『約束』
○第6話○ 君のために出来ること(その3) 「・・・あぁっ!」 レイの腰が動き、美久の中をゆっくりと掻き回す。 与えられる刺激は緩慢なのに、敏感になった身体が僅かな事でも反応してしまい、いとも簡単にまともな思考が奪われていく。 「・・・あっ、あっ、・・・は、あっ、・・・っ、レイ、・・・あっぁ」 「・・・、・・・っ、はっ、・・・っ、・・・・・・まだつらい?」 「・・・っ、・・・っん、・・・・ううん・・・、・・・」 何度も器用に突き上げられて、その度に自分とは思えないような声が出てしまう。 確かに鈍い痛みはあるけれど、初めての時とは明らかに違っていた。 「・・・・・ッ・・・っ、・・・気持ちいい?」 「・・・あっ、・・・っ、・・・やぁ、わかんな・・・・っ」 こんな格好でレイの上に乗っているのに、彼の両手に腰を掴まれて身体を揺さぶられて、大きく突き上げられる度に頭の芯が痺れてしまう。 そのうえ、弱いところばかりを執拗に攻め立てられ、強弱をつけた巧みな刺激にはとても逆らうことが出来ない。 「あっ、ああぁっ、あっ、やぁっ、・・・っ、レイ、・・・っ、レイ・・・っ」 何度も揺さぶられ、生理的な涙で目の前が霞む。 こんな声・・・恥ずかしい・・・そう思っても、勝手に声が出てしまって止められない。 「・・・何回でも気持ちよくしてあげる」 「そ、んなっ、・・・だめっ、やっ、あああぁぁあっ」 レイは大きく腰をグラインドさせ、一際強く突き上げた。 美久はそれに強く刺激され、きゅう、・・・っと内壁を収縮させ、またしても呆気なく達してしまう。 「・・・・・・あぅっ、ぁ・・・・・・、・・・はっ、はっ、はっ・・・・・・は・・・っ」 ビクビクと痙攣して、くったりと前のめりに倒れ込み、レイの喉元で荒い息を吐き出す。 彼は首にかかる息に反応して僅かに身じろぎをしたが、薄く笑って美久の耳たぶを甘噛みし、驚いてビクッと奮える彼女の反応を楽しみながら耳の中へと舌をねじ込んだ。 「・・・っ、・・・ひゃぁ・・・っ、っ」 柔らかく弾力のある熱い舌が耳の中を別の生き物のように蠢き、その音が頭の中に響く。 初めての感覚にビクビクと震えながらレイにしがみついた。 しかも何度も達して既に身体が言うことをきかないと言うのに、無情にもレイは再び腰を突き上げ揺さぶってきて、これ以上は自分がどうなってしまうのか想像も出来ず涙がこぼれる。 「・・・ああっ、んっ・・・・・・は、・・・まっ・・・て、・・・やぁ、ああっ」 「・・・・・・ん・・・、美久・・・この体勢でスルのってさ、男は思うようには動けないから、・・・・・・欲求は溜まるけど、なかなか終われないみたいだ」 「・・・やっ、ああっ、・・・あっあっ、・・・ど・・・したら・・・っ」 「・・・でも、美久の喘いでる姿・・・いくら見ても飽きないし・・・、一日中こうしてるのもいいかな」 「っっ!? やっ、無理・・・っ、やっ、ああっ、レイ、もう無理・・・、おね・・・っがい」 流石に泣きそうになり、これがずっと続くなんて絶対に無理だと思った。 けれど、それすらちゃんとした言葉にならず、喘ぎ声ばかりがリビングに響く。 「・・・はあっ、ああっん、・・・あっあっ、あぁん、レイ、レイ・・・やあーーーっ」 美久は喉をのけぞらせ、再び高みへと押し上げられていく。 彼が与える快感は怖いほどで、何をされても敏感すぎるほど反応してしまう。 なのに止むことのない行為は延々と続けられて、もうおかしくなってしまいそうだった。 そんな美久を下から見つめ続けていたレイは、彼女の涙の粒が頬に当たり、ハッとしたように僅かに息をのむ。 自身に潜む嗜虐的な感情に呑み込まれていたことに気づいたからだった。 自分との行為で美久がこんなにも乱れている・・・ その事が一層の情欲を掻き立て、逃げ場のない場所まで追いつめて泣かせてしまいたくなる。 苦しいくせに逃げることもせず、抱きついたまま甘い息を吐き出して喘ぐ痴態。 無理矢理に羞恥を受け入れ、苦痛を感じる程の快楽に身悶え、全てはレイの為と喘ぎ続ける。 彼女の気持ちがどこまで本気なのか、どこまで酷くしても想ってくれるのか・・・一体それをどこまで見られるものなのか・・・。 こんな事で愛情を測ろうとする程、レイは自分のどこにそんな価値があるのか見いだす事が出来ないでいた。 どんな自分でも受け入れて欲しいという強い欲求に支配され、その歪んだ欲求が満たされるまで、果ては狂うまで抱き続けてしまおうかという危険な思考に囚われそうになる。 しかし、優しく抱けるものを追いつめるようにしてしまえば、経験の浅い彼女は、この先自分と繋がる事を恐れてしまうだろう。 そんな事は本意ではないが、今の彼のやりかたではいずれ美久を怯えさせてしまうかもしれなかった。 ───流石にここまでか・・・・・・ レイは美久の泣き顔に眼を細めると、頬にキスを落として彼女の腰を引き寄せると一層繋がりを深めた。 そして今までの動きとは比較にならない程激しく腰を突き上げ、彼女を思うままに揺さぶっていく。 「・・・・・・んっ・・・はっ、・・・・・・美久・・・・・・っ」 「・・・ッ、・・・あぁッ、・・・・・レイ・・ッ、ああぁー・・・っ!」 美久は既に啼きすぎて声が掠れていたが、激しく動かされて悲鳴に近い声を上げた。 身体にうまく力が入らないのか弱々しくレイにしがみつき、それでも離そうとはしない。 レイはそんな美久の全てを焼き付けるように、熱を込めて見つめ続けている。 その視線に導かれるように美久も彼を見つめ返し、無意識のうちに互いの唇を深く重ね合わされた。 「はぁ・・・んっ・・・ん、んぅ・・・っふ」 汗が飛び散り、激しく擦れあって、もうこのまま溶け合ってしまいたい。 「・・・あっ、・・・ふぅ・・・っ・・・ん、んんっ、・・・んぅっ」 「・・・・・・っ、・・・っ・・・・・・はっっ・・・っ」 熱い舌が絡み合い、苦しげに喘ぐ美久の声を聞いていてもレイは彼女を離さない。 重ねた唇から漏れる息は痺れるほど甘かった。 「・・・・・・んっん、・・・んぅっ、レイ・・・・・・っ、っふぁ・・・ん、んーーーっ!」 美久が息継ぎをしている間に一層彼女の中を突き上げる。 すると美久は身体を強く波打たせて絶頂を迎え、繋がった部分を中心として断続的に痙攣しているのを強烈に感じ取ったレイも、遂にその刺激に自身を解放させ、彼女の中に全てを注ぎ込んだ。 「・・・・・・あっ・・・・・・ぁ・・・ッ・・・・・・・・・、・・・・・・っふ・・・・・・、・・・・・・はッ・・・・・・ぁ・・・・・・っっ・・・っ」 レイはぐったりとして気を失ってしまった彼女の頬に唇を寄せ、そのやわらかく温かい身体を抱きしめた。 欲しいものを手に入れた気分とは、もしかしたらこういうものをいうのかもしれない・・・そう思いながら・・・・・・。 ───化け物のようなオレを、美久は好きだと言った。 それは震えるほど嬉しい事の筈なのに、どこかまだ信じきることが出来ないでいる。 何だっていい、どんな形だって構わないからと、美久の気持ちを確かめたくて・・・まるで試すような事をしてしまった。 「・・・・・・ごめん」 耳元で囁いて、 力の抜けた身体を労るようにソファに横たわらせる。 こうして彼女に触れているだけで、自分の中の凍った部分が形を変えて、あたたかいものへと変化していくみたいだ。 美久を信じたい・・・、レイは心からそう思っていた─── ▽ ▽ ▽ ▽ 着替えを済ませたレイはリビングからそっと抜けだしていた。 彼にはこの後、どうしてもやらなければならないことがあったからだ。 しかし、外に出ようと玄関に足を踏み入れようとしたところで、一人うずくまり頭を抱える貴人の背中が目に入る。 レイは歩みを止め、若干考えを巡らせるように沈黙しながらも、すぐに苦い顔をしながら小さく呟いた。 「・・・・・・聞いてたのかよ・・・趣味が悪いな」 貴人はビクリと肩を震わせ、涙目で振り返った。 「・・・君はっ、あの状況で入って行けと?」 「・・・・・・それは困る」 「僕は薬局に走って、どうにか出来ないかとそれはもう必死で探し回ってたんだ・・・っ、君は僕が帰ってくることを全く考えなかったのか!?」 「ああ」 貴人の剣幕にもレイはあっさり頷く。 それを見て貴人はまたも頭を抱えたが、あまりに平然としているものだから段々憎らしくなってきて嫌みの一つでも言ってやりたい気分になってきた。 「なぁ、レイ。僕たちの心配は何だったんだろうね。こんなに早く動けるようになるなんて」 「・・・だって、その為に美久とセックスしたんだから当然だろう?」 サラリ、とまたしてもレイはとんでもないことを言う。 貴人が頬をピクピク引きつらせていると、そんな感情などお構いなしにレイは淡々と言葉を続ける。 「あの時ってすごいエネルギーなんだよ。快感を浴びて吸収するだけでも多少は力になる」 「・・・そんな事ができるわけ」 「まぁ、別に信じる必要なんてないけど」 「〜〜〜〜〜〜っ、・・・くっ、・・・だ、だとしたら、もう充分だろっ!」 「・・・何言ってんだ。それで足りるわけないだろ」 「なに!?」 悪びれた様子もなく答えるレイに、貴人は顔を引きつらせる。 そのうえ、レイは家から出ていこうと靴を履いていて、そんなレイの肩に彼は手を置いた。 「それで、美久を置いてどこへ行くんだ・・・?」 嘘っぽい笑顔を張り付かせ、いささか強めに置いた手にグッと力を込める。 しかし、レイは人の顔色を窺う精神構造は持ち合わせていないらしく、貴人の感情に配慮する様子は全く見せない。 そんな彼に眉をひくつかせる貴人だったが、次のレイの言葉に冷水を浴びせられたような気分になってしまう。 「この胸の傷があるかぎり、どうしても激しい消耗が伴う・・・だから、動けるうちに出かけたいんだ」 胸に手をあて、憂鬱そうにレイは息を吐く。 それを聞いた貴人は、彼の肩に乗せた手をひっこめて、ごく・・・と自分の喉が鳴るのを聞いた。 「・・・・・・出かける用件があるなら僕が代わりに行く。君はゆっくり寝て身体を休めればいい」 「そうもいかない、誰かに頼める事じゃないから」 「どういう事だ?」 貴人が眉を顰めると、レイは面倒くさそうに溜息を吐いた。 「オレの身体は飢えている。・・・治すなら食事が必要ということだよ」 「・・・っ!?」 「ここまで言えば、わかるだろ?」 答えられない貴人を一瞥し、レイはドアに手をかける。 しかし、貴人の思いがけない言葉によって彼の動きはピタリと止まった。 「それって僕のじゃ駄目なのか? 男の血液だってかまわないよな?」 レイは振り返り、黙って貴人を見つめる。 「どうして言ってくれないんだよ、水くさいじゃないか」 「・・・・・・」 「僕のなら好きなだけ・・・」 「・・・いや、・・・・・・それはだめだ」 「どうして!?」 キッパリと断られ、貴人は唖然とする。 好きなだけどうぞと言うものを、何故断ろうとするのか理解ができない。 「僕のは不味そうなのか?」 「・・・いや」 「だったらっ」 「・・・そうじゃない・・・・・・あんたは・・・オレにとって糧ではないからだ」 そう言い残すと、ふいっと背を向けてレイは今度こそ行ってしまった。 貴人はその言葉に呆然とするあまり、すぐにはその場を動く事が出来なかった。 「・・・・・・それって」 ・・・つまり・・・僕は・・・レイにとって、多少は特別だということか・・・? 貴人は何やらくすぐったい気分になって口元を手で押さえた。 ぶっきらぼうな言葉からは多くの答えを導くことは出来ないが、だめだと言ったその理由が貴人を特別扱いしているように思えてならないのだ。 そのうえ、彼の頬が僅かに赤く染まっていたのは、見間違えではなかったように思う。 その4へつづく Copyright 2006 桜井さくや. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission. |