『約束』

○第10話○ 深紅の瞳と歪んだ命数(その6)







 何枚にも重ねて着込んでいた衣服を全て取り払われ、美久は一向に慣れそうもないこの緊張に堪えながら、レイの些細な表情の変化や指先の動きをひたすら目で追いかけていた。
 レイは未だ着衣を乱す事無く、ルディと同じ琥珀色の軍服を着用したままだ。
 同じものを着ているにも拘らず、抱く印象は随分違う。
 少女のような外見のルディが着ていても迫力は感じ無かったけれど、レイが着た姿を見るのは妙に緊張してしまう。
 袖口に施された黒い薔薇の棘のような刺繍、胸元の黒羽の紋章、かっちりと着込んでいるように見えるのに腰のラインが綺麗に出ていて、襟から少しだけ覗いた首すじがランプの明かりに照らされて色気すら感じられる。
 こんな風に見てしまうなんて、自分はすごくエッチなんじゃないだろうか・・・そんなふうに思いながらも、レイから目がそらせない。


「・・・んっ」

 ぴちゃ・・・レイの唇が美久の指先を飲み込み、味わうように舌が蠢き、ぬれた音が部屋に響く。
 思考が中断された美久は小さく声を上げた。


「・・・ふ、・・・ぅ・・・っ」


 ぴちゃ、・・・くちゅ・・・

 彼がわざと音をたてていることは、美久にも分かる。
 時々探るような視線で美久を見る彼と目が合うと、僅かに口元が意地悪に笑みを浮かべるのだ。
 そうして反応を見て愉しんでいるのだろう。
 こういう時のレイは、いつもより意地悪になる。
 なす術も無く痴態を見られるのは自分ばかりで、全く太刀打ちが出来ない。


「・・・・・・んっ、・・・」

 けれど、ふと、どうしていつも触れられるばかりで自分からは彼に触ろうとしないのだろうと考える。
 レイはとても綺麗だ。
 自分だってレイに触れてみたい、そうしてもいいはずだ。
 そんなふうに思いながら美久は彼の襟元に手を伸ばしてみた。
 すると、突然伸ばされたその指に、レイは少し驚いた顔をして美久を見上げた。
 その反応が楽しくて、美久は更にレイの首筋に指を滑り込ませて様子を窺う。
 ぴく、僅かにレイの眉が動いて、美久の指を舐める舌の動きが少しだけ止まる。
 反応があった事に手応えを感じた美久は、遠慮がちに彼の首筋を指先で撫で、少しずつ触れる場所をずらしながら襟を留めているボタンに手をかけた。
 片手だけで外そうと奮闘するが不器用な指はなかなかボタンを外せず、それに気づいたレイがやりやすいように首を傾け、同時に口に含んでいた美久の指を解放して愉しそうに目を細める。
 どうやら美久の好きにさせて様子を見るつもりらしい。
 美久は頬を赤らめながらも今度は両手を使って襟のボタンを外し、それから間を置かずに二番目、三番目のボタンを外していく。
 そうして上衣のボタンを全て外したところで、まだその下にも彼が服を着込んでいる事を知り眉を寄せる。
 そう言えばルディに上着を貸してもらったとき、下にまだ3枚着ていると言っていた。
 ならば、レイもそれくらい着込んでいる可能性が高く、そう思うと脱がすのは結構大変そうだ。
 美久はそこまで考えると、とにかくボタンを外し終えたこの上衣を脱がしてしまおうと手を伸ばして、レイの手伝いもあってスムーズに上衣を脱がしていく。
 しかし、今度はシャツの上に刺繍の入ったベストを着た上半身が現れ、美久はそれを見た途端、思わず息をのんで動きが止まってしまう。


「・・・・・、・・・・っ・・・・・・」

 無言のまま動きが止まった美久を、レイは不思議そうに見上げた。
 彼女の目はレイの全身を何度も何度も往復し、紅く染まった頬を更に赤らめたまま何やらもじもじしているのだ。
 レイはその様子を不可解に感じたが、もしかしたら脱がし方が分からずに困っているのだろうかと思い始めた。

 ・・・が、


「・・・・・・脱がせるのは、・・・あとで・・・」

 唐突にそんな事を言う。

 あと・・・? 後って何だ?

 どうやら服の構造が問題というわけでは無いようだが、レイには彼女の考えがよく分からない。


「・・・あとって、どうして?」

 問いかけると顔を真っ赤にした美久が、やはりもじもじしながら首を横にふる。
 その反応は一体なんなのか、どうにもレイには理解できない。
 やはり、彼女ひとりでは脱がすのが難しいということだろうか?
 それにしては反応が妙だ・・・
 そんなレイの疑問を他所に、美久は躊躇いがちに思いもよらない事を口にする。


「・・・・・・その服・・・凄く似合ってるから、脱がすのがもったいないというか・・・」

 その言葉に眉を寄せ、レイは自分の服装に目を移す。
 一体これのどこがもったいないのか・・・・・・理由を聞いたところで、レイにはやはりよく分からなかった。
 しかし、人の好みとはどこに転がってるか分からないものだ。
 レイは目を細めると、美久の耳元にそっと顔を近づけた。


「美久はこういうのが好きなんだ?」

 態と吐息がかかるようにして囁きかける。
 『んっ、』小さく堪えるような声が美久の口から漏れ、思う通りの反応を返す彼女に思わず表情が緩む。


「・・・だ、だって・・・っ」

「うん?」

「学校の制服なら見慣れてるけど、こういうのは」

「・・・ふぅん? オレはいいよ、このまましても」

「ち、ちがうっ、・・・そういうつもりじゃ」

「じゃあ、どういう風にされるのが好き?」

「・・・そ・・・それは・・・」

 アタフタとなり、自分の言動を追求されて美久はかなり動揺している。
 レイは顔がにやけてしまいそうになるのを必死で堪えながら美久の隣に腰掛け、そのまま自分だけベッドに寝転んで彼女を見上げた。
 どうすれば彼女が自分の思う通りに動くのか手に取るように分かってしまうから、ついいじめたくなるのだ。
 そんな邪な思惑など知る由もない美久は、しばし自分の横に投げ出された長い足を黙って見ていたが、少しずつレイの上半身へと視線をずらしていく。
 脚・・・、それから腰、・・・胸、・・・首・・・そして、あご・・・まるで彼女の心の中が見えるような視線の動きはとても正直だ。
 そのまま美久の視線が唇まで辿ったところで、レイの唇がゆっくりと彼女を誘う。


「好きなように触っていいよ」

 低く甘い声音にドキッとして視線を更に上にずらすとレイと目が合い、ごくっと唾を飲み込む音が部屋に響いた。
 ランプの明かりもあって、レイの瞳は朧げな光に反射して夕日を浴びる水面のように揺らいでいる。
 美久は誘われるまま彼の腰の近くに膝をつき、太ももに触れる。
 布越しでも引き締まったしなやかな筋肉が指の腹に伝わって、思わず息をのむ。
 それから、遠慮がちに手のひらを滑らせ、ベストの上から胸や脇腹に触れ、様子を窺うように彼の目を見つめた。
 レイはただじっと此方を見ているだけだ。

 どうしよう・・・・・すごく悪いいたずらをしてる気分だ・・・
 でも・・・何だか・・・

 美久はそのまま彼の身体に抱きついた。
 レイの背中に腕を回して抱きつき、それだけで息があがっていく。
 頬が紅潮し、身体の熱もどんどん上がっていく気がする。
 そのうえ、レイに見られただけで頭の奥がしびれて、こうして触れてしまうともう離れられない気さえした。


「美久の息・・・、熱い」

 耳元でレイが小さく囁く。
 息がかかっただけで肌が粟立ち、更に強くレイに抱きつく。
 そして唐突に気がついた。
 無意識にレイの首すじに唇を押し付けた自分の息づかいが、やたらと激しいということを。
 とにかくすごいのだ。
 何もしてないのに『はぁはぁ、はぁはぁ』と・・・・・・。


「・・・・・・・っ、や、・・・っ、・・・っ、っ」

 そんな自分に吃驚して身を捩ると、咎めるように身体を引き寄せられ耳元でレイが囁く。


「離れたら駄目だよ」

 そう言って手をつかまれ、彼の頬に押し当てられる。
 すべすべの肌が柔らかくて、とても気持ちいい。
 まっすぐに見つめるレイの瞳が静かに揺れていて、美久は吸い込まれるように形の良い唇に自分の唇を押し付けた。
 それが再会してからの初めてのキスだということに気がつき、感情がこみ上げる。
 存在を確かめるように唇を重ね、僅かに開いた彼の唇の隙間に自分から舌を突き出した。
 レイの舌が反応を返すように触れてきて、その熱さにいろんな感情がぐちゃぐちゃになって涙が溢れそうになる。
 やっぱり今も息が荒いし、身体も熱くて、自分の状態がものすごく恥ずかしいと思うのに、もう止まらない。


「・・・ん、・・・、ん・・・、・・・・・・っ」

「・・・・・・、・・・美久、・・・ちゃんと息してる?」

「・・・ふ、・・・ふぁっ・・・」

 キスの途中で苦しそうに目をつむる美久に気づいて、レイが一端唇を離す。
 けれど、苦しそうに首を振りながらも、美久はレイの唇に自分の口を押し付けて離れようとしなかった。
 レイはそんな風に求められる事に最初は少し戸惑っていたが、次第に己の中のどす黒い欲望が胸の奥深くからわき上がるのを感じて熱い息を漏らした。


「好き、・・・レイ、・・・、すき、・・・すき」

 うわ言のように蕩けた瞳で美久は告白を繰り返す。
 レイはそれを耳にしながら、自分の理性がどこまで持つか試されているみたいだと思った。

 ───美久は、オレが本当はどんな風に抱きたいかを知らないから、こんなふうに出来るんだ・・・
 無邪気にキスを求められて、熱い吐息で迫られながら、それを黙って受け止められるほどこの感情は生易しくない。



「・・・・・・、・・・やめた」

 レイは、『はぁ』と大きく溜息を漏らし、唐突にそんなことを呟く。
 突然のことで、きょとんとするだけの美久は何が起こったかよく分からないようだ。
 しかしそれが不安の色に染まり始めるまでに、それほど時間はかからなかった。
 恐らく美久は勘違いしているのだ。
 もう触れ合うことはやめたと、レイがそう言ったと思っているのだろう。
 美久の唇は小さく震え、瞳から涙が零れ落ちそうになり、レイの目が意地悪に細められる。
 怖いくらい全身がぞくぞくしていた、そんな縋るような目で見る美久が悪い。


「・・・・・・美久の好きにさせるの、やめたって言ったんだよ」

 頃合いを見計らってそう言うと、ぽとんと涙が零れ落ち、目をぱちぱちさせて美久は困惑の表情を浮かべる。
 その隙を突いて、レイは美久の身体を組み伏せた。
 あまりに簡単に身体が反転して伸し掛かられているのに、彼女はその状況をまだ理解出来ていない。
 そんなふうだから虐めたくなるのに・・・、言葉にはする気は無かったが、レイはそう考えながら小さく笑った。


「このまま朝まで・・・」

「・・・・・・え? ・・・んっ」

 一方、美久は燃えるような瞳でいきなり深く口づけられて、苦しげに小さく喘いだ。

 ───今、なんて・・・・・・?

 朝まで? ・・・聞き間違いだろうか。
 それとも一緒に朝まで眠ろうとか、そういうことだろうか。
 そんな暢気な事を考えていると、魂ごと飲み込まれてしまいそうな激しいキスにそれ以上考えは続かず、彼の熱に引きずり込まれていく。


「ん、・・・っ、ふ、ぅ、・・・・・・っ、、んんっ」

 レイが与えるキスに必死で応えていると、いきなり下腹部を指で撫でられる。
 それから何度か突起を擦られて小さく声を上げると、くちゅ・・・と厭らしい音とともに、中心に指が差し込まれた。
 一連の動きは性急すぎるくらいなのに凄く簡単に入ってしまったのが自分でも分かって、この身体がどんな状態だったかを知り、一気に顔が熱くなる。


「・・・・・・・・、んん・・・っ、」

「まだ何もしてないのに、何でこんなに濡れてるの?」

「やっ、・・・あ、う・・・っ」

「・・・ねぇ、どうして? ・・・すごく熱い。指ひとつじゃ足りないみたいだ」

「う、うそ・・・ッ」

「ふたつでも足りないかな・・・、ほら・・・、みっつ入った。・・・すごいね、これならオレのでも今すぐに入れられそう」

 言いながらレイは指をひとつずつ増やしていき、態と音を立てながら出し入れして、胸の突起を舌先で弾いて軽く歯を立てながら、ニヤリと笑みを浮かべた。


「あっ、あっ、レイ・・・ああっ・・・」

 小さく叫んだ美久は背中を仰け反らせ、自分の身体が簡単に彼の与えるものを受け入れてしまっている事に驚きを隠せないでいる。
 しかも強弱をつけて巧みに動く指先は確実に美久の弱い場所を掠め、ぐちゅぐちゅと掻き回される音が頭の奥まで響いて、熱くなった身体はそれだけの事でなす術も無く追いつめられていく。


「っ、・・・うそ・・・、こんな、・・・ッ、ちがっ、・・・・んん・・・」

「・・・もっと、・・・ほら、まだ上にいけるよ」

「あー、ッ、んぅ・・・ふ・・・ふぁ、あ、・・・あ、」

 頬を上気させて細かく息を吐き出し、指の動きに合わせて自分の中が激しくうねる。
 それが自身をより深くまで追いつめていくのに、美久にはまだそれがよく分からない。
 生理的に溢れた涙がこぼれ落ち、喘ぐ声はレイに誘導されるまま甘い響きとなっていく。


「わかる? ・・・あとすこしだよ」

 レイは中を掻き回しながら、耳元で甘い吐息と共に囁き続ける。


「・・・んんっ、・・・んぅっ、・・・あ、レイ・・・レイ、レイ、や、・・・いや・・・いやっ」

「いや? ・・・なにがいや?」

 乱れた彼女の姿に煽られているのか、レイの瞳が紅く淫らに煌めき始めていた。
 喘ぐ彼女の唇を舌先でゆっくりとなぞり、苦しそうに藻掻く身体を容易くねじ伏せる。


「や、いや、・・・指、・・・指じゃ、・・あっ、やあぁっっ」

 そう言う彼女の言葉が何を指しているかが手に取るように分かり、レイは心の中で笑いを噛み締める。
 彼は中に沈めた己の指先で彼女の一番感じる場所を執拗に擦りながら、逃げ場を封じて追いつめるだけ追いつめた。
 もう限界が近いのだろうか、美久の身体がビクビクと震えだす。
 その瞬間を見計らったかのようにレイは全ての指を一気に引き抜き、代わりに己の熱く猛ったもので彼女の中心を貫いた。


「・・・あっ、・・・や、・・・ッッ! ・・・・・・ッ、んん、・・・っ、ひ、・・・あーーーーーーっ!!!」

 美久の身体が大きく跳ねる。
 指の代わりに貫いたのは、説明するまでもなくレイ自身だ。
 激しく痙攣した内部は、まだ挿入されただけというのに圧倒的な質量と熱で簡単に陥落し、二、三度中を擦られただけであっさりと絶頂を迎えてしまったようだ。
 ぴくんぴくんと内が奮え、息を乱し、濡れた瞳がぼんやりとレイを見上げる。
 そんな彼女の姿を見て、レイは意地悪に目を細めた。


「・・・・・ああ、・・・ぁあ・・・っ、・・・あ・・・、・・・・あぅ・・・・・・、・・・、あ、・・・あ、・・・ぁ・・・・・・・」

 小さな痙攣を繰り返し、言葉にならない声をあげながら、美久はとろんとした目でベッドに身を投げ出していた。
 しかし、やがて今の自分を思い返して僅かに冷静さを取り戻したようで、彼女は自分の顔を両手で隠してしまう。
 あまりに簡単に達してしまった事が、もの凄い羞恥となって襲ってきたのだろう。
 レイは顔を覆う美久の両手を掴んでベッドに沈め、再び晒された真っ赤な顔にキスを降らせて恥ずかしがる様子を見つめ続けた。


「・・・は、・・・う、・・・・・・っ、熱・・・い・・・」

 美久は肩で息をしながら、小さく喘いだ。
 貫くレイの中心は、未だ燃えるように熱く脈打ったままだ。
 少し弛緩した身体には、その熱も質量も刺激が強すぎる。
 そのうえ、レイは首筋や耳元を唇でなぞりながら動き、それが胸元まで移動すると、今度は固く突き出した舌先で胸の突起を弾いた。
 彼の動きは美久を更に追いつめ、たまらなくなって身を捩る。


「・・・っ、・・・ふ、・・・ぅ・・・っ、・・・やあ・・・っ」

 少しでも刺激から逃れようと腰を退こうとすると、それを見越したレイの腰が中を突き上げ、結合が更に深まる。


「ま・・・、ま・・・って、・・・・・・まだ・・・、・・・・ま・・・、・・・」

 たった一度擦られただけでも刺激が強すぎて、美久はびくびくと過剰なほど大きく震えた。
 しかし、レイがそれを聞く気はなさそうだった。
 ゆっくりと腰を退いては深く突き上げられる、その動きが繰り返される度に結合が深くなっていくのだ。
 いやいやをするように尚も身をよじり、美久は少しでも逃れようと身体を浮かせるが、今度は両の太腿を抱え込まれて腰が浮き、そこへ打ち込まれた熱を最奥まで受け入れざるを得なくなってしまう。


「あーっ、・・・、・・・・・・深、・・・すぎ・・・る、・・・・・・よ・・・っ、・・・・・・っ・・・」

 これまで、こんなに深く彼が入ってきた事はない。
 もしかして、今までは加減されていたんだろうか・・・? 一瞬だけそんな考えが頭に過った。


「・・・美久、もっと奥まで」

「あ、・・・んんっ、・・・・・・くる・・・し」

「逃げないで・・・オレを、もっと中に入れて」

「・・・んんっ、・・・んぅっ、・・・あ、あ、ああっ」

 ぎりぎりまで腰を退いて、一気に腰を落とす。
 それが何度も何度も繰り返されて、次第にその速度も速くなって、中が擦られる度に身体が跳ねて悲鳴に似た嬌声が喉から絞り出される。


「・・・はっ、・・・あ、・・・・・・オレ・・・しつこいのに・・・・・・美久、かわいそう」

「あぁっ、・・あっ、・・・あーーッ」

 欲情に濡れた紅い瞳で、息を乱しながらレイはそんな事を言う。
 息が顔にかかるくらいの距離で喘いでいると彼の汗が美久の頬にぽたぽたと落ち、開いた唇の間にレイの舌が滑り込んで歯列をひっかく。


「・・・ココがオレの形になるくらいしてあげるよ」

 ぐじゅぐじゅと中を大きく掻き回しながら、レイが耳を疑うような言葉を囁く。
 けれど性急な動きと熱い息づかいからは言葉ほどの余裕は感じられず、彼にも限界が迫りつつあるのかもしれなかった。


「あー、あ、あ、あっ、あぁっ、・・・んっ、は、はぁ、ああっ、やああっ」

 内側を行き来する熱に喉を逸らして声を上げると、腰に腕を回され、繋がっている部分がより深くなるように引き寄せられる。
 最奥を突かれながら、美久は再び近づく絶頂に溺れた。
 再び彼に唇を塞がれ、差し込まれた舌に絡めとられた自分の舌は自由に動かすことさえ出来なくなる。


「んぅ、ふぁ、・・・っふ、・・・ん、ん、ん、」

「・・・・・・っ、ん、・・・・・・、は、・・・・・・、っ」

 うっすらと目を開けると、彼と目が合う。
 レイにとって欲情の色は紅なのだろうか。
 真紅に近い色は多摩のそれに決して劣るものではなく、とても美しい宝石のようだった。
 奥まで熱い塊に満たされて、一分の隙だって無いくらいひとつになろうとしている。
 遠慮なく中を蹂躙され、全身が熱くて頭の芯まで溶けてしまいそう。
 飲み込まれる。
 レイの熱にどこまでも引きずり込まれていく。
 脈打つ心臓よりも速く強く身体が揺れているみたいだった。


「んん、あ、あ、・・・あっ、も、・・・だめ、や、・・・ああっ」

「・・・・・・っ、っ、・・・・・・、・・・・・・美久・・・ッ、・・・・・・ッ」

 無意識にもがいた手も難なく捕らえられてベッドに沈む。
 激しさに身悶えて少しでも気を逸らそうと顔を背けても、唇が追いかけてきてすぐに塞がれてしまう。
 ただでさえ身体の中心を容赦なく突き上げられる熱でおかしくなりそうなのに、逃げようとすれば立ち所に引き戻されてそれ以上に強く深く拘束されてしまう。

 自分の身体じゃないみたいだ。
 どんどん逃げ場を失ってく・・・───

 そう思ったと同時に、中を掻き回すレイの動きが一層激しく深くなり、激しく乱れた熱い息が首筋にかかる。


「あっ、あー、・・・も、・・・あ、やぁッ!! レイ、レイ、・・・ッ、あ、・・・あ、あぁっ、っ、あーーーーっっ」

「・・・・・・っっ、・・・く、・・・・・・っっ」

 苦しそうに喘ぎながらぶるぶるとレイの身体が震え、彼の内から吐き出された熱が奥深くまで注ぎ込まれる。
 骨がきしむ程力強い腕が背中に回され、腰を深く落として繋がりを解かれる事のないまま荒い息だけが部屋に響いた。
 美久の身体はびくびくと痙攣を続け、繋がった部分からはどちらのものとも知れない体液が溢れていたが、その何とも言えない卑猥な光景に彼女が気づけるはずもなく、激しい脱力感に身じろぎ一つ出来ない。
 しかし、レイは乱れる息を僅かに整えるだけですぐに上体を起こし、若干乱れた己の着衣に手を掛ける。
 どうやら美久の要望(?)だったその服を脱ぐつもりらしい。
 額からは汗が滴り、吐き出す息が異常なまでに熱を持ち、早々にベストを脱ぎ捨てると直ぐに中に着込んだシャツのボタンに手をかけ、それらをひとつひとつ煩わしそうに外していく。
 上半身だけ裸になると、レイは脱いだ衣服を無造作に床へと投げ捨て、おもむろに美久の両腕を掴み取る。
 そうして自分の肩にそれぞれ手をかけさせると、彼女の耳元で小さく囁いた。


「・・・美久、・・・・・こうしてオレに抱きついていて」

「・・・・・・あ、・・・、ぅ」

 美久は彼の上半身が裸になっていることに、この時漸く気がついたようで、視線が彼の肌の上を彷徨っていた。
 ほとんど力の入らない腕はレイの首に何とか伸ばされて抱きつく形になったが、直ぐにでもはずれてしまいそうなほど弱々しい。
 そんな彼女に甘く口づけながらその弱々しい身体を抱き上げ、レイは繋がりを解くことの無いまま自分に向き合うように彼女を跨がらせた。


「・・・・・・ん、・・・っ、んぅ・・・」

 一度射精したにも拘らず、少しも彼の熱は収まっていない。
 まだ強すぎる刺激に美久は少し腰を浮かせたが、すぐに押さえつけられ引き戻されてしまう。
 レイは一度で終わらせる気がない・・・、それが分かり、美久は涙目になってぐずりながらレイに抱きつき懇願した。


「あぅ・・・、レイ、・・・もう少し・・・このままでいて、・・・おねがい・・・」

 せめてまだ動かないで。
 身体は既に自分のものではなくなってしまったかのように、自由に動かない。
 このまま、またレイの思うままにされてしまったら・・・そう思うと少し怖かった。


「大丈夫・・・、次はゆっくりするよ・・・・・・、・・・・・・───・・・ね」

「・・・うん・・・・・・え?」

「なんでもないよ」

 最後の方に何か言っていた気がするけれど、それは聞き取れなかった。
 けれど背中を柔らかく撫でられ、優しい口調にほっと息を吐く。
 彼に優しく触れられるとそれだけで身体が蕩けてしまいそう。


「美久、・・・可愛い」

 そう言って、レイは何度もキスを落とす。
 あまりに優しく甘いキスにうっとりして、美久は彼にその身を完全に預けた。
 しかし首筋を頬を胸をゆっくりと優しく唇でなぞっている時の彼の瞳は、先ほどと寸分違わぬ程の欲情に濡れた紅い瞳をしていた。
 それに気づかず、美久は再び甘い愛撫に溺れていく。


 『───朝まで長いしね』

 聞こえなかったのは、・・・恐らくわざとだったのだろう。










その7へつづく


<<BACK  HOME  NEXT>>



Copyright 2013 桜井さくや. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.