『TWINS』

○第12話○ 両想い【後編】







 ───もう深夜3時をまわっていたかもしれない。


 そんな中、愁と鈴音は見た目仲良く寄り添って歩いていた。

 ・・・・・・そう、見た目は。


「や〜、もぅ信じられないッッ、愁くんのバカ〜〜〜ッ!!!」
「へいへい、文句言ってないで早く帰らないと怒られるぞ」
「どうせ怒られるのは分かってるもんっ! 話逸らさないの!」
「だってしょうがないじゃん、たまってたんだから」
「いや〜〜〜〜っ、もう最低〜〜っ!!」

 顔を真っ赤にして愁の肩をポカポカ叩き、繋いだ手を振りほどこうとする。
 だが、手が離れた瞬間、フラフラとして地面に座り込んでしまいそうになり、愁はそんな鈴音の体を慌てて抱え直す。

「だから離れたらだめだって言ってるだろ、一人じゃ歩けない癖に」
「誰がこんなにしたのよぅ、あんな時間ギリギリまで・・・あんなっ、あんなっ」

 先程の事を思い出した鈴音の顔が赤くなり、それを振り払うように首を横にぶんぶん振り回す。

「あんな、何? 時間ギリギリまでしなきゃ勿体ないじゃん。若者は挑戦しなきゃな」
「そんなのに挑戦しないの〜〜っ!」

 腕を振りほどきたいけれど振りほどけない。


 あれから、もう帰るのだろうと思っていた鈴音の気持ちとは裏腹に、愁は時間いっぱいいっぱいまで頑張り続けた。

 『足腰立たない』、
 というのは正にこういうことを言うのだ、と理解した鈴音だったが、自分よりもあんなに動いていた愁がまだまだ元気極まりなくて、ケロッとしているのが憎らしい。
 鈴音は愁の助けがなければフラフラで歩けないというのに。

「あぁ、お腹空いたよぉ」
「まぁ、あれだけヤればなぁ・・・」

 うんうんと頷きながらニヤリと笑う愁は本当に楽しそうだ。

「そうじゃないもんっ、お昼から何も食べてないからなんだからっ! 大体お金持ってるなら何かおごってくれたっていいのにぃ」

「別に良いけどさ、今から行くか?」
「もういいっ!」

 膨れてそっぽを向いた彼女を見て、愁は更に嬉しそうに笑った。

「リンも悪いんだぞ? オレに告白なんかするから、『愁くん、好き、大好き』って。思い出しただけでたまんねぇ、も〜、そうならそうとちゃんと言ってくれよって感じだよなぁ!!」

 子供のようにはしゃぐ愁を見て、何て単純なんだろうと思った。

 でも、あまり彼を刺激するような事を言うと、後でこういう目にあうのだと身をもって体験したので、滅多に言うものではないと勉強した。




 角を曲がったところで、海藤の家の門前に人影が見える。
 それは愁と同じような背格好の・・・・・・

 つまり、智だ。

 智は二人に気がつくと、ほっと息を吐いた後、呆れたような顔をして『とにかく家に入れ』と云わんばかりに顎で彼らを誘導した。

 無言の智に鈴音は内心ビクビクしていたが、愁は平然とした顔で家に入り、リビングに行ってさっさとくつろぎはじめる。
 そこには沙耶も琴絵もいて、全員勢揃いだったが、しゅんとしているのは鈴音だけだ。


「ご、ごめんなさいっ、迷惑かけて・・・っ・・・・・・本当にごめんなさいっ」

 何度も謝り、涙まで浮かべている鈴音。
 その様子を見て可哀想になってしまった沙耶は、少し涙ぐんで鈴音の頭を撫でた。

「女の子なんだから、あんまり心配かけちゃダメよ」
「はい・・・」

 琴絵もたまらなくなったようで、涙をボロボロ零しながら鈴音に抱きつく。

「あ〜ん、も〜、心配したのよぉっ、愁から電話が掛かったときはホントに安心しちゃって沙耶ちゃんと二人で泣いちゃったんだからぁ!!」
「ごめんね、ごめんねママ。もうしないから、ごめんね」

 母娘でオイオイ泣きながら、何度も抱擁を交わし合う二人を見て、愁は欠伸をした。
 それを見ていた沙耶は彼の頭をガツンと殴った。

「いってぇ、なんだよ〜」
「アンタ今まで一体リンちゃんをどこに連れ回してたのっ!!! リン見つかったから、ちょっと休ませてすぐ帰るって言ってたじゃない!」
「・・・そんなこと言ったっけ?」
「言ったわよっ! いつまで経っても帰らないし、アンタのちょっとは一体何時間なのッ!!」

 もう一度ガツンと頭を殴り、何も言い返せない愁を見ながら琴絵がニヤニヤしながら口を挟んできた。

「沙耶ちゃん、どこになんてヤボな事聞いちゃダメよんっ♪ ねっ、愁、でもご休憩はご休憩だものねぇ」
「そうそう、琴絵さん話わかるね〜」
「あ〜ん、愁ってどうなの? 今度一回私ともどぅ?」
「やみつきになっちゃうよ」
「や〜ん」

 あはははっと何故か二人は意気投合している。
 鈴音はその会話にむぅっと膨れ、沙耶は呆れたように大きく溜息を吐いた。
 智は、バカにはつき合ってられないと息を吐いた後、ソファにどっかりと座り込んだ。

 鈴音は、そんな智の横顔を見ていてあることを思いだした。

「ねぇ、智くん」
「ん」

「愁くんにはね、思ってるだけじゃダメなんだよ。智くんもちゃんと言わなきゃ」

「・・・?」

 意味が分からないといった智の顔を照れ隠しと思ったのか、鈴音は満面の笑顔で喋り続ける。

「あのね、愁くん。智くんって愁くんが大好きなんだよ。置いてかれちゃうって泣きそうだったんだから」

「はぁ〜?」

 鈴音の言っている意味が分からず、愁は顔をしかめ、智に目線を移す。
 智の方はビックリしたように目を見開き、硬直している。

「だってさ、愁くん家を出ちゃうかもって智くん寂しがっててね、可哀想なくらいだったんだよ?」

 彼女だけは愁に向かって智の気持ちを代弁しているつもりで言っていたが、愁も沙耶も琴絵も視線は智に釘付けだった。

 一心に視線を浴びて、それでもこの事態に彼は身動きを取るとか、何かを言うという思考を全て奪われ、ただただ固まってしまうだけのようだ。
 やがて、愁がにやにやしながら智の隣に移動して彼の肩に腕を回す。

「何だソレ? お兄ちゃんに詳しく言ったんさい〜?」

「・・・・・・」

「へぇ〜、もしかして、智ってブラコン!?」
「そんなワケあるかっ!」

 やっと出てきた智の言葉だったが、顔を真っ赤にして、それでは何を言っても意味がない。

「もう出て行ったりしないから安心していいぞ〜」
「・・・だ、だれがっ!」
「よちよち、じゃあオレがアツ〜イ抱擁でキミの心を暖めてあげよう」
「やめろ〜〜っ、うわぁっ!!」

 頭を撫でられた挙げ句、ぎゅむっと抱きつかれ、しかも頬にチュバチュバとキスをされては、流石の智も気色が悪いらしく、本気で嫌がっている。

 バカみたいな二人の姿は滅多に見られるものでもなく、他の3人は可笑しくて腹を抱えて笑っていた。

 結局愁の脳天気な性格のせいで、若干一名を除いて心にわだかまりを残さずに済んだらしかった。






最終話へつづく


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