『TWINS』

○第11話○ 彼女を捜せ【後編】







 少しでも乱れた荒い息を吐き出しちゃいけない。
 それだけで相手に見つかってしまう。
 苦しいけれど、今音をたてると言うことは、身の危険を増大させる事に繋がるのだから。

 公園の中まで追ってきた二人組が遊具の方で何やら話している。
 鈴音は、木の陰からそうっと彼らの様子を窺った。

「どこ行った」
「わかんねぇ・・・でも、まだこの辺だろ、どこかに潜んでるぜ。あんなカワイイ子逃がす手はねぇぞ」
「絶対捕まえてやる」
「超楽しみ〜〜♪」


 今度は二手に分かれてこの辺りを捜すつもりらしい。
 まさかこんなに執拗に追いかけられるとは思いもしなかった。

 彼らは鈴音を捕まえて一体何をするつもりなのだろうか。

 ・・・・・・・・・考えただけで背筋に悪寒が走る。

 懸命に息を整え、だが、下手に動けば見つかってしまう恐怖でその場から離れられない。
 けれど、このままではそれも時間の問題。

 どうしようか、とそればかりを必死で考えた。





 ───と、


 その時、



「っ!???」


 背後から手が出てきて、鈴音の口元を押さえつけられた。

 ついに見つかってしまったという絶望と恐怖の中、それでも逃げようと藻掻くが、口元だけではなく身体も後ろから抱え込まれ、身動きがとれない。



「・・・っっっう・・・っ!!」

「静かにしろ、見つかるだろ」


 耳元から聞こえた声にピタッと鈴音の動きが止まる。

 同時に口元の手が外され、弾かれたように後ろを振り向くと、そこにあったのは辺りを窺っている愁の横顔だった。


「・・・愁、くん」

「行くぞ」

 鈴音の手を引き、音をたてずに場所を移動する。
 だけど、向こうの方で何かを言いながらまだ鈴音を捜しているらしい男達の声が聞こえる。

 愁は怯えた様子で震える手をしっかりと握りしめ、前を向いたままぐいぐいと引っ張っていった。
 自分たちがどこを歩いているかなんて考える余裕などはなかったが、次第に男達の声も遠ざかり、全く聞こえなくなると二人の緊張も少しずつ解けてくる。







 それから、

 公園を抜けて延々と歩き続けた後、いきなり愁が立ち止まった。


「お前、バカか!? 何やってんだよッ」


 愁の怒鳴り声。
 だけど、その目が心配したんだぞって、本気で思っているのが伝わって。


「・・・うえっ・・・えっ」

 安心して、涙が止まらない。
 恐かった、本当に恐かった。

 鈴音は愁に力一杯抱きついて、嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる。
 その様子に、愁は、はぁ〜っと安心したように息を吐き、彼女の肩に腕を回し自分に引き寄せる。

「もう大丈夫だから泣くな。とにかく家に帰ろう」
「うぅ、動けない〜」

「・・・はぁ!?」

 見ればすっかり腰が抜けたようで、足がガクガクして立っているのがやっとの状態の鈴音の様子。
 愁は無理もないかと苦笑して、どうしたものかと思案を巡らした。

「・・・じゃ、どこか店に入って落ち着くまで休もう。どっちにしても家に連絡は入れないといけないから」
「・・・うん・・・っひっく」
「皆、心配してんだぞ? まったく・・・・・・」

 動けない鈴音を軽々とおんぶして愁はブツブツ言いながら歩いていく。


 大きな背中。

 それがとても安心する空間で、自分が今、安全な場所にいるのだということがとても幸せだと思った。


「・・・・・・ど、どうしてわたしがあそこにいるって分かったの?」

「ん、リンを捜してたら追いかけられてるのが目に飛び込んできて。やばいな〜って思ってたら公園に入っただろ? で、リンを見つけた」
「・・・でも、真っ暗だったのに」

「何年一緒にいると思ってんだよ。リンの隠れそうな場所くらい大体の見当はつくだろ。アイツらやっつけてもよかったけど、下手に凶器とか持ってたらイヤだしなぁ、オレ痛いのキライだし・・・」

 最後の方はブツブツと言い訳のように呟いているが、鈴音の居場所ならわかると、当然のように言った愁。

 それが嬉しくて堪らない。
 ちゃんと見つけて助けてくれた。
 心配して捜しに来てくれたのだ。

 嬉しくて後ろから愁を抱きしめる腕に力を込めた。


 だが、
 愁は困ったような情けない声で鈴音を窘める。


「あんまりそういうのするなよ。オレ、堪らなくなっちゃうだろ?」



 ・・・・・・なんだか、

 今しかないような気がした。


 こんなに近くにいて、彼に気持ちを伝えるのは今しかないと思った。
 きっと今ならちゃんと聞いてくれる。
 ちゃんと伝えられる気がする。


 鈴音は意を決して、彼の耳元に口をつけて囁いた。


「・・・愁くん、好き」

 ビクリ、と愁の背中が波打つ。
 それを確認して、もう一度。

「愁くんが、大好きなの」

 ぎゅうっと抱きしめ、彼の耳元に顔を埋める。
 そのままの姿勢で何度も何度も大好きだと言った。

 愁は黙り込み、やがて一呼吸置いてから戸惑ったような声で聞き返してきた。


「・・・それって、オレが好きって事?」

「うん」

「恋愛感情って思ってもいい?」

「うん」

「・・・・・・・・・」


 再び黙り込む愁。

 彼が何を考えているのかは分からないけれど、鈴音は後ろから回した腕に力を込め、彼の首筋にキスをしてみる。
 案の定、愁の身体はビクンと波打ち、身体全体が硬直して動かなくなる。

 愁は、背中から彼女を降ろすと、ぎこちなく振り返り、鈴音を見つめた。

 まだ信じていいものかいけないものか、複雑な表情をしている。
 それを理解すると、鈴音は自分から彼の唇に自分のを重ねた。

「・・・っ」

「愁くん、好き」

 もう一度気持ちを伝えて、目の前の彼をじっと見つめる。
 愁は瞬きひとつせず、呆然としたままだ。



 しかし、


「・・・・・・やべぇ」


 と一言。


 それが彼の感想なのだろうか?

 何だかよく分からなくて首を傾げると、突然ネジが回りだしたようにぎゅむっと抱きしめられた。


「もっかい、もっかい言って!!」
「う、うんっ。・・・愁くん、好き、大好き」
「やっべ〜〜っ、もっかい!!」
「大好き、一番好き」
「〜〜〜〜〜〜っっ、マジかよ〜〜っ!!!」

 もう、じっとしていることが出来ないらしく、足をバタバタとばたつかせ、鈴音の腰に腕を回すと、一気に彼女の身体を持ち上げて、グルグル回り出した。

「ひゃあっ、目が回るよぉ」
「ぜって〜離さね〜っ!! ウッソみて〜!! も〜、オレ我慢できねぇよ!」

 愁は彼女の胸に顔を埋めてグリグリと頭を押しつける。

「やんっ、愁くん、ちょっとぉ!」
「ホテルいこ、ホテル、ホテル!!!」
「え〜〜っ!?」
「レッツゴ〜ッ!!!」

 超ハイテンションで、愁は鈴音を抱きかかえたままダッシュし、通りすがりの公衆電話で鈴音が見つかったと適当に伝えた後、実に素早く、殆ど考える暇を与えずにホテルに直行していった・・・・・・・・・





第12話へ続く


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