○第2話○ 予想外の出来事(その3)
「・・・・・・美久」
レイは彼女の耳元でそっと名前を囁いた。
しかし、無防備な寝顔に変化は見られない。
沸き上がる欲情にもう一度唇を噛みしめ、苦しげに熱い息を吐く。
先程まで彼女を抱き上げていた腕には、美久が発する甘い香りも柔らかな感触も残っていて、それが狂おしいほどの欲望を掻き立たせる。
「・・・・・・」
───早くこの家から出ないと・・・思うままに動いてしまいそうだ・・・
そう思うのに、レイの身体は彼女から離れようとしない。
一度点いてしまった火は、厄介な事に簡単に消えてくれそうに無かった。
紅く瞬いた瞳が無意識のまま彼女の全身を捉え、美久の方へと手が伸びてしまう。
頬に、唇に、首筋に指を這わせ、制服の上からでも分かるくらい柔らかく女らしい曲線を、手のひらでなぞった。
これはどこもかしこも触りたくて仕方なかったものだ。
・・・だめだ、抑えろ。
レイは自制を促そうと歯を食いしばる。
好きだと言った彼女の想いは、心の中に芽生えたばかりの小さなものだ。
レイが求める想いに比べれば、それが遙かに幼い感情だということは痛いほど分かっているつもりだ。
だから、この想いを少しでも受け入れられるようになるまで待たなければ・・・そう思う癖に、美久の身体を厭らしく這うこの手は何なのか。
欠片ほどに散っていく理性をつなぎ止めようとする一方で、浅ましい行為を止められない。
そして欲望に誘われるまま、薄く開いた彼女の唇に自分の唇を重ね、甘い口腔を味わいたくてゆっくりと舌を差し入れた。
「・・・・・・っ、・・・ぅ・・・・・・っん」
深いキスで口を塞がれた美久が、息苦しそうに喘いで身体を捩った。
レイは一瞬我に返って唇を離したものの、小さく喘いだ声にこれ以上ないほど煽られて、また唇を塞ぐ。
歯列をなぞり、彼女の舌に絡み付くように吸い付き、後は望むままに貪った。
そこまでされれば流石に意識が戻ってきたようで、美久はうっすらと眼をあける。
「・・・ん・・・っ、・・・・・・ふ・・・ぅ」
「・・・起きた?」
「・・・・・・・・っ、・・・はぁ・・・・・・・・・え、・・・レイ・・・? ・・・なん・・・で、ここ、私の部屋・・・?」
彼は何事もなかったかのように、紅く瞬いたままの瞳で笑顔を向ける。
だが、美久がその瞳に違和感を憶えることはなかった。
身体に触れられる感覚に狼狽えて、目の色など気にかけている場合ではなかったのだ。
「・・・やっ、・・・なにしてるの・・・っ?」
見れば制服のボタンは殆ど外されて、下着が見えてしまっている。
それだけならまだしも、レイの手が下着の中に滑り込んでいて、胸を直接触っていたのだ。
「何って・・・分からない?」
胸の突起を指と指で挟み、首筋を舌がゆっくり辿る。
「・・・ひゃっ、・・・やっ、・・・やめてっ」
熱い吐息を首に感じていると、ブラジャーのホックがパチンと外された。
空気に晒された胸を必死に手で隠そうとするものの、彼の手に拒まれ、挙げ句の果てには胸に顔を埋めて頂を舐められてしまう。
「・・・きゃぁっ・・・、やっ、やだぁ・・・っ」
全てが突然すぎて、これがまだ現実かどうかの確信が持てなかった。
けれど、彼の片手であっさりと頭の上に拘束されて胸の敏感な場所を舌で弄ばれる感覚も、残った片手で太股を撫でられている感触さえ、夢で片付けられないほど生々しい。
「・・・レイっ、・・・いやだよっ・・・どうしてこんな事するのっ!?」
「好きなら当然の行為だよ」
「・・・やだっ、いやだ・・・・・・っ、・・・・・こわいのっ、お願い、やめて・・・っ」
目に涙を溜めて必死に懇願する。
だがレイは少し笑みを浮かべただけで、再び胸に顔を埋めて行為をつづけた。
「・・・・・・ぁっ・・・」
舌先で幾度も突起を嬲り執拗に刺激を受け、思わず身体がぴくんと反応してしまい、先が尖って硬く主張をした蕾を甘噛みされる。
美久は羞恥と恐怖で混乱して小さくふるえた。
「・・・・・・っ・・・ん、・・・あ」
掠れた声が喉奥から漏れてくる。
まるで別人みたいに誘うような自分の声に、激しい自己嫌悪に襲われた。
「・・・美久、かわいい」
うっとりと目を細め、レイの手が腹部をなぞる。
やわらかくしっとりした肌を何度も撫でて、彼は感触を楽しんでいるようだった。
「・・・は・・・ぅっ・・・やぁっ・・・やだっ、レイ・・・っ、きゃあっ!?」
ショーツの上から中心に触れられ、美久は驚き悲鳴を上げて彼を押しのけようと抵抗する。
けれど、そんな小さな力では何の拒絶も示せず、焦らすようにソコを指先でなぞられながら唇が重なった。
絡み付いた舌から逃れようと抵抗するが、送り込まれる熱い息に頭の芯を溶かされそうになる。
「っ、・・・あっ」
ショーツの隙間から指が滑り、秘唇に直接触れられる。
そこは僅かに湿っていて、抵抗しながらも彼の愛撫に多少は反応していた事がわかり、レイは目を細めて彼女の頭を撫でた。
美久は自分がどうなっているのか、どうして頭を撫でられたのかがわからない。
「ぁ・・・っ、だめ・・・・・・息が、できな・・・よ・・・、んぅっ」
唇を塞がれながら指を中心に埋め込まれ、泣きながら喘ぐ。
幾度も抜き差しされて身体を捩るが、レイはその抵抗を残った腕で封じながら中心を刺激するのはやめず、美久の表情を注意深く観察している。
「んんっ」
そして、ビクンと、身体が大きく反応したのを感じ取ると、レイはもう一本指を増やして執拗にそこばかりを擦り始めた。
「あっ・・・いや・・・レイ、・・・・・いたいよ・・・っ、・・・もうやだぁっ」
「大丈夫、痛いだけじゃない・・・、ほら・・・」
「もうやめて・・・っ、・・・あっ、・・・あぅ・・・っ・・・」
彼の首に抱きつき、強烈な刺激から逃れようと首を振り、その刺激を与えるレイに助けを求めた。
「あ、ああ、・・・やあぁっっ」
初めての感覚に恐怖を感じて涙がこぼれる。
絶え間ない刺激に身体が跳ね上がり、ビクビクと痙攣し、無意識に彼の指を強く締め付けていく。
「そう、上手だね・・・もっと、もっとだよ・・・」
耳元で暗示をかけるかのように甘く囁き、同時に指が奥を弾いて美久の目が見開かれた。
「あっ・・・っ、やっ、ひぁ・・・っ、ぁあっ」
「・・・そう、・・・もっと、もっと・・・」
彼の声に後押しされ、どんどん昇り詰めていく。
レイは美久の反応に目を細めると、一気にショーツを取り去った。
「あっ、・・・やだあっ、あっ、やあぁっっ・・・っ!」
彼女の股の間に顔を埋め内腿に赤い痕が付くほど唇を押し当て、追い打ちをかけるように敏感な芽を丹念に舐めあげると、出し入れしていた指を引き抜き、かわりに舌をねじ込む。
生暖かい舌が器用に動き、彼の両手は訳も分からず逃げようとする身体を押さえつけた。
強制的に与えられるそれを受け入れる準備なんてあるはずがない。
美久は襲い続ける得体の知れない感覚に怯えた。
口から出てくるのは嬌声ばかりなのに、迫り来るものが恐くて堪らないのだ。
「あぁっ、ああ、あ、・・・、あっああっ」
嗄れそうなほど啼き続け、それが一層大きくなった瞬間、背中が弓なりに反って遂に何かが爆発した。
「んん、・・・っは、・・・あ、あ、あ、ああああーっっ!!!」
ビクビクと激しく波打つ身体は自分のものとは思えないほど自由がきかず、頭の中が真っ白で何も考えられない。
・・・・・・身体中が・・・・・・、熱い・・・・・・
何が起こったのか理解する事も出来ず、美久は汗の玉を額に浮かべ、ぐったりとベッドに身体を沈めた。
しかし、レイは休む隙など与える気がないようで、あふれ出す蜜を指で掬い上げ、濡れた手を愛おしげに舐めとりながら着ていたシャツを脱ぎ捨てた。
次々と着ているものを脱ぎ捨てていく中、ベルトを外す金属音を耳にしてか、美久の目がうっすらと開く。
その時見たものは、のしかかろうとしているレイの姿だった。
細身に見えた彼の身体は思ったよりもずっと逞しく、見下ろす瞳が紅く綺麗に輝き、彼が次に何をしようとしているのか考えもせず、美久はその姿に見惚れてしまう。
レイは惚けた顔で自分を見る美久に微笑みを浮かべる。
そして、未だまともに理解出来ていない彼女の気持ちを置き去りにしたまま、レイはその身を彼女の中に沈めるべく迷わず身体を落としたのだった。