや、別に〜」

 だって、華さんが基準だろ〜?
 いないだろ、そりゃ。

「でも、セックスくらい経験あるんだろ?」
「・・・・・・ない」
「えっ、マジっ!?」
「・・・誰かれ構わずヤッてたお前と一緒にするなよ」
「そりゃあそうだけどさ〜」
「オレは好きでもない女をどうこうしようとは思わない」

 うん、まぁ、そうだよな。
 好きな子以外とヤリたいってのは今のオレにも無いしさ、昔のオレの方が異常だったわけだし。
 ただ、優輝モテそうだから、経験あるかなって思ったんだけど。

「そういえばさ、優輝の妹って会ったことないけど、華さんに似てるの? カワイイ?」
「全然似てない。父親似、カワイくない」
「ふ〜ん」
「性格は男勝りだし、女の子からラブレター貰ってくるんだ・・・アイツ、自分を男と思ってるのかもしれない・・・」

 おいおい。
 そんなまじめな顔していう台詞じゃないだろ、いくら何でも自分の性別くらいわかるって。

 優輝って結構天然だなぁ


「ま、さ。イロイロ大変そうだけど、がんばれよ!」
「? 何言ってんの」

 こういう素っ気ない態度とかさ。
 マジでオレは面白かったりするし?

 家ではダンナさん、華さんの事めちゃめちゃ愛してるって話は母さんから何度も聞かされた。
 優輝はカワイソウだけど、華さんはどう考えたって無理でしょ。
 このままじゃ、どんどん面白い話に転がってくよ?

 別にそれを期待してるわけじゃないけどさ〜


「・・・オレ、今愁のこと、一瞬悪魔に見えた」

「はは、気のせいだろ」


 まぁ、天使でもないけどな。


「・・・・・・・・・お前って、考えてること顔に出るって気づいてないのか? スゴイ、楽しそうな顔してるぞ」

「そうかぁ? オレはいつも楽しそうだぞ」

「・・・・・・・・・・・・」


 暖かく見守っててやるよ。
 懐のでかい男だからな、今のオレはリンがいるし。


 ガンバレ、優輝!!





 そうか、オレは思ってることが顔に出る質なのか・・・
 用心用心。





2005.3.15 了
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