『呪縛』

○第7話○ 運命の選択(その7)









「・・・っや・・・ッ!! 何するの・・・ッ」


 身体がびくり、と震える。
 多摩の手が服の下に滑り込んで直に肌に触れたからだ。
 綺麗に整った顔からは想像出来ない男らしい骨張った大きな手が脇腹を滑り、胸の膨らみを捉えた。

 驚き悲鳴をあげようとしたが、彼の唇に口を塞がれてくぐもった声にしかならなかった。


「・・・んーー・・・ッ、んーーーーー・・・ッ、・・・っ、う・・・・・・ッッんん、・・・」


 口の中にぬるっとしたものが滑り込んでくる。
 それが多摩の舌だと気づいたときには口腔内を思う様に蹂躙され、逃げ場を無くした舌に彼の舌が絡まって完全に捕らえられてしまった。

 美濃の纏う服は一枚ずつ剥かれていき、彼の手は思うままに彼女の身体の感触を愉しむように至る所に触れてくる。


「・・・ん、・・・んん・・・っふ、・・・・・・多摩、・・・おねがい、やめてっ・・・っ」


 漸く口が離れ、美濃は懇願した。
 こういう行為が分からない年ではない。

 いくら幼いと言われても知識くらいは持ち合わせている。

 これを許す相手は、ずっとずっと憧れていたあの人で・・・

 一緒になった初めての夜に行うもので。


 これは違う。

 夢見ていた相手じゃない。



「やだぁ・・・巽、巽、巽ぃ、・・・巽ーーーーーーーッ!!!!」


 大好きなあの人じゃければイヤだ。
 唇を重ねるのも、身体に触れるのも、巽じゃなければイヤだ。



 多摩の目つきが変わる。
 自分以外の名前を呼ばれることは堪らなく不快だった。


「抵抗するな」


 激しく藻掻く美濃を組み伏せ、自分の纏っていた装束の腰紐を解いて彼女の頭の上で両腕を縛り付ける。
 恐怖で泣き叫ぶ彼女の姿は堪らなく、異常なまでの狂おしさを感じた。

 すっかり露わになってしまった胸の膨らみに唇を寄せる。
 果実のような突起を舌で突くと彼女の身体が震え、小さく叫び、泣きじゃくった。



 眠っていた欲望が頭をもたげる。

 己の下半身に熱が集まっていくのが分かった。




 あぁ、やはり。

 俺は、美濃に触れるだけでは満足しない。

 身体の全てを使って、美濃を感じたいのだ。




 何をすべきかは知っている。
 くだらない事と興味の無かった乾の好む遊びを、女と繋がるという行為を、今漸く理解できる。



 ピチャ・・・と、卑猥な音を奏で、美濃の中心を舌で嬲る。


「・・・っひぁ・・・っ!?」


 両足を抱えられ身動きもままならない彼女は、身体の中心を襲う刺激に悲鳴をあげた。

 多摩が・・・多摩の舌が・・・ウソだ・・・・・・

 信じがたい行為に死にたいくらいの羞恥を覚え、首を振る。


「・・・やだぁ・・・・・・っ、やだぁ・・、や・・・・ッ・・・や、あ・・・ッ!」


 それは執拗に、反応を愉しむように延々と続けられた。

 抵抗したくても縛られた両腕では抵抗らしい事も出来ず、おまけに器用に動く舌に与えられる刺激でうまく力が入らない。
 そのうちに指を浅く深く挿れられるようになり、身体の中心から沸き起こる得体の知れない感覚を相手にするのが精一杯で、彼がする事に追いつくことが出来ない。


「・・・・・・おまえの身体は素直だ。・・・こんなに濡れて俺を誘っている」

「・・・・・・あ・・・ぅ・・・んんっ・・・やだぁ・・・、ちが、・・・ちがうよぉ・・・ッ」

「ならば溢れてくるこれは何だ?」

 中心から指を抜き、濡れて厭らしく光るそれを美濃の目の前で見せつける。
 その指を多摩の長く赤い舌がゆっくりと舐め上げ、妖艶に笑みを浮かべた。


「おまえの味がする」


 恥ずかしくて火を噴きそうだった。

 自分の身体はどうなってしまったのか。
 どうして多摩のする事に反応しているのか。

 巽でなければ嫌ではなかったの?


 再び美濃の中心に顔を埋め、ぴちゃぴちゃと態と音を立て責め立てる。



「あ、あッ・・・っ、・・・んぅ・・・・・・、っふ、・・・、やぁ・・・っ」



 いやだ、どうして?

 どうして身体が反応するの?


 声が我慢出来ない。


 ウソだ、どうしてこんな・・・



「・・・ああぅっ、・・・やめ・・・ぇ・・・・・・多摩・・・・・・おねが」


 お腹の奥が変・・・コワイ。

 嫌だよ、やめて、もうやめて。


 次に何がくるのか・・・

 ここで終わらないと、もう後戻りできない気がする。

 とても深い闇に引きずり込まれて、どこまでも墜ちていってしまう。


 多摩の身体が覆い被さり、熱を孕み濡れた吐息と共に唇を塞がれる。
 熱い舌が自分の舌に絡まり、逃げる隙など、考える余裕など与えてはくれない。




「おまえは黙って俺のものになればいい」



 低い声が甘く囁く。
 身体の中心に熱いものが触れた。



 美濃の身体が仰け反る。



「・・・んぁあ・・・や、あぁあ、ああーーーーッ!!!」



 貫かれる痛みは初めての・・・


 容赦無く・・・加減も知らず身体の最奥まで強引に。





「・・・ッ・・・・・・そんなにキツくするな」


 多摩の苦しそうな声が耳元で響く。
 心なしか息が上がっているようだった。


「・・・ぁ・・・イタ・・・・・・抜い、てぇ・・・・・・ッ おねがぃ・・・、多摩ぁ、悪いことしたなら謝るから・・・ッ、ごめんなさいぃ・・・ッ」


 ふるふると痛みに震え、何度も浅く息を吐き出しながら目に涙を浮かべる。
 もう何も分からなかった。

 痛くされるのは、もしかしたら自分の所為かもしれない、そんな風にも思えてくる。


「・・・ィ、・・・あぁーーーーッッ!!!」


 多摩の腰が動く。
 彼にとって初めての快感、本能に抗うことなく腰を振る。

 動く度に自分の下で啼く美濃を抱きしめ、貪るように唇を奪った。



「ん、ん、ん、んッ、・・ん・・・ッ、っふ、・・・ん、ッ、んぅ、!」


 零れた涙を舌で舐め取り、腰を突き上げる。
 悲鳴を上げる美濃の目からまた涙が零れ、舐め取っては腰を振る。


「・・・っは・・・、・・・もっと奥まで俺を受け入れろ」


 多摩は美濃の両足首を掴み、大きく広げた。
 グッ、と最奥を突き上げられた美濃は悲鳴をあげる。

 動く度に混ざり合う音が厭らしく響き、多摩は抵抗しがたい快感が内から次々と湧き出てくるのを感じた。



 泣こうが喚こうが構わぬ。

 そんな姿も俺を狂わすだけだ。



「や、やっ、・・・やめっ、いやあぁあ」

「・・・く、・・・ッ、・・・そんなに締めるな・・・」


 美濃の中がビクビクと痙攣し、小刻みにうねる度に背筋を快感が突き抜ける。
 繋がりが深くなるほど想像以上の感覚が支配して、己を見失いそうだった。

 息を弾ませ涙を浮かべる様も、逃げようと身体を捩る様も、何もかも堪らなく狂おしい。

 今見ている美濃は、誰一人知り得ないもの。
 自分だけが知る美濃すら知らない姿、そう思うだけでどこまでも気分は高揚する。
 より多くの表情を、より乱れた痴態をこの目に焼き付け、自分のものにして・・・

 その為なら、どんな小さな変化も見逃す事など。





「・・・やっ、あぁっ、ぅああんっ、あっっ、っあ」



 そして、夢中で抱き続けているうちに、多摩はふと美濃が一際反応する場所がある事に気がついた。


 何かが違う。
 動かす度に苦痛に歪めた表情が、そこだけは擦るだけで・・・頬が上気して。

 気になって何度も擦るうちに痛みを訴えていた瞳が、妙な色気で潤みはじめ・・・




 身体も声も、・・・何よりも繋がった部分の反応が。






「・・・相性は極めて良好ということか」



 どうやらそれは、美濃の意志とは無関係に身体が快感を訴える合図のようだった。


 美濃は自分に起こっている事についていけない。
 されるがままに何度も貫かれているうちに、痛みだけではない違う感覚がじわじわと襲ってくるのだ。

 多摩と繋がっているところが熱くて、お腹の奥が・・・。



 どうして・・・?


 いや、

 いやだ、・・・もう、・・・

 身体が、・・・・・・アツイ・・・




「ふあっ、あっ、いや、ぁ・・・あーーーっ」


 突如、多摩の責めが強くなった。
 強弱をつけて、何度も何度も、美濃が一際大きく反応する場所ばかりを擦り上げる。



 目の前が白くなる。

 意識が飛びそうだった。


 抵抗なんて出来ない。


 身体が勝手に・・・多摩の与える快感を受け入れている。





「あ、あああ、あっ、あ、、いやっ、・・・ッや、・・・もぅ、・・・あっあっ、あーーーーーッ!!」


 身体の奥から襲う強い快感に身体を仰け反らせ、一層の突き上げがより高みへと導く。
 びくん、びくん、と絶頂に奮えながら、多摩の熱い吐息が一度だけ苦しげに喘ぐと、自分の中に熱いものが注ぎ込まれたのを強く感じた。



「・・・・・・・・・はッ・・・・・・・・・ッ・・・・・・、・・・美濃・・・・」


 多摩は何度も唇を重ねてきた。

 きつく抱きしめ、うわごとのように美濃、美濃、と繰り返す。
 その間も身体の奥がびくんびくんと打ち震え、小さな痙攣が止まらなかった。

 美濃は肩で息を吐き、この身に起こった出来事を未だ理解しきれぬまま呆然と天井を見つめた。



「・・・・・・俺を見ろ。・・・・・・永遠に抱いてやる」


 視界いっぱいに多摩の熱い眼差しが支配する。
 彼以外を視界に入れることすら許されないというのか。

 その内にまた口を塞がれ、ひとしきり口腔内を味わい尽くされると、彼の指が身体中を這い狂おしいほどの愛撫を始めた。

 そして、多摩の腰が僅かに動いただけで中が擦れて身体が反応してしまい、涙が出る。



「・・・んぁ・・・・・・ッ、・・・も・・・・・・やめて・・・・・・」





 ───いやだ、・・・身体だけが切り離されていく。



 弱々しく喘ぐ美濃を愉しむかのように、多摩はゆっくりと腰を動かす。


 もはや彼女を離す気などない。
 だからそう易々と繋がりを解く気もないのだ。


 飽くことのない行為は美濃が意識を失うまで続く・・・




 美濃は、どうしようもない程の深い闇に逃げ場を失ったのだ。










第8話へつづく


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