『TWINS』
○最終話○ 平和な一日 ───後日、鈴音は例の如く海藤家に遊びに来ていた。 来た途端愁に捕まり、嬉しそうに彼の部屋に連行されたが、本日は沙耶も智もいるので、変なことはしないだろうと鈴音も内心ホッとしている。 「でもさぁ、智にはやられたよ、アイツさ、リンはオレには抵抗しないとか言ってんの」 愁はベッドでごろごろしながら、クッションに座っている鈴音にぼやいた。 「あ、ソレは本当だよ?」 「・・・は!?」 そんな答えが出てくるとは思わなかったので、愁は驚いて彼女の顔を凝視する。 「智くんはコワクなかったから」 「・・・・・・なにソレ、オレはコワイっていうのか?」 「そう、だからイヤだったの」 彼女の言っている意味がわからない。 にこにこしながら、まるで愁を否定するような事を・・・・・・ 昨日聞いた告白はもしかして空耳で、ラブホテルに行ったことも夢だったのか・・・・・・・・・? 「・・・リン、オレが好きなんじゃないの?」 「ウン、だからコワイの」 「??????」 やはりわからない。 好きなのにコワイ? 一体どういう流れでそういう気持ちになるんだろう? 「えっと・・・触れられると変になっちゃうし、見られるのも恥ずかしいし、色んな事気になったりして、とにかく好きだからコワイの。わたし、そういう気持ち初めて知ったし、分からなかったからずっと戸惑ってたの。智くんは、そういうことを言ったんだよ」 だが、愁にはそれが分かるような分からないような、とても複雑な気持ちだった。 好きだからコワイ? 触れられると変になるっていうのはよくわかる。 ヤバイ気持ちになるけど。 だけど、見られたりするのは嬉しいし。 それにリンの色んな事は気になるけど、聞いてしまえば良いだけの話。 やっぱりよくわからない・・・ 「それってさ・・・、いつになったらコワクなくなんの?」 「え〜? 多分ずっとだよぉ」 困ったような顔をする鈴音を見て、愁は益々ワケが分からなくなった。 自分をコワイと思われるのはイヤだと、極単純に思うのだが。 「ずっと・・・」 「そう、愁くんが好きな限りね」 「・・・う〜ん」 そんなことで考え込む愁が可笑しくてたまらない。 彼にはきっと、一生分からない問題かもしれない。 「・・・何だかわからんけど、とにかくコワイ間はオレのこと好きなんだな?」 「うん」 「わかった」 絶対わかっていないと思うが、わかったと言うのだからそっとしておこう。 そう思い、鈴音はとても幸せな気持ちで微笑んだ。 愁はそんな彼女を見て、目を細め、手を伸ばして彼女の髪の毛をサラサラと撫でていく。 「リン、オレのこと好き?」 「・・・うん」 愁は身体を起こし、彼女を引き寄せると軽くキスをする。 そのまま見つめ合って、 もう一度キスをしようと・・・ 「お取り込み中なんだけど、昼飯。降りてきな」 「「・・・っ!?」」 いきなり部屋のドアが開いて、智が無表情のまま顔を覗かせる。 「お前っ、ノックぐらいしろよなっ、えっちしてたらどうすんだよっ!!」 「・・・・・・・・・」 愁の言葉に智は溜息を吐き、目を閉じて小さく首を振る。 「まったく、どうしてリンがオマエを選んだのか分からないな」 「何だとっ!?」 「リン」 「なぁに?」 「いつでもオレのとこに戻ってきな?」 「なっ!?」 冗談とも本気ともとれる智の言葉に、愁の顔が紅潮して一気に顔が不機嫌になる。 そんな愁の反応など予想済みらしく、智は涼しい顔のままだった。 「てめぇ、オレにケンカ売ってるな!? リンはぜっっっっったい渡さないぞっっ!! 自慢じゃないがオレは嫉妬深いし、独占欲が強い。変なことしたらオマエ、闇討ちじゃ済まないからな!!!」 「良く言う、人からかすめ取るような真似をしたのはオマエが先だろう。大体嫉妬深いとか独占欲が強いとか、自分だけだと思うなよ」 「なにっ」 智は、愁に近寄り、人差し指で彼の胸をトンと押しながらにやりと笑う。 「オマエとオレは元々一つなんだ。一生オマエに一番近い人間はオレだって事忘れるなよ、オニイチャン」 「オニイチャン〜〜〜〜!!!???」 うげ〜っと言いながらその場から逃げるように一階に降りていく愁。 二人のやりとりが面白くて鈴音は笑いがとまらなかった。 「リン、何であんなヤツがいいんだ?」 「あははっ、そんなの智くんが一番わかってるくせに〜」 鈴音の言葉に顔をしかめて、無言で部屋を出る智を見て本当に楽しくて仕方がなかった。 その後も、みんなと昼食を取りながら、ずっと顔が笑いっぱなしになってしまうので困ってしまう。 「変なリン」 先程からずっとニコニコしている鈴音を不思議そうに見つめ、愁は今日バイトを無断欠勤したことを思い出した。 う〜ん、と唸りつつ、思考を巡らせるがどうにもならない。 ビル掃除については明日行って謝れば何とかなるだろうと思い、午後からの交通整理だけは遅れてでも行くかとぼんやり頭の中で考える。 もう、家を出る理由もなくなったから、働く必要はないけれど、デート費用を稼いで鈴音を色んな所へ連れて行ってやろう。 ・・・水族館は暫くはカンベンだけど。 「あ〜、愁くんまたボロボロこぼしてるよっ!」 「ん〜・・・・・・」 鈴音に甲斐甲斐しく世話を焼かれ、愁はこれからの色々な事を考えると結構楽しみだった。 「母さん、食事をこぼした人からは今度から罰金取ったら?」 「あら、それいいわねぇ」 智と沙耶の会話など全く聞いてなかった愁は、これからどれだけの罰金を必要とするのだろうか。 彼の必死な姿が目に浮かぶようだ。 本日も海藤家は平和である。 2004.2.7 了 Copyright 2004 桜井さくや. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission. |