『約束』

○第5話○ 銀髪の男(その5)







 二人が家に戻ったのは明け方近くだった。
 その間貴人は一睡もせず待ち続け、外から物音が聞こえたと同時に痛む身体を引きずりながら玄関へ向かい、彼らの姿を目にして漸く気が抜けたのか、膝をついて座り込んでしまった。
 しかし、眠っている美久を横抱きにして立っていたレイは、数時間前に見た時よりも更に憔悴しきった様子で、貴人は慌てて立ち上がって美久を受けとる。


「・・・特に怪我はないみたいだ。オレの心配ばかりで寝ないから眠らせただけだよ。ベッドで休ませてやって欲しい」

 レイは目を細めて微笑を浮かべ、愛おしそうに美久の頬を撫でる。
 けれど、時折意識が遠のくのか、グラリと身体が揺らいで立つのもやっとの状態のようだった。


「レイ、君も休んで。こっちへ」

 壁に手をつかないと歩くこともままならないレイをリビングまで連れて行き、ソファに倒れ込むように横になったのを確認して、貴人は急いで美久を2階まで運んだ。
 確かに美久の様子は特に変わりはない。
 ただ見たこともないような異国の服を着ているという事だけが気になるだけで。
 ひとまずそれは後にすることにして、貴人は再びレイのいるリビングまで降りていく。
 見るとレイはぐったりとソファに横たわったまま、全く動く様子がない。
 貴人は不安を感じ、彼の頬に手を当ててみることにした。
 ・・・冷たい。
 息はしているかと、口元で耳を澄まし、僅かに呼吸音を聞くことが出来て胸を撫で下ろす。


「レイ・・・・・・寒くないか? 布団、持ってくるか?」

「・・・・・・た・・・か、・・・ひ、と」

「どうした?」

 囁くよりも小さな声に貴人はレイの顔を覗き込み、出来るだけ穏やかに答えた。
 うっすらとレイの瞳が開き、貴人の姿を捉える。
 彼は暫く黙って貴人を見ていたが、少ししてまた目を閉じてしまう。


「・・・オレ、今死ねたら、誰よりも幸せだ」

 ほぅ、と小さく吐息を吐くようにレイは言う。
 何があったのかは貴人には分からない。
 けれど、彼がそんな事を言うのだから、きっととても良いことがあったのだろうと思い、貴人はレイの手を強く握った。


「・・・レイは生きて、美久と幸せになるんだろう? それって、死ぬこととは比べようもないほど幸福じゃないのか?」

「・・・・・・・・・」

「だから、死ぬとか言っちゃだめだ」

「・・・でも、貴人」

「ん?」

「オレ・・・生きてていいのかな・・・」


 ───オレが生きていたら、美久を連れて行くよ?

 まるでそう言われているように貴人には思えた。
 だが、貴人はもうそのことに対して、レイに反発するような素振りは見せなかった。


「・・・・・・生きてくれよ」

 きっと、連れて行ったら二度と戻らない。
 貴人にはそれが分かっていたが、彼に言い聞かせるように握った手に力を込めてそう言った。

 レイは目を閉じたまま貴人の言葉に小さく頷き、そのまま気を失うように眠りに落ちていく。
 その寝顔があまりに無防備で、安心しきっていて・・・・・・
 こうしていると、本当に美久と同い年くらいにしか見えないのに、今までどれだけ切ない思いをしてきたのだろう。


「・・・・・・・・・寒いか・・・?」

 貴人はレイの為に別室から布団を運んできて彼に掛けると、自分は床に座り込んだ。
 どうやら押し寄せる睡魔にこれ以上打ち勝つことは出来ないらしい。
 しかし、眠ってしまってもう聞こえないはずのレイに向かって貴人は小さく呟く。


「・・・・・・本当は・・・、憶えてるよ。・・・・・・、遠い昔、僕はレイにこう言ったんだ。・・・・・・"君はもう家族だ"って。・・・・・・今からでも・・・そうなれたらいいのになぁ・・・・・・」

 そう言うと、大きな欠伸を2度3度した後、貴人はバッタリと横になって深い深い眠りに落ちていった。












▽  ▽  ▽  ▽


 一方、姿を眩ましたクラウザーは、広大な森林に囲まれた中心に位置する巨大な城壁の前に立っていた。
 彼は先ほど同様に幾分疲れた顔でこめかみを押さえている。

 それでも、フラフラと歩みを進めていくと・・・


《なぜ、俺に逆らった》

 突如、クラウザーから、彼とはまた別の声が発せられた。
 彼自身は口を動かしておらず、どちらかというとクラウザーの内部からその声は聞こえてきたように思えるのが妙だった。


《・・・あのまま女を犯してしまえば良かったではないか。それがおまえの望みだったのだろう?》

「・・・・・・そんなことは望んでいない」

《俺に隠し事をするのか? ならばおまえの醜い心は何を望むというのだ》

「・・・・・・・・・」

 クラウザーは内部からの声に眉を寄せ、グッと拳を握り締めた。


《大体あの茶番は何のつもりだ。態とレイにとどめを刺さなかった事を俺が気づかないとでも思ったか? 変な感傷に耽っていると、いずれは己の身を滅ぼすことになるのが分からぬか?》

「・・・・・・わかっている」

 声との会話中もクラウザーは歩を進め、門の前に立つ。
 門番や衛兵らしき者達が彼の存在に気づくや否や、一糸乱れぬ動きで敬礼した。
 すぐに巨大な門が低い唸り声をあげながらゆっくりと開かれ、彼はその城門の奥へと足を進める。
 その先に見えたものは広大な敷地とその中心にそびえ立つ絢爛豪華な宮殿の姿だった。
 彼はそのまま宮殿へ続く長い通路を歩きながら、一度だけゆっくり空を見上げる。
 まるでこの宮殿に降り注いでいるかのように空は晴れ渡り、神々しいまでに美しい光景だった。



 ───クラウザーが宮殿へと足を踏み入れて間もなく、彼はひと息つく間もなく早々にこの宮殿の主の私室へと呼ばれていた。
 誰もが自由に行き来できるわけではないその部屋に通され、中をさり気なく見渡したクラウザーは僅かに目を細め、数歩進んだところで窓際に佇む男の姿を捉えた。


「只今戻りました」

 クラウザーの言葉を受け、その男はゆっくりと振り向く。
 恐ろしく整った面立ちでどことなく優しげな雰囲気を滲ませるその瞳は、同時に限りない冷酷さも併せ持つ。
 外見だけを見れば、彼はクラウザーと非常に酷似した容姿を持っていた。
 彼の名はクラーク。
 クラウザーとレイの父でもあり、この宮殿の主であると同時に時の権力者という肩書きをも手にしていた。


「レイは一緒ではないのか」

 クラークは自分の目の前に跪く息子を一瞥し、失望にも似た溜息を漏らした。


「・・・・・・・・負傷している故、静養しております」

 クラウザーがそう言うと、クラークの顔色が変わった。


「・・・・・・、・・・負傷・・・?」

「すぐ回復するものと思われますが」

「・・・・・・あぁ、・・・、・・・そう、だったな」

 僅かに安堵した吐息がクラークから漏れた。
 それを見たクラウザーは、無言で瞳を閉じる。


「確かにレイならばどれ程傷つこうが死ぬことはないだろう。あの子はどのように過ごしていた」

「変わりなく・・・」

「そうか、変わりないか。・・・最後に会ったのはいつだったか・・・早く顔が見たいものだ」

 目を細め遠くを見つめるクラークの眼差しは、完全に父親のそれである。
 それはクラウザーや他の子供たちには決して向けられることのないものであり、父としてのクラークの感情はレイの為だけに存在するといっても過言ではなかった。
 クラークは暫し想い出に浸っていたのか穏やかな笑みを浮かべていたが、突然その笑みを掻き消すと、鋭利な眼差しをクラウザーに向ける。
 レイ以外に対しては、彼はこんな眼差ししか向けないのだ。
 例えレイがクラークに対してどのような感情を抱いていようが、周囲から見ればそれが真実だった。


「クラウザー・・・私の言いたいことがわかるか?」

「はい。一刻も早く父上の御前にレイを連れて参ります」

「お前には期待しているよ」

 そう言って頷き、美しく微笑むクラーク。
 陽に透けた金髪が神々しいまでに輝き、とても手の届かない遠い存在に感じられる。
 美しい父、優しい父、全てが憧れで父を尊敬して止まなかった。
 けれど、その美しい碧眼が笑っていない事に気づいたのは・・・レイに向けられるときだけが本物だと知ったのは・・・・・・一体いつだったか───


「あれは、"バアル"の王になるべくして生まれた子だ。・・・いずれ私の後を継ぎ、全てを掌握し、それ以上のものを手に入れられる器を持つ存在となるだろう」

 その言葉はもはやクラークの口癖のようなものだった。
 レイが行方知れずとなって長い月日が経ったが、彼のその想いは欠片も揺らぐことはないようだった。

 ───バアル。
 それはクラークを君主として統治されている巨大独裁国家の名称である。
 クラークは一見女性と見紛うばかりの優しげな容貌をしているが、その芯は決して生易しいものではなく、絶大な権力を意のままに操る独裁者だ。
 しかし、多少好戦的な性格を持つものの、その手腕は歴代の中でも極めて評価が高く、安定した国家運営能力に多くの国民は満足し、彼を名君として尊敬していた。
 そのクラークの今の望みは誰を己の後継者に据えるかということであり、その問題もまたクラーク以外に決定権は無い。
 誰であろうとその意向に異を唱えることは許されるものではなかった。
 にも拘らず、クラークがその事を都度クラウザーに話して聞かせるのは、余計な権力志向を抱かぬように言い聞かせる為なのだろうか。
 クラウザーは視線を床に落とし、僅かにほくそ笑む。

 私があの子を殺そうとしたと知ったら、父上はどんな顔をなさるだろうか。
 本当に殺してしまったら泣かれるのだろうか、絶望し憎悪の眼差しを私に向けるのだろうか・・・
 そうすれば、私の顔も少しは見てくださるだろうか?

 心中そんな感情が渦巻いていたとしても、クラウザーがそれを口に出すことはない。


「父上の望みは私の望みです。お任せください」

 父の望まない感情は幾重にも重ねて蓋をして、望み通りの駒を演じる為に、彼は表情の無い顔で頭を垂れるだけなのだ。










▽  ▽  ▽  ▽


「クラウザー!」

 父との対面が終わり部屋を出た直後、待ち構えていたかのような甲高い女の声がクラウザーの足を止める。
 静かに振り返ると、贅沢を身に纏ったような派手な女性が彼に駆け寄ってくる所だった。
 クラウザーは紳士的に彼女の手を取り、手の甲に口づけてみせる。


「・・・母上・・・ご無沙汰しております」

「クラウザー、どこへ行っていたの? 寂しくて死にそうだったわ」

「すみません。また出ることになりそうです」

「そんな・・・っ、今日はこれから空いている?」

「人を待たせておりますので・・・」

「・・・・・・そう」

 そう言って沈んだ顔で項垂れ、弱々しくクラウザーに縋るこの女は正真正銘、彼の実母である。
 クラウザーを筆頭にクラークとの間に4人の子を設けた彼女は、所謂正妃という立場であり、それなりに大きな権力を手中に収めている。


「・・・あなたは益々クラークに似てくるのね」

「光栄です」

「本当に・・・写し取ったみたいに・・・・・・」

 うっとりと見つめられ、クラウザーはわざと微笑んでみせた。
 そうすると母は喜ぶのだ。
 クラークに笑いかけてもらえたみたいだと。
 しかし、彼女、ナディアの想いとは裏腹に、夫婦関係はとうに冷え切ったものとなって久しかった。
 今のクラークにとって、ナディアは政略結婚で得た外交の駒としての価値しか無いようだった。
 それでも彼女の想いが変わる事無く・・・いや、以前より一層強く、周囲から見れば恐ろしいほどにクラークを慕い続けている。
 だからこそ、髪と目の色が違うだけでクラークに良く似た彼に執着するのは当然の結果だったのだろう。


「・・・あなたほど世継ぎに相応しい人物はいないわ」

「何を仰います。世継ぎはレイと・・・」

「・・・レイですって・・・ッ!? あのようなどこの出身かも分からない売女の息子など、思い出すだけで腹立たしい!! あの女に生き写しの顔でクラークに付け入り・・・っ、今では城に寄りつきもしない癖に次期王などとは何という身の程知らず!! 相応しいのは血筋も才覚も備わったクラウザーだけだわ・・・ッ!!」

「・・・・・・」

 感情をむき出しにしてレイを罵倒する母に、クラウザーは沈黙で答えるしかない。
 何かを言おうものなら、更なる憎悪を生み出し止まらなくなるからだ。
 ナディアはレイを心底嫌悪している。
 レイが彼女に対して何らかの失態を犯したというわけではない。
 クラークが彼女以外の女を愛して生まれた子供・・・その理由が全てだった。
 その女はレイを生んで間もなく帰らぬ人となり、これまでの憎しみの矛先の全てがレイに向けられるようになるのは彼女の中では極自然なことだった。
 何故ならその女が現れるまで、クラークはナディアだけのものだったからだ。
 我が儘が過ぎることがあっても大抵は温厚に受け止め、ほんの少し拗ねてみせれば満足いくまで傍で愛を囁き、子供たちへの愛情も欠かさない・・・何一つ非の打ち所がない、彼女にとって完璧な夫だった。
 その生活はある日、愛馬に乗ったクラークが森で生き倒れていた女を助け、宮殿へ連れ帰った事で突然の終止符を迎える。
 以降ナディアとクラークが夜を共にすることはなくなり、ひと月ほどして体調が回復した女を妻として迎えると彼が公言した事で、国中に激震が走った。
 もうその時にはナディアが何を言おうが時既に遅く・・・クラークは女にのめり込むあまりにナディアを断ち切り、離縁という形では無いにせよ、一時は彼が居住する宮殿の中央にすら足を踏み入れる事すら禁じられ、他人よりも遠い存在となってしまった事は彼女の心に深い傷を負わせた。


「・・・あの女の子供なんて・・・あんな化け物なんて・・・」

 傷は・・・ナディアを変えてしまった。
 クラウザーは、最愛の夫に捨てられ変わってしまったナディアを見ても何も言えなかった。
 断ち切られたのは、何もナディアに限った事ではないからだ。
 クラークがレイ以外の存在を持ち駒としか見ようとしない事こそが何よりの答えだった。










▽  ▽  ▽  ▽


 その後、クラウザーが数年ぶりになる自室へと足を踏み入れると、5人の男女が既にこの場に集まっていた。
 彼らはクラウザーに従属する精鋭部隊であり、クラークとのやりとりで生じるであろう命令を伝える為に招集がかけられていた。


「・・・で? どうやって彼を連れ戻すつもりだ?」

 一通り状況説明を終えたところで、長身の男が身を乗り出して問いかけてくる。
 彼は右の頬から額にかけて赤い刺青が彫られ、癖のある蜂蜜色の髪が印象的な男だった。
 そのうえ、いかにも軽そうな口調で話すこの男の態度は、目上の者に対しての言葉遣いとしては無礼極まりない。
 それでもクラウザーは慣れているのか、別段気に留める様子もなく淡々と話を続けるだけだった。


「簡単な罠を張るだけでいい。・・・どうせすぐに引っかかる」

 そう言って、クラウザーは低く嗤った。


「誰が動きますか?」

 今度は顔の左側に先ほどの男と対称の入れ墨を彫った男が口を開く。
 実際対照的なほど、静かな雰囲気をもつ男だった。
 クラウザーはぐるりと皆を見回し、艶やかな長い黒髪の女に視線を落とすと、

「伊与(いよ)」

 紅一点の女の名前を呼んだ。


「・・・っ、私・・・ですか!?」

 指名されることは全くの予想外だったらしく、彼女は目を見開いて驚いている。
 周りの視線が彼女に集まり緊張しているのを見て、クラウザーは笑みを作った。


「おまえにしか出来ない事だよ」

 甘い囁きに伊与はゾクリと身体を震わせる。


「・・・は、はい」

「いい子だ。期待しているよ」

 クラウザーが満足げに笑みを浮かべると、伊与は僅かに頬を染めて俯いた。


「ただし、それはあくまできっかけづくりだ。・・・結果的には各々の力が必要となるだろう。ただし、何があろうと目的は一つ。レイを捕まえて父上の御前に連れて行く・・・それだけのことだ」

「方法は?」

「これから説明するが、レイを捕獲するにあたっては細かい決めごとなどは特に設けるつもりはない。死ななければどんな状態で捕らえてもいいだろう。・・・例え予定通りにいかなくとも、おまえたちは自分の仕事を全うしてくれる筈だ」

 そう言って笑う様子はクラークとそっくりだった。
 美しく虜にするその微笑みの中で、彼の目は少しも笑っておらず、後は淡々と目的の遂行の策を彼らに伝えるだけだった。
 そして、一通りの策を預け終えたのはそれから間もなくのことであり、彼らはそれぞれ別の場所へと散って行く。

 一人になった部屋は驚く程の静寂に包まれている。
 クラウザーは椅子に凭れながら時折、ギ・・・と椅子が軋む音が響くだけの静けさの中、何もない前方を静かにジッと見据えているだけだ。
 しかし、クッと邪悪に口角を引き上げ笑みを作った彼の中からは、またもクラウザーとは異なる声が発せられたのだった。


《そのような顔をして、まるで俺の提案が気に入らないと言われているようだ》

「そんなことはない・・・」

《何故欲望に忠実にならない? おまえの心はこれ程餓えているというのに・・・父に愛されたい、王位が欲しい、レイのものなら何でも欲しい、あの娘すら奪ってしまいたい。口先だけの偽善では、いずれ己が破綻するのを待つのみだ。大体、先ほどの者達はおまえの手先となって既に動いているではないか》

「・・・・・・」

《欲しいものは全て手に入れればいい。奪って奪って奪い尽くせ》

「・・・・・・うば・・・う」

《全てがおまえのものになる。・・・わかるか?》

「・・・わから、ない・・・・・・・・・いや・・・、わかる・・・ような、気がする・・・・・・」

《何もかもを思いのままに支配出来るという事だ》

「・・・・・・・・・・・・そう・・・か・・・」

 それはまるで悪魔の囁きそのものだった。
 明らかにクラウザーではないその低い声は、彼の弱い部分を刺激して、少しずつ浸食するように支配力を拡げていく。
 かつてはその声に逆らっていた自分がいたような気がするが、今となっては何故逆らわなければならないのか・・・彼には良く分からなくなっていた。
 クラウザーは疲労したように暫く目を閉じていたが、少しして何かを思い出したらしく、ゆっくりと立ち上がった。


《どこへ行く》

「・・・リーザの所へ」

《・・・あぁ・・・あの女か・・・・・・》

 足早に部屋から出て答えると、それきり声はピタリと止み、ブーツの踵を鳴らす音だけがどこまでも響いていく。
 思えば彼の見事なエメラルドの右目が僅かに紅く変色し始め、それを銀髪で隠すようになったのはこの頃からだった───









第6話へつづく


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