『TWINS』

○第3話○ 夏休み初日【後編】







 鈴音が目が覚めると、隣にいたはずの愁の姿がなかった。

 時計を見るとお昼を少し過ぎていて、二時間ほど眠ってしまった計算だ。
 クーラーが効いてちょうどいい涼しさの中で、何だか随分と気持ちよく寝てしまった気がする。目を擦りながら体を起こしたまではいいものの、まだぼうっとした頭の中はあまりよく働かない。
 彼女が小さく欠伸をひとつすると、同時に部屋のドアが静かに開き、愁が入ってきた。


「ん? 起きたのか」
「起きた〜、起こしに来て眠るなんて不覚だよ〜」

 鈴音は恥ずかしそうに照れ笑いをした。
 愁は相変わらず上半身だけは裸だが、下半身はジャージをはいている。見れば髪の毛が濡れていて全身から爽やかないい香りがする。

「お風呂入ってきたの?」
「そう、サッパリした」

 言いながら彼は、持ってきた750ml入りのウーロン茶をラッパ飲みして、ゴクゴクと喉を鳴らす。
 喉仏が動く様子を鈴音は熱心に見つめていた。

「リンも飲む?」
「うんっ」

 コップなどは用意する性格ではない。
 勿論彼が飲んでいたペットボトルをそのまま渡し、このまま飲めとばかりの表情。
 鈴音はそれを受け取り、コクコクと美味しそうにウーロン茶を飲んでいく。
 愁は鈴音がウーロン茶を飲んでいる様子をじっと見ていたが、やがて目を逸らし、ポツリと呟いた。


「起きたらリンが隣で寝ててビックリした」

「だって、愁くんの腕が外れなくて。起きないし、愁くんが寝てるの見てたらわたしも眠くなっちゃったの」
「・・・ふ〜ん・・・・・・あんまり無邪気だからイタズラしてやろうかと思ったよ」
「あぁ〜、まさか顔に落書きとかしてないよねっ!?」

 そう言って顔に手を当てて慌てた様子の鈴音に愁は苦笑した。

「そういうイタズラじゃないよ」
「?」

 首を傾げる彼女に顔を近づけ、軽くキスをする。

「あっ」

「こういうこと」


 目の前にある愁の顔は笑っている。

 けれど、何だかいつもと少し様子が違うような気がする。鈴音はそう思いながらもどこが違うという明確な答えが浮かばなかったので深く考えるのをやめた。

「愁くん、どうしてキスするの?」

 軽い気持ちで聞いてみただけだった。
 鈴音にとっては愁のそういう行動は疑問でしかない。何故そうするのかなど彼女に分かるはずもなかった。
 けれど、その疑問を口にする事こそが愁の心を更に追いつめるのだ。

「・・・リンが、好きだからだよ」
「ふぅん・・・」
「意味わからない?」
「え? わかるよ?」

 とてもわかっているとは思えない顔だ。
 彼女は愁がこれ以上の事はしてこないと思っている。

 愁のギリギリの気持ちで踏みとどまってきたこれまでの努力など知る由もない。

 何と安心しきった顔だろうか。
 キスをされたというのにまるで変化がない。

 それこそ彼女が『好き』という気持ちを知らないと言うことを証明しているようなものじゃなのか?


 愁は小さく息を吐いた後、彼女に顔を近づけると掠れた声で囁いた。


「リン、しようか」
「なにを?」



「えっちなこと」



 耳元で囁き彼女をベッドに押し倒す。
 その拍子で鈴音が持っていたウーロン茶のペットボトルが床に転がり、中身が零れ、床を濡らしていく。
 鈴音はその様子に気を取られ、自分の今おかれた状況をキチンと理解できてはいない。
 だが、愁の手が彼女の胸を包み込み、首筋に舌を這わせてくるとのんびりと構えている場合ではないと流石の彼女も気づいたようだった。

「・・・えっ、・・・愁、く・・・っ!?」
「たくさん感じさせてやるよ」

 彼の言葉と同時に塞がれる唇。熱い舌が彼女を絡め取り、唾液が大量に送り込まれる。逃げ場のない液体は飲み込むしかなくて、鈴音は一生懸命それらを飲み干した。だが、全ては飲み込めず、それらは口端から筋をつくって流れ出す。

「んぅ・・・ふ・・・」

 貪り尽くすような彼のキスに鈴音は激しく動揺した。

 一体今何が起こっているんだろう?
 先程彼は、なにをしようと言ってきた?

 聞いていたはずなのに、何度も何度も頭の中でその言葉が繰り返されるのに、自問自答してしまう。

 まさか、愁くんが、と。


「リンの胸、カワイイね」

「・・・やっ」


 薄いブラウス一枚など簡単なものだ。
 行為になれている愁は、いとも容易くボタンを外し、ブラジャーのホックも素早く外していた。
 露わになった胸は、彼女らしくまだ発達途中といった感じで初々しく色づいている。

「智に大きくしてもらえばよかったのに。あ、アイツあんまり胸触ってくれないとか?」
「やぁっ」

 頬を真っ赤に染め、やめさせようと彼の手を掴むが、与えられる刺激に身体が跳ねる。
 胸を優しく揉みほぐし、何度も口づけ愛おしそうに舌で転がす。
 時々甘噛みをして、更なる刺激にどんどん敏感になって、心とは裏腹に追いつめられていく。

「ふっ、あ、あんっ、愁くん、やめ、よ・・・っんくっ」
「リン、今スッゴイえっちな顔してる。もっとしてって言ってるよ」
「言ってないっ、ねぇ、んっ、・・・っ、わたし、智くんの彼女なの・・・っ」
「智の彼女なのに、キスは許すしこんなに感じちゃって、リンは悪い子だね」

 言いながらショーツの上から彼女の中心を指でなぞった。

「ひゃあんっ」

 既にそこは充分濡れそぼり、彼女が今どんな状態なのかなど言葉にしなくても充分伝わってくる。
 それでも、一生懸命股を閉じようとして儚い抵抗を試みるが、既に足の間に身体を割り込まれているので全く意味がない。

「あっ、やあっ、・・・ふぁ・・・・・・っ」
「リン、えっちな声だね。そうやって鳴くんだ? 智にもそうやって鳴いてみせてたんだ」
「ちがっ」

 ふるふると首を振る彼女だが、智との行為を見ているわけではない愁が知るわけはない。
 彼女自身、抑えようとしても勝手に声が出てしまい、こんな風に声をあげることなど経験がなく、どうしたらいいのか混乱していたのだから・・・

 愁は彼女のショーツを簡単に引きずり降ろし、大きく足を広げると彼女の中心にキスをした。

「やあぁっ!」

 いきなりのことに小さく悲鳴をあげ、足をばたつかせる。
 だが、しっかりと抱え込まれた彼女の太股はびくともしない。

「リンのここもカワイイね。だけど、たくさん濡れてすごくえっちだ」
「ひゃんっ、あ、あっ、愁くんっ、・・・ぅんっ・・・や、やあっ」

 初めて感じる舌の感覚。智はこんな恥ずかしいことはしない。指で触れて差し込んだりはするけれど、こんな所をじっくり見たり、舌を使ってこんな事はしない。
 ぴちゃぴちゃとワザと音をたてながら、指を差し込み、時折蕾を口に含む。あまりの刺激にもう力など入らない。

「あん、あ、っぁあんっ」

 堪えようと思う声も、どうしても自分の意志とは無関係に出てしまう。

 その間も愁の攻めは一向にやまない。
 まるで何かに取り憑かれたかのように熱心に鈴音の秘部を愛撫し、彼女のか細い悲鳴を楽しんでいるようにも見える。



「あ、あ、あ、あぁ、もぅ、だめぇ!」


 ぐちゃぐちゃに掻き回され、ソレは何の前触れもなくやってきた。
 彼女を一気に頂点に押し上げ、それでも止まない愁の動き。
 だが、ビクンビクンと身体中で達したことを見せられると、愁は満足そうに微笑んだ。

「えっちなリン。智じゃなくて、オレでもこんなに感じちゃうんだ。スゴイね、こんなに乱れちゃって」

 中心に指を抜き差ししながら愁が鈴音の上にのしかかってくる。
 彼の唇の辺りがいやらしく濡れていて、それがいやでも自分のものだとわかり、ドクンと心臓が跳ね上がる。

「はっ、あんっ」

 彼の見せる瞳の熱っぽさや、淫猥に笑う表情、全てが自分の知らなかったもの。
 鼓動が早くなる、何だか理解しがたい感情が胸の中に渦巻きはじめる。

 だが、

 彼女の中心に硬いものが押しあてられて一気に理性が呼び覚まされた。


「だめっ、愁くん!」

「いまさら」


 激しく唇を奪われ、その間に簡単にズブズブと侵入してくるもの。
 それは間違いなく愁自身。
 だが、いつもこの瞬間に与えられる痛みが無いことに、またしても鈴音は戸惑い動揺した。

 そして、全てが収まると、愁は顔をあげ、嬉しそうに微笑んだのだった。


「入れちゃった」


 無邪気ないつも見せる彼の表情。

 だけど、その瞳からは普段は見せない激しい光が見えている。
 ゆっくりと腰を動かしはじめ、だが、その動きでさえも翻弄されてしまう。かってに身体が彼を求めて動いてしまう。一体どうして、と自問自答しても答えなど出るはずもなかった。

「リンの中がオレを欲しいって言ってるよ」
「ああんっ」

 耳元で低く囁かれ、それだけで快感が迸る。彼に何をされても、ただ頬を撫でられるだけで気持ちがいい。そんな自分が信じられない。

 こんな風になる自分は知らない。

 こんな風になってしまうなんて思わなかった。

 愁から与えられる全てが欲しいと思ってしまう。



「愁くんっ、あん、ああんっ」


 先程達したばかりだというのに、もう限界が近い。
 そんな彼女を見て、愁は勢い良く彼女の中に自身を突き立てた。


「あーーーーーっ」


 悲鳴のような声をあげ、鈴音はいとも簡単に二度目の絶頂を迎える。

 もう既に息は絶え絶えになり、ぐったりしているが、愁は彼女の身体をうつ伏せにして、今度は後ろから突き立ててきた。
 その衝撃で背中をのけ反らし、後ろから抱え込まれるように再開される腰の動き。胸を愛撫され、蕾を愛撫され、もう鈴音に余計なことを考える余裕などありはしなかった。

「はっ、はあっ、ああっ」

 何度も何度も、まるで彼女の身体を知り尽くしたかのような動き。彼女が良いと思われるところを漏らすことなく発見し、確実に攻めていく。そんな状態では、鈴音が何度達しても不思議ではない。
 愁は、再び彼女を仰向けにすると、今度は両足を彼の肩にかけて、鈴音の身体をしっかりと抱え込む。

「身体柔らかいのはいいね。もっと気持ちよくなれるよ」

 なんて言う余裕の言葉。
 優しくキスをして、再び鈴音の中に自身を埋めると、先程までの緩やかな動きが嘘のようなあまりにも激しい抽挿で、彼女は必死に愁にしがみつくことしかできなかった。

 何度も悲鳴をあげ、彼の名前を呼ぶ。
 その度に鈴音の中にある彼がビクリと反応する。

「リン、大好き。カワイイ、もっとオレを感じて」
「愁くぅんっ、あん、あぁん」

 またやってくる絶頂感。しかし、今度のは先程までとは比べものにならないほどに───
 それはどうやら愁も同じようで、呼吸が荒く、見せる表情がこの上なく色っぽい。彼と目が合い、お互い貪り合うようなキスをした瞬間、これまで経験したことの無いようなもの凄い波がやってきた。

「・・・・・・んぅ、んんんんっ」

 キスをしたままの激しい抽挿。彼が勢い良く彼女の中に突き刺し、それと同時に襲いかかる最後の瞬間。

 身体を波打たせ、呼吸もままならないままで断続的に奮える鈴音の身体。愁も一気に終わりを迎え、彼女の中に自分の欲望を全て注ぎ込む。
 ブルブルと奮えながら堪らないといったようにきつく抱きしめられる愁の腕。
 全てが気持ちいいと思った。


「リン、・・・好きだよ」
「愁くぅん・・・」

 耳元で聞こえる鈴音の吐息混じりの甘い声。
 愁はついに彼女を抱いたというこの事実に胸が高まった。

 今までの彼女より、よっぽど愛しい。
 こんなにいいなんて思わなかった。
 こんなに満たされるなんて思いもしなかった───

 愁は顔をあげると彼女に微笑み、優しくキスをすると、身体を離した。
 いつの間にかつけられていたゴムを処理しているのを鈴音は感心しながらぼうっと見ていたが、それと同時に沸き起こる様々な感情。

「わたし、愁くんと・・・・・・」
「したね。リン、いっぱい感じてたし」

「・・・信じられない・・・・・・」
「オレは信じられる。ずっとこうしたいと思ってたから」

 そう言って彼はもう一度彼女にキスを落とす。
 唇が離れ、目の前で鈴音を見る愁の表情にくらくらする。何なんだろう、この感情は。
 鈴音は自分の中で生まれはじめたこの感情を理解できず、苦しくなった。



「リン、大好きだよ」


 何度も囁かれるその言葉に、鈴音の胸は高鳴り、気がつくと彼女は自分から彼に抱きついていた。





第4話につづく


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