『約束』

○第12話○ 過去(その7)








 通ったばかりの道を駆け戻り、静の家があった付近までレイが戻るのにさほど時間は掛からなかった。
 しかし、その辺りには既に貴盛の気配がなくなっている。
 どこへ移動したのかと気配を探り、歩き回っていると突然後ろから声をかけられた。


「あんた、若様を探してるんだろ?」

「あ、ああ・・・」

「やっぱそうか。あんたが来たら案内するよう言われてきたんだ。若様は酷い怪我で、とりあえずうちで介抱しているんだよ。一緒についてきな」

 声をかけてきたのは歳若い青年だった。
 レイを見る眼差しに遠慮はなく、上から下までを何往復もして見ている。
 お世辞にも好意的な視線とは言えない。この里にも奇異なものを見る目を向ける者がいたようだと、少しだけ懐かしい気分になった。


「こんな立て続けに物騒なことが起こるなんて初めてだよ。あんたの所為だったりしてな」

 青年はレイと目が合うなりそう言い、踵を返した。
 その後ろをついていきながら、レイは拳を握りしめる。

 ────確かに元凶になっているかもしれない。

 どんな状況で貴盛が怪我を負ったのかは知らないが、得体の知れない何かに襲われたのは間違いないのだ。
 静の遺体を見た時に自分の目で確かめにいけばよかったのに、守ってあげるなどと言われて浮き足立ってしまったのだろうか。
 あの時に素直に引き下がらなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。
 このことは自分の甘さが招いた結果としか言い様がなかった。

 その後は青年と会話はなく、案内されるままにぽつんと建つ民家について行く。
 中に入ると、上半身を脱いだ状態で手当てされている貴盛の姿があった。


「レイ、わざわざ来てくれたのか。しくじってしまったよ」

 レイが姿を見せると顔を上げ、貴盛は苦笑を浮かべる。
 思ったほどではないのだろうか。
 瀕死の重傷を覚悟していたので、最悪の事態にはなっていなかったことにひとまず胸を撫で下ろす。
 それでも傷はそれなりに深いらしく、手当の女が布を取り替えている間にも貴盛の肌はどんどん血で赤く染まり、布できつく押さえていないと血が溢れてしまうようだった。
 また、顔色も悪く額には脂汗が滲んでいる。
 実際は起き上がっているだけでも、かなり無理をしているのかもしれない。
 レイは拳を握りしめ、肩から胸に向かって何かに引っ掻かれたようなその裂傷をじっと見つめた。

 だが、この場で貴盛を治癒してもいいのか・・・?

 考えながら周囲を見渡す。
 部屋には貴盛を手当てしている女と、話し相手になっていたのか家の住人らしき者が他に二人ほど。
 あとは廊下から様子を窺っている者が複数人いて、ざわついた空気が漂っている。
 貴盛に人前で力を使うなと言われたことが、レイがここで行動を起こすことに二の足を踏ませていた。


「・・・・・・変なことを聞いてもいいか?」

「どうした?」

「これは致命傷、ではないよな?」

「え? はは、死ぬほどの傷ではないよ」

「そ、そうか・・・」

 それを知り、レイはほっと息をつく。
 人と自分、程度の差が分からないのだ。
 力の差はどれほどなのか。どこまで傷ついたら人は死んでしまうのか。これが今すぐ治癒すべき傷なのか・・・。
 けれど、人に守ってもらうなどあり得ない話なのだと、この傷ついた状態を見て、それだけはよく分かった。
 彼らにとっては貴盛のような力を持つことさえあり得ない話で、 その力を持った貴盛でも『得体の知れない何か』には対抗出来なかったのだ。
 しかも、ここにいる誰一人として傷を癒せる力は持っていない。
 レイから見て軽く見える傷さえ、命に関わり兼ねないということだ。
 もう腹をくくるしかないだろう。
 自分で動かなければ、また次の犠牲者が出てしまう。


「貴盛、襲ってきたのはどんなヤツだったか覚えているか?」

「そう、だな・・・・・・」

 貴盛は眉を寄せてしばし考え込んでいる。
 やがて顔を上げ、周囲にさり気なく目を向けてからぽつりと呟いた。


「・・・銀色」

「銀色?」

「ああ、銀色だ。そんな毛色をしていた印象だけがやけに強い。一緒について来た者たちは影しか見えなかったみたいだが、少なくとも複数ではなかったように思う」

 その言葉に家の住人たちが顔を見合わせ、「皆に早く知らせた方が・・・」と囁き合っている。
 彼らはそういう毛色の獣が出たと思っているのだろう。
 しかし、貴盛はそれだけ言うと、じっとレイを見上げて無言で頷いた。
 それが『察してくれ』という意思表示だということはすぐに分かった。
 里の人々を混乱させるわけにはいかない。だから今のが貴盛が口に出来る最低限の言葉なのだと。


「なるほど、銀色か・・・」

 レイは乱暴に自分の髪を掻き流し、小さく舌打ちをした。
 銀色と言われて思い浮かぶ相手など一人しかいない。
 だとしても、今日まで近づく気配を全く感じずにいたのはどうしてなのか。
 勘が鈍っただけとは思えないが・・・。


「貴盛、動けるなら社へ戻っていて欲しい。その・・・、後で怪我した傷を部屋で見たいんだ」

「・・・それは構わないが」

「それから、他の者には里から一歩も出ないよう指示しておいて欲しい」

「レイ?」

「今日だけでもいい、絶対に里から出ないで欲しい」

 レイは周囲の人間にも言い聞かせるつもりで、廊下から覗いている者たちにも顔を向ける。
 そこには先ほどの青年もいて、訝しげな目を向けられていた。
 見ればこちらを見ている者たちの何人かは彼と同じ目をしていて、誰もがレイを信用しているわけではないということは一目で分かった。
 憤る気持ちはあるものの、彼らの気持ちが分からないでもない。
 これ以上は自分の口から何を言っても納得してもらえないと思い、レイは早々に頭を切り替えて部屋を出て行く。
 流石に貴盛の言葉なら聞くだろうし、そう指示してくれるだろうと思っての行動だった。


「レイッ、待ってくれ」

 ところが、家を出たところで、そんな声に引き止められる。
 振り返ると息を荒げ、胸を押さえた貴盛が追いかけてこようとしていた。


「何してるんだよっ!?」

「一人で行かせられるわけがないだろう! 君にそんな危険なことをさせるわけには・・・」

「既に人が死んでいるのに、そんなことを言っている場合かよ!! まともに動けないヤツを連れても庇いきれないと言っているのが分からないのか!?」

「な・・・」

「それより、貴盛は里の人間を守ることを考えろ。それがおまえの成すべき役目のはずだ」

「・・・・・・ッ」

「分かったら早く戻れ」

 キツい言い方に、貴盛は強張った顔を見せていた。
 彼の心配は嫌という程伝わっている。
 だが、これから対峙する相手は、そんなに簡単ではない。
 守りきれなかった時のことを考えるくらいなら、足手まといだと最初からはっきり伝えるべきだと思った。
 貴盛はしばし逡巡して迷う様子を見せたが、里の人間を引き合いに出されては口を噤むしかなかったらしい。
 悔しげな顔をしていたものの、やがて僅かに頷いてみせた。


「・・・・・・無理だけはしないでくれ」

「ああ」

 感情を抑えた貴盛の言葉に、レイは小さく頷いてその場を走り去る。
 彼の悔しさは理解出来たが自分の考えが間違いだとは思わない。
 後は彼が自分の役目を全うしてくれることを信じるしかなかった。


 ────ところが、里の外に出る山道に飛び出した時だった。
 微かな違和感を覚え、レイは立ち止まる。


「・・・・・・なんだ?」

 それはほんの少しの変化だった。
 里から出た瞬間、この里に来てからずっと感じていた空気が違うものに変化した気がしたのだ。
 と言っても、その感覚は言葉にし難いあやふやなもので、そんなものの為に時間をかけている場合ではない。
 それなのに、どういうわけかその感覚がレイの足を引き止める。
 暫しその場に立ち止まったままでいると、周辺から感じ取れる様々な動植物の気配が徐々に濃くなっていく。
 その直後、獣とも人とも違う気配が、レイに向かって恐るべき早さで近づいて来るのを強く感じ取った。

 ────ガサ・・・


「・・・・・・っ」

 沢の流れに混じり、落ち葉を踏みしめる密やかな音に息をひそめる。
 近づく気配を感じてから足音が聞こえるまでは一瞬のこと。
 しかし、それが何であるかを考えるより前に、レイの五感が危険を指し示す。
 すぐ近くのブナの葉が揺れて人影らしきものが揺らめいたにも拘らず、一向に“それ”が姿を見せなくとも、何がいるのかレイには手に取るように分かった。


「さっさと姿を見せろよ」

 言いながら、レイは里に背を向けて立ちはだかる。
 これより先には行かせないつもりの行動だった。


「───ック」

 と、人影らしきものが揺れた辺りから、喉の奥で笑いを噛み殺した声が聞こえてくる。
 じっと目を凝らして見るも、やはり姿は現さない。
 ところが、次の瞬間に変化が起きたのはレイの頭上だった。
 突然空が大きく歪みはじめ、それはすぐさま人の形を成していく。
 そのうちに輝くほどの銀髪が風に揺れるのを見たが、レイは半歩ほど下がっただけで動きを止めてしまう。
 いきなり伸ばされた腕に喉を掴まれただけでなく、眼前に現れた仄暗い怒りを宿したエメラルドの眼差しに釘付けになったからだった。


「あれほど父上に可愛がられながら、愚かなことをしたものだな・・・」

 侮蔑が込められた低音がレイを責め立てる。
 風に揺れた長い銀髪に頬をくすぐられ、近づき過ぎた距離を開ける為に手で払う。
 喉を掴んだ手は一瞬だけ力が込められて食い込んだが、それ以上は何もせずに離れていった。


「クラウザー、どうしておまえが出てくるんだ」

「父上の命とあれば致し方ない。とは言え、中々新鮮な体験だった。レイ、おまえも思わなかったか? ・・・・・・血の香りは新鮮なものの方が遥かにいいと」

「・・・ッ」

「ただ、話には聞いていたものの、あそこまで肉体が脆いと扱いづらさを感じる。女は軽く歯を立てただけで倒れ、その後やってきた男は戯れに引っ掻いただけで皮膚が裂けてしまった」

 クラウザーは目を細めて自分の指先で唇をなぞっている。
 唇から覗く綺麗に並んだ白い歯は特に鋭いわけでもなく、人間のそれとさほど変わらない。
 また指の爪は先がやや鋭いが、見た目からは凶器になるほどのものでもなかった。
 しかし、静の首筋はこの歯に喰いちぎられ、貴盛の胸元はこの爪に抉られたのだ。
 脳裏に二人の傷が蘇り、レイは吐き気を催す。


「・・・・・・歯を立てる必要は本当にあったのか? 戯れに引っ掻くって、何の為に?」

「さあな。もう忘れた」

 口角を引き上げ、クラウザーは平然とうそぶく。
 その顔を見てレイは理解した。歯を立てずとも彼らの血液が取り込めることは、クラウザーにも出来たに違いないと。
 つまり、あんなふうに静を傷つける必要などはなく、その後やってきた貴盛に対しては傷つける理由も特にはなかったということだ。
 クラウザーがやっていたのは、どれほどの力で人が傷つくのかという己の好奇心を満たす為の実験をしていたに過ぎない。
 それはレイの身体に様々な薬品を投与させていたクラークの姿を頭に過らせるものだった。


「・・・・・・おまえはクラークとそっくりだ」

「よく言われる」

「心底おまえたちに虫酸が走る。オレはあんな場所には二度と戻らない」

「ならばどうする気だ? ここで生きていくとでも? ・・・レイ、おまえはここの連中とは見た目からして違うではないか。瞳の色、髪の色、肌の色、背の高さ・・・、これだけ違いがありながら、彼らに紛れながら生きていけるとでも? その服もそうだ。同じものを着たところで彼らとの違いが際立つだけだ」

「そんなのクラークの傍にいようが同じことだ! だけど、ここの方が遥かにいい。アイツの傍より何倍も自由だからな」

「っは、馬鹿なことを」

「何とでも言え。おまえにはオレの気持ちなんて分からない」

「分かる必要などどこにある? 私はおまえを連れ戻すだけだよ。リーザの為にな」

 そう吐き捨て、クラウザーは地面を蹴ってレイに飛びかかる。
 しかし、レイはその動きを寸前の所で躱し、捕まえようと伸ばされた手は空を切った。
 その一瞬の動きの乱れを逃さず、レイはクラウザーの腹を思い切り蹴り上げる。
 だが、派手に飛ばされたものの彼は己の手で腹をガードしていたらしい。
 クラウザーは飛ばされたというよりも寧ろ自分で飛んでダメージを軽減させたようで、さほどのダメージも追わずにすぐに立ち上がった。


「・・・・・・リーザはオレの女じゃない」

「まだそのようなことを」

「本当のことだ。この先も、リーザだけは選ばない」

「何を・・・」

「だって、あれはおまえの女だろう?」

「・・・・・・ッ!?」

 レイは小さく息をつき、クラウザーに近づいていく。
 間違ったことを言ったつもりは微塵も無かった。
 そもそも、最初にリーザの婚約者だったのはクラウザーの方で、誰もが分かるくらい互いに愛し合った仲だったのだ。
 今も尚、彼がリーザを愛し続けているのはレイにも分かっている。
 ならばレイがいなくなった方が彼にとっても都合がいいはずだ。
 それなのに、レイの言葉を耳にした途端クラウザーの顔が引きつり、唇を震わせてエメラルドの瞳を憎悪に染めていった。


「────レイ、おまえがそれを言うのか」

 突如、クラウザーの手のひらに力が集まっていく。
 怒りに染まった瞳は充血し、殺意を滲ませていた。
 一体何が彼の中の火をつけてしまったのだろう。
 困惑したままクラウザーから距離を取ろうとすると、彼は己の手のひらをレイに向けた。


「なッ!?」

 クラウザーの手から黒炎が激しく燃え上がり、レイに向かって襲いかかろうとしていた。
 怖気が走りレイはそれらを躱していくが、躱されて下に落ちた黒炎は周囲を巻き込んで大地までもドロドロに溶かしても尚、勢いを緩めない。
 それは初めて見るクラウザーの力だった。
 こんな力は見たことがない。触れれば最後、命を焼き尽くすまで止まらないだろうことは容易く想像出来た。


「何だよ、この力は・・・・・・」

「レイ、捕まりたくなければ本気で抵抗してみせろ。その代わり、何もかもを破壊し尽くす覚悟を持て」

「は? 冗談だろ」

「生憎、冗談は大嫌いだ」

 黒炎はクラウザーの手のひらから次々発生し、レイに襲いかかってくる。
 それらのほとんどは躱せたものの、数が多く変則的な動きをするのでいくつかは避けきれずに直撃を免れない。
 やむを得ず腕で払うとジュワッと肉が焼かれる音がした。


「・・・うっ」

 骨まで浸みる熱傷にレイは顔を顰める。
 しかし、熱は更に身体の奥まで侵蝕して喰い尽くそうとしていた。
 堪らず己の手のひらを熱傷に当て、光を注いでいく。
 これを放置しておくことは危険だった。


「その黒炎さえも治してしまうか。・・・化け物めが」

 すぐさま侵蝕が食い止められ、治癒される熱傷を見て忌々しげにクラウザーが唇を歪める。
 しかし、本気で抵抗しなければ連れ戻されかねない状況にもかかわらず、レイはそんな彼に対して力を使うことを躊躇していた。
 こんな場所でやりあえば多大な損害を生む。
 人里にも被害を与えてしまう。現にクラウザーの黒炎で草木が焼かれ、炎が広がっていた。
 レイが躊躇するのは、この里の人々を巻き込みたくないという気持ちがあるからだった。

 ところが、そこであることに気がつく。
 炎は広がっていくが、里の手前までで消失してしまうのだ。
 それを見ているうちに、レイは思い出す。
 里の中にいた時と、外に出た時ではまるで違うことを。
 考えてみれば、あれは何かに守られている感覚が、里から出た瞬間に消えたように思えたからではなかっただろうか。
 ずっと感じていたことだ。
 ここは強い“結界”に守られている気がすると・・・。
 しかもクラウザーの力が及ばないことは、燻った黒炎が里に入れずにいることでよく分かる。
 彼の気配を感じられず里の中に乗り込んでこなかったのも、その力が及ばないのも、この土地にクラウザーが受け入れられていないからではないだろうか?
 自分がここに受け入れられていることについては分からないままだったが、今はクラウザーが中に入ってこられないという答えを見つけたことが重要だった。


「・・・・・・そういうことか」

 ようやく納得がいく答えに辿り着き、レイはぽつりと呟く。
 そして、クラウザーの手のひらが自分に向けられたのを見て覚悟を決め、自ら飛び込んでいった。


「ぐぅ・・・ッ」

 黒炎がいくつも胸に降り注ぎ、その重い熱にレイは低く呻く。
 それでも構わず前に出て、黒炎を作り続けるクラウザーの腕を掴み取り、空へ向かって力の限り放り投げた。
 その姿を目で追いかけ、レイは瞬時に増幅させた力を全身から放出させる。
 一瞬で膨れ上がったその力はまばゆい光となり、放り投げられたクラウザーは見る間に呑み込まれていく。
 だが、呑み込まれかけながらもクラウザーの攻勢は強まる一方だった。
 次々と降り注ぐ黒炎はレイの身体を熱傷で侵し、零れた炎は大地を焼いていく。
 けれど延々と攻撃し続けることは、クラウザーにも出来なかったらしい。
 レイの身体から放出する光に耐えきれなくなったのか、やがて炎は勢いを失くして完全に止まってしまった。


「っは、はあっ、はあ・・・ッ」

 力を緩め、レイは息を荒げながら天を見上げる。
 クラウザーの姿も気配も見当たらない。
 まさか、力に呑み込まれてしまったのだろうか。


「・・・・・・いや、違うな」

 髪をかきあげ、レイは息をつく。
 やったという手応えはなく、そもそもあの程度でクラウザーをどうにか出来るとは思えない。逃げられたと考えるべきだろう。
 レイは周囲を見渡し、顔をしかめながら所々で燻った炎を薙ぎ払っていく。
 このままにしておけば、大きな火となって山が燃えてしまいそうだった。


「痛ぇ・・・」

 一通り燻った炎を消すと、レイは胸を押さえながら里に戻っていく。
 久しぶりに痛みを思い出し、忌々しさがこみ上げた。
 本当にうまくいかない。
 どうして思うように生きようとしただけで邪魔が入るのだろう・・・。
 レイは社に戻るまでの間、不安な顔をする人々から目を逸らすようにずっと俯いていた。


「もう、ここにはいられないな・・・・・・」

 レイはぽつりと呟く。
 頭の中に美玖の顔が浮かんだが、それは必死に打ち消した。
 自分の存在は彼らにとっては厄災にしかならない。

 貴盛の傷を治したらすぐに出て行かなければ・・・。

 胸の熱傷はすぐに治癒したが、違う痛みが胸に残っていた。
 けれど、こんな自分にも優しくしてくれたこの場所や、彼らの生活を壊したくはなかった───。








その8へつづく



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