『約束』

○第10話○ 深紅の瞳と歪んだ命数(その2)







 2人に案内されたのは、とても大きな広間だった。
 中央に巨大なドーナツ状のテーブルが置かれ、何脚もの椅子が規則正しく並び、一見して此処が重要な話し合いをするための場所である事が分かる。
 しかし、部屋に入った途端、窓から射し込む西日があまりに強くて眼を開けていられず、美久は思わず立ち止まってしまう。
 自分が目覚めた部屋から此処にたどり着くまでの長い廊下はとても薄暗く、その落差に耐えられなかったのだ。
 それに気づいた巽が窓に向かい、開け放したままのカーテンを閉める音と共に瞼の向こうの光が一気に遮られたことを知り、美久はうっすらと目を開けた。
 ぼやけた視界が次第に鮮明になっていくと広間の奥には既にその部屋には誰かがいたらしく、その姿を目にした美久はビクッと肩を震わせる。

 ───身に纏う白装束、艶やかな長い漆黒の髪、白い肌に映える真紅の瞳・・・
 その容姿は他に喩えが見つからないほど印象的で、あまりに整いすぎたそれは同時に冷酷な印象すら与える。
 しかし、だからこそ一目で分かった。
 彼が窓から最初に侵入してきたあの男だと。
 白装束を身に纏ったその男は、ひときわ大きな中央の椅子にゆったりと腰掛け、先ほどから射抜くような鋭利な瞳で美久を見ている。
 その事に気づいた美久は身動きができなくなり、傍にいた美濃が安心させるためか背中に手を添えてぴったりと密着してきた。


「美濃・・・、おまえは俺の傍に来い」

 その男、多摩は低い抑揚のない口調で美濃にそう命令する。
 有無を言わせない口調だ。
 普通の神経を持っていたら、この雰囲気に呑まれて逆らうことなどできないだろう。
 けれど、美濃は少しの沈黙の後、少しだけ口を尖らせて首を横に振った。


「やだ、美久の隣にいる」

 思わぬ拒絶に多摩の目が一瞬だけ見開き不機嫌そうに眉が歪められると、彼の周囲を包む空気がすっと冷えた気がした。
 それは端から見ていても冷や冷やするような、とても危険を感じさせるものだ。


「美濃・・・、来いと言っているのが分からないのか?」

 相手を威圧する低音が部屋に響く。
 決して声を荒げて恫喝するような声音ではないのだが、拒絶は選択肢に入っていない、暗にそう言っているのがありありと伝わってくる。
 しかし、美濃は口を尖らせたままそっぽを向き、あまつさえ美久にしがみついて尚も抵抗した。


「やだ、行かない」

 美濃は頑として多摩の命令を聞かないつもりらしい。
 あの視線を受けて、よくそんな風にいられるものだと妙に感心してしまう。
 そんな彼女の様子は、ある意味頼もしくもあった。
 だが、このままでは話が一向に前に進まないのではないだろうか・・・押し問答だけで延々と会話が繰り広げられるのは好ましい状況とは言えない。
 ひとまず此処は退くべきだと思い、美久はなけなしの勇気を振り絞って口を開いた。


「あの・・・美濃ちゃん、私は大丈夫だよ。だから向こうに行っても・・・」

「・・・でも、私・・・美久の隣がいいな」

 折角勇気を出して言ってみた言葉も、人懐こい瞳に強請られてあっさり打ち消されてしまう。
 ちなみに彼女は美久より背がだいぶ低い。
 仕草もどことなく幼くて、年下の子を相手にしている気になってしまうせいか、あまり強く言うのを躊躇ってしまうというのも多少は今の状況を生んでいるかもしれない。
 彼女がそんな事を言うものだから多摩の眼は益々鋭くなって、ここに来たときから比べると不機嫌さが倍増しているように見えるのは気のせいではないだろう。
 はっきり言ってあの紅い瞳で睨まれるのは本当に恐怖だ。

 ・・・と、


「美濃さま、あまり我が儘を言っては美久様を困らせてしまいます」

 不穏な空気を察したのか、ものすごく絶妙なタイミングで巽がやんわりと美濃をたしなめる。


「・・・えっ」

「ほら、美久様のお顔を御覧になればわかるでしょう」

「・・・・・・」

 巽に言われて美濃は驚いたように美久の顔を見上げる。
 何だか居心地が悪くて反応に困ったけれど、何かを感じ取ったのか・・・美濃は名残惜しそうにしながらも美久にしがみついていた腕を離した。
 どうやら巽は美濃の心を逆なでせずに誘導するのがとてもうまいみたいだ。


「・・・・・・美濃、早く来い」

「・・・う」

 もう一度呼ばれ、美濃は渋々といった様子で多摩に近づく。
 そして彼の目の前まで来たところで美濃はあっさり腕を取られ、そのまま多摩の腕の中へとすっぽりと抱きかかえられてしまう。

 ───あれ・・・?

 美久は思わず目を見張った。
 彼女を手にした途端、多摩の表情と身に纏う空気が急に柔らかくなった気がしたのだ。
 巽が言っていた"特別"とはそういう意味だったのかと妙に納得する。
 表情の変化はほとんどなかったが、あぁ、この人はとても美濃が好きなのだと、それだけで分かるような瞬間だった。


「───・・・ところで、おまえは自分が何者かを知っているのか?」

 美濃を膝に抱きながら多摩は静かに口を開く。
 唐突だったので最初は自分に話しかけられたのかよく分からず黙っていたが、真紅の瞳が此方をじっと見ているのに気づいて慌てて考える。

 自分が何者か・・・?

 ある意味哲学的な質問だが、求められている答えは極めて単純なものだろう。
 どうして自分たちの場所におまえのような異分子が混ざり込んだ、彼はそういう事を聞きたいのだろうと思った。
 此処は本来美久がいるべき場所ではない。


「・・・・・・もちろん、私が此処にいるはずの無い人間だって事くらい分かっています。・・・あなた達から見る私が、捕食対象の脆弱な生き物だということも」

 それだけではない。
 彼らとは生きる長さも違う、特別な力も何一つ持たない、違いをあげればきりがないだろう。
 美久は目を伏せて俯いた。 
 しかし、その返答に多摩は眼を細めて喉の奥で笑う。
 驚いて顔を上げると、多摩は僅かに口角を引き上げていた。
 何か変なことを言っただろうか?
 多摩は美濃を抱きかかえたまま立ち上がり、ゆっくりと此方に近づいてくる。
 とても大きい、レイくらい身長があるかもしれない。


「・・・自分が何者であるのか、おまえは全く分かっていないようだ」

「え?」

「今のおまえは、どう見ても俺達の始まりの形をしているではないか」

「・・・?」

 意味が分からず首を傾げる。
 抱き上げられている美濃は何故か不思議そうに美久を見ていて、傍に立つ巽にも視線を移したが、彼に関しては表情を崩さないので何を考えているのか分からなかった。
 沈黙が重い。
 何を言われているのか全く理解出来ない。
 最近はこんな事ばかりだ、知識が無いというのは思ったよりも苦痛だ。
 そんな美久の心を知ってか知らずか、ふと多摩は天を仰いだ。
 そして数回ほど瞬きをして視線を窓へとずらすと、突然身を翻して窓の傍に立ち、先ほど巽が閉めたばかりのカーテンを少しだけ開けて険しい表情を浮かべた。
 外は沈み始めた太陽が雪に覆われた大地を朱く染めあげ、夕闇が迫りつつある。


「・・・どうやら悠長に話をしている場合ではなくなったようだ」

「え?」

「侵入者だ・・・思っていたよりも到達が速い。・・・あの距離をこれだけの短時間で移動する者がいるのか・・・」

 多摩は低く呟き、もう一度美久を振り返る。


「おまえに一つだけ聞く。これの所有者は何者だ?」

 そう言って装束の袖から取り出したのは、美久が持っていたキーケースだった。


「返して・・・っ!!」

 美久は手に持ったそれを奪い返そうと多摩に迫る。
 だが、近づこうとした瞬間、後ろにいた巽に身体を拘束されて身動きが取れなくなってしまった。
 優しそうに見えたところで味方のわけはない。
 そもそも彼の主人は目の前の多摩という男なのだ。


「離してッ!! その所有者のことはあなたたちの方が詳しいでしょう!? 私にはそれしかレイの手がかりが無いのにッ、お願いだから返して、返してよ・・・っ!!」

「・・・・・・レイ?」

 美久を拘束しながら巽が眉を顰めて小さく呟く。
 そして、突然感情的になった美久の様子に多摩は呆れた様子でため息を吐いた。


「ふん、・・・離してやれ。別に盗るつもりなどない、そう取り乱すな」

「・・・っ」

 多摩の一声で巽は美久を離し、同時に手に持っていたキーケースを差し出す。
 震える手でそれを受け取り、美久はほっと息を吐く。


「時間切れだ。これ以上の話は今は出来ぬな・・・、巽、俺についてこい」

「・・・は」

「美濃、おまえはこの娘と此処で待て」

「・・・多摩、どこかに行くの?」

「ああ」

 そう言って多摩は美濃の頬に口づけると彼女を下に降ろし、美久の傍へ行くよう背中を押す。
 美濃は誘導されるままに美久の傍に寄り添ったが、戸惑い気味に多摩を振り返った。
 先ほどから何を気にしているのか、彼は窓の外を鋭利な眼差しでじっと見上げていた。
 美久はその様子を疑問に感じはしたが、多摩がどこかへ行ってしまう前に切り出さなければならないことを思い出しハッとした。


「あの、ルディは・・・っ、ルディも此処に来ますか!?」

「・・・?」

「・・・あなたの他にもう1人いた・・・あの男の人が抱えてきたでしょう? 白い髪の・・・」

「・・・・・・あぁ」

 多摩はそこまで言って漸くルディを思い出したらしい。
 何の感情も籠もらない目で事も無げに言う。


「あの場に放置したままだ、来るか来ないかなど俺が知るはずがないだろう」

「・・・っ」

「用があったのはおまえだけだ。・・・だが、・・・そうだな。殺す気はなかったが、加減をしたかどうかまでは憶えていない」

「じゃあ、やっぱりあなたがルディを・・・っ」

「・・・俺は目の前を飛び跳ねる餌を狩っただけだ」

「なっ!?」

「そう小さな事で目くじらを立てるな、おまえにはもっと知らねばならぬ大きな事がある」

 真紅の瞳が冷酷に煌めく。
 ルディの生死を小さな事と片付けられて赦せないと思うのに、夕日よりも紅い、此処にいる誰よりも紅い瞳に真っすぐ射抜かれ言葉が出なくなる。


「ひとつ憶えておくといい・・・。世の理(ことわり)から外れた異端は歪(いびつ)な魂を持ち、生を受ければその歪みを埋める為に半身を求め彷徨う運命を持つ。求めるものによっては時に思わぬ事態を引き起こし、結果として己とは相反する生の出現に手を貸す役を担う事もある。それは歪ゆえに成せる所業だが、本来ならば歪な魂はこの世に出現する事すら赦されぬ危険な因子に他ならず、もしもそのような者が生を受けたとすれば、それは奇跡そのものと言っても過言ではないのだ」

 そこまで言うと、多摩はもう一度窓の外を見上げる。


「・・・神子殿」

 不意に、多摩に向かって巽が小さく呟いた。
 そう呼ばれた多摩はなぜか不愉快そうに巽を睨んだが、そのまま何も言わずに巽を連れて部屋を後にしてしまった。

 ・・・神子、殿・・・?

 部屋に残ったのは美久と美濃の2人だけ、最後の巽の台詞と多摩の反応に疑問を感じつつも暫く無言で考え込む。
 圧倒的に此処での知識が足りない自分には分からないことばかりだが、ただ・・・異端とか、歪とか・・・それはまるでクラウザーがレイに抱いている考え方のようだと思った。
 本来ならこの世に出現することが赦されないだなんて、レイがこの世に生まれたのが間違いだったと言われてるみたいだ。
 けれど、キーケースを渡した相手を聞いて来たにしても、流石に此処で脈絡も無くレイの話をされていると思う方が変じゃないかと、自分の思考を慌てて振り払う。


「・・・美久、ごめん、ね・・・」

 と、そこで、沈黙を壊すように美濃が美久の手をそっと掴んですまなそうに頭を下げる。


「・・・え?」

「私・・・美久の言葉・・・半分も言ってる事、理解できなくて。・・・助け船だせなくてごめんね」

「あ、ううん、そんなの」

「でも、美久と私はそんなに違う? 美久はたぶん・・・私たちを少しだけ誤解してる気がする」

「え?」

「だって"人間"っていうのは、バアルや他の国の民が糧にしてるものだよね? 私たちは逆なんだ、バアルや他の国の民を糧にしてる。人間って・・・私は会ったこと無い。どうやれば会えるのかも知らない・・・美久がそうだって言われても何が違うのかよく分からないよ。だって美久はさっき私と同じものを口にしたよ? ・・・美味しそうに飲んでたのに、どうして?」

「・・・え?」

「あれはね、多摩が渡したんだよ。衰弱してるから起きたら飲ませるようにって・・・、私たちもあれを飲んで、あれで生きてるよ? 美久と私、どこが違うの?」

「───っ!?」

 美久は目を見開き口元をおさえた。

 さっき飲まされたあれって・・・水じゃないの?
 ・・・・・・そうだ・・・、私、水とも違う気がするって・・・そう思いながら飲んでたじゃない。
 じゃあ・・・、とてもおいしいと思って、飲み干したあれは・・・・───


「・・・・・・うそでしょう!?」

「こんなの、うそ言ってどうするの・・・」

「だって・・・そんなのおかしいよ。今までだって・・・、此処に来る前だっていつも通りのものを食べて、今までと同じようにしてたんだもの」

「それはよく分からないけど・・・、だけど私、多摩は美久を迎え入れるつもりだと思ってた」

「・・・迎え入れる・・・っ!?」

「あのね・・・・・。・・・、その・・・変に思うかもしれないけど、私たちはバアルや他の国の民と形は似てても全然違う生き物なんだって。だから彼らとの間には子供が出来る事が無いって聞いた。それってつまり・・・その、私と多摩の間に子供が出来なかったら・・・、私たちは滅びるのを待つだけの存在なのかなって、ずっとそう思ってた。国が滅びたときにそれが決まったんだって。・・・だから美久に会って生き残りがいたんだって思って嬉しかったの」

「でも・・・私は・・・・ちがう・・・・」

「・・・うん。・・・それはさっきの話聞いてて分かった」

「・・・・・・」

「だけど・・・私にはやっぱりどこが美久と違うのかわからないよ」


 ・・・なんだろう、この感じ。
 すごく・・・こわい・・・
 どうなってるの・・・? 私の体がおかしいの・・・? それとも誰でもあれを美味しいって思うのかな・・・?

 ───今のおまえは俺達の始まりの形をしているではないか───

 あれはどういう意味?


「・・・美濃ちゃん、・・・始まりの形って、なに?」

 美久は唇をふるわせながら美濃の手を握り返す。
 だけど、美濃は首を横に振り、曖昧な顔で俯いてしまった。


「・・・よく分からない。・・・多摩は特別なの。普通じゃ見えない違う何かが見えているのかも・・・」

「・・・・・・とくべつ」

「多摩は、神子(みこ)なの。・・・本人はそう呼ばれるのすごく嫌がってるんだけどね、巽がさっき呼んでたでしょ?」

 美久は無言で頷く。
 確かに"神子殿"と呼んでいた。


「神子っていうのは未来を見通す力を持つ存在で、やろうと思えば占った人の悪い未来を良い未来へ運ぶ事も出来るんだ。昔は神子を神格化して崇める人も多くて、多摩はその中でも奇蹟って呼ばれるくらい特別な神子だった。この国にとっては宝物みたいな存在だったの・・・」


 だったら・・・あの人に聞けばこの先の未来も教えてくれるんだろうか?
 これからどうなるのか、悪い方に向かってるなら良い方へと軌道修正してくれるんだろうか・・・?
 ・・・・・・どうしたらレイと会えるか、教えてくれるんだろうか・・・?
 自分がどうなってるのか、此処がどこなのか、これからどうなるか、ひとつでも考えたら押しつぶされそうになる。
 こわくてこわくて堪らない。
 立ち止まったら足下から崩れ落ちてしまいそう。
 だけど、このままレイに会えないことの方がずっと怖いのだ。
 全部後回しでいい、この先どうすればレイと会えるのか、それだけ教えてくれないだろうか。


「美濃ちゃん・・・、2人はどこに行ったの?」

「分からない・・・けど、すごく様子が変だったね」

「追いかけたら駄目かな」

「えっ、無理だよ。2人とも凄く速いから追いつけないよ」

「じゃあ今度はいつ帰ってくる? 何日もなんて待てない、追いかけるのが駄目なら私を元の場所に帰して欲しい。会いたい人がいるの、あの場所には私の大切な人の居場所を知ってる人がいるの。・・・だけど酷い怪我をしてて、手当しないとどうなるかわからないの。だからおねがい、・・・おねがい・・・っ」

「・・・・・・美久」

 美濃は困り切った表情で美久を見上げる。
 震える手にはキーケースが強く握られていて、美濃にはそれが何だかよく分からなかったけれど、とても大事なものだと言うことだけはしっかりと伝わっていた。


「美久の大切な人は、それをくれた人?」

「・・・・・・うん・・・」

 涙を限界まで堪えながら美久は頷く。


「その人を・・・捜してるの?」

「・・・・・・そ・・・う・・・、・・・」

「・・・そっか」

「・・・・・」

「どんな人か、聞いてもいい?」

 美久の手を自分の頬に押しつけ、美濃は問いかける。
 柔らかな肌の感触と温かいぬくもりで鼻の奥がツンとした。


「自分を表現するのが苦手でとても不器用な人だよ。・・・・・・だけど、綺麗な彼の瞳が、時々孤独を叫んでるみたいに見えた。彼の周りには今まで味方になる人がほとんどいなかったんだと思う。そういう事がやっと分かるようになってきたばかりだったの」

「・・・・・・」

「けど、私もその周りの人たちと同じことをしちゃった。・・・ううん、それより酷いことをしたんだ。・・・彼はたぶん・・・それを心の底では赦してないと思う。・・・それでも一緒に生きることを望んでくれたのに・・・、やっと始まったばかりだったのに、彼が目の前で連れて行かれるのを見てる事しか出来なかった・・・っ」

「・・・美久・・・っ」

「レイに会いたいよ・・・っ」

 堰き止めていた思いが一気に溢れ出す。
 会いたい、たったそれだけのことが叶わない。
 こんな風に泣いたってどうにもならない。まるで子供のすることだ。
 だけど、美濃の手が優しくて・・・抱きしめてくれる腕が本当に優しくて涙が止まらない。


「・・・うん、・・・うん、・・・わかったよ、美久。・・・一緒にいこ」

「・・・・・・っ」

「多摩たちに追いつくか分からないけど、探してみよう? ホラ、雪が積もってるから足跡辿れば何とかなるかも」

「・・・・・・、ほんとう・・・?」

「寒いし、暖かくしていっぱい着込んでいこ?」

「・・・美濃ちゃんも、寒いの弱い?」

「寒いのキライ、春が一番すき」

「・・・・・・・・・私も同じ・・・」

「この土地はね、春が一番長いんだよ? お花がパーって咲くのがとっても綺麗なんだから」

「・・・・・・」


 何だろう・・・彼女はどこかルディとは違う。
 感覚が人と似てるんだろうか?
 ルディはもっと寒暖の差に鈍いというか・・・強いというか・・・美久が寒がっていても平気な顔で、やはり人間とは違うと思うことばかりだった。
 美濃は違うんだろうか。
 口にしているものが違うと言っていた。
 全然違う種類だけど同じ形をした生き物。
 此処はそれが共存している世界・・・?
 けれど、彼女たちはもう5人しかおらず、滅ぶのを待つだけだと・・・───

 そこまで考えて美久はごしごしと涙を袖口で拭って深呼吸をする。
 今は別のことを考えるのはやめよう。
 自分がやれることが限られてるなら、その限られたことに全力で飛び込むしかないんだ。


「いこっか」

「・・・うん」

 もこもこになるまで着込んだ2人はまるで仲の良い親友のように手を繋ぎ、多摩と巽を追いかける為に外へと飛び出していった。










その3へつづく


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